漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

HRT(ホルモン補充療法)の基礎知識(更年期指導士レクチャー2)

2023年09月08日 14時26分55秒 | 漢方
HRTとはホルモン補充療法を意味します。
西洋医学では、更年期障害に対して薬物療法を行う場合、
HRTを検討するのが標準です。
他には精神症状がつらいとき、抗うつ薬も検討します。

さて、小児科医の私にとってなじみのないHRT、
ポイントを整理しておきましょう。

<ポイント>
・更年期障害は閉経に伴うエストロゲン低下による諸症状であり、このエストロゲンを補充して症状の緩和・諸疾患のリスク低下を目的に行うのがHRTである。
・HRTは血管運動神経症状(hot flashおよび発汗)と萎縮性膣炎・性交痛、骨粗鬆症予防・治療、脂質異常症治療にきわめて有効、更年期抑うつに有効であるが、尿失禁治療効果は期待できない。
・HRTには禁忌・慎重投与すべき事例が存在するので、事前に確認が必要。
・HRTによる以下の疾患リスクも事前に十分説明;片頭痛、乳がん、動脈硬化/冠動脈疾患、脳卒中、静脈血栓塞栓症、子宮内膜がん、卵巣がん
・子宮のある患者さんにはエストロゲン+黄体ホルモン、子宮のない患者さんにはエストロゲン単独を投与。

…HRTには血栓症やがんのリスクを高めることは有名で、それを説明されると使用を躊躇しがち、と耳にしたことがあります。その点、漢方薬にはそのようなリスクはなく、受け入れられやすいと感じました。
 それから、HRTは「更年期抑うつ」に有効であるとガイドラインに明記されていることに気づきました。つまり、女性ホルモンは精神心理症状とリンクしていることを認めているのですね。 その点、体と心を分離して発展してきた西洋医学の限界も見え隠れしてきます。
 ここでも“心身一如”という概念で発達してきた漢方医学にメリットを感じました。

 ここからは備忘録としてのメモ書きです;

▢ HRT
・更年期では閉経のエストロゲン低下に伴う症状の緩和や疾患の治療として行う。
・エストロゲン欠落に伴う諸疾患の予防(リスク低下)やヘルスケアを目的に使用する。

▢ HRT開始に際して
・更年期であることを確認する。
・エストロゲン欠落症状で困っていてHRT希望の有無を確認する。
・治療目的か、予防目的かを確認する。
・禁忌や慎重投与例でないことを確認する。
・リスクとベネフィットについて説明する。

▢ HRTの目的
・VMS(vasomotor syndrome、血管運動症状)である発汗やのぼせ症状の改善。
・外陰・膣萎縮症状の改善
・抑うつの改善
・ヘルスケアや予防も目的か。

▢ HRTの有用性とヘルスケアへの利用(ホルモン補充療法ガイドライン2017より)
(凡例)
 A+:有用性が極めて高い
 A :有用性が高い
 B :有用性がある
 C :有用性の根拠に乏しい
 D :有用ではない

・血管運動神経症状   → A+
・更年期の抑うつ    → A
・それ以外の更年期症状 → B
・アルツハイマーの予防 → B
・尿失禁の治療     → C
・萎縮性膣炎・性交痛  → A+
・骨粗鬆症予防     → A+
・骨粗鬆症治療     → A+
・脂質異常症治療    → A+
・動脈硬化の予防    → B
・皮膚萎縮の予防    → A
・口腔不快症状     → B

(保険収載)
1.更年期障害及び卵巣欠落症状に伴う血管運動神経症状(hot flashおよび発汗)
2.閉経後骨粗鬆症

▢ HRTの禁忌
・重度の活動性肝疾患
・現在の乳がんとその既往
・現在の子宮内膜がん、低悪性度子宮内膜間質肉腫
・原因不明の不正性器出血
・妊娠が疑われる場合
・急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症とその既往
・心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往
・脳卒中の既往

▢ HRTの慎重投与ないし条件付きで投与が可能な症例
・子宮内膜がんの既往
・卵巣がんの既往
・肥満
・60歳以上または閉経後10年以上の新規投与
・血栓症リスクを有する場合
・冠攣縮および微笑血管狭心症の既往
・慢性肝疾患
・胆嚢炎および胆石症の既往
・重度の高トリグリセリド血症
・コントロール不良な糖尿病
・コントロール不良な高血圧
・子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の既往
・片頭痛
・てんかん
・急性ポルフィリン症
・SLE(全身性エリテマトーデス)

