皮膚科医の大竹先生は小児アトピー性皮膚炎の本治薬として人参湯(32)を使用すると書かれています。
「よだれが出すぎると口囲・頰部 から頸部にかけて「よだれ皮膚炎」といわれる乳児特有の湿疹病変が生じる。よだれは胃腸(脾胃)の冷えによることが多いため、人参湯を用いるとよだれの減少とともに湿疹が軽快する。」
「体質改善薬(本治)としての人参湯・小建中湯・黄 耆建中湯・甘麦大棗湯は,治療開始時は標治の処方と 併用して用いることが多い。人参湯で処方を開始した場合は、よだれが減少し、口囲・頸部の皮疹が軽快してきたら、小建中湯・黄耆建中湯に転方した方がよい。 人参湯の長期投与により元来、熱証である乳児の体が温まりすぎてしまう。」
しかし、今までの私の知識では、「乳児湿疹に人参湯を用いる」と云われてもピンときません。
似た名前の「白虎加人参湯」(34)は清熱剤としてアトピー性皮膚炎に使用されることは知っていますが・・・他の資料をあたってみました。
ツムラ漢方スクエア「私の漢方診療日記 No.046 」より
■ 冷えを温め、脾胃を補って湿疹を軽快 乳幼児の食べ物アレルギー、アトピー性皮膚炎に人参湯
(井上内科クリニック院長:井上 淳子)
近年、乳幼児の食べ物アレルギー、アトピー性皮膚炎が増えています。消化器の未発達な段階にある乳幼児に合った伝統的な食事の注意に加えて、冷えを温め、脾胃を補う人参湯を服用していただくと良くなることが多く、嬉しい限りです。
アトピー性皮膚炎の漢方治療は主として治頭瘡一方などの清熱解毒剤を処方するものと信じていましたが、冷えを温め、胃腸の働きを良くする人参湯や四君子湯などを処方しても良いことをはじめて患者さんから教えていただきました。
以来20年程が過ぎ、時代の波に乗って我が医院にもアトピー性皮膚炎の患者さんが増えてきましたが、注意して診ると、大部分はこの患者さんのように冷えを温め、脾胃を補う必要のある方ばかりです。また、食物アレルギーと言われているアトピー性皮膚炎の乳幼児も極端なケースを除いて除去食とせず、消化器の来発達な乳幼児に合った、昔からの伝統的な食事の注意をしながら、冷えを温め、脾胃を補っていく人参湯などを処方していくと、いつの間にか元気になり湿疹が軽快してきます。
次はケースリポートです。主旨は人参湯ではなく真武湯が有効との内容。考察部分から人参湯に言及している箇所を抜粋します;
■ 真武湯が奏効した アトピー性皮膚炎の1例
(内海 康生:内海皮フ科医院)
髙山は真武湯の鑑別処方として人参湯・小建中湯・苓桂朮甘湯をあげ、以下 のように記述している。
「人参湯は下痢はあまりはげしくない。人参湯の下痢は胃から、真武湯の下痢は腸から。人参湯は脾陽虚、真武湯は腎陽虚である。小建中湯は倦怠・疲労はあるが、下痢・嘔気・めまい等、寒湿の証はない。苓桂朮甘湯は眩暈があるが、裏寒の症が著明でない。脉が沈緊である。水気上衝。」
川嶋はアトピー性皮膚炎の実際の漢方治療における本治として、季節のストレスを受けて、秋から冬に悪化する場合には、体表の皮膚炎が強く見えても、体の芯は寒がりで冷えがあるので、舌診で冷えを確認したら、人参湯や真武湯、八味地黄丸などでしっかり温めるとよい場合があると記述している。
次もケースリポートです。茯苓四逆湯(≒人参湯+真武湯)がアトピー性皮膚炎に有効であった例。
■ アトピー性皮膚炎に真武湯と人参湯の合方が著効した1例
(安田大成:下関市立市民病院)
患者の皮膚は渋紙様で、赤みと痒みの強い皮疹であるため、最初は温清飲を考慮したが、寒がり・冷飲食で下痢・易疲労感・盗汗・萎縮淡白舌が示す裏寒・脾胃気虚を建て直すことが先決であり、茯苓四逆湯の方意で真武湯と人参湯を合方したところ著効を示した。頻回の下痢が治まることは当然としても、苔癬化した皮疹までがすみやかに消退したことは驚きであった。茯苓四逆湯は通常、重症の嘔吐下痢により厥冷・煩躁するものに用い、皮膚炎に対する処方のイメージは薄い。しかし,『類聚方広義』頭注には、あらゆる難治の慢性疾患で精気が衰え、腹痛下痢する者に応用できることが示唆されている。また,『中医処方解説』によれば、附子はステロイドの分泌を促進し、炙甘草もステロイド様作用を持つ。したがって、茯苓四逆湯が皮膚疾患に奏効しても不思議ではない。アトピー性皮膚炎では胃腸を建て直すこと、裏寒を治すことが本質的に重要であると思われる。
皮膚所見に振り回されず、全体の証を見抜いて方剤を選択するスタンスが素晴らしい。裏寒の本症例に温清飲を処方したらもっと冷えてしまい患者さんがつらい思いをしたことでしょう。
見習いたいものです。
やはり、アトピー性皮膚炎への人参湯投与は、標治ではなく本治の役割ですね。
アトピー性皮膚炎の増悪期は、湿疹だけを見ると熱証と判断しがちですが、もし裏寒ベースであればそちらを温めないと思うような治療効果が得られない可能性があります。裏寒に対応する方剤には人参湯の他に黄耆建中湯もあります。
