漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

小児・思春期の片頭痛と漢方治療

2023年08月20日 15時37分28秒 | 漢方
小児の頭痛に対しては、いわゆる解熱鎮痛剤を処方します。
ずっとアセトアミノフェン(商品名:カロナール、コカール)を使用してきましたが、
近年、イブプロフェン(商品名:ブルフェン)の方が有効であるとされ、
アセトアミノフェンで効果今一つの患者さんにはイブプロフェンを処方するようになりました。

さて、成人領域では頭痛薬は日進月歩で、
発作時・予防薬ともに新薬がどんどん開発されています。

しかし残念なことに、ほとんどの薬が小児適用がなく、
目の前の困っている患者さんに処方できません。
製薬会社さん、もっと子どものことも考えてほしい…。

そこで私は漢方薬でこの閉塞状況を突破しようと、
いろいろ調べて臨床現場で使っています。

今回、日本小児漢方懇話会の特別公演で、
小児頭痛の専門家である荒木清先生の講演をWEBで視聴しましたので、
備忘録としてポイントをメモ書きしておきます。

ポイント
・小中学生の頭痛有病率は5~20%と低くない。
・小児片頭痛の持続時間は2~72時間と成人(4~72時間)より短い
・小児片頭痛は両側性のことが多い。
・小児片頭痛の家族歴は、母65%、父17%。
・小児片頭痛の乗り物酔い合併率は59%。
・片頭痛出現時には、予兆・前兆・アロディニアがある(下記参照)
・片頭痛治療では、薬物療法の前の非薬物療法(生活指導)が重要であり、
 とくに年長児以降のブルーライト制限(スマホ、パソコン、ゲーム等)が必須。
(例)3時間以内/日
・片頭痛急性期治療の第一選択薬はイブプロフェン、第二選択薬はアセトアミノフェン
・急性期治療のトリプタン製剤は、上記無効例の10歳以上、体重30㎏以上で考慮
・現時点ではトリプタン製剤の公式小児適用はない。
・片頭痛予防治療として、荒木先生はアミトリプチリン(有効率78%)と五苓散(有効率92%)を用いている。
・2021年に登場したCGRP関連薬剤は現時点で小児適用がない。

う〜ん、正直に言って、新しい情報はありませんでした。
小児適応のないトリプタン製剤をどこまで使ってよいか、
ほぼノーコメントでした。

漢方も、五苓散を紹介しているのみ。
一般に五苓散の有効率は5割と言われているので、
そのもう一歩先を知りたかったのですが…。

▢ 頭痛の有病率
・15歳以上の成人では、片頭痛8.4%、緊張性頭痛22%
・小中学生では、片頭痛5~20%

▢ 片頭痛の位置づけ(国際頭痛分類第3版)
1.1 前兆のない片頭痛
1.2 前兆のある片頭痛
 1.2.2 脳幹性前兆を伴う片頭痛
 1.2.3 片麻痺性片頭痛(家族性・孤発性)
 1.2.4 網膜性片頭痛
1.3 慢性片頭痛 
 ・・・
1.6 片頭痛に関連する周期性症候群
 ・周期性嘔吐症候群(CV:自家中毒)
 ・腹部片頭痛(AM)
 ・良性発作性めまい…

▢ 片頭痛の診断基準(国際頭痛分類第3版)
前兆のない片頭痛
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛発作の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)(※)
C. 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
 1.片側性(※2)
 2.拍動性
 3.中等度~重度の頭痛
 4.日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、
  あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
 1.悪心または嘔吐(あるいはその両方)
 2.光過敏および音過敏
E. 他に最適なICHD-3の診断がない

※1) 小児あるいは青年(18歳未満)では、持続時間は2~72時間としてよい。
※2)18歳未満では両側性であることが多い(通常、前頭側頭部)