▢ HRTに予想されるリスク
・片頭痛
・乳がん
・動脈硬化/冠動脈疾患
・脳卒中
・静脈血栓塞栓症
・子宮内膜がん
・卵巣がん

▢ HRTと乳がんリスク
・HRTが乳がん発症リスクを高める程度はわずか。
・HRTによる乳がんリスクは、アルコール摂取、肥満、喫煙といった生活習慣関連因子によるリスク上昇と同程度かそれ以下。
・乳がんの家族歴の聞き取りは必要。
・乳がんリスクはHRTを中止すると低下する。
・HRT施行中は毎年乳がん検診を勧める。

▢ HRTに期待されるベネフィット
・ホットフラッシュを緩和する。
・骨密度を増加させる。
・抑うつ気分・抑うつ症状を改善する。
・上腕動脈の血管内皮機能を改善する。
・アルツハイマー病発症のリスクを低下させる可能性がある。
・閉経後女性の反復性尿路感染症の予防にはエストロゲンの膣内投与が有効である。
・性器萎縮とそれに関連した性交痛に対し効果がある。
・食道がん、胃がん、大腸がんのリスクを低下させる。

▢ HRT投与前検査(ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版より)
・必須項目
 ✓血圧、身長、体重
 ✓採血:血算、生化学検査(肝機能、脂質)、血糖
 ✓内診および経腟超音波診断、子宮頚部細胞診(1年以内)
 ✓子宮内膜がん検査
 ✓乳房検査(マンモグラフィー、乳房超音波検査)
・選択項目
 骨量測定、心電図、腹囲、採血:追加の生化学検査、凝固系検査、
 甲状腺検査、ホルモン検査(FSH、E2)、心理テスト

▢ ホルモン製剤の選択
・基本はエストロゲン
・子宮のある患者には黄体ホルモンを必ず併用;
 ✓子宮体がんのリスクがあるため
 ✓黄体ホルモン投与期間:10日以上/4週間
・外陰・膣萎縮症状の診であれば極力、局所療法を選択する。

▢ ホルモン製剤の製品名
1.エストロゲン製剤
(結合型エストロゲン)プレマリン錠
(17β-エストラジオール)ジュリナ錠、エストラーナテープ、ル・エストロジェル、ディビゲル
(エストリオール)エストリール、ホーリンV膣錠
(17β-エストラジオール+酢酸ノルエチステロン)メノエイドコンビパッチ
2.黄体ホルモン製剤(子宮のある方は必ず併用)
(メドロキシプロゲステロン酢酸エステル)プロベラ
(ジドロゲステロン)デュファストン
(天然型微粒子化プロゲステロン)エフメノ

▢ HRT投与開始後に予想される有害事象…定期的なチェックが必要
・不正性器出血
・乳房痛
・片頭痛
・乳がん
・動脈硬化・冠動脈疾患
・脳卒中
・静脈血栓塞栓症
・子宮内膜がん
・卵巣がん

▢ HRT終了の目安
・HRTの継続を制限する一律の年齢や投与期間はない(HRTガイドライン2017年版)。
・漸減法が中断法よりも推奨されるという明確な根拠はない(同上)。
 …HRTをいったん中止して症状が再燃した場合には早期に再開する。
・HRT終了後も5年目までは子宮がん検診・乳がん検診を勧める。

▢ 安全にHRTを行うための注意点
・症例ごとに予防目的か、治療目的化を認識する。
・治療対象は①血管運動症状、②萎縮性膣炎、③更年期症状の一部
・投与量は最少、投与期間は最短にする。
・子宮摘出後にはエストロゲン単独投与を行う。
・閉経移行期の出来るだけ早期に治療を開始する。
・長期HRT使用例では中止にする必要はないが、
 乳がんのリスクが増えることを伝え、乳がん検診は毎年行う。
・治療中・後も毎回問診や症状を聴取し、定期的な検査管理を行う。
・長期治療などはHRTに慣れている女性ヘルスケア専門医と相談する。

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