白虎加人参湯は「熱」と「渇き」がイメージされる病態に有効な漢方薬です。
例えば熱中症。
高熱環境下で汗をたくさんかいたけど湿度が高くて蒸発しないので、熱の発散ができずに体が火照る、水分が足りない脱水症になる ・・・ピッタリですね。
それから、夏風邪のプール熱。
高熱が4-5日続き、体がだんだん脱水傾向になっていく ・・・これも合います。
さて、小児アトピー性皮膚炎に「白虎加人参湯」(34)は有効なのでしょうか?
「臨床漢方小児科学」(南山堂、西村甲著、2016年発行)を読むと、幼児期以降(幼児期・学童期・思春期)のフローチャートに登場します。
ネット検索中心に資料を当たってみました。
長文になりますので、最初にポイントを提示します。
<ポイント>
構成生薬:石膏15.0;粳米8.0;知母5.0;人参3.0;甘草2.0
八綱分類:裏熱実証(赤本)
虚実:中間〜実
気血水:気虚、水不足
漢方的適応病態:気分熱盛(陽明病経証)。
TCM的解説:清熱瀉火・生津止渇・補気。
(備考)
・赤みやほてりが強かったら白虎加人参湯、痒みが強い場合(かゆみが強くてイライラしがち)は黄連解毒湯を使う。
・使用目標は「上焦の皮疹」「赤く熱を帯びる」「乾燥傾向」の3つ(内海Dr.)。
・使用目標は「熱感・発汗・口渇」の3つ(大野Dr.)。
・白虎加人参湯証の口渇とは「レストランで外食した際、冬でも氷入りの水をおかわりする患者さん」。
・水をたくさん飲んでも喉の渇きのとまらないのは白虎加人参湯証(尿不利はない)、喉が渇いて水を飲んでも吐いてしまうのが五苓散証(尿不利がある)。
ツムラ漢方スクエアで「白虎加人参湯」「アトピー性皮膚炎」で検索すると、いくつか記事がヒットしました。
まずはたんぽぽこどもクリニックの石川功治先生の解説から。
■ 私の漢方診療日誌「小児のアトピー性皮膚炎」より
【白虎加人参湯】
体を冷やす成分の最強コンビの石膏と知母が入っているのでこの作用によって皮膚の赤み(皮膚のほてり)がとれてきます。
ツムラ白虎加人参湯(TJ-34)に含まれる石膏の量は他の石膏が含まれる漢方に比べて15gと最も多く含まれていますので冷やすという事には最適です。 顔が真っ赤になっているアトピー性皮膚炎には特に良く効きます。皮膚の赤みが改善しますと皮膚のカサカサも良くなっていきます。 まず、赤みが良くなるまで白虎加人参湯の内服を続けてることが大切です。白虎加人参湯は速効性のあるお薬ですので皮膚の症状が特に早く良くなっていきます。
石膏+知母による清熱作用を強調しています。
「顔が真っ赤の患者さんによく効く」とあります。「全身真っ赤」ではダメなのでしょうか・・・顔面(上半身)によく効く理由は書いてありません。
次は皮膚科医の黒川晃夫先生の解説から;
■ 成人皮膚疾患に頻用される漢方薬の使いどころを知る
〜特に成人アトピー性皮膚炎〜
白虎加人参湯は、石膏・知母・粳米・人参・甘草 の5種類の生薬からなる方剤である。唾液分泌促進作用、体内水分損失防御作用、瘙痒抑制作用などが報告されている。瘙痒を伴う顔面の紅斑で、熱がこもりやすく、口渇を認める場合にはよい適応である。
ここでも「顔面の紅斑」が強調されています。
ここで私はある知り合いの女性のことを思い出しました。彼女は汗をかきにくい体質で、「ちょっと運動すると顔が火照って大変なんです」と言ってました。この薬、合いそうです。
生薬構成を見ると、生薬数から寒>温、潤>燥ですから「冷やして潤す」方剤という性格が浮かび上がります。「熱を持って乾いている」病態にピッタリですね。
ここでちょっと寄り道を。
白虎加人参湯は熱中症にも用いられますが、三浦於菟先生の解説から生薬構成図を引用します;
■ <熱中症・夏ばて対策>
夏季疾患の治療は漢方薬の独壇場 白虎加人参湯、清暑益気湯、啓脾湯の3本柱を基本に
【白虎加人参湯】・・・体内の熱を冷まし、体液を潤し、元気をつける
白虎加人参湯の“白虎”は、中国伝説の四獣神の1つで、西方を守る秋の神であり、構成生薬の石膏の白色にも通じています。白虎加人参湯は、夏季の暑さなどの病態を秋季の涼しさのように冷まし爽やかにする漢方薬です。適応病態は熱による熱感、口渇、発汗、倦怠感などや熱中症で、構成生薬の石膏や知母が体内の熱を冷まし、甘草や粳米が体液を潤し、人参が元気をつける効果を有します。ここで注目していただきたい点は、熱を冷ます生薬の中でも、体液を保持しつつ熱を冷ます作用のある生薬(知母・石膏)を用いているところ です。さらに体液を潤す生薬を多く配合している点が特徴です。
保険では扱えないのですが、屋外での労働やスポーツで熱中症が懸念される場合には、白虎加人参湯を予防的に服用することもよいで しょう。水筒に溶かして入れて携行すると便利です。
黒川先生の小児アトピー性皮膚炎の項目から;
■ 私の漢方診療日誌「小児皮膚疾患に頻用される漢方薬の使いどころを知る〜特に小児アトピー性皮膚炎〜」
こちらには乳児期・幼児期の欄には白虎加人参湯の記載はなく、学童期以上の欄に登場します。
では乳幼児期の顔面湿疹には何が使われるかというと、治頭瘡一方ですね。
治頭瘡一方と白虎加人参湯の違いは何でしょう?
