ブロムシュテット&N響の定期公演最終日に行ってきました。
雨の代々木公園は紅葉した落ち葉がいっぱい
もう秋も終わりですね。
【モーツァルト:交響曲第36番 ハ長調 K. 425「リンツ」】
先週のAプロでも感じたのですけど、今回のブロムさん&N響の音、心なしかこれまでよりも柔らかく優しく聴こえる気がする。今日の「リンツ」も、昨年の「プラハ」のときよりも優雅な音に聴こえました。もちろん曲も違うのだけど、そういう意味じゃなく。どうしてだろう
昨年のブログでも書いたけれど、ハイドンやモーツァルトのような音楽って日本のオーケストラには最も難しい音楽ではないかと思っていて、西洋文化で生まれ育った人には難なくできてしまうけれど、そうでない人にはとても難しい何かがあるように感じていて。それは今回も同じではあったのだけれど。
今日心から感じたのは、ブロムさん&N響の誠実で清潔な音が私はとても好きだな、ということ。このコンビはいつもこういう音を聴かせてくれる。
今日の四楽章の美しさ。舞台の上に「美」が見えました。
こんな感じ↓
いやまじで。ほんとうに見えたの(わざわざこの画像作ったんだから!)。
音が濁らず品があるままに熱が込められたN響の音、素晴らしかった。
美しく清澄なモーツァルト。
ウィーンフィルのようなリンツの街並みが浮かぶ演奏ではないけれど、リンツの澄んだ緑と街の空気を感じました。ブラボー
(休憩20分)
【モーツァルト:ミサ曲ハ短調 K. 427】
ソプラノ①:クリスティーナ・ランツハマー
ソプラノ②:アンナ・ルチア・リヒター
テノール:ティルマン・リヒディ
バリトン:甲斐栄次郎
合唱:新国立劇場合唱団
ローマ教皇が38年ぶりに来日された午後に聴く、モーツァルトの大ミサ曲。偶然だけれど、すこしだけ気分が違います。
この曲でもオケの音にもう少し伸びやかさがほしいなという思いはなきにしもあらずだったけれど(ド素人の勝手な覚書なので無視してください)、前曲と同様に、ブロムさん&N響の音の清潔さがいい。
敬虔なキリスト教徒であるブロムさん(お父さんは牧師で、お母さんはピアノ教師なんですね)。モーツァルトと違いプロテスタントだけれど、こういう曲に対する想いはきっととても特別なのだろうなと想像します。私はキリスト教徒ではないですし、どちらかというと宗教アレルギー気味な人間なのだけれど、ブロムさんの指揮だと違和感が少なく聴くことができる。壮大だけど、同時に、人生の光と影、人間の喜びや悩みや悲しみは皆同じであると、そんな風に聴くことができる。
そして今回も、人の声に勝る楽器はないのではないか、と感じました。私達の中には人の声によってしか救われることのできない部分が確かにあるのだ、と。
ソプラノ②のアンナ・ルチア・リヒターは、ハイティンクが最後に来日したときにマーラー4番を歌った方ですよね。今年8月のルツェルン音楽祭でのCOEとの最後のコンサートでも歌っていた方なので、今回聴けて嬉しかったな。とても生き生きとした透明感のある声で、この宗教曲により親しみやすさを感じることができたのは彼女のおかげも大きいです。今回のソプラノのお二人は、来月ミュンヘンでもブロムさん&BRSOと同曲を歌われるんですね
今回はプログラムに歌詞の対訳が書かれてあったけれど演奏中は暗くて読めなかったので、歌詞を予習しておいてよかった。合唱曲は予習が本当に大事。ブロムさんも「この曲を味わうのに信仰心や宗教の知識は必要ないけれど、歌詞はわかっていた方が助けになるでしょう」とインタビューで仰っていたし。
今日は演奏が終わってすぐに拍手が起きてしまったのだけど、ブロムさんの手が降りていないことに気づいたらしくすぐに止み(これはえらかった)。少しの静寂の後にブロムさんが手を下ろして、客席を振り返って片手を差し出して「さあどうぞ」のジェスチャー。それがなんだか可笑しくて、客席からもれる笑い。この自然な温かな空気もよかった。
ブロムさんは来月のノーベル賞の記念コンサートで指揮をされるんですね。曲目はニールセン(デンマーク)、ステンハンマル(スウェーデン)、グリーグ(ノルウェー)、シベリウス(フィンランド)と、見事に北欧尽くし。金額は400SEK(約4500円)から。いいなあ、ストックホルムに住んでいたら絶対に行くのになあ。
