性と愛の泉
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バンクーバーへ
青い空はわたしの誇り
どんなに高い木よりも
果てしなく高く青い空
驚きとあこがれのまなざしが
わたしの翼を輝かせる
赤く熱い太陽を
わたしは誰よりも知っている
地響きとともに地面をふみしめ
決して舞い上がることのない彼らには
太陽は、月は、星は、
どんなにか遠いんだろう
そしてわたしは夢をみた
薄い色の空に数え切れないほどの
どこかをめざすかのように
列をなして飛ぶものたちのすがたを
わたしにはかなわないほどの
力強く舞い上がる険しい瞳を
不思議な気持ちが
明日の明日のもっと先へと
わたしを連れて行ってくれる
不安と期待に満ちたその日を予感する
by レンゲ
『奇跡の翼、未来へ』より
レンゲさん。。。、とうとう、バンクーバーにやってきてしまったね?
うふふふふ。。。。
夕べは雨がかなり強く降っていたんですよ。。。イヤ~な予感がしてねぇ~
どうしてですのォ~?
5月、6月というのはバンクーバーはすばらしい時期なんですよ。ここには梅雨はないからね。雨がザーザー降るというのは、だから、この時期には珍しい。
雨がザーザー降るのは不吉な事なんですの?
別に雨と不吉な事が関連するわけではないけれど、僕には関連性があるんですよ。
どうしてですか?
雨がザーザー降る中をバンクーバーエアポートまでレンゲさんを迎えに行く。土砂降りですよォ~。。。考えただけでもイヤーな気がしてきたものですよ。
雨の中の出会いなんて、かえってロマンチックではありませんの。。。? “雨のシェルブール”、“シェルブールの雨傘”なんて。。。映画の題名かなんかにありましたでしょう。。。?
それは、映画の中で見るからロマンチックなんですよ。車から飛び出して土砂降りの中をターミナルビルまで走ってゆく。。。考えただけでも、今回のレンゲさんとの出会いを象徴しているようで実にイヤだったですよ。僕は真っ暗な夜空を見上げて、ザーザー土砂降りの音を聞きながら、はっきり行ってうんざりしましたよ。
つまり、厭々(いやいや)あたしに会っているのだということをおっしゃりたいのでしょう?
いや、僕は、そういう、わざとらしいことは言いませんよ。
こうして、おっしゃっているではありませんか?
わざとらしく嫌味で言っているのではありませんよ。僕は、レンゲさんのようにはっきりと言っているわけですよ。土砂降りの中で人に会うのは、とにかく、うっとうしいですよ。
だから、雨は降ってはいませんでしたわ。
そうですよ。本当に良かったと思いますよ。
つまり、天があたしとデンマンさんの出会いを祝福してくれたという事ですわ。。。そうでしょう?
祝福してくれているのなら、もっときれいにカラッと晴れ上がっているはずですよ。レンゲさんが書いた上の詩の中のようにね。。。しかし、今日は、青空もないし、赤く熱い太陽も出ていないんですよ。
いいえ、出ていますわ。。。あたしの心の中に。。。うふふふふ。。。。
今のレンゲさんは遠足気分ですよね。。。
いけませんか?
せっかく来たんだから、嫌な思いに浸(ひた)って帰るよりは楽しんで帰ってもらいたいですけれどね。。。
デンマンさんがあまり喜んでいないのは分かりますわ。。。でも、今度のことは奥様もすべて承知なのですから、デンマンさんが、それほど嫌な気分に浸る事はありませんわ。
レンゲさんが、勝手にそう思い込んでしまっている。。。だから、僕は憂鬱なんですよ。
勝手にそう思い込んではいませんわ。あれほど忙しいのに、奥様はあたしをわざわざ成田まで送ってくださったのですよ。
ほ~~
ほ~~じゃありませんわ。それにあたし、奥様からの預(あず)かりモノがあるんですの。
何ですか?
これですわ。
パンツじゃないですか?
そうですわ。あたしには奥様のお気持ちが分かりますわ。デンマンさんが、以前次のような事をブログに書いていましたからね。うふふふふ。。。。
不満を抱いている妻たちは夫に言っても仕方ないと思うのか、じっと我慢してしまう。それで、その不満が募(つの)って夫の生パンツに向かってしまうんですよ。分かるでしょう?
“坊主憎けりゃケサまで憎い”という諺がありますよね。
つまり、満足感を与えてくれない夫に向かって思っている事が言えないから、生パンツに当り散らすわけですよ。そういうわけで、次のような事を言ったりやったりするんですよ。
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夫のパンツは雑巾と便座カバーと一緒に洗濯します。
夫のパンツを洗うために大学を出たんじゃないわ!
夫のパンツを見るとムカつく!