前者はジクジク(水毒)、後者はカサカサ(水不足)という使用目標があり、乳幼児は体内水分比率が高く水毒傾向があるため白虎加人参湯は合わないのだと思われます。
次は夏秋優Dr.と小林裕美Dr.の対談「皮膚科の漢方治療」から。
■ 成人アトピー性皮膚炎〜顔面の紅斑、ほてりには、白虎加人参湯や黄連解毒湯
(夏秋)
顔のほてりが強い人に、白虎加人参湯を飲んでいただいてサーモグラフィで皮膚温を測定する と、1~2時間で皮膚温が下がってほてりがとれてきた例がありました。一方で、イライラするぐらい痒い場合、特に赤みの強い若い人には黄連解毒湯がよく効く印象があります。 症例にもよりますが、全身的なバランスの改善によりじっくり体質を改善して皮膚症状を治す“本治”から入るのではなく、現在の皮疹の状態に対処する“標治”的なアプローチを取ることが多いと思います。赤みやほてりが強かったら白虎加人参湯、痒みが強い場合は黄連解毒湯を使うというようにです。それらの処方で、漢方で症状がよくなることをまず患者さんに実感していただくことを念頭に置いています。
(小林)
顔が赤い方に黄連解毒湯を使っているうちに、充血していて少し浮腫のあるような赤みにいいの かなというように、徐々に方剤の特徴がつかめてくると思います。黄連解毒湯については、私もイライラを一つの目安にしていて、服用開始3日後にはイライラがとれた例を複数、経験しています。
この対談では小児アトピー性皮膚炎には白虎加人参湯は登場しないのですが、成人アトピー性皮膚炎には登場します。参考に引用しておきました。
顔面湿疹の患者さんでも、
・赤みやほてりがメインなら白虎加人参湯、
・赤みやほてり+かゆみが強くてイライラしがちなら黄連解毒湯、
と使い分ける口訣は役立ちます。
ただ、小林先生の「充血していて少し浮腫のあるような赤みにいい」という表現が腑に落ちません。「浮腫」は水毒の所見であり、白虎加人参湯は「水不足」に使うイメージがありますので。
次は皮膚科医の内海先生の解説から;
■ 夏に悪化するアトピー性皮膚炎の漢方治療
白虎加人参湯を標治薬として選択する指標は「上焦の皮疹」「赤く熱を帯びる」「乾燥傾向」の3つ。
さらに本治として、気虚では補中益気湯、瘀血では桂枝茯苓丸、脾虚では小建中湯を追加するフローチャート。
なるほど、と頷けました。
ただ、黄連解毒湯の名前がないなあ、と思って本文を読んだら「なお黄連解毒湯も清熱剤で,アトピー性皮膚炎に頻用される処方であるが,夏場だけでなく季節にかかわらず処方されることが多いので取り上げなかった」とありました。
続いて大野修嗣先生によるアトピー性皮膚炎の解説から白虎加人参湯の部分を抜粋;
■ 続・Dr.Ohno教えてください、漢方処方実践編、症例から学ぶ服薬指導のポイント「アトピー性皮膚炎」
【白虎加人参湯】
原典:傷寒論・金匱要略。
生薬構成:石膏・知母・人参・粳米・甘草。
石膏・知母・粳米の組み合わせで清熱慈潤剤の代表処方である。清熱と慈潤作用をもつ石膏が15g ともっとも多く配合された漢方薬である。人参・ 粳米には止渇作用があり,石膏と甘草も加わり皮膚を潤す。このことから乾燥性の皮膚疾患に応用されている。
使用目標:熱感・発汗・口渇が目標である。
発汗が持続し脱水傾向に陥っている場合も適応となる。 アトピー性皮膚炎では発汗が続いていても皮膚表面は乾燥していることが多い。清熱作用と皮膚に 対する滋潤作用を併せ持つ白虎加人参湯がアトピー性皮膚炎に適応する所以である。
臨床応用:発汗・口渇を伴った熱性疾患に広く応用される。
アトピー性皮膚炎では夏季の発汗過多 の症例に適応がある。たとえ口渇がない場合にも応用可能である。
使用目標は前項の「上焦の皮疹」「熱を持った湿疹」「乾燥傾向」とは少々異なり、「熱感・発汗・口渇」と全身症状を重視した説明になっています。
さらに続きます。
皮膚科医の森原潔先生の解説から;
■ シリーズ漢方道場『痒みは体の熱を取り除く清熱剤で』
<Q&A一覧>
Q1. 白虎加人参湯、黄連解毒湯を処方すべき患者さんは?
Q2. 白虎加人参湯と黄連解毒湯の使い分けは?
Q3. 寒証の人に白虎加人参湯や黄連解毒湯は使ってはいけませんか?
Q4. ADに対して他に使えそうな漢方はありませんか?
Q1 白虎加人参湯、黄連解毒湯を処方すべき患者さんは?
A1. 熱証の AD患者さんに用います。暑がりの人のことを熱証、寒がりの人のことを寒証といいます。お風呂につかる、布団に入る等で身体が温まったときに痒みがひどくな るという訴えをよく耳にします。皮膚が温まると、痒みの原因となるヒスタミンが肥 満細胞から放出されやすくなるためですが、身体に熱がこもり暑がりになっている熱証の AD患者さんは、そういうことが常に起こりやすくなっていると思われます。その熱を取り除いてあげれば痒みを起こしにくくなることは容易に想像できると思いま す。白虎加人参湯や黄連解毒湯は体を冷やす効果を有するお薬、漢方では清熱剤と呼びますが、その代表的方剤です。
Q2 白虎加人参湯と黄連解毒湯の使い分けは?
A2. 白虎加人参湯の証として口渇がよく挙げられます。患者さんに「のどはよく乾きますか」と聞いても、よく分からないと言われる場合は、「レストランで外食したときに水のおかわりを頻回にしますか?」と聞いてみるとよいかもしれません。冬でも氷入りの水をおかわりする患者さんはまさに白虎加人参湯の証です。
皮疹的には、あまりしこりがなく浮腫状で蕁麻疹様に見える場合に用います。味覚的にあまり悪くない方剤だと思います。 一方、黄連解毒湯はとても苦いお薬で、こちらはしこりがある皮疹に用います。AD 患者さんには、痒みのために掻きすぎて皮膚に傷ができ、その傷がかさぶたになるときに、また掻いてしまって傷ができ......というのを繰り返す方がいらっしゃいます。 痒疹とよばれる病態で、痒みを引き起こすリンパ球などの細胞がたくさん皮膚に居座ってしまうため、虫さされ様のしこりを呈する疾患です。とても痒く難治であり、 われわれ皮膚科医は苦労しますが、そういった病態に黄連解毒湯を用いるとよいと思います。黄連解毒湯には抗炎症作用の他にもさまざまな効果があることがわかっています。その 1 つである鎮静作用に期待して、イライラして痒くなる AD 患者さんにもよく用います。抗菌作用もあるため赤ニキビにも頻用しますが、ニキビのある AD に使うと一挙両得の効果が得られるかもしれません。
Q3 寒証の人に白虎加人参湯や黄連解毒湯は使ってはいけませんか?
