NHKの「100分de名著」は予約視聴している番組です。確かに「名著」を4回100分でコンパクトに紹介していてリーズナブルな番組と言えます。司会進行の二人もコメンテーターもリベラルな人が多く気に入っています。
前回のジーン・シャープの『独裁体制から民主主義』(ちくま学芸文庫)は気になって新本を購入してしまいました。
さて今回は北條民雄の『いのちの初夜』が取り上げられています。
北條民雄はハンセン病と診断され東京都東村山市の全生病院(現在の国立療養所多摩全生園)に送られます。ここは我が家からは車で10分もかからないところにあります。
入院して様々な読み物を書き始めた北條は23歳の時に発表した『いのちの初夜』で有名になります。そして翌年、4年間の闘病生活の後に亡くなるのでした。
北條は『すみれ』(文・北條民雄、絵・山﨑克己、国立ハンセン病資料館、2015年)という絵本も残しています。町に移り住もうとしたじいさんは一輪咲いているすみれを見つけ、その凜とした佇まいに心打たれ、そこにとどまることを決意するのでした。
この『すみれ』は「100分de名著」でも他の関連書籍と並んで陳列されています。我が家の本棚にある実物はKさんから以前いただいたものでした。
矢部顕さんから国立ハンセン病資料館の催し物のお知らせをいただいていました。『すみれ』と合わせて紹介します。
そして鎌田慧さんのコラムがタイムリーです。
◆舌読
差別された在日の炭坑夫だったカメラマン・趙根在氏の
写真展「地底の闇、地上の光」
鎌田 慧(ルポライター)
元ハンセン病患者さんの生活を撮りつづけた趙根在(チョウ・グンジェ)
の写真展「地底の闇、地上の光」を見にいった。原爆の図丸木美術館(
埼玉県東松山市)ではじまったばかりだ。
生涯にわたるテーマは、在日朝鮮人、炭坑労働者、ハンセン病患者。
排除されてきたひとたちの貴重な記録である。
病によって失明した中年の男性が、点字本を舌先で読み取っている。
点字を追う指先も失われている。障子のむこうから差し込む淡い逆光を
受けたクローズアップは、人間の希望と読書の世界のひろがりを
示している。
たとえば、ユージン・スミスの、よく知られている、水俣病の少女を
母親が湯浴みさせている写真のように、敬虔な感情をもたらしている。
差別された在日の炭坑夫だったカメラマンが、地底の闇にいるように、
社会の壁に囲まれて生きている人びととともに寝起きしてシャッターを
切った。
人間としての尊厳を確立するために、素顔をだし、名乗りを上げて
生きざまを晒(さら)す。
在日同胞だからこそできたのであろうが、気迫に満ちた作品である。
趙カメラマンは1997年に他界しているが、記録作家・上野英信ととも
に『写真万葉録・筑豊』全十巻を監修している。
写真展のカタログに収録された文章は、日本語をまったく書けなかった
と言いながらも、イメージ溢るる文章だ。
(2月7日「東京新聞」朝刊「本音のコラム」)
前回のジーン・シャープの『独裁体制から民主主義』(ちくま学芸文庫)は気になって新本を購入してしまいました。
さて今回は北條民雄の『いのちの初夜』が取り上げられています。
北條民雄はハンセン病と診断され東京都東村山市の全生病院(現在の国立療養所多摩全生園)に送られます。ここは我が家からは車で10分もかからないところにあります。
入院して様々な読み物を書き始めた北條は23歳の時に発表した『いのちの初夜』で有名になります。そして翌年、4年間の闘病生活の後に亡くなるのでした。
北條は『すみれ』(文・北條民雄、絵・山﨑克己、国立ハンセン病資料館、2015年)という絵本も残しています。町に移り住もうとしたじいさんは一輪咲いているすみれを見つけ、その凜とした佇まいに心打たれ、そこにとどまることを決意するのでした。
この『すみれ』は「100分de名著」でも他の関連書籍と並んで陳列されています。我が家の本棚にある実物はKさんから以前いただいたものでした。
矢部顕さんから国立ハンセン病資料館の催し物のお知らせをいただいていました。『すみれ』と合わせて紹介します。
そして鎌田慧さんのコラムがタイムリーです。
◆舌読
差別された在日の炭坑夫だったカメラマン・趙根在氏の
写真展「地底の闇、地上の光」
鎌田 慧(ルポライター)
元ハンセン病患者さんの生活を撮りつづけた趙根在(チョウ・グンジェ)
の写真展「地底の闇、地上の光」を見にいった。原爆の図丸木美術館(
埼玉県東松山市)ではじまったばかりだ。
生涯にわたるテーマは、在日朝鮮人、炭坑労働者、ハンセン病患者。
排除されてきたひとたちの貴重な記録である。
病によって失明した中年の男性が、点字本を舌先で読み取っている。
点字を追う指先も失われている。障子のむこうから差し込む淡い逆光を
受けたクローズアップは、人間の希望と読書の世界のひろがりを
示している。
たとえば、ユージン・スミスの、よく知られている、水俣病の少女を
母親が湯浴みさせている写真のように、敬虔な感情をもたらしている。
差別された在日の炭坑夫だったカメラマンが、地底の闇にいるように、
社会の壁に囲まれて生きている人びととともに寝起きしてシャッターを
切った。
人間としての尊厳を確立するために、素顔をだし、名乗りを上げて
生きざまを晒(さら)す。
在日同胞だからこそできたのであろうが、気迫に満ちた作品である。
趙カメラマンは1997年に他界しているが、記録作家・上野英信ととも
に『写真万葉録・筑豊』全十巻を監修している。
写真展のカタログに収録された文章は、日本語をまったく書けなかった
と言いながらも、イメージ溢るる文章だ。
(2月7日「東京新聞」朝刊「本音のコラム」)