薬事日報社、2004年発行。
漢方の達人のエッセイ集(?)です。
寺師先生は大塚敬節先生の弟子で、漢方による不妊治療で有名なお方。
直接存じ上げてはいませんが、文章から推察すると、大声で豪放な性格のようですね。
最近、ちょっと自分自身の漢方診療のレベルに停滞感があり、刺激を求めて読むに至りました。
最初の大塚先生語録でまず打ちのめされてしまいました。
「傷寒・金匱をやらないで処方集ばかり読んでいては伸びない」
まさに私の陥っている状況を見透かしたような言葉。
そろそろ古典を読む時期かなあ、と感じていたところだったので、背中を一押しされたような気がしました。
第三章の「すばらしい先哲医家」で紹介された江戸時代の永富独嘨庵と内藤希哲のレベルの高さにも脱帽しました。
ますます自分の不勉強が恥ずかしくなりました。
今年はなんとしても傷寒論、金匱要略、黄帝内経の勉強にチャレンジしたいと思います。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
◆ 恩師(大塚敬節先生)語録
・ただ師匠の合方ばかり真似て、傷寒からやらねば伸びない。
・患者をみたら、まず虚実をみよ。
・陰陽虚実は、黒白とハッキリしない。紙一重だ。うんと細かいところで診断がつく。
・近代医学は臨床病理学に過ぎぬ。治療学がない。漢方医学は治療学があって、基礎がない。
・古方のすき間を後世方で埋めよ(浅田宗伯説)。
・今日、「近代医学の盲点を漢方で埋める」方向に動いている。
・近代医学の盲点は、筋肉の緊張と弛緩を忘れている。
・附子と柴胡に適当する洋薬なし。
・浅田の口訣は、目黒道琢、津田玄仙、和田東郭の書から抄録したもの。
・人はすべて瘀血と貧血がある(湯本先生説)。
・江戸時代の傷寒論をいくら読んでも、あれ以上は発展しない。関連学問が発展していないから。柴崎さんの研究(「黄帝内経素問新義解」)は面白い。
・内藤希哲の「傷寒雑病論」を解説した本(「傷寒雑病論類編」)はよい。
◆ 腹証と舌証について
・お腹の格好が変わってこないと治らない。
・患者が来たら、10人中7人は胸脇苦満がある。
◆ 処方と生薬について
・柴胡桂枝湯は小柴胡湯と桂枝湯の合方であるから、応用範囲が広い。あたりさわらずで、失敗しないから患者は逃げない。
・月経前の痛みは実証、月経後の痛みは虚証。
・老人性の痒みに、八味丸と真武湯で良くなる。
・真武湯の湿疹は、①表面に出ない、②温まるとかゆい。
・附子は陰証に用いる。虚実には関係なし。
・大黄を使うときは慎重に。最初から多く使うな。
・大黄・附子・石膏の使い方、名医と凡医の差。
・腫れ物に桔梗・石膏を「浅田口訣」は使っている。
・今まで気持ちよく飲んでいたのが、気持ち悪くなったのは証に合わなくなったことを意味する。
・顔がほんのり赤いのは黄連ではない(虚証)。顔が火照り、顔全体が赤いのは黄連を用いる(実証)。
・湯本先生は、地黄と黄耆を嫌って、百味箪笥にはなかった。
・合方は大柴胡湯合桃核承気湯のように実証には効くが、虚証には効かない。真武湯と人参湯の合方はある。
◆ 内藤希哲の「虚実に関する7つの治療法」
・「万病は多しと雖も、要するに虚実に過ぎず、面してこれを治すは補瀉のみ。虚する者はこれを補い、実する者はこれを瀉す」
① 虚する者はこれを補う
② 実する者はこれを瀉す
③ 虚実相兼ねる者は、先ず補して後に瀉す~先補後瀉
④ 虚実相兼ね先後すべからざる者は補瀉を兼用すべし~補瀉兼用
⑤ 虚実相兼ねて実急なる者は、先ずその実を瀉して、後にその虚を補う~先瀉後補
⑥ 虚して実に見える者は、ただその虚を補すれば、即ちその実を瀉せずして自ら平なり(仮実真虚)~補虚
⑦ 実して虚に見える者は、ただその実を瀉すれば、即ちその虚を補わずして自ら復す(仮虚真実)~瀉実
・大塚先生の言葉:「内藤希哲の『医径解惑論』は傷寒論・金匱要略・素問・霊枢・難径などの古典は一つの共通した理論によって一貫せられている、という極めて徹底した構想によって執筆されている。この内藤希哲の態度こそ、臨床家の立場で傷寒論を読む最良の方法ではないかと考える」
◆ インタビュー記事より
・漢方の要諦は虚実ですね。虚実の鑑別ができたら60%は治るのではないですか。陰陽よりも虚実です。陰陽は寒熱です。これは傷寒というか、熱病の場合は陰陽ですけど、雑病の場合は虚実医ですね。
・不妊治療に桃核承気湯はあまり使わないですね。まずは桂枝茯苓丸料で瘀血を除き、それが第一段階で、次に当帰芍薬散で温めるという二段構えですね。それで妊娠すると、あとは流産しないように流産止めの芎帰膠艾湯(地黄5.0;当帰・芍薬各4.0;川芎・甘草・艾葉・阿膠各3.0)を飲ませます。
・それでも患者さんが10人来ても2人しか生まれないんですから、2割バッターです。
・私はエキス漢方は、生薬漢方の3分の1しか効かないと思いますね。一番の欠点は、いざというときに大黄・石膏・附子の三つの妙味というか、加減ができないことです。