A3. 問題はないと考えています。少なくとも禁忌ではありません。西洋薬の添付文書にある「慎重投与」レベルと思っていただいてよいと思います。温熱により AD の症状が頻回に悪化する場合には、寒証であっても清熱剤を用いても良いでしょう。ただし「冷えがひどくなっていませんか?」などの問いかけは最低限行う必要があります。西洋薬でなら「慎重投与」レベルの警告であればあまり躊躇せず使うことは実際の臨床では多いと思いますが、漢方も同様に証にとらわれすぎることなくどんどん使っていくとよいと思います。
口訣や使用目標がちりばめられています。
Q2の白虎加人参湯証の口渇を「レストランで外食した際、冬でも氷入りの水をおかわりする患者さん」と例えるのはわかりやすい(座布団一枚!)。
「しこり(痒疹)には白虎加人参湯より黄連解毒湯がよい」と意外なことが書いてありました。私は痒疹・苔癬化は瘀血所見であり、駆瘀血剤の桂枝茯苓丸が合うと思い込んできましたので。
Q3では寒証の患者さんに清熱剤を用いてもよいが「冷えがひどくなっていませんか?」と確認する必要がある、というアドバイスも頷けます。
次は岡野 正憲 先生の解説から;
■ 白虎加人参湯
【証】
さて本筋に戻りまして,白虎加人参湯の証というものはどういうものかと申しますと,中国の後漢という時代の張仲景の書いたといわれる『傷寒論』および『金贋要略』という本の中に書いてあることを現代的に意訳して申しますと「急性熱性病の場合,吐いたりあるいは下痢したのち,7~8日を経ても病気が治らず,熱が内臓の方にとどまっていて,体の表面から内臓の方まで熱して,時々外気に触れると寒気がして,口が大変渇き,舌も渇いてもだえる様子があり,水をたくさん飲んでも喉の渇きのとまらないのは,白虎加人参湯の主治するところである」というように書いてあります。
その他,省略しますが3〜4項目の条文がありまして,熱のない場合にも用いてよいことが書かれてあります。ここで語旬の説明をいたしますが,漢方医学的な熱というものは,この時代には体温計などはありませんでしたので,自覚的な熱感というものを含んでおりまして,体温上昇すなわち熱ではないということも覚えていただきたいと思います。
これを現代的に解釈しますと,急性熱性病の場合は,体の表面から内臓の方まで熱が行きわたっ て高熱があり,体液が欠乏している徴候があって,口や舌が渇いて水をのみたがっており,便が硬くなっていて尿の出がよく,汗が多くて,しかも外気に触れると寒さを感じるという症状があります。慢性病の場合は,熱とそれに関連した症状はありませんが,口の潟きは大変に強いものです。
この処方を現代医学的に応用する場合は,感冒のある時期,インフルエンザのある時期,はしか,日射病,熱射病などの時に用いますし,無熱の場合は,糖尿病,夜尿症,頭痛のある場合,皮膚炎,湿疹,ストロフルス,乾癬,眼の紅彩炎,角膜炎などに用いられます。
【鑑別】
温清飲との鑑別:
温清飲という処方は,体質的に申しますと,体力のある方とない方に分けると,その中間くらいに当たる人に用いることが多いのです。その働きから申しますと,体力を補う作用と鎮静,止血などの作用の組み合わせで,白虎加人参湯よりはるかに応用範囲は広いものがあります。
皮膚疾患だけに限って申しま すと,皮膚の発赤,腫脹,発疹,落屑などがありまして,陽性のかたちもありますが、乾燥性のものに用います。この処方の場合は,口潟はあまり強く訴えないことが多いようです。
白虎加人参湯の方は,口の大変な潟きが特徴で,皮膚の変化だけでは両者にあまり差はありません。体質的には白虎加人参湯の方が少し体力の勝ったものが多いですが,それほどの差がないこともあり,強い口の潟きがあるなしということが鑑別の要点になります。
消風散との鑑別:
消風散は陽性のものに用いますが,この場合は皮膚の変化は滲出液が必ず出てきまして,痂皮をつくることが多いですし,口の渇きもありますが,さほど強いものではありません。白虎加人参湯の方は大変な口の渇きがあり,皮膚の変化はあくまでも乾性にとどまります。
五苓散との鑑別:
五苓散は,口が渇いて水をのむが,のむとすぐ間を置かずに吐くことが多いのです。したがって尿利は減少するのです。白虎加人参湯の場合は,口が渇いてのんでも渇きはとまらず,尿になって出てしまいます。皮膚も五苓散の証を用いる場合よりは乾燥していますし,のんだ水を吐くということはほとんどありません。
やっと原典の解説が出てきました。
岡野先生は使用目標に「口渇」をとても重視しています。
私が興味を持ったのは、五苓散との鑑別です。
(五苓散)口渇で水を飲むが吐いてしまう、尿量減少(尿不利)
(白虎加人参湯)口渇で水を飲んでも渇きは止まらず尿になって出てしまう。
実は私、中学時代から大学時代までテニスをしていたのですが、部活中はたくさん汗をかき、終わると口渇が止まらず水を飲み続けるのがやめられませんでした。水分の取り過ぎで下痢をするまで飲み続けました。当時はイオン飲料などありませんでしたから、電解質を取らなかったから喉の渇きが治まらなかったのかな、とずっと思っていました。
それから20年後、漢方を知り「あの症状には五苓散が合っていたのではないか」と考えるようになりました。でも嘔吐は無いんですよね。
そして今回、白虎加人参湯のことを調べてみると、このくすりの方が合っていたのかな、と思うに至りました。
「口渇で水を飲んでも渇きは止まらない、運動後で体は火照っている」は白虎加人参湯証に近い。
まあ、今更ですけど。
もう一つ、五苓散と白虎加人参湯の鑑別の解説(大野修嗣先生)を見つけました。
■ 熱中症・夏バテと漢方 〜熱中症の臨床現場での漢方の役割〜
熱中症に対する主な漢方薬とその類似処方の適応
<五苓散とその類方>
1.高温環境での仕事に従事する日には五苓散を予め服用していただくことで水分代謝機能を低下させず、水分の吸収・分布・排泄を円滑にする。
