漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

子育てハッピーアドバイス「食育」(松成容子/明橋大二著)

2014年08月14日 14時04分17秒 | 食育
子育てハッピーアドバイス「笑顔いっぱい 食育の巻」(松成容子/明橋大二著)
一万年堂出版、2014年発行



人気シリーズの最新刊です。
今回は「食育」がテーマ。

食育というと、どうしても「固い内容」「面倒くさい」「上から目線」というイメージが拭えません。
■ 文部科学省:学校における食育の推進・学校給食の充実
■ 農林水産省:食と農林水産業について知ろう、考えよう(食育の推進)
この2つのHPを開くだけで、どこから読んでいいのか途方に暮れます。
特に私が苦手なのがこのイラスト;


目にする度に目が回りそう。

さて明橋先生、今回どんなマジックを使って「食育」をかみ砕いて解説してくれたのでしょう。
NPO法人食育研究会「Mogu Mogu」代表幹事との松成容子氏を起用しての執筆。

うん、わかりやすくバランスのとれた内容だと思います。
栄養の問題のみならず、そのバックグラウンドにも言及しているところがこのシリーズの良いところ。

“食育”がうまく行かない背景には“子育て”がうまく行かない、母親の立場が追いつめられている現状が垣間見えて、「こうすると好き嫌いがなくなりますよ」程度のシンプルなアドバイスでは解決に至らないことがわかります。
サポートすべきは“親子/家庭”ではないか、と。

それから、食料があふれる今日のお母さんの悩みは「食べないこと/食べ過ぎること」など、70年前の食べるものがない食糧難だった日本では考えられなかった悩みが多いことにも注目すべきです。

・離乳食を食べてくれない
・好き嫌いはどうすれば治る?
・お菓子の食べ過ぎで困ってます
・遊び食べ/ばっかり食べにはどう対処したらいい?
・清涼飲料水は「液体キャンディー」
・水代わりにスポーツ飲料はNG
・ファストフードは「カロリー2食分」


等々、適切な食生活を送ることの困難さを訴えているようです。
大家族でテーブルを囲んで食事・・・という時代はとうの昔、近年の個食/孤食では、家庭で食習慣が身につく機会が少なくなったのでしょう。

突破口へのヒントが随所に記されています。

例えば、プロの料理人を招いての小学校の調理実習。
大根をどうおいしく食べるか、生徒に考えさせて自由にやらせた後に、プロの料理人のアドバイスの元、出しの利いた大根料理を自分たちで作り食べてみると大根嫌いの生徒まで完食!

この企画、お母さん達も参加したいのではないでしょうか。
某アンケートでは「料理に自信がない」というお母さんは40%もいるらしい。

恥を忍んで、おいしい料理を食べて好き嫌いが解決した、という我が家のエピソードを紹介します。
長男は刺身が食べられませんでした。
あるとき、仕事でよくお世話になる魚のおいしい日本料理店へ連れて行ったところ、今まで食べたことのない刺身や他の魚料理もぱくぱく食べ始めたのです(妻には申し訳ないのですが、事実です)。

食事の栄養バランスは一食ごとに考えるのではなく、2~3日のスパンで整えるよいと書かれています。
お母さん達のプレッシャーを軽減するアドバイスですね。
ただ、「栄養のバランス」というと私はまた上記のコマのようなイラストが頭に浮かび、拒否反応。

もっとわかりやすい簡単な方法はないものか、と以前からさがしてきましたが、今のところ第一候補はNHKためしてガッテンで紹介された「10食品群チェックシート」です。
元々は粗食ブームで問題になった「新型栄養失調」対策で考えられた指導法です。