▢ 小児の片頭痛の特徴
① 持続時間が成人に比べて短い傾向にある。
 …急に起こり、短時間で回復するので誤解されやすい。
② 小児の前頭側頭部痛は両側性のことが多い。
③ 頭痛以外の症状(顔面蒼白、嘔吐・腹部症状、突然無口になり機嫌が悪くなる、など)が前面に立つ場合が多い。
④ 周期性嘔吐症候群・腹部片頭痛からの移行例が、少なからず存在する。
⑤ 家族歴の存在:片頭痛患児の母:65%、父17%が片頭痛
⑥ 乗り物酔いする例が多い:小児片頭痛(4~20歳)の59%
⑦ 思春期例では、複数の頭痛が併存し、心理社会的要因の絡んだ慢性連日性の難治例も多い。
⑧ 成長・発達途上にある小児においては、急性期治療薬・予防的治療薬ともに一定の使用制限が存在する。

▢ 片頭痛の予兆・前兆
(予兆)生あくび、疲労感、首や肩の凝り・張り、集中力低下、過食、感覚過敏、何となく変な感じ、頭がボーっとする、など。
(前兆)視覚、感覚、言語症状があるが多くは閃輝暗点を中心とした可逆性の視覚前兆を指す。
(アロディニア:異痛症、異常感覚)眼周囲、頭皮、前腕部などに起こる痛み、不快なピリピリ感、違和感、手や腕のしびれ感、動きにくさ、など。
 …顔に風が当たると痛い、めがねがかけられない、腕時計がダメ、髪の毛をくしで…等々。

▢ 頭痛診療の順序
① 非薬物療法
② 鎮痛薬の適切な使用
③ 予防的薬物治療・トリプタン適応

▢ 片頭痛患児への生活上の留意点は非薬物療法と同等
基本は規則正しいメリハリのある生活
① 早寝・早起き・朝ごはん
② 寝すぎ、寝不足、長い昼寝に注意(適切な睡眠)
③ 誘因の回避(光・音・におい過敏など)
・スマホ、パソコン、ゲームなどのブルーライト制限(特に夜間)
・日光、明るすぎる照明を避ける(帽子、サングラス着用など)
・満員電車・バス、満員の映画館、暖房の効きすぎた部屋、暑い風呂・長湯、香水などの匂いが強いものは避ける
・気温・気圧・天候に注意(高温多湿、雨・低気圧・台風など)
・高山(2500m以上の登山には要注意)
・共存症・合併症の適切なコントロール・治療
(例)アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、虫歯、咬合不全など。
・過剰なストレス、ストレスからの解放
・食物・飲料(アルコール、ポリフェノール、カフェイン過剰、など)
④ 肩こり・緊張型頭痛のコントロール
・頭痛体操、マッサージ、適度の運動、姿勢に注意
⑤ 学校対策:片頭痛という疾患・体質を理解していただく
・診断書、札氏の活用、担任・養護教諭との密な連絡
・急性期治療薬の内服タイミング
・保健室の利用(安静臥床の確保)
・教科書に日光が直接当たる窓際の席は避ける

▢ 片頭痛の治療上大切なこと
① 緊張型頭痛の併存と急性期治療薬の内服タイミングについて
② ブルーライト制限(年長児~)
③ アレルギー性鼻炎(±副鼻腔炎)の治療
④ 学校対策

▢ 片頭痛と緊張型頭痛の比較
        (片頭痛)    (緊張型頭痛)
発作的な頭痛    +         ー
持続時間    2~72時間(※1)  30分~7日間
頭痛部位    片側~両側性     両側性
        前頭・側頭部    後頭~頭全体
頭痛の性状   拍動性       圧迫・締めつけ感
日常生活    支障が大きい    影響が少ない
運動・風呂   悪化、不可能    軽快傾向
随伴症状    前兆、悪心・嘔吐  肩こり・筋緊張
        肩こり(※2)
        光・音・臭い過敏  めまい感
家族歴     多い        少ない

(※ 1)成人の持続時間は4~72時間
(※ 2)肩こりは緊張型頭痛のみならず片頭痛の約70%に合併・前駆する。

▢ 頭痛体操(日本頭痛学会)

▢ 頭痛診療に用いる3つのツボ
(合谷)(肩井)(風池)
・緊張型頭痛、片頭痛の診断・治療・経過観察に(自己指圧・マッサージが可能)
・緊張型頭痛で圧痛・緊張・硬結を示す筋群;
 僧帽筋、前頭筋、側頭筋、内側翼突筋、咬筋、
 胸鎖乳突筋、その他の頚部・背部の筋群

▢ 大切なこと①急性期治療薬(鎮痛剤、トリプタン製剤)内服タイミング
・片頭痛出現早期!