2.高温環境に曝露されて口渇・頭痛・嘔気などの症状、すなわち「熱中症もどき」の状態が出現した場合にはこれらの症状を改善する。
3.上記症状に加えて発熱・尿量減少などが出現した熱中症の最盛期には最もよい適応があり、重症度IIIへの進行を阻止する。
4.熱感・食欲低下・軟便などが遷延した場合には五苓散の類方である柴苓湯、胃苓湯が役に立つ。
<白虎加人参湯とその類方>
1.高温環境に曝露されて体温の上昇・大量の発汗・強い口渇が出現した場合には白虎加人参湯が身体の内外を冷却して体温の上昇を制御する。
2.身体の内外を清熱することで結果として発汗を抑制し、脱水の進行を阻止する。
3.激しい口渇を制御して胃腸の負担をかける余分な水分摂取からの胃腸系の疲弊を抑える。
4.同様の状態で発汗が制御できない場合、あるいは尿量が確保できない場合には類方の越婢加朮湯を選択する。構成生薬の麻黄と石膏の組み合わせが止汗に働く。
すなわち白虎加人参湯と越婢加朮湯の鑑別は体温上昇時に口渇が強ければ白虎加人参湯、発汗が強ければ越婢加朮湯となる。
部活で大量発汗後、体のほてりと水を飲んでも飲んでもなくならない口渇、下痢するまで飲み続けた私への処方箋は・・・ズバリ白虎加人参湯でしょう(激しい口渇を制御して胃腸の負担をかける余分な水分摂取からの胃腸系の疲弊を抑える)。
どんどん話がずれてしまいます。
では秋葉先生の「活用自在の処方解説」から;
■ 34.白虎加人参湯
1.出典:『傷寒論』、『金匱要略』
1)大汗出でて後、大煩渇して解せず、脈洪大なる証。(太陽病上篇)
2)若しくは吐し、若しくは下して後解せず、熱結ぼれて裏に在り、表裏ともに熱し、時々悪風し、大いに渇し、舌上乾燥して煩し、水数升を飲まんと欲する証。(太陽病下篇)
3)口燥渇し、心煩し、背微悪寒する証。(太陽病下篇)
4)渇して水を飲まんと欲し、表証無きもの。(太陽病下篇)
5)暍(えつ:中熱、熱射病)にして、汗出でて悪寒し、身熱して渇する証。(『金匱要略』痙湿暍病変)
2.腹候:腹力は中等度前後(2-4/5)。心下痞硬を認めることがある。
3.気血水:気水が主体の気血水。
4.六病位:陽明病。
5.脈・舌: 脈は大で、無力。舌質は紅で乾燥、舌苔は黄。
6.口訣:
●明らかな表証がある場合には用いない。(浅田宗伯)
●白虎湯証の熱によって津液枯渇したものに対して、人参をもって滋潤するのである。(龍野一雄)
7.本剤が適応となる病名・病態
a 保険適応病名・病態:効能または効果
のどの渇きとほてりのあるもの。
b 漢方的適応病態:気分熱盛(陽明病経証)。
すなわち、息切れ、無力感、疲労感など気虚の症候を伴うもの。舌質は紅で乾燥、舌苔は黄。脈は大で、無力。
9.TCM的解説:清熱瀉火・生津止渇・補気。
10.効果増強の工夫:
本方は発熱性疾患が一定程度経過した状態が適応で、病位でいうと陽明病期となる。しかし、長引いた発熱例では少陽病と鑑別がつきかねる場合もあったようで、先人も小柴胡湯などと合方している。
処方例)ツムラ白虎加人参湯 6.0g 分2食前
ツムラ小柴胡湯 5.0g
11.本方で先人は何を治療したか?
龍野一雄著『新撰類聚方』増補改訂版より
1 )流感・チフス・肺炎・脳炎脳膜炎等で、高熱煩渇するもの。
2 )日射病・熱射病で、高熱、煩渇、脳症等を起したもの。
3 )脳出血で、発熱、煩渇、煩躁、譫妄等を起し脈大のもの。
4 )糖尿病・バセドゥ氏病で、煩渇、或は煩躁、脈大のもの。
5 )皮膚炎・じんま疹・湿疹・ストロフルス・乾癖等でかゆみが劇しく、
患部は赤味が強く乾燥性で、煩渇するもの。
6 )胆嚢炎で高熱煩渇するもの。
7 )腎臓炎・尿毒症で高熱煩渇、或は煩躁、脳症あるもの。
8 )夜尿症で脈大、煩渇するもの。
9 )虹彩毛様体炎・角膜炎等で、充血、発赤、熱感等が強く煩渇するもの。
10)歯槽膿漏で糖尿を伴い、煩渇するものを治した例がある。
11)嗅覚なきものを治した例がある。
12)骨盤腹膜炎で、高熱、煩渇、自汗するものを治した例がある。
13)小児麻痺で渇するものを治した例がある。
14)腰部神経痛で、渇舌、乾燥するものを治した例がある。
15)感冒後言語障害、内熱煩渇を治した(加藤勝美氏)。
<ヒント>
本方の適応は「のどの渇きとほてりのあるもの」という漠然としたものであるが、これを医学的観点から、熱性疾患の遷延例や口渇ある糖尿病、患部に火照りのある皮膚炎などという病名に置き換えて適応をみいだすことが求められる。すなわち、これらの症状症候を伴う疾患に適応があると判断するのが、臨床医の医学的判断と呼ばれるものである。
この方剤の応用範囲が広いことをあらためて感じました。
しかし「喉の渇きと火照り」は乳児では訴えられません。
どの先生の解説も幼児期・学童期以降に設定されている一因でしょうか。
<追記>
■ 「漢方治療の診断と実践〜漢方水嶋塾講義録」(水嶋丈雄著、三和書籍、2012年)より
・白虎湯グループ(※)は、主が石膏で副が知母、目標は燥熱で、汗が多くて乾燥、脈が非常に強いことが特徴である。実証であることに注意すべし。
※ 白虎加人参湯、越婢加朮湯、消風散、小柴胡湯加桔梗石膏、桔梗石膏
・石膏の証:乾燥、微熱、脈圧が高い、腹力が強い、皮膚が乾燥(しっとりしている桂枝湯とはまったく逆)。
・白虎加人参湯は表皮の炎症性の乾燥型アトピー性皮膚炎に使うことが多い。皮膚表面の循環血漿量を増やすために人参が入っているが、人参を入れることにより炎症が強すぎる場合に悪化することがある。だから白虎加人参湯は炎症があまり強すぎるときには使えない。
例えば熱中症。
高熱環境下で汗をたくさんかいたけど湿度が高くて蒸発しないので、熱の発散ができずに体が火照る、水分が足りない脱水症になる ・・・ピッタリですね。
それから、夏風邪のプール熱。
高熱が4-5日続き、体がだんだん脱水傾向になっていく ・・・これも合います。
さて、小児アトピー性皮膚炎に「白虎加人参湯」(34)は有効なのでしょうか?
