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ツリオヤジのダイアリシスな日々 ~ 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事 (葉隠 聞書第一0202)

ブロッコリー・レボリューション - 岡田利規 (新潮文庫)

2025-02-24 05:30:07 | 読書メモ

昭和文学ばかり読んでるとジジイヘッドになってしまうので、たまには近年の本も読まねばと書店散歩中に手に取った一冊。

三島由紀夫賞は、新潮社が取材する芥川賞といった感じの賞で、「文学の前途を拓く新鋭の作品一篇に授与する」そうです。この賞を受賞作、候補作の作家は芥川賞をとっているケースも多くみられます。

5篇の短篇からなります。

『楽観的な方のケース』
近所に出来た美味しいパン屋をめぐる、男女二人の心理変化を描いてます。ですます調で書かれていて、女性の「私」の視点から書かれています。どこでもありそうな日常を描いた小品。

『ショッピングモールで過ごせなかった休日』
突然の訪問者フジワラくんの押しかけラップ(?)によって休日の朝を乱された「僕」の話。なにげない日常がわずかに乱されたことによる「僕」の心情や、承認要求、自己啓発について考えさせられる一篇でした。わたしの嫌いな、企業で行われているようなスパルタ研修を思い出した。あとの『黄金期』もそうですが、舞台が横浜なので、その点で親近感がわきます。

『ブレックファスト』
福島原発事故による放射能汚染を怖れて、東京から脱出した女性が離婚手続きのために一時帰京する際に夫と会う時の話。淡々と進むストーリーを「ぼく」が語りますが、「ぼく」は第三者的な目で妻の「ありさ」の行動を追っていきます。この技法はあとの『ブロッコリー・レボリューション』に類似しています。

『黄金期』
横浜駅の中央通路が舞台。現在は工事が終わり完成してる通路ですが、それまでは何年も工事中で、永遠に工事が続くかと思われた場所です。わたしもかつて通勤で歩いていた場所で、これまた親近感を覚えるシチュエーションです。主人公は謎の人物ソソミー、空中浮遊を経験したソソミーが、通路内でうずくまる中年男を見る、話としてはそれだけですが、横浜駅通路にあった閉塞感やよそよそしさが見事に表現できていると思います。語り手がソソミーを「おまえ」と呼ぶ文体は大江健三郎を想起します。

『ブロッコリー・レボリューション』
「ぼくはいまだにそのことを知らないでいるしこの先も知ることは決してないけれど」のフレーズを繰り返す「ぼく」が、東京からバンコクへ逃げ出した「きみ」について語ります。「いまだにそのことを知らないでいるしこの先も知ることは決してないけれど」と言いながら、「ぼく」は「きみ」の行動をすべて語り、その内面にも言及します。なんとも不思議な文体ですが、それほど違和感は感じずに読むことができるのもまた不思議な作品です。

テーマは、現地人のシリアスさと旅行者のお気楽さとのコントラストでしょうか。東京から逃避した「きみ」とバンコクの友人「レオテー」の政治、生活についての温度差についての描写がもっとも印象に残りました。それらのコントラストは、最後のシーン、2018ワールドカップロシア大会のクロアチア-フランス戦に、ロシアのバンド、プッシー・ライオットが乱入するTV画面の描写で締めくくられます。

あと不思議に感じた点は、この小説を読み進めているとき、「ぼく」は男、「きみ」は女、「レオテー」は男(おっさん)と思い込んでいたのですが、実はそれが確実ではなかったということです。後の対談であるように、「きみ」は男とも女とも明記されていません、なるほど確かにそうだ。「きみ」が男ということも考えられるのか。「レオテー」に至っては、「レオテーは彼女自身の個人的なことで」という記述があります。女だったのか!? そう思って読み直すと、ずいぶん印象が変わるのは、わしがユニセックスへの理解が足りないからか?

そんな不思議小説ですが、三島由紀夫賞受賞は伊達ではなく、奥深い作品だと感じました、もちろん5篇の中で一番気にいった作品です。舞台になったバンコクも、訪れたことがある町なので若干の土地鑑や懐かしさもあって楽しく読めました。またバンコクに行きたいなぁ....

対談:岡田利規X多和田葉子
作品の背景とかも話されていて、面白く読めました。作者には劇作家ならではの視点も感じます。
興味深かったのは、ゆるやかな独裁の話、タイ人のメンタリティが日本人と似ているということです。例として挙げられた点は、「世の中や社会の体制を、自分たちで変えられるとは思っていないこと」、なるほどと思いました。まさにそれは日本人の課題でしょう、低投票率にもそれが表れています。

対照として挙げられるのが韓国人で、その違いは民主化の成功体験を持っているからだ、ということです。先日のユン・ソンヨルの暴走阻止もそうだし、光州事件とか、日本はもっと韓国を知るべきだし、見習う点は多いと感じます。

作者プロファイル。演劇作家でもあるんですね。

書誌事項。初出は『新潮』2022年2月号。

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p.s. なぜか体重が増えていた。2600引いて300残し。


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