▢ 大切なこと②ブルーライト制限
◆ブルーライトとは?
・波長が380~500nmの青色光で、可視光の中でも最も波長が短く強いエネルギーを持つ
・パソコン、スマートフォン、ゲーム、液晶テレビ、LED照明などに多く含まれ、
 近年ブルーライト暴露量は明らかに増加している。
◆メラノプシン含有網膜神経細胞
・第三の視細胞(光受容体)
・BL感知、視床下部と連結
・24時間サーカディアンリズムをコントロール
・片頭痛の光過敏に関与している可能性あり

▢ 夜のタブレット端末閲覧は睡眠リズムに悪影響を及ぼす
・睡眠リズム、生活リズム、朝の覚醒、メラトニン分泌に悪影響を及ぼす
(例)夜寝る前3時間同じ本を以下の条件で読書;
  A群:タブレット端末で 
  B群:紙媒体で
 →
 ① A群でメラトニン分泌が優位に抑制され、分泌タイミングが後方へシフト
 ② A群で寝入るまで時間がかかる、朝の覚醒障害

▢ ブルーライト制限の目安
① スマホ、ゲーム、パソコン、テレビなどの使用を合計3時間以内/日に抑える。
② 夜8時以降は使用しないのが望ましい(就寝2時間前以内)
③ ブルーライトカットメガネの着用(夜間)
④ 夜間のリビング、勉強部屋の照明の明るさを落とす
⑤ 睡眠時間最低7時間+(早寝)早起き
⑥ 可能なら朝、(短時間でも)太陽の光を浴びる
⑦ 乳幼児には絶対にスマホなどは見せない

→ 難治性の思春期慢性連日性頭痛症例、特に朝起きられずOD傾向、登校不可、睡眠相後退傾向を伴った例では、特に夜間のブルーライト制限(スマホ、ゲーム、パソコンなど)が最良かつ最短の治療であるケースが存在する。

▢ 大切なこと③アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎の治療(共存症・合併症の治療
(アレルギー性鼻炎)
・アレルギー性鼻炎は単なる合併症ではなく、頻度の高い片頭痛共存症である。
(副鼻腔炎)
鼻副鼻腔炎はそのものによる頭痛のみならず。片頭痛の頻度も明らかに増加させる。
1.急性副鼻腔炎(~1か月)
・AMPC、CVA/AMPC
・CDTR-PI
→ 中等量~高用量を7~10日間
2.亜急性鼻副鼻腔炎(1~2か月)
・マクロライド系抗菌薬(CAM、EM)
→ 少量:1か月
3.慢性鼻副鼻腔炎(3か月以上)
・マクロライド系抗菌薬(CAM、EM)
→ 少量:1か月

▢ 学校への診断書(例)
診断:前兆のない片頭痛
内容:上記のため通院治療中です。
学校における頭痛出現時には、授業中であっても、本人持参薬の早めの内服・使用と、頭痛がひどい場合には保健室での安静臥床(最低1時間)をお願いいたします。
また席替えの時に、本人と教科書に直接日光が当たる窓際の席を避けていただけたら幸いです。
片頭痛患児は一般的に光・音・臭いに過敏な体質で乗り物酔いもしやすい傾向にあり、これらの体質にもご配慮いただけたら幸いです。

・「知っておきたい学童・生徒の頭痛の知識」(藤田光江先生作成)
・「頭痛ダイアリー」

▢ 片頭痛の薬物療法(小児・思春期)

1.急性期治療
・鎮痛剤:アセトアミノフェン、イブプロフェン
・制吐剤:ドンペリドンなど
・トリプタン製剤(10歳以上、体重30㎏以上で考慮)
 スマトリプタン(錠剤、点鼻、皮下注)
 ゾルミトリプタン(錠剤、口腔内速溶錠)
 エレトリプタン(錠剤)
 リザトリプタン(錠剤、口腔内崩壊錠)
 ナラトリプタン(錠剤)