粗食で「新型栄養失調」 熊谷修教授(人間総合科学大)が警鐘
 熊谷教授らの研究グループは、高齢者が避けがちな「肉類」「油脂類」などを食べる機会を増やし、食生活を改善するための「10食品群チェックシート」を作成した。使い方は、10種の食品群のうち、一日に食べたものを7日間単位で継続的にチェック。少しでもマルの数を増やすよう心掛ける。
 国内のある地域でこのチェックシートなどを使い数年間にわたり追跡調査を行った結果、利用者は10種の食品群を食べる回数がおのずと増え、血清アルブミン値が上昇。動脈硬化や筋力低下を予防する効果があったという。
 加齢による栄養状態の悪化が避けられない以上、高齢者には肉類や卵、脂肪、牛乳などを適度に摂取して補うことが健康維持のこつといえそうだ。


その使用法の実際は・・・

TAKE10!高齢になってもお金をかけずに元気でいるための運動と栄養プログラム
・・・一部を抜粋しますと・・・
 高齢者を元気にした食事指導を実践されている方がいて秋田県で14年まえからある食事法を実践し低栄養、動脈硬化が改善し、寿命が上がったということでした。
 肉 魚 卵 牛乳 大豆 海草 いも くだもの 油 緑黄色野菜
の10品目をバランスよく食べたら改善したそうです。
 食品10品目シートという管理シートを使って10日間ごとにチェックします。簡単なやり方ですよね結構、偏って食べているのがわかるようです。
<10品目シートの使い方>
 その食品群を食べたら○を書き込み、◎の数で1日10点満点、毎日の食生活を点数化していきます。量は少しでもOK!
(例:のりを一枚でも食べたら、海藻は◎)
 牛乳は乳製品(ヨーグルト・チーズなど)も含みます。
 表は10日で100点満点、なるべく満点を目指しましょう!


私は「この子の肥満を解消する方法はないでしょうか?」と相談を受けると、まじめで痩せているお母さんには病院を紹介して管理栄養士の元での食事療法を勧めますが、お母さんも同じ体型で細かい指示は守れなそうな場合は、この10食品群シートを紹介しています。

ジャンクフード(ファストフード/インスタントラーメン/スナック菓子など)の動物実験の下りは興味深く読みました。
ラットを使った動物実験では、上記食品を食べさせると依存症が生じ、体重が増加し続けたとの結果(恐ろしい・・・)。
タバコ、アルコール、麻薬と同じ脳内メカニズムだそうです。

プロの料理人のコメントが耳に痛い&重い。

「相手を思って作るのが料理。相手がわからずに作られているのが食品。」
「家族を思って作った料理がそこにあれば、家族は安心して家に帰ってくる。」
「“いただきます”とは植物・動物の命を絶ち、自分の口に入れて私たち人間は生きてゆく、だから本当の意味は、あなたの命を私の命にさせて“いただきます”。」


御意。

和食の魅力についても触れています。
メリットはいろいろありますが、注目すべきは「油脂分が少ないのに、旨味がしっかりある」ところ。
比較食文化の研究者によると、

     主食   タンパク源   保存のきくタンパク補助食品
日本:  コメ     魚       大豆製品
西洋:  コムギ    肉       乳製品


となり、たんぱく源の魚は肉と比較して飽和脂肪酸(生活習慣病の犯人)より体によい不飽和脂肪酸優位。大豆は肉と同程度のタンパク質を含むが脂質は肉より少ない、と和食のメリットを分析しています。

離乳食を食べない原因の一つに、運動不足が指摘されることがあります。
お母さんは「毎日公園へ行って遊ばせています」と云いますが、実際に観察すると、あれもダメ、これもダメ、で子どもがどろんこになって自由に遊んでいるのとはほど遠く、ちょっと汗ばむ程度。走り回って疲れ果てて汗が干からびるくらいまで遊べば、へとへとになって何でも食べそうなもの、というTV番組を見たことがあります。

少子化の現代社会では、子どもは大切に、危険のないように、嫌いなものは食べなくていいんだよ、と真綿に包んだような子育てになりがちです(自戒をこめて)。
将来子どもが成人後、その気遣いが真綿で首を絞めるようなマイナス要素にならないことを祈りたい、と考える次第です。
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