「臨床漢方小児科学」(南山堂、西村甲著、2016年発行)を読むと、幼児期以降(幼児期・学童期・思春期)のフローチャートに登場します。
ネット検索中心に資料を当たってみました。
長文になりますので、最初にポイントを提示します。
<ポイント>
構成生薬:石膏15.0;粳米8.0;知母5.0;人参3.0;甘草2.0
八綱分類:裏熱実証(赤本)
虚実:中間〜実
気血水:気虚、水不足
漢方的適応病態:気分熱盛(陽明病経証)。
TCM的解説:清熱瀉火・生津止渇・補気。
(備考)
・赤みやほてりが強かったら白虎加人参湯、痒みが強い場合(かゆみが強くてイライラしがち)は黄連解毒湯を使う。
・使用目標は「上焦の皮疹」「赤く熱を帯びる」「乾燥傾向」の3つ(内海Dr.)。
・使用目標は「熱感・発汗・口渇」の3つ(大野Dr.)。
・白虎加人参湯証の口渇とは「レストランで外食した際、冬でも氷入りの水をおかわりする患者さん」。
・水をたくさん飲んでも喉の渇きのとまらないのは白虎加人参湯証(尿不利はない)、喉が渇いて水を飲んでも吐いてしまうのが五苓散証(尿不利がある)。
ツムラ漢方スクエアで「白虎加人参湯」「アトピー性皮膚炎」で検索すると、いくつか記事がヒットしました。
まずはたんぽぽこどもクリニックの石川功治先生の解説から。
■ 私の漢方診療日誌「小児のアトピー性皮膚炎」より
【白虎加人参湯】
体を冷やす成分の最強コンビの石膏と知母が入っているのでこの作用によって皮膚の赤み(皮膚のほてり)がとれてきます。
ツムラ白虎加人参湯(TJ-34)に含まれる石膏の量は他の石膏が含まれる漢方に比べて15gと最も多く含まれていますので冷やすという事には最適です。 顔が真っ赤になっているアトピー性皮膚炎には特に良く効きます。皮膚の赤みが改善しますと皮膚のカサカサも良くなっていきます。 まず、赤みが良くなるまで白虎加人参湯の内服を続けてることが大切です。白虎加人参湯は速効性のあるお薬ですので皮膚の症状が特に早く良くなっていきます。
石膏+知母による清熱作用を強調しています。
「顔が真っ赤の患者さんによく効く」とあります。「全身真っ赤」ではダメなのでしょうか・・・顔面(上半身)によく効く理由は書いてありません。
次は皮膚科医の黒川晃夫先生の解説から;
■ 成人皮膚疾患に頻用される漢方薬の使いどころを知る
〜特に成人アトピー性皮膚炎〜
白虎加人参湯は、石膏・知母・粳米・人参・甘草 の5種類の生薬からなる方剤である。唾液分泌促進作用、体内水分損失防御作用、瘙痒抑制作用などが報告されている。瘙痒を伴う顔面の紅斑で、熱がこもりやすく、口渇を認める場合にはよい適応である。
ここでも「顔面の紅斑」が強調されています。
ここで私はある知り合いの女性のことを思い出しました。彼女は汗をかきにくい体質で、「ちょっと運動すると顔が火照って大変なんです」と言ってました。この薬、合いそうです。
生薬構成を見ると、生薬数から寒>温、潤>燥ですから「冷やして潤す」方剤という性格が浮かび上がります。「熱を持って乾いている」病態にピッタリですね。
ここでちょっと寄り道を。
白虎加人参湯は熱中症にも用いられますが、三浦於菟先生の解説から生薬構成図を引用します;
■ <熱中症・夏ばて対策>
夏季疾患の治療は漢方薬の独壇場 白虎加人参湯、清暑益気湯、啓脾湯の3本柱を基本に
【白虎加人参湯】・・・体内の熱を冷まし、体液を潤し、元気をつける
白虎加人参湯の“白虎”は、中国伝説の四獣神の1つで、西方を守る秋の神であり、構成生薬の石膏の白色にも通じています。白虎加人参湯は、夏季の暑さなどの病態を秋季の涼しさのように冷まし爽やかにする漢方薬です。適応病態は熱による熱感、口渇、発汗、倦怠感などや熱中症で、構成生薬の石膏や知母が体内の熱を冷まし、甘草や粳米が体液を潤し、人参が元気をつける効果を有します。ここで注目していただきたい点は、熱を冷ます生薬の中でも、体液を保持しつつ熱を冷ます作用のある生薬(知母・石膏)を用いているところ です。さらに体液を潤す生薬を多く配合している点が特徴です。
保険では扱えないのですが、屋外での労働やスポーツで熱中症が懸念される場合には、白虎加人参湯を予防的に服用することもよいで しょう。水筒に溶かして入れて携行すると便利です。
黒川先生の小児アトピー性皮膚炎の項目から;
■ 私の漢方診療日誌「小児皮膚疾患に頻用される漢方薬の使いどころを知る〜特に小児アトピー性皮膚炎〜」
こちらには乳児期・幼児期の欄には白虎加人参湯の記載はなく、学童期以上の欄に登場します。
では乳幼児期の顔面湿疹には何が使われるかというと、治頭瘡一方ですね。
治頭瘡一方と白虎加人参湯の違いは何でしょう?
