九十三歳、画業は六十年以上。その長きに亘り、常に第一線に立ってひたすら娯楽を生み出し続けてきた水木さんの功績は、いまさらくり返すまでもないでしょう。それは僕たちの血となり肉となり、そして日本文化の一側面を築き上げたといっても過言ではありません。日本文化の持つ創造性や特異性を「妖怪」という形で結実させ、再発見させてくれたのは、誰あらん水木さんその人でした。
水木さんには左腕がありませんでした。戦争という抗いがたい魔物が水木さんに消えない傷を刻みつけたのです。その残酷な目に見える現実世界と、妖怪という目に見えない精神世界との間を自在に往還し、水木さんは「生きることは愉しいし、生きているというだけで喜ばしいのだから、もっと喜べ」と、作品を通じ、また身をもって教えてくれました。
(京極夏彦 水木しげる追悼文より)
ゲゲゲの鬼太郎は私が小学生の頃にもアニメがテレビ放映されていて、友達の間では目玉おやじが大人気でした。
とはいえ私はアニメもちゃんとは見ていませんでしたし、原作も読んだことがなく、ゲゲゲの女房も見ていないのです。
先月京極氏の講演を聞きに行く前に下記の対談を読んで、水木さんて面白い人だな~と興味をもちました。でもそれからひと月もたたないうちに亡くなられて。。
ほぼ日刊イトイ新聞より、京極氏と糸井氏の対談(抜粋)です。2007年10月。
京極 | ふつう、 「オレは天才でお金を持ってるから 怠けられるんだ」なんて言ったら、 嫌われちゃうじゃないですか。 でもね、困ってる人にポーンと大金あげちゃったり、 そんなところもある人だし。 |
糸井 | なんというか、 自由にやりたいんでしょうねぇ。 |
京極 | このあいだ、 「幸福の第一条件は金塊である」 とおっしゃって。 |
糸井 | 金塊‥‥(笑)。 |
京極 | 大金のことを、「金塊」っておっしゃるんです。 「金塊を手にしたら、 まあ、だいたいは幸せなわけだ」とか。 |
糸井 | なかなか言えないというか(笑)。 |
京極 | 言ってみたい(笑)。 あれだけね、 「ラバウルの現地の人びととの 質素な暮らしは、素晴らしい」、 つまり、経済活動から解放された生活は理想だ、と 言っておきながら、 舌の根も乾かぬうちに 「幸せにとって、必要なのは金塊である」と。 |
糸井 | ははぁ‥‥。 |
京極 | でも、変わり身が激しいというわけじゃないんですよ。 |
糸井 | 同じ人なんだ。 |
京極 | 同一平面にあるんですよ。 |
糸井 | なるほどねぇ(笑)。 |
京極 | そういうところが、すごいんです。 お金を使う必要のない世界というのは 素晴らしい。 でも、お金を使う必要のある世界では 必要なんだって。 |
糸井 | つまり、置き場所が違うぜってことですね。 |
京極 | そう、そう。 「俺は日本に暮らしてるんだから、 お金がなきゃ 幸せになれないに決まってるじゃねえか」と。 「お金を使わなくていいような楽園だったら そんなもの、一円も、要らないよ」と。 |
糸井 | そう考えると、一貫してますよね。 |
京極 | うん、で、「金を稼ぐのは才能と知恵である」と。 |
糸井 | う~ん‥‥なるほど。 |
京極 | つまり、 「才能を発揮して、どんどん稼いで、 怠けられる人になりなさい」ということ。 いや、これね、哲学としては‥‥。 |
糸井 | お手本にしたくなる(笑)。 |
京極 | でしょう? しかもね、照れながら言うんです。 かわいいんですよ、また、それが(笑)。 水木さんのいう才能って、 「努力を惜しみなくできる力」なんです。たぶん。 照れるのは、 ものすごい努力家なのを隠してるんですね。 |