©N響twitter
カーテンコールで、N響から花束を贈られたブロムさん。赤い薔薇?がとてもお似合い。
「こんな綺麗な花をもらってしまいました」という風に客席にも掲げて見せてくださいました。見守る奏者達もいい笑顔
©N響twitter
終演後にソリストの皆さんと。
N響のヴィオラ奏者さんのツイより。
質問に行ったらまず第一声が「人からの質問はいつも興味深いんだよ」という言葉から始まったそうです
ブロムさんが奏者の人達に愛されているのは、きっとブロムさんが奏者の人達を愛しているからでもあると思う。ゲヴァントハウス来日時のプログラムで「奏者達は天使のように扱わなければいけません」と仰っていたブロムさん。
N響ホルン奏者さんのツイより。
「終演後ステージ袖にて、オーケストラ・メンバーを笑顔で迎える、マエストロ・ブロムシュテット!」。
演奏を終えた奏者達を舞台袖で迎えて、Thank you!Bravo!と一人一人に声をかけながら握手。こんなマエストロ他にいる
このセーターの色もとてもお似合いです
今年も美しい音楽を聴かせてくださって、本当にありがとうございました。
来年の秋にまたお会いできるのを、心から楽しみにしています(でも来年は93歳だし無理はされないで…)。
そういえば、来年の定期公演はNHKホールじゃないんですよね。
改修後も自由席は残してくれるのかな。
N響の1500円の自由席システム、本当に素晴らしいと思う。
アムステルダムのコンセルトヘボウに行ったとき、あんなに歴史ある素晴らしいホールなのに近所のおじさんが自転車で気軽にクラシックを聴きに来ているようなそんな気取らない空気があって、それがとても心地よかったんです。指揮者も奏者も聴衆も同じ階段や扉を使って、雑談したりしていて。こんな風に市民の生活とともにある音楽が、本来のあるべき姿なのではないかと感じた。私自身がプロムスからクラシック音楽の楽しさを教えてもらった人間なので、特にそういう思いが強いのです。音楽は特別な人達のためではなく、いつも身近にあるもの。日常の中にあるもの。
アムステルダムといえば、ベルリンフィルの来日記者会見でハイティンクのお名前が出ていて嬉しかったな。もう噂を聞くこともなくなってしまうのかな…と寂しく思っていたので。
最近出たベルリンフィルのブルックナー全集でハイティンクは指揮者の中で唯一2曲(4番と5番)を任されてはいるけれど、「ハイティンクといえば7番では?」と思っていたところ、ベルリンフィルとのラストコンサートがLPで発売されるそうで。
ブラームスの交響曲全集に続く、ベルリン・フィル・レコーディングスのダイレクト・カッティングLPの第二弾。2019年5月に行なわれたベルナルド・ハイティンクがベルリン・フィルを振った最後の演奏会の『ブルックナー:交響曲第7番』が2020年春に登場することになる。2枚組3面構成で、4面目には、ハイティンクと楽団員のサインが刻まれている。価格は未定。
なんか高そう・・・。と思ってラトルのブラームス全集の値段を調べてみたら、タワレコで¥97,900!まあね、ベルリンフィルの客は「来日公演2回分って安くね?」という人達ばかりなのかもしれないけどね。
――気を取り直して。
ベルリン・フィル・メディアの代表で、ソロ・チェロ奏者のオラフ・マニンガー氏曰く、
アナログ的な手法であるがゆえの成果も大きく、ラトル指揮のブラームスのチクルスの出来栄えにはたいへん満足していました。だからこそ、ハイティンクさんがベルリン・フィルを最後に振るという歴史的な演奏会を、このダイレクト・カッティングという手法で残すことにしたのです。
そうそう、ハイティンクさんにこの録音のことを相談したら、<みなさんがよいというなら>とさっぱりした返事だったです(笑)。演奏会が終わると彼からは<で、使えそうなの?>と聞かれました(笑)。もちろん立派に使える、素晴らしい演奏でした。
ハイティンクのこういうところが大好き