前者はジクジク(水毒)、後者はカサカサ(水不足)という使用目標があり、乳幼児は体内水分比率が高く水毒傾向があるため白虎加人参湯は合わないのだと思われます。
次は夏秋優Dr.と小林裕美Dr.の対談「皮膚科の漢方治療」から。
■ 成人アトピー性皮膚炎〜顔面の紅斑、ほてりには、白虎加人参湯や黄連解毒湯
(夏秋)
顔のほてりが強い人に、白虎加人参湯を飲んでいただいてサーモグラフィで皮膚温を測定する と、1~2時間で皮膚温が下がってほてりがとれてきた例がありました。一方で、イライラするぐらい痒い場合、特に赤みの強い若い人には黄連解毒湯がよく効く印象があります。 症例にもよりますが、全身的なバランスの改善によりじっくり体質を改善して皮膚症状を治す“本治”から入るのではなく、現在の皮疹の状態に対処する“標治”的なアプローチを取ることが多いと思います。赤みやほてりが強かったら白虎加人参湯、痒みが強い場合は黄連解毒湯を使うというようにです。それらの処方で、漢方で症状がよくなることをまず患者さんに実感していただくことを念頭に置いています。
(小林)
顔が赤い方に黄連解毒湯を使っているうちに、充血していて少し浮腫のあるような赤みにいいの かなというように、徐々に方剤の特徴がつかめてくると思います。黄連解毒湯については、私もイライラを一つの目安にしていて、服用開始3日後にはイライラがとれた例を複数、経験しています。
この対談では小児アトピー性皮膚炎には白虎加人参湯は登場しないのですが、成人アトピー性皮膚炎には登場します。参考に引用しておきました。
顔面湿疹の患者さんでも、
・赤みやほてりがメインなら白虎加人参湯、
・赤みやほてり+かゆみが強くてイライラしがちなら黄連解毒湯、
と使い分ける口訣は役立ちます。
ただ、小林先生の「充血していて少し浮腫のあるような赤みにいい」という表現が腑に落ちません。「浮腫」は水毒の所見であり、白虎加人参湯は「水不足」に使うイメージがありますので。
次は皮膚科医の内海先生の解説から;
■ 夏に悪化するアトピー性皮膚炎の漢方治療
白虎加人参湯を標治薬として選択する指標は「上焦の皮疹」「赤く熱を帯びる」「乾燥傾向」の3つ。
さらに本治として、気虚では補中益気湯、瘀血では桂枝茯苓丸、脾虚では小建中湯を追加するフローチャート。
なるほど、と頷けました。
ただ、黄連解毒湯の名前がないなあ、と思って本文を読んだら「なお黄連解毒湯も清熱剤で,アトピー性皮膚炎に頻用される処方であるが,夏場だけでなく季節にかかわらず処方されることが多いので取り上げなかった」とありました。
続いて大野修嗣先生によるアトピー性皮膚炎の解説から白虎加人参湯の部分を抜粋;
■ 続・Dr.Ohno教えてください、漢方処方実践編、症例から学ぶ服薬指導のポイント「アトピー性皮膚炎」
【白虎加人参湯】
原典:傷寒論・金匱要略。
生薬構成:石膏・知母・人参・粳米・甘草。
石膏・知母・粳米の組み合わせで清熱慈潤剤の代表処方である。清熱と慈潤作用をもつ石膏が15g ともっとも多く配合された漢方薬である。人参・ 粳米には止渇作用があり,石膏と甘草も加わり皮膚を潤す。このことから乾燥性の皮膚疾患に応用されている。
使用目標:熱感・発汗・口渇が目標である。
発汗が持続し脱水傾向に陥っている場合も適応となる。 アトピー性皮膚炎では発汗が続いていても皮膚表面は乾燥していることが多い。清熱作用と皮膚に 対する滋潤作用を併せ持つ白虎加人参湯がアトピー性皮膚炎に適応する所以である。
臨床応用:発汗・口渇を伴った熱性疾患に広く応用される。
アトピー性皮膚炎では夏季の発汗過多 の症例に適応がある。たとえ口渇がない場合にも応用可能である。
使用目標は前項の「上焦の皮疹」「熱を持った湿疹」「乾燥傾向」とは少々異なり、「熱感・発汗・口渇」と全身症状を重視した説明になっています。
さらに続きます。
皮膚科医の森原潔先生の解説から;
■ シリーズ漢方道場『痒みは体の熱を取り除く清熱剤で』
<Q&A一覧>
Q1. 白虎加人参湯、黄連解毒湯を処方すべき患者さんは?
Q2. 白虎加人参湯と黄連解毒湯の使い分けは?
Q3. 寒証の人に白虎加人参湯や黄連解毒湯は使ってはいけませんか?
Q4. ADに対して他に使えそうな漢方はありませんか?
Q1 白虎加人参湯、黄連解毒湯を処方すべき患者さんは?
A1. 熱証の AD患者さんに用います。暑がりの人のことを熱証、寒がりの人のことを寒証といいます。お風呂につかる、布団に入る等で身体が温まったときに痒みがひどくな るという訴えをよく耳にします。皮膚が温まると、痒みの原因となるヒスタミンが肥 満細胞から放出されやすくなるためですが、身体に熱がこもり暑がりになっている熱証の AD患者さんは、そういうことが常に起こりやすくなっていると思われます。その熱を取り除いてあげれば痒みを起こしにくくなることは容易に想像できると思いま す。白虎加人参湯や黄連解毒湯は体を冷やす効果を有するお薬、漢方では清熱剤と呼びますが、その代表的方剤です。
Q2 白虎加人参湯と黄連解毒湯の使い分けは?
A2. 白虎加人参湯の証として口渇がよく挙げられます。患者さんに「のどはよく乾きますか」と聞いても、よく分からないと言われる場合は、「レストランで外食したときに水のおかわりを頻回にしますか?」と聞いてみるとよいかもしれません。冬でも氷入りの水をおかわりする患者さんはまさに白虎加人参湯の証です。
皮疹的には、あまりしこりがなく浮腫状で蕁麻疹様に見える場合に用います。味覚的にあまり悪くない方剤だと思います。 一方、黄連解毒湯はとても苦いお薬で、こちらはしこりがある皮疹に用います。AD 患者さんには、痒みのために掻きすぎて皮膚に傷ができ、その傷がかさぶたになるときに、また掻いてしまって傷ができ......というのを繰り返す方がいらっしゃいます。 痒疹とよばれる病態で、痒みを引き起こすリンパ球などの細胞がたくさん皮膚に居座ってしまうため、虫さされ様のしこりを呈する疾患です。とても痒く難治であり、 われわれ皮膚科医は苦労しますが、そういった病態に黄連解毒湯を用いるとよいと思います。黄連解毒湯には抗炎症作用の他にもさまざまな効果があることがわかっています。その 1 つである鎮静作用に期待して、イライラして痒くなる AD 患者さんにもよく用います。抗菌作用もあるため赤ニキビにも頻用しますが、ニキビのある AD に使うと一挙両得の効果が得られるかもしれません。
Q3 寒証の人に白虎加人参湯や黄連解毒湯は使ってはいけませんか?