「よだれが出すぎると口囲・頰部 から頸部にかけて「よだれ皮膚炎」といわれる乳児特有の湿疹病変が生じる。よだれは胃腸(脾胃)の冷えによることが多いため、人参湯を用いるとよだれの減少とともに湿疹が軽快する。」
「体質改善薬(本治)としての人参湯・小建中湯・黄 耆建中湯・甘麦大棗湯は,治療開始時は標治の処方と 併用して用いることが多い。人参湯で処方を開始した場合は、よだれが減少し、口囲・頸部の皮疹が軽快してきたら、小建中湯・黄耆建中湯に転方した方がよい。 人参湯の長期投与により元来、熱証である乳児の体が温まりすぎてしまう。」
しかし、今までの私の知識では、「乳児湿疹に人参湯を用いる」と云われてもピンときません。
似た名前の「白虎加人参湯」(34)は清熱剤としてアトピー性皮膚炎に使用されることは知っていますが・・・他の資料をあたってみました。
ツムラ漢方スクエア「私の漢方診療日記 No.046 」より
■ 冷えを温め、脾胃を補って湿疹を軽快 乳幼児の食べ物アレルギー、アトピー性皮膚炎に人参湯
(井上内科クリニック院長:井上 淳子)
近年、乳幼児の食べ物アレルギー、アトピー性皮膚炎が増えています。消化器の未発達な段階にある乳幼児に合った伝統的な食事の注意に加えて、冷えを温め、脾胃を補う人参湯を服用していただくと良くなることが多く、嬉しい限りです。
アトピー性皮膚炎の漢方治療は主として治頭瘡一方などの清熱解毒剤を処方するものと信じていましたが、冷えを温め、胃腸の働きを良くする人参湯や四君子湯などを処方しても良いことをはじめて患者さんから教えていただきました。
以来20年程が過ぎ、時代の波に乗って我が医院にもアトピー性皮膚炎の患者さんが増えてきましたが、注意して診ると、大部分はこの患者さんのように冷えを温め、脾胃を補う必要のある方ばかりです。また、食物アレルギーと言われているアトピー性皮膚炎の乳幼児も極端なケースを除いて除去食とせず、消化器の来発達な乳幼児に合った、昔からの伝統的な食事の注意をしながら、冷えを温め、脾胃を補っていく人参湯などを処方していくと、いつの間にか元気になり湿疹が軽快してきます。
次はケースリポートです。主旨は人参湯ではなく真武湯が有効との内容。考察部分から人参湯に言及している箇所を抜粋します;
■ 真武湯が奏効した アトピー性皮膚炎の1例
(内海 康生:内海皮フ科医院)
髙山は真武湯の鑑別処方として人参湯・小建中湯・苓桂朮甘湯をあげ、以下 のように記述している。
「人参湯は下痢はあまりはげしくない。人参湯の下痢は胃から、真武湯の下痢は腸から。人参湯は脾陽虚、真武湯は腎陽虚である。小建中湯は倦怠・疲労はあるが、下痢・嘔気・めまい等、寒湿の証はない。苓桂朮甘湯は眩暈があるが、裏寒の症が著明でない。脉が沈緊である。水気上衝。」
川嶋はアトピー性皮膚炎の実際の漢方治療における本治として、季節のストレスを受けて、秋から冬に悪化する場合には、体表の皮膚炎が強く見えても、体の芯は寒がりで冷えがあるので、舌診で冷えを確認したら、人参湯や真武湯、八味地黄丸などでしっかり温めるとよい場合があると記述している。
次もケースリポートです。茯苓四逆湯(≒人参湯+真武湯)がアトピー性皮膚炎に有効であった例。
■ アトピー性皮膚炎に真武湯と人参湯の合方が著効した1例
(安田大成:下関市立市民病院)
患者の皮膚は渋紙様で、赤みと痒みの強い皮疹であるため、最初は温清飲を考慮したが、寒がり・冷飲食で下痢・易疲労感・盗汗・萎縮淡白舌が示す裏寒・脾胃気虚を建て直すことが先決であり、茯苓四逆湯の方意で真武湯と人参湯を合方したところ著効を示した。頻回の下痢が治まることは当然としても、苔癬化した皮疹までがすみやかに消退したことは驚きであった。茯苓四逆湯は通常、重症の嘔吐下痢により厥冷・煩躁するものに用い、皮膚炎に対する処方のイメージは薄い。しかし,『類聚方広義』頭注には、あらゆる難治の慢性疾患で精気が衰え、腹痛下痢する者に応用できることが示唆されている。また,『中医処方解説』によれば、附子はステロイドの分泌を促進し、炙甘草もステロイド様作用を持つ。したがって、茯苓四逆湯が皮膚疾患に奏効しても不思議ではない。アトピー性皮膚炎では胃腸を建て直すこと、裏寒を治すことが本質的に重要であると思われる。
皮膚所見に振り回されず、全体の証を見抜いて方剤を選択するスタンスが素晴らしい。裏寒の本症例に温清飲を処方したらもっと冷えてしまい患者さんがつらい思いをしたことでしょう。
見習いたいものです。
やはり、アトピー性皮膚炎への人参湯投与は、標治ではなく本治の役割ですね。
アトピー性皮膚炎の増悪期は、湿疹だけを見ると熱証と判断しがちですが、もし裏寒ベースであればそちらを温めないと思うような治療効果が得られない可能性があります。裏寒に対応する方剤には人参湯の他に黄耆建中湯もあります。