「ペリシテ人の領主たちは、百人隊、千人隊を率いて進み、ダビデとその部下は、アキシュと一緒にその後に続いた。」(Ⅰサムエル29:2新改訳)
このときダビデは人生最大の危機を迎えたといってよかった。ウソをついてペリシテ人の国で過ごした一年四か月、事態(じたい)はのっぴきならぬところに来てしまったのだ。▼このままいけば、彼は戦場でペリシテ人の一翼(いちよく)をにない、イスラエルとサウル王に弓を引かねばならない。イスラエルの王として神に油注がれた彼が、である。それは絶対にしてはならないことであった。たぶんダビデは必死に祈っただろう。全能の神よ、助けてください、この非常事態をくつがえしてください、と・・。表面ではなにくわぬ顔をしながら、苦渋(くじゅう)に満ちた心で進むダビデ。どんなに重い足取りだったか。▼しかしそのとき奇蹟(きせき)が起きた。ペリシテ人の領主たちが、ダビデに帰郷(ききょう)を命じたのである。私たちを裏切(うらぎ)るといけない、と言いながら・・・。神の御介入(ごかいにゅう)以外に、これを説明できる者がいるだろうか。こうしてダビデはすんでのところで危機(きき)を脱(だっ)したのであった。「私は苦しみの中で主を呼び求め、わが神に叫び求めた。主はその宮で私の声を聞かれ、御前への叫びは御耳に届いた。・・・主はいと高き所から御手を伸ばして私を捕え、大水から私を引き上げられました。主は力ある敵から私を救い出されました。」(詩篇18:6~17同)