A3. 問題はないと考えています。少なくとも禁忌ではありません。西洋薬の添付文書にある「慎重投与」レベルと思っていただいてよいと思います。温熱により AD の症状が頻回に悪化する場合には、寒証であっても清熱剤を用いても良いでしょう。ただし「冷えがひどくなっていませんか?」などの問いかけは最低限行う必要があります。西洋薬でなら「慎重投与」レベルの警告であればあまり躊躇せず使うことは実際の臨床では多いと思いますが、漢方も同様に証にとらわれすぎることなくどんどん使っていくとよいと思います。
口訣や使用目標がちりばめられています。
Q2の白虎加人参湯証の口渇を「レストランで外食した際、冬でも氷入りの水をおかわりする患者さん」と例えるのはわかりやすい(座布団一枚!)。
「しこり(痒疹)には白虎加人参湯より黄連解毒湯がよい」と意外なことが書いてありました。私は痒疹・苔癬化は瘀血所見であり、駆瘀血剤の桂枝茯苓丸が合うと思い込んできましたので。
Q3では寒証の患者さんに清熱剤を用いてもよいが「冷えがひどくなっていませんか?」と確認する必要がある、というアドバイスも頷けます。
次は岡野 正憲 先生の解説から;
■ 白虎加人参湯
【証】
さて本筋に戻りまして,白虎加人参湯の証というものはどういうものかと申しますと,中国の後漢という時代の張仲景の書いたといわれる『傷寒論』および『金贋要略』という本の中に書いてあることを現代的に意訳して申しますと「急性熱性病の場合,吐いたりあるいは下痢したのち,7~8日を経ても病気が治らず,熱が内臓の方にとどまっていて,体の表面から内臓の方まで熱して,時々外気に触れると寒気がして,口が大変渇き,舌も渇いてもだえる様子があり,水をたくさん飲んでも喉の渇きのとまらないのは,白虎加人参湯の主治するところである」というように書いてあります。
その他,省略しますが3〜4項目の条文がありまして,熱のない場合にも用いてよいことが書かれてあります。ここで語旬の説明をいたしますが,漢方医学的な熱というものは,この時代には体温計などはありませんでしたので,自覚的な熱感というものを含んでおりまして,体温上昇すなわち熱ではないということも覚えていただきたいと思います。
これを現代的に解釈しますと,急性熱性病の場合は,体の表面から内臓の方まで熱が行きわたっ て高熱があり,体液が欠乏している徴候があって,口や舌が渇いて水をのみたがっており,便が硬くなっていて尿の出がよく,汗が多くて,しかも外気に触れると寒さを感じるという症状があります。慢性病の場合は,熱とそれに関連した症状はありませんが,口の潟きは大変に強いものです。
この処方を現代医学的に応用する場合は,感冒のある時期,インフルエンザのある時期,はしか,日射病,熱射病などの時に用いますし,無熱の場合は,糖尿病,夜尿症,頭痛のある場合,皮膚炎,湿疹,ストロフルス,乾癬,眼の紅彩炎,角膜炎などに用いられます。
【鑑別】
温清飲との鑑別:
温清飲という処方は,体質的に申しますと,体力のある方とない方に分けると,その中間くらいに当たる人に用いることが多いのです。その働きから申しますと,体力を補う作用と鎮静,止血などの作用の組み合わせで,白虎加人参湯よりはるかに応用範囲は広いものがあります。
皮膚疾患だけに限って申しま すと,皮膚の発赤,腫脹,発疹,落屑などがありまして,陽性のかたちもありますが、乾燥性のものに用います。この処方の場合は,口潟はあまり強く訴えないことが多いようです。
白虎加人参湯の方は,口の大変な潟きが特徴で,皮膚の変化だけでは両者にあまり差はありません。体質的には白虎加人参湯の方が少し体力の勝ったものが多いですが,それほどの差がないこともあり,強い口の潟きがあるなしということが鑑別の要点になります。
消風散との鑑別:
消風散は陽性のものに用いますが,この場合は皮膚の変化は滲出液が必ず出てきまして,痂皮をつくることが多いですし,口の渇きもありますが,さほど強いものではありません。白虎加人参湯の方は大変な口の渇きがあり,皮膚の変化はあくまでも乾性にとどまります。
五苓散との鑑別:
五苓散は,口が渇いて水をのむが,のむとすぐ間を置かずに吐くことが多いのです。したがって尿利は減少するのです。白虎加人参湯の場合は,口が渇いてのんでも渇きはとまらず,尿になって出てしまいます。皮膚も五苓散の証を用いる場合よりは乾燥していますし,のんだ水を吐くということはほとんどありません。
やっと原典の解説が出てきました。
岡野先生は使用目標に「口渇」をとても重視しています。
私が興味を持ったのは、五苓散との鑑別です。
(五苓散)口渇で水を飲むが吐いてしまう、尿量減少(尿不利)
(白虎加人参湯)口渇で水を飲んでも渇きは止まらず尿になって出てしまう。
実は私、中学時代から大学時代までテニスをしていたのですが、部活中はたくさん汗をかき、終わると口渇が止まらず水を飲み続けるのがやめられませんでした。水分の取り過ぎで下痢をするまで飲み続けました。当時はイオン飲料などありませんでしたから、電解質を取らなかったから喉の渇きが治まらなかったのかな、とずっと思っていました。
それから20年後、漢方を知り「あの症状には五苓散が合っていたのではないか」と考えるようになりました。でも嘔吐は無いんですよね。
そして今回、白虎加人参湯のことを調べてみると、このくすりの方が合っていたのかな、と思うに至りました。
「口渇で水を飲んでも渇きは止まらない、運動後で体は火照っている」は白虎加人参湯証に近い。
まあ、今更ですけど。
もう一つ、五苓散と白虎加人参湯の鑑別の解説(大野修嗣先生)を見つけました。
■ 熱中症・夏バテと漢方 〜熱中症の臨床現場での漢方の役割〜
熱中症に対する主な漢方薬とその類似処方の適応
<五苓散とその類方>
