私は小児科医なのでケガの治療は不得手ですし、
患者さんも来ません。
ただ、漢方を勉強する過程で、
・アザ(内出血)やコブには治打撲一方や桂枝茯苓丸などの駆お血薬
・消化管手術の前に大建中湯
・脳外科手術の前に五苓散
などが使われることは耳にしました。
今回、外科で開業されている安斎圭一先生のレクチャーを聞く機会がありましたのでメモしておきます。
▢ 治打撲一方(香川修庵経験方)
【効能】打撲による腫れおよび痛み
【証】打撲、ねん挫などで幹部が腫脹、疼痛する場合
(秋葉哲生Dr)…香川修庵が戦国時代の軍医の秘方を紹介したものと言われており、打撲症に用いると疼痛腫脹を軽減する効果があり陳旧性のものにも有効である…
…治打撲一方を処方し便通がつくようにし、併せて痛みの軽減と鎮痛薬使用量の減量を企図…
(山本巌Dr)煎じ薬で用い、大黄をたくさん入れて下痢をさせる…下るたびに足の腫れがスーッと引いて痛みも楽になった…下るだけの量でないといけない、エキス剤の量では足りない…この下痢は黒くてものすごく臭い便。
・単剤で効果不十分の時(下痢しないとき)は、大黄を含む下剤効果のあるエキス剤を併用するか、駆お血作用のあるエキス剤を併用する。
(例)通導散、桃核承気湯、大黄牡丹皮湯
・下痢を避けたいときは、治打撲一方+桂枝茯苓丸
・受傷から時間が経過している場合は、治打撲一方+附子末(あるいは附子剤)
「治打撲一方は下痢をするほど大黄を使わないと効かない」は覚えておきます。
▢ 葛根湯
【効能】感冒・胸から上部のあらゆる痛みに対応
<交通外傷を含めた頚部挫傷・項部痛の治療>
・通常の頚部痛
① 葛根湯+桂枝茯苓丸
② 葛根湯+治打撲一方
③ 葛根湯+通導散
・被害者意識が強くうつ傾向のある場合、症状の訴えが長期にわたり続く場合
① 加味逍遥散
② 抑肝散
・痛み・腫れが続く時、内出血を認めるとき
① 桂枝茯苓丸
② 治打撲一方
③ 通導散
<肩関節周囲炎・五十肩>
葛根湯+桂枝茯苓丸加ヨクイニン(あるいは二朮湯)
<扁桃炎・咽頭炎>
葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏
葛根湯はその原因が何であれ(炎症、打撲)、上半身の痛みに効くという不思議な薬です。
むち打ち症と風邪によるのどの痛みに同じ薬なんて、西洋医学では考えられませんね。
▢ 越婢加朮湯(金匱要略)
・帯状疱疹に有効
(初期)赤い小水疱が帯状に配列している時期
越婢加朮湯 合 桃核承気湯
発赤の強いもの +黄連解毒湯
免疫低下 +補中益気湯
(亜急性期)水疱が膿疱化し、びらん、壊死性痂皮を形成し神経痛様の症状
竜胆瀉肝湯 合 通導散
弓帰調血飲第一加減
神経痛様疼痛に対して +麻黄附子細辛湯
体力低下・免疫低下 +補中益気湯
外用剤 +紫雲膏
以前から帯状疱疹の漢方治療に興味がありましたが、
小児科ではあまり患者さんがいません。
出会ったら上記を参考に試してみたいと思います。
・花粉症のアレルギー性結膜炎と鼻閉に奏功
<安斎Dr.の花粉症処方>
① 目の充血、かゆみには越婢加朮湯
② 水溶性鼻汁には小青竜湯
③ 鼻汁と目のかゆみには小青竜湯+麻杏甘石湯
④ 鼻閉には葛根湯加センキュウ辛夷
⑤ 重度の鼻閉には葛根湯加センキュウ辛夷+辛夷清肺湯
⑥ 冷えが強い場合は麻黄附子細辛湯
私も花粉症の目のかゆみが強い患者さんには、
越婢加朮湯を処方してきました。
有効なので患者さんから感謝されます。
しかし越婢加朮湯単独では鼻症状に弱いので、
従来は大青竜湯(麻黄湯+越婢加朮湯、あるいは桂枝湯+麻杏甘石湯)を処方してきました。
ここでは小青竜湯+麻杏甘石湯が紹介されており、
私の外来にも取り入れたいと思います。
