小児漢方探求

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

「こども漢方」(草鹿砥宗隆・佐藤大輔著)

2018年06月28日 08時14分26秒 | 漢方
こども漢方」(草鹿砥宗隆:くさかどむねたか・佐藤大輔著)、源草社、2015年発行



以前から気になっていた本を、購入して読んでみました。
勉強熱心なDr.らしく、日本漢方のみならず中医学の知識も駆使し、はては「中医学式マッサージ法」、「おすすめ食材」にも言及し、あらゆる方法を総動員して患者さんに対峙しようという、真摯なスタンスが見えてきます。
なお、「マッサージ法」「おすすめ食材」は共著者が担当しているようです。

小児疾患を網羅するのではなく、漢方薬が効きそうな分野を中心に取り上げて解説しています。
各項目、自分が処方している漢方薬と比較でき、その背景の考え方を知るに至り、大変参考になりました。

ただ、系統的な学習には適さないと思われました。
著者の強調したいところや、経験談(症例提示)が中心となっているので、エッセイ的です。

また、患者さんの病態把握に、解説なしでいきなり中医学の弁証が出てきたりして、それを知らない人にはピンとこないでしょう。
ま、スルーすればすむことですが。

というわけで、誰を対象にした本なのかな、と素朴な疑問が発生。

私のように日本漢方をかじっているだけで、中医学は食わず嫌いな初級者レベルでは、半分納得/半分ピンとこない、ということになります。
すべてを理解し「フムフムなるほど・・・」と読みこなすには、日本漢方・中医学も学習した中級の漢方医レベル。
少なくとも一般向けではないですね。


<備忘録>

□ 小青竜湯は太陽病期虚実間証の方剤。
 悪寒、発熱、自汗、咳嗽、希薄な痰(水毒)。傷寒病で表証がまだ寛解しておらず、胸部の水飲停滞性病変が併発している状態が適応となる。

□ 便秘に使用する漢方薬。
 桂枝加芍薬湯加法を慢性機能性便秘症に処方した場合、その効果はおおよそ2〜3週間(早い場合は1週間)で得られる。
(乳幼児〜小学校低学年)第一選択:小建中湯、皮膚症状を伴う場合は黄耆建中湯
(小学校高学年以降、とくに女児)基本は小建中湯/黄耆建中湯、必要に応じて大建中湯を若干量付加する。
★ 大黄・芒哨などの瀉下剤に関しては極力使用しないことが基本。

私の印象では、小建中湯が効く患者さんのお腹と、大建中湯が効く患者さんのお腹は違うような気がしています。
体幹が薄くて平べったいお腹で、お腹の皮膚が見ように突っ張っていたり柔らかかったりすると小建中湯、
ブヨブヨ締まりのないお腹で、おへそのあたりを触ると冷えている場合には大建中湯、
という感じ。


□ 下痢に使用する漢方薬。
①水様性下痢〜風寒邪(ときに風熱)の侵襲でもたらされる症状で、
・葛根湯証でに軽度の水様性下痢を伴う  → 葛根湯
・水様性下痢に嘔吐・寒気を伴う冬季胃腸炎  → 五苓散
・上記胃腸炎から数日経過、下痢持続、往来寒熱  → 柴苓湯
・腎陽虚の下痢(口渇なし、手足の冷え、脈無力) → 真武湯
②テネスムスを伴う粘液便や膿血便状下痢〜風湿熱の侵襲でもたらされる症状で、
・湿熱邪の侵襲で粘液便やテネスムスを伴う  → 黄岑湯
・湿熱邪の侵襲で出血を伴う粘血便  → 葛根黄芩黄連湯(エキス剤では升麻葛根湯+黄連解毒湯)
★ 腹痛を伴う場合は、桂枝加芍薬湯加法を併用するとよい。