1.高温環境での仕事に従事する日には五苓散を予め服用していただくことで水分代謝機能を低下させず、水分の吸収・分布・排泄を円滑にする。
2.高温環境に曝露されて口渇・頭痛・嘔気などの症状、すなわち「熱中症もどき」の状態が出現した場合にはこれらの症状を改善する。
3.上記症状に加えて発熱・尿量減少などが出現した熱中症の最盛期には最もよい適応があり、重症度IIIへの進行を阻止する。
4.熱感・食欲低下・軟便などが遷延した場合には五苓散の類方である柴苓湯、胃苓湯が役に立つ。
<白虎加人参湯とその類方>
1.高温環境に曝露されて体温の上昇・大量の発汗・強い口渇が出現した場合には白虎加人参湯が身体の内外を冷却して体温の上昇を制御する。
2.身体の内外を清熱することで結果として発汗を抑制し、脱水の進行を阻止する。
3.激しい口渇を制御して胃腸の負担をかける余分な水分摂取からの胃腸系の疲弊を抑える。
4.同様の状態で発汗が制御できない場合、あるいは尿量が確保できない場合には類方の越婢加朮湯を選択する。構成生薬の麻黄と石膏の組み合わせが止汗に働く。
すなわち白虎加人参湯と越婢加朮湯の鑑別は体温上昇時に口渇が強ければ白虎加人参湯、発汗が強ければ越婢加朮湯となる。
部活で大量発汗後、体のほてりと水を飲んでも飲んでもなくならない口渇、下痢するまで飲み続けた私への処方箋は・・・ズバリ白虎加人参湯でしょう(激しい口渇を制御して胃腸の負担をかける余分な水分摂取からの胃腸系の疲弊を抑える)。
どんどん話がずれてしまいます。
では秋葉先生の「活用自在の処方解説」から;
■ 34.白虎加人参湯
1.出典:『傷寒論』、『金匱要略』
1)大汗出でて後、大煩渇して解せず、脈洪大なる証。(太陽病上篇)
2)若しくは吐し、若しくは下して後解せず、熱結ぼれて裏に在り、表裏ともに熱し、時々悪風し、大いに渇し、舌上乾燥して煩し、水数升を飲まんと欲する証。(太陽病下篇)
3)口燥渇し、心煩し、背微悪寒する証。(太陽病下篇)
4)渇して水を飲まんと欲し、表証無きもの。(太陽病下篇)
5)暍(えつ:中熱、熱射病)にして、汗出でて悪寒し、身熱して渇する証。(『金匱要略』痙湿暍病変)
2.腹候:腹力は中等度前後(2-4/5)。心下痞硬を認めることがある。
3.気血水:気水が主体の気血水。
4.六病位:陽明病。
5.脈・舌: 脈は大で、無力。舌質は紅で乾燥、舌苔は黄。
6.口訣:
●明らかな表証がある場合には用いない。(浅田宗伯)
●白虎湯証の熱によって津液枯渇したものに対して、人参をもって滋潤するのである。(龍野一雄)
7.本剤が適応となる病名・病態
a 保険適応病名・病態:効能または効果
のどの渇きとほてりのあるもの。
b 漢方的適応病態:気分熱盛(陽明病経証)。
すなわち、息切れ、無力感、疲労感など気虚の症候を伴うもの。舌質は紅で乾燥、舌苔は黄。脈は大で、無力。
9.TCM的解説:清熱瀉火・生津止渇・補気。
10.効果増強の工夫:
本方は発熱性疾患が一定程度経過した状態が適応で、病位でいうと陽明病期となる。しかし、長引いた発熱例では少陽病と鑑別がつきかねる場合もあったようで、先人も小柴胡湯などと合方している。
処方例)ツムラ白虎加人参湯 6.0g 分2食前
ツムラ小柴胡湯 5.0g
11.本方で先人は何を治療したか?
龍野一雄著『新撰類聚方』増補改訂版より
1 )流感・チフス・肺炎・脳炎脳膜炎等で、高熱煩渇するもの。
2 )日射病・熱射病で、高熱、煩渇、脳症等を起したもの。
3 )脳出血で、発熱、煩渇、煩躁、譫妄等を起し脈大のもの。
4 )糖尿病・バセドゥ氏病で、煩渇、或は煩躁、脈大のもの。
5 )皮膚炎・じんま疹・湿疹・ストロフルス・乾癖等でかゆみが劇しく、
患部は赤味が強く乾燥性で、煩渇するもの。
6 )胆嚢炎で高熱煩渇するもの。
7 )腎臓炎・尿毒症で高熱煩渇、或は煩躁、脳症あるもの。
8 )夜尿症で脈大、煩渇するもの。
9 )虹彩毛様体炎・角膜炎等で、充血、発赤、熱感等が強く煩渇するもの。
10)歯槽膿漏で糖尿を伴い、煩渇するものを治した例がある。
11)嗅覚なきものを治した例がある。
12)骨盤腹膜炎で、高熱、煩渇、自汗するものを治した例がある。
13)小児麻痺で渇するものを治した例がある。
14)腰部神経痛で、渇舌、乾燥するものを治した例がある。
15)感冒後言語障害、内熱煩渇を治した(加藤勝美氏)。
<ヒント>
本方の適応は「のどの渇きとほてりのあるもの」という漠然としたものであるが、これを医学的観点から、熱性疾患の遷延例や口渇ある糖尿病、患部に火照りのある皮膚炎などという病名に置き換えて適応をみいだすことが求められる。すなわち、これらの症状症候を伴う疾患に適応があると判断するのが、臨床医の医学的判断と呼ばれるものである。
この方剤の応用範囲が広いことをあらためて感じました。
しかし「喉の渇きと火照り」は乳児では訴えられません。
どの先生の解説も幼児期・学童期以降に設定されている一因でしょうか。
<追記>
■ 「漢方治療の診断と実践〜漢方水嶋塾講義録」(水嶋丈雄著、三和書籍、2012年)より
・白虎湯グループ(※)は、主が石膏で副が知母、目標は燥熱で、汗が多くて乾燥、脈が非常に強いことが特徴である。実証であることに注意すべし。
※ 白虎加人参湯、越婢加朮湯、消風散、小柴胡湯加桔梗石膏、桔梗石膏
・石膏の証:乾燥、微熱、脈圧が高い、腹力が強い、皮膚が乾燥(しっとりしている桂枝湯とはまったく逆)。
・白虎加人参湯は表皮の炎症性の乾燥型アトピー性皮膚炎に使うことが多い。皮膚表面の循環血漿量を増やすために人参が入っているが、人参を入れることにより炎症が強すぎる場合に悪化することがある。だから白虎加人参湯は炎症があまり強すぎるときには使えない。