漢方の達人のエッセイ集(?)です。
寺師先生は大塚敬節先生の弟子で、漢方による不妊治療で有名なお方。
直接存じ上げてはいませんが、文章から推察すると、大声で豪放な性格のようですね。
最近、ちょっと自分自身の漢方診療のレベルに停滞感があり、刺激を求めて読むに至りました。
最初の大塚先生語録でまず打ちのめされてしまいました。
「傷寒・金匱をやらないで処方集ばかり読んでいては伸びない」
まさに私の陥っている状況を見透かしたような言葉。
そろそろ古典を読む時期かなあ、と感じていたところだったので、背中を一押しされたような気がしました。
第三章の「すばらしい先哲医家」で紹介された江戸時代の永富独嘨庵と内藤希哲のレベルの高さにも脱帽しました。
ますます自分の不勉強が恥ずかしくなりました。
今年はなんとしても傷寒論、金匱要略、黄帝内経の勉強にチャレンジしたいと思います。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
◆ 恩師(大塚敬節先生)語録
・ただ師匠の合方ばかり真似て、傷寒からやらねば伸びない。
・患者をみたら、まず虚実をみよ。
・陰陽虚実は、黒白とハッキリしない。紙一重だ。うんと細かいところで診断がつく。
・近代医学は臨床病理学に過ぎぬ。治療学がない。漢方医学は治療学があって、基礎がない。
・古方のすき間を後世方で埋めよ(浅田宗伯説)。
・今日、「近代医学の盲点を漢方で埋める」方向に動いている。
・近代医学の盲点は、筋肉の緊張と弛緩を忘れている。
・附子と柴胡に適当する洋薬なし。
・浅田の口訣は、目黒道琢、津田玄仙、和田東郭の書から抄録したもの。
・人はすべて瘀血と貧血がある(湯本先生説)。
・江戸時代の傷寒論をいくら読んでも、あれ以上は発展しない。関連学問が発展していないから。柴崎さんの研究(「黄帝内経素問新義解」)は面白い。
・内藤希哲の「傷寒雑病論」を解説した本(「傷寒雑病論類編」)はよい。
◆ 腹証と舌証について
・お腹の格好が変わってこないと治らない。
・患者が来たら、10人中7人は胸脇苦満がある。
◆ 処方と生薬について
・柴胡桂枝湯は小柴胡湯と桂枝湯の合方であるから、応用範囲が広い。あたりさわらずで、失敗しないから患者は逃げない。
・月経前の痛みは実証、月経後の痛みは虚証。
・老人性の痒みに、八味丸と真武湯で良くなる。
・真武湯の湿疹は、①表面に出ない、②温まるとかゆい。
・附子は陰証に用いる。虚実には関係なし。
・大黄を使うときは慎重に。最初から多く使うな。
・大黄・附子・石膏の使い方、名医と凡医の差。
・腫れ物に桔梗・石膏を「浅田口訣」は使っている。
・今まで気持ちよく飲んでいたのが、気持ち悪くなったのは証に合わなくなったことを意味する。
・顔がほんのり赤いのは黄連ではない(虚証)。顔が火照り、顔全体が赤いのは黄連を用いる(実証)。
・湯本先生は、地黄と黄耆を嫌って、百味箪笥にはなかった。
・合方は大柴胡湯合桃核承気湯のように実証には効くが、虚証には効かない。真武湯と人参湯の合方はある。
◆ 内藤希哲の「虚実に関する7つの治療法」
・「万病は多しと雖も、要するに虚実に過ぎず、面してこれを治すは補瀉のみ。虚する者はこれを補い、実する者はこれを瀉す」
① 虚する者はこれを補う
② 実する者はこれを瀉す
③ 虚実相兼ねる者は、先ず補して後に瀉す~先補後瀉
④ 虚実相兼ね先後すべからざる者は補瀉を兼用すべし~補瀉兼用
⑤ 虚実相兼ねて実急なる者は、先ずその実を瀉して、後にその虚を補う~先瀉後補
⑥ 虚して実に見える者は、ただその虚を補すれば、即ちその実を瀉せずして自ら平なり(仮実真虚)~補虚
⑦ 実して虚に見える者は、ただその実を瀉すれば、即ちその虚を補わずして自ら復す(仮虚真実)~瀉実
・大塚先生の言葉:「内藤希哲の『医径解惑論』は傷寒論・金匱要略・素問・霊枢・難径などの古典は一つの共通した理論によって一貫せられている、という極めて徹底した構想によって執筆されている。この内藤希哲の態度こそ、臨床家の立場で傷寒論を読む最良の方法ではないかと考える」
◆ インタビュー記事より
・漢方の要諦は虚実ですね。虚実の鑑別ができたら60%は治るのではないですか。陰陽よりも虚実です。陰陽は寒熱です。これは傷寒というか、熱病の場合は陰陽ですけど、雑病の場合は虚実医ですね。
・不妊治療に桃核承気湯はあまり使わないですね。まずは桂枝茯苓丸料で瘀血を除き、それが第一段階で、次に当帰芍薬散で温めるという二段構えですね。それで妊娠すると、あとは流産しないように流産止めの芎帰膠艾湯(地黄5.0;当帰・芍薬各4.0;川芎・甘草・艾葉・阿膠各3.0)を飲ませます。
・それでも患者さんが10人来ても2人しか生まれないんですから、2割バッターです。
・私はエキス漢方は、生薬漢方の3分の1しか効かないと思いますね。一番の欠点は、いざというときに大黄・石膏・附子の三つの妙味というか、加減ができないことです。