私が急性胃腸炎に頻用している半夏瀉心湯が下痢の項目には登場せず、食傷(暴飲暴食)による食欲不振の項目にあるのは意外でした。

□ 反復性中耳炎に対する漢方薬。
<標治>
・柴胡剤(主に小柴胡湯)
・炎症症状が比較的強い場合  → 清熱解毒・排膿作用を効能とする生薬を配合する方剤
(例)桔梗湯、桔梗石膏、排膿散及湯、などを付加する
・炎症が水毒傾向を強く持ち合わせている場合  → 五苓散
<本治>
・十全大補湯 ・・・ 免疫賦活・栄養状態改善が期待できる。

中耳炎は鼻風邪が長引くと併発しやすい合併症です。
ネバネバ系の鼻水がなかなか治らない子どもには葛根湯加川芎辛夷を使うと夜の鼻閉が楽になりますし、中耳炎の予防にも効果があると耳鼻科の先生から聞いたことがあります。
柴胡剤は中耳炎と言うより蓄膿症(副鼻腔炎)を繰り返す子どもに頻用しています。


□ 柴胡清肝湯と荊芥連翹湯の使い分け
 解毒証体質(結核を代表とするリンパ節炎を起こしやすい体質)に使用される方剤は、温清飲(四物湯+黄連解毒湯)の加味方であり、血虚(皮膚粘膜の乾燥萎縮傾向を伴う状態)と血熱(充血、強い炎症、出血、のぼせ、精神的興奮など)の合わさった複雑な病態に使用される。
(柴胡清肝湯)上気道・咽頭などの炎症に効果を発揮
(荊芥連翹湯)鼻・皮膚などの炎症に優位に働く

ふつう、柴胡清肝湯は幼児期、荊芥連翹湯は思春期以降に適していると書かれた本が多いのですが、ターゲットとなる部位に焦点を当てているのは新鮮です。

□ 夜泣き/夜驚症に使用する漢方薬
<夜泣き>生後半年〜1歳半あたりまで
<夜驚症>3歳頃〜小学校低学年頃までに好発
・・・およそ数ヶ月の時間経過で自然軽快する。
使用される漢方薬は、
(甘麦大棗湯)「金匱要略」の「婦人雑病・・・」に掲載されている方剤で、婦人の神経症、とくに悲哀感が強くてよく泣いたり、甚だしいと異常な言動をしたりするような急迫症状に効果的。浅田宗伯は「勿誤薬室方函口訣」に「〜また小児で、啼泣止まない者に用いて速効がある」と記されており、夜泣きなどに経験的に使用されていた。脾虚による精神的症状を改善させる側面を持つ。
(小建中湯)その甘味で急迫症状に対応可能、脾虚による身体的症状を主に改善する。
(抑肝散/抑肝散加陳皮半夏)抑肝散は明代の小児科専門書である「保嬰撮要」で、子どもの“癇”を治すために創製された方剤。五行における“肝”の気が高ぶって興奮する状態を釣藤鉤・柴胡で沈静化させる効能を持ち合わせ、朮・茯苓・甘草・当帰・川芎で気血を補うことを重視している。
 神経過敏を素地に持つ子どもに頻用される、夜泣き/夜驚症、歯ぎしり、チック症状、熱性けいれんの既往などを伴う場合によい適応になる。
(柴胡加竜骨牡蛎湯)・・・解説なし
(桂枝加竜骨牡蛎湯)・・・解説なし

□ こころの問題に使用される漢方薬
①消化器症状が特徴的な型(IBSなど) → 補脾剤
②怒り・乱暴型 → 柴胡剤(抑肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯など)
③不安緊張型 → 安神剤、柴胡剤(甘麦大棗湯、四逆散など)


こころの問題を考えていて、いつも感じることがあります。

「不安と緊張と怒りの根っこは一つではないか?」

根源は「自己評価の低さ」「自信のなさ」であり、それがために不安になり、周囲に対して緊張し、自身のふがいなさにイライラして怒りに変容するのではないか、と。
この視点は精神科系の本を読んでいて見つけました。

不安・緊張・怒り・・・この3つの相違を自分の中で整理できないと、うまく漢方を使いこなせないような気がする今日この頃。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「ブログ閉鎖」を撤回します。 | トップ | 「フローチャート皮膚科漢方... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

漢方」カテゴリの最新記事