鼻閉が強い患者さんは治療抵抗性です。
内科では血管収縮剤の点鼻薬がよく処方されますが、
連用は副作用のリスクが上昇し、
また小児には推奨されていません。
私は葛根加センキュウ辛夷を処方し、
今一つなら辛夷清肺湯を処方してきました。
安斎先生はこの二つのエキス剤の併用を提案しています。
ぜひ、試してみたいと思います。
(越婢加朮湯のつづき)
・熱感のある変形性質関節症にも有効、関節液貯留があるときは防已黄耆湯を併用
★熱感がなく冷えている場合は、
桂枝加朮附湯+防已黄耆湯
麻杏ヨク甘湯+防已黄耆湯
防已黄耆湯+附子
漢方では関節痛がある場合、
そこが熱を持っているか、冷えているかを重視します。
熱を持っていれば冷やす方剤(越婢加朮湯)、
冷えていれば温める方剤(桂枝加朮附湯)を選択します。
西洋医学では「温める」薬がありません。
なので、冷えている関節痛にも解熱鎮痛剤系(NSAIDs)を用いるしかなく、
「冷えている関節をさらに冷やして感覚を麻痺させている」
ことになり、好ましい治療とは言えないですね。
▢ 芍薬甘草湯(傷寒論)
【効能】筋肉の痙攣・腹痛・種々の疼痛
・こむらがえりには芍薬甘草湯3包を1回で服用
屯用で使用する場合は1回3包でも問題にならない
高齢者の夜間のこむらがえりは1回1包でも効果あり(頻繁に起こる夜間のこむら返りには予防薬として寝る前に疎経活血湯1包服用し発作が起きたら芍薬甘草湯を1包追加服用がよい)
運動時のこむら返りは1回1包では効果が弱く、2-3包服用した方が効果的
・尿路結石の疼痛に芍薬甘草湯2包+猪苓湯1包
・ギックリ腰(急性腰痛症)には、
① 初回:芍薬甘草湯3包+NSAIDS
② 以降:芍薬甘草湯3包/日+NSAIDS
あるいは芍薬甘草湯3包+治打撲一方3包/日
ただし芍薬甘草湯3包は1週間以内にとどめる。
・吃逆(しゃっくり)には、
① 初回:芍薬甘草湯2包
② 以降:芍薬甘草湯3包/日(止まれば終了)
他には、
呉茱萸湯(冷たいものの摂りすぎ)
半夏瀉心湯(食べ過ぎ)
柿てい湯(止まらないとき、OTCあり)
日常遭遇するつらい痛みには芍薬甘草湯をうまく使うと解決します。
こむら返りには1包では今一つなので2包、と思ったら、
安斎先生は3包を一度に服用することを勧めていました!
尿路結石やギックリ腰にも役立ちます。
★胃内視鏡・大腸内視鏡検査で蠕動が亢進して観察しにくいとき;
芍薬甘草湯1包を100mlのお湯に溶いて冷ましておき、
蠕動が亢進しているとき、鉗子孔から20ml程度を散布すると速やかに蠕動亢進が改善し観察が容易になる。
▢ 大建中湯(金匱要略)
・冷えたお腹を温める薬
・冷えてお腹が張って痛いとき(おへその周りが冷えていることが多い)
・消化管術後の腹痛で大建中湯が効かないときは当帰四逆加呉茱萸生姜湯
便秘の訴えで受診する子どもの中に、
おへそ周辺が冷たい患者さんが時々います。
他の薬でコントロールが難しいときは、
大建中湯をお勧めしています。
▢ 当帰四逆加呉茱萸生姜湯
【効能】しもやけ
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯単独で効果が弱いときは附子末1‐3g/日を併用。
・夏場の冷房で腰痛や頭痛が悪化する例には、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯または五積散が有効、
必要に応じて附子を追加するとよい
しもやけの特効薬として有名なエキス剤です。
が、頑固なしもやけはこの薬だけでは解決しません。
安斎先生は附子末を併用することを勧めていますが、
小児には使いづらいので困っています。
私は麻黄附子細辛湯を試すことがあります。