夫のパンツの中にムカデを入れておいたわ。
汚い夫とは、もう2年やってません。
ウンチの付着した夫のパンツを洗わされるのはもう嫌です。
私の横でパンツいっちょになった夫のパンツを見たら吐き気を催(もよお)しました。
夫のパンツは汚いから、捨てる割り箸でつまんで洗濯機に入れています。
夫のパンツと一緒に自分のパンツは洗いません。
最近、夫のパンツを見るのもイヤです。
『性の開放と性の堕落』より
確かに、これは僕が書いたものですが、これが直美が持たせた真新しいパンツとどういう関係があるのですか?
あたし、奥様のお気持ちが良く分かりますわ。
どういうことですか?
だから、デンマンさんが、どうせ、あまり洗濯しないで汚いパンツをはいているだろうと奥様は思っているのですわ。それで妻として汚いパンツをはいたデンマンさんをあたしに見られるのが恥ずかしいのですわ。
何を言ってんですか。。。勝手に想像をたくましくして。。。
おとといデンマンさんが錦のフンドシの事を書いたでしょう?うふふふふ。。。。奥様もあれをきっと読んだのですわぁ~。うふふふふ。。。。
錦の袈裟 (にしきのけさ)
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江戸時代の頃の話です。
隣町の連中が吉原へ繰り込んで、揃いの緋縮緬(ひちりめん)の長襦袢でかっぽれを踊り、よせばいいのにその町内の連中の悪口を言って帰ったと言うのです。
憤慨した連中は隣町に負けない趣向はないかと相談します。
「錦の布を借りることができるからそれをフンドシにして繰り込もう」と言い出す者がいて話はまとまります。
ところが一本足りないので、与太郎の分は自分で都合を付ければ連れて行ってやることにします。
例によって、この与太郎がちょっとオツムの足りない面白おかしい人物なのです。
家へ帰って与太郎が女房に相談をすると、女房は考えた結果、お寺へ行って袈裟を借りて来るようにと知恵を付けます。
与太郎はどうにか袈裟を借りることができ、錦の下帯を締めて仲間に加わります。
そうやって若い衆は賑(にぎ)やかに吉原へ繰り込みます。
確かに、この落語では女房が錦のフンドシをこしらえて、少しオツムの足りない亭主の与太郎に身につけさせて送り出してやるのだけれど。。。、なんですかぁ~僕が、この与太郎だとでも言いたいのですかぁ~~
だから、そのようにして夫を送り出す女房の気持ちが、あたしにもなんとなく分かるような。。。
しかし、今回、直美が送り出したのは僕ではないんですよ、レンゲさんでしょう?
だから、あたしに真新しいパンツを持たせてよこしたわけですよ。“これを内の人に身に着けさせてね”って。。。うふふふふ。。。。あたし、デンマンさんにはかせてあげますわ。
何を言ってんですかぁ~ 馬鹿馬鹿しい。
でも、奥様ははっきり言いましたわ。“私が我侭なばっかりに、内の人には寂しい思いをさせ、不自由な思いばかりさせている。だから、バンクーバーへ行ったら、あたしの分まで世話をしてあげてね、慰めてあげてね”。。。そうおっしゃったんです。
それをレンゲさんは言葉通りに受け取ったのですか?
言葉通りって。。。他に解釈の仕方がありませんわ。
本音と建前という事があるでしょう?
デンマンさんのおっしゃりたい事は分かりますわ。。。でも、奥様はこうもおっしゃったのですわ。“私は忙しくて、とてもバンクーバーには行けません。だから、申し訳ないけれど、内の人の事をよろしくお願いしますわね。それから、レンゲさんも、少しは羽を伸ばして、甘えるだけ甘えたらいいわ。じゃあ、気を付けてね” チェックインのところまで送ってきてくださり、そうおっしゃったのですわ。
それを、また、その言葉通りに受け取ったのですか?
だって。。。他に解釈のしようがありませんわ。
だから、本音と建前ですよ。上の落語の話だって、女房は亭主の与太郎を、本音では女遊びになどやりたくないんですよ。でも、町内の亭主がそろって吉原に出かける。自分の亭主だけが仲間はずれにされるのは見るに忍びない。しかも、亭主を遊びに出せないような了見の狭い女だと見られるのは、女房にとっても我慢ならない。つまり、与太郎の女房は、世間体だとか、女の誇り、自尊心のために、厭々(いやいや)ながらではあるけれど、仕方なしに与太郎を送り出したわけですよ。
その事はあたしにも分かりますわ。
だったら、直美も建前で、そのように言わなければならないという事も分かりますよね?
