漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

「第14回日本小児漢方懇話会」を聴講してきました。

2014年07月22日 07時54分30秒 | 漢方
 2014年7月20日、名古屋で開催された上記研究会へ参加してきました。
 この会は、日本の小児漢方を牽引してきた故・広瀬滋之先生が中心となって始めた啓蒙目的の集まりです。
 小児科医で漢方に興味を持つと自然とこの会にたどり着く傾向があり、私もその一人です(笑)。

 東京と名古屋で交互開催され(今後は名古屋ー大阪ー東京になるらしい)、従来私は東京開催のみ参加してきたのですが、診療レベルをステップアップすべく、嫌がる体にむち打って暑い中名古屋に向かったのでした。

 今回のテーマは「子どものこころと漢方」。
 私はふだんの診療の中で、夜泣きや寝ぼけ、チックや多動傾向に漢方薬を処方することはあります。
 「不安」が強い場合は甘麦大棗湯、「興奮・怒り」が伺える場合は抑肝散を中心に処方してきましたが、演者の先生方はこの「不安」「怒り」の他に「緊張」というキーワードを提案していることが斬新でした。
 また、岡留美子先生(岡クリニック)の甘麦大棗湯の話(精神的視野狭窄を解除してくれる)を興味深く聞きました。自閉症には抑肝散~大柴胡湯などの柴胡剤が使用されますが、柴胡剤は興奮状態を抑制してもコアとなる「こだわり」には無効、一方の甘麦大棗湯はその「こだわり」をも和らげてくれるとの説明でした。


メモ
 自分自身のための備忘録。

■ 山口英明先生(公立陶生病院小児科)
 精神・心理的症状に関する中医学的弁証を臓腑機能系の虚実という観点からまとめると、虚証として心気怯弱、心血虚、胆気不足など、実証として肝気鬱結、心火亢盛、肝火上炎、胆欝胆熱などが挙げられる。しかし鑑別にはかなりの修練を要する。
 演者が独自にまとめた分類;

カテゴリー1(主に心気怯弱、心血虚、胆気不足):心配性、自信がない、不安、悲哀感、ビクビクなど、主に抑うつ的な感情が持続するもの
甘麦大棗湯、加味帰脾湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、酸棗仁湯

カテゴリー2(主に肝気鬱結):抑うつ、不安、イライラなど、気分が変動しやすいもの
四逆散、柴朴湯、加味逍遥散、香蘇散

カテゴリー3(主に心火亢盛、肝火上炎、胆欝胆熱):イライラ、落ち着きがない、焦燥感など、主に興奮的な症状が持続する
抑肝散(加陳皮半夏)、大柴胡湯、黄連解毒湯、竹茹温胆湯、桃核承気湯

 小児は古来の中国では二余三不足(心・肝が余剰で肺・脾・腎が不足)と云われ、カテゴリー3が主な病証であったとも解釈できるが、現代の成育状況下ではカテゴリー1の症状を呈する症例が増加していると思われる。

■ 川嶋 浩一郎先生(つちうら東口クリニック)
 発達障害の心の特徴として、自分の意図を正しく伝えられず他人に理解してもらえないことへのストレスの存在が伺える。また、思い通りにしたいという要求が通らないときに生じる欲求不満のストレスが非常に強く、パニックになることがあり、周囲の言動が理解できずに不安緊張する場面もあった。まとめると、強い不安、緊張、欲求不満、共感(コミュニケーション障害)を認めることが多かった。

ノルアドレナリン・タイプ)不安緊張・集中力に関与するのはノルアドレナリンである。交感神経系の緊張が高まると手掌発汗、四肢厥冷、イライラ、神経過敏などを認める。
 不安緊張には、甘草を多く含む甘麦大棗湯や苓桂朮甘湯、人参+甘草+大棗の補脾剤が有効である。また、四逆散や小建中湯など芍薬と甘草を多く含む処方には、交感神経の緊張をゆるめ、副交感神経を活発にする作用があり、精神的緊張だけでなく身体的緊張も軽減できる。

ドーパミン・タイプ)報酬・満足・意欲に関与するドーパミンが、多動、衝動性、欲求不満に関連し、欲求不満が高じて怒りやイライラ、衝動的行動、パニックなどに至ると考えられている。
 これらの症状に対応できる漢方薬として、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、柴胡加竜骨牡蛎湯がある。柴胡や釣藤鈎、人参、芍薬、甘草に精神的緊張や怒りを鎮める作用があり、小児疳症に多用されている。

セロトニン・タイプ)共感・安定・覚醒に関与するセロトニンが不足すると、不安、抑うつ、共感能力・コミュニケーション機能の低下をきたすと云われる。
 甘麦大棗湯でASD(自閉性障害)の言語・コミュニケーション発達を促せた症例がある。ASDに大柴胡湯(または大柴胡湯去大黄)+抑肝散で、強い緊張が撮れて基本的コミュニケーションが改善し、扱いやすくなったが、抽象概念形成などの高度な認知機能の生涯は変わらなかったとの報告がある。
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