頭痛の診療ガイドライン2021の記載
・小児・思春期の片頭痛急性期治療薬の第一選択薬はイブプロフェンである。
・アセトアミノフェンはイブプロフェンほどではないが有効であり、いずれも安全で経済的な薬剤である…

2.予防的治療
・抗うつ薬:アミトリプチリン
・抗てんかん薬:バルプロ酸、トピラマート、等
・β遮断薬:プロプラノロール
・Ca拮抗薬:塩酸ロメリジン
・抗ヒスタミン薬:シプロヘプタジン
・漢方薬:五苓散、呉茱萸湯、等
・マグネシウム、ビタミンB2
・(ロイコトリエン受容体拮抗薬)

頭痛の診療ガイドライン2021の記載
・小児・思春期の片頭痛予防薬で確立したものはなく、非薬物療法で改善しない例に対し、アミトリプチリン、トピラマート(保険適応外)、プロプラノロール、ロメリジンを副作用に注意しながら少量より開始する…

▢ 片頭痛予防治療の適応(案)
① 発作が頻回:内服を要する発作が週2回以上、または月10回以上
② 急性期治療の効果が思わしくない
③ 頭痛の持続時間が長い(半日以上)
④ 嘔吐の合併率が高い
⑤ 頻度の多い緊張型頭痛の併存
⑥ 薬物使用過多による頭痛(MOH)の合併
⑦ 心理・社会的要因の関与が大きい例
⑧ 他院ですでに単独または複数の予防薬が投与されている例

▢ 小児に対する予防的治療薬
・以前は(年少児)シプロヘプタジン、(年長児)アミトリプチリンで開始することが多かったが…
・最近は年齢問わずアミトリプチリンと五苓散の処方が多い。

▢ 新しい片頭痛薬の登場(2021年以降)
1.発作抑制(予防)
・CGRP(calcitonin gene-related peptide)関連薬剤
 抗CGRP抗体:ガルカネズマブ(2021年4月)、フレマネズマブ
 抗CGRP受容体抗体:エレヌマブ
 抗CGRP受容体拮抗薬
2.急性期治療
・Ditan:Lasmiditan
・Gepant:Ubrogepant, Rimegepant
※ いずれの薬剤も現時点では小児適応はない…

▢ 頭痛の診療ガイドライン2021に記載のある漢方薬5つ
呉茱萸湯:慢性頭痛(片頭痛・特に前兆のある片頭痛、緊張型頭痛…)
五苓散:片頭痛、気圧低下に伴う頭痛、慢性硬膜下血腫、透析に伴う頭痛…
桂枝人参湯:慢性頭痛
葛根湯:緊張型頭痛、肩こり
釣藤散:高齢者の動脈硬化傾向の慢性頭痛

▢ 小児・思春期(5~20歳)片頭痛患児に対する予防的治療
1.アミトリプチリン:有効率78%(著効48%、有効30.6%)
 投与量:体重30㎏未満は10㎎眠前、体重30㎏以上は20㎎眠前
2.五苓散:有効率92%(著効15/25、有効8/25)

▢ 五苓散の使用方法は多彩
1.片頭痛の予防的治療:連日投与で開始し、2か月で効果判定、原則6か月間は続行
※ 「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」「頭痛の診療ガイドライン2021」においても五苓散は片頭痛発症予防に対し推奨(B)
2.片頭痛時にイブプロフェン、アセトアミノフェン、トリプタン、ドンペリドンと同時内服(効果増強&持続)
3.乗り物酔い対策:バスなど乗車前に1包内服…小児片頭痛患者の車酔い合併率は59%、成人片頭痛患者では約52%、五苓散有効率は85%
4.試験、イベント、旅行などでの片頭痛発作阻止・減弱、低気圧・台風接近時、熱中症対策など…1日1回単独~1日2回など
5.腹部症状に(嘔吐・腹痛・下痢)、整腸剤として
6.二日酔いに



参考
・小児期・思春期の「頭痛の診かた」改定2版
 監修:藤田光江、編集:荒木清ほか(南山堂、2022年)

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