でも、奥様は何もかも理解したうえで、あたしを送ってくださったのですわ。
確かに、僕とレンゲさんのことは充分に理解していますよ。でもね、言葉には出せない部分をレンゲさんに理解してもらいたいという気持ちが直美にはある。ところが、レンゲさんにはそのような言外の意味を汲み取ろうとする気持ちがない。
そうでしょうか?
第一ですよ、夫のことを半(なか)ば理想的な男だと思い込んでいる、不倫をするかもしれない、若くてピチピチとした魅力的な女を、妻が夫の元に送り出すわけでしょう?
その。。。若くてピチピチとした魅力的な女というのは、あたしのことですかぁ~?うふふふふ。。。。
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話しの都合があるから、一応そういうことにしておきましょうね。。。とにかく、直美は心の中ではハラハラしていると思いますよ。おそらく仕事の合間に、ふとレンゲさんが今頃何をしてるかと気がかりになっていると思いますよ。
つまり、奥様はあたしが不倫する事を心配している、とデンマンさんはおっしゃるのですか?
そうですよ。だから、レンゲさんに真新しい夫のパンツを持たせる。
それは、デンマンさんが、洗濯もしないで汚いパンツをはいていると思うからですわ。
確かに僕は洗濯が好きではありませんよ。しかし、汚いパンツをはいているのも好きではありませんよ。女性が見て汚いと思う前に、僕は洗濯しますよ。
分かりましたわ。。。それで、デンマンさんは、何がおっしゃりたいのですか?
もし、直美がレンゲさんに僕のパンツをもって行って貰いたいのなら、普通、中身のことを話しませんよ。
そうでしょうか?
そうですよ。これから結婚しようという若い女性にですよ、妻が夫にはかせるパンツを持って行ってもらう。常識として、そういう時にはパンツのことは言わずに、“これを夫に渡してくださいね”。。。と、それだけ言えば十分ですよ。わざわざ、“この中の物は夫がはくパンツよ”。。。なんて言う愚かな女房はいませんよ。
つまり、そのような愚かな事を奥様がおっしゃったということですわね。
そうですよ。だから、なぜ、直美がそのような事まで言わなければならなかったのか?。。。知能指数が140ある女ならば、直感的に分かるモノがあるはずですよね?
デンマンさんは、どうしてまた、あたしの知能指数を持ち出すのですか?
僕も直美もレンゲさんが頭の良い女の子である事を充分に知っている。ところが、レンゲさんは、時々常識的なことを忘れてしまう。そういうわけで、直美は言わなくてもよい事を言わなければならないと感じるときがある。今回、レンゲさんを送り出すときに、わざわざ、僕のためと言って、真新しいパンツをレンゲさんに持たせて送り出した。普通の女性なら、中身のことまで話して見送る妻の気持ちに、何か異常なものを感じて、ハッと思い当たるものがある。
つまり、奥様が不倫を心配していて、あたしに釘を刺したということですか?
そうですよ。普通の女性なら、そのようにかんぐって考えると思いますよ。ところが、レンゲさんは、僕がこうしてはっきりと言うまで分からない。
分かっていますわ。
分かっているのに、命までも投げ出して敵陣を突破するようにして、こうしてレンゲさんは僕に会いに来たわけですか?
奥様は、あたしがデンマンさんに会いたいという気持ちを充分にご存知だと思っていますから。。。
かなり知っているでしょう。でも、はっきりと言えない事をレンゲさんに理解してもらいたいとも思っていますよ。直美にも女の誇りや意地がありますからね。“内の人と不倫しないでね”とは直美には言えませんよ。どうせ言うなら、“そんなに内の人が良いと思うなら、そうぞ。あなたのご自由に。。。、でも、あの人はあなたが思うほどの人物ではないのよ。あなたにも、きっと分かるときが来るわ。。。” おそらく直美が言うとすれば、そのような事をレンゲさんに言うでしょうね。
だったら、どうしてはっきりと奥様はあたしにおっしゃらないのですか?
だから、女の誇りと意地があるからですよ。これまで本音と建前を使い分けて、女手一つでビジネスをここまで立ち上げてきた。恋愛経験もないわけではない。若い男から今だにナンパされるらしい。あれで、けっこう男にモテルんですよ。だから、男と女の駆け引きも充分に知っている。ビジネスでも、男のことでも、けっこう経験をつんでいる。女の自信のようなものをしっかりと持っている。僕は、そう見ていますよ。だから、レンゲさんに、“お願いだから、内の人を奪わないでね”とは死んでも言わない人ですよ。
もし、あたしがデンマンさんを奪ってしまったら。。。?
僕のことを下らない男だと再認識するでしょうね。死んでもレンゲさんに夫を返して欲しいなんて言わない人ですよ。精神的にも経済的にも一人でやってゆける女ですからね。