リーマンショック後のボーナスが語る“不気味な真実”「日本人“総低年収化”の時代」がやって来る!(ダイヤモンド・オンライン) - goo ニュース
待ちに待った夏のボーナスが出た。使い道について、あれこれ楽しく思いを巡らせている人も多いことだろう。だが、その一方で「もともとボーナスなんかないし…」「制度はあるけど、出なかったし…」という人もいる。
じわじわと広がっているように見える「ボーナス格差」。だが、その裏ではもっと不気味な現象が進行しているようだ。さて、その現象とは――?賃金・人事コンサルタントで北見式賃金研究所の代表を務める北見昌朗さんに話を聞いてみた。
今回のお題
「今後、ボーナスがアテにできない世の中になったら……耐える?攻める?」
北見昌朗(きたみまさお)さん
北見式賃金研究所所長。給与コンサルタント。社会保険労務士。経済記者を経て、平成7年に独立。モットーは「社員あっての会社 会社あっての社長 社長あっての社員!」。「消えた年収」(文藝春秋)など著書多数。名古屋市出身
「信じられない。ボーナスも出ない会社に勤めているなんて……」。
山崎愛美さん(仮名・31歳)は最近付き合い始めた彼氏と、かなりうまく行っていた。結婚も真剣に考えていたらしい。ところが、つい先日彼に「ボーナスいくら出た?」と聞いたところ、「今年は出なかったよ」という返事が――。
母親にそのことを話すと「そんな人と付き合うのはやめなさい、結婚してボーナスが出なかったらマンションだって買えないじゃないの!」と交際を反対されたという。
経団連の発表を見る限りは、2011年夏のボーナスはおおむね「太っ腹傾向」のようだ。大手企業120社の今夏の平均妥結額は79万3457円。前年を上回る結果となった。震災の影響がもろに出るのは今年冬からの見通し、というのが大方の見方だ。
その一方で、雀の涙しかもらえない人や、まったく支給されなかった、という人も。筆者などもフリーランスなので、バーゲンにも行けない悲惨な有様である。
会社によって大きな差がつきやすいボーナスだが、一方で官民の格差もある。
北見さんはこんな話をしてくれた。
「会社ではボーナスを『賞与』と呼びますけど、公務員の間では『期末・勤勉手当』と呼ばれる。会社員の場合と違い、彼らのボーナスは給与の一部としてしっかり保証されています。
また、公務員の場合、4月に入ったばかりの新人でも6月にはばっちりボーナスが支給されます。これに対し、大企業の新人は入社年の夏のボーナスはゼロで、冬から出る。一方、中小企業の場合は夏、冬ともに出ません。翌年夏から支給されます」
なにしろ中小企業の経営実態は依然苦しい。東京商工リサーチの調べでは、今年5月、6月の企業倒産件数は2ヵ月連続で前年を上回った。「ボーナスどころじゃない」という会社も相当あることだろう。その実態は、経団連の統計には一切反映されていない。
さらに言えば、「そもそもボーナスをもらえない」という非正規労働者の割合も多い。厚生労働省の平成21年若年者雇用実態調査によると、全労働者に占める若年労働者(15~34歳)の割合は32.9%。このうち21.1%が正社員で、非正社員はその半数以上の11.7%に及んでいる。
会社によって差が生じるのはある意味しかたがないが、これまでのような公務員の優遇ぶりや、正社員と非正規社員の待遇の違いはフェアとは言えないだろう。
公務員、大企業社員、中小企業社員、そして非正規社員――ボーナスをめぐる待遇差は、どんどん開いているのではないだろうか。そんな「ボーナス格差社会」で負け組になれば、冒頭の彼のように恋人に逃げられてしまうことだってありうる。
20年間で30兆円の給料が消えた!
「低年収社会」に突入した日本
ところが北見さんに聞いてみたところ、意外にもこんな答えが返ってきた。
「ボーナスや年収の変化を見る限り、日本はけっして格差社会になったわけではないんですよ」
いったいどういうことなのか。
北見さんは有志のネットワークを通じ、毎年、じつに数万人分もの給与明細を集めている。これをもとに独自の給与統計を作成しているそうだ。その名も「ズバリ!実在賃金」。東京や大阪、愛知など、全国の都市のデータを網羅している。
統計を分析する際は、平均値ではなく、「分布」や、すべてのデータを並べたときど真ん中に来る「中央値」を見るという。高額な給与を得ている人がいると、平均値は上の方へ引っ張られ、正確な実態を映し出さなくなるからだ。
この統計を使い、ボーナスの分布をリーマンショックの前と後で比較したところ、なんとも不気味な事実が浮かび上がってきたという。
「愛知版のデータを見てみてください。夏と冬のボーナスの合計を見ると、リーマンショック前は年間300万円もらっていた管理職が10%以上いた。ところがリーマン後は2%にまで下がっていますよね。
一方、60万円未満という人は、以前は7%だったのが14%と倍増。90万円未満も12%だったのが、18%に増えた。つまり、高額なボーナスをもらっていた人のシェアが落ちて、より少額の人がガーンと増えているってことなんですよ」
ボーナス格差が開いたわけではなく、全体的に支給額が下がっているというのだ。ちょっと意外な話だが、年収全体ではどうなのだろう?
北見さんが、年代や階層ごとにリーマンショック前後の年収を比べたところ、グラフはみな同じ傾向を示していた。どれも年収の低い層が増え、高い層が減っていたのだ。
たとえば30代一般男子の年収を見ると600万円未満の人は28%から19%に減った。かたや400万円未満の人は15%から29%に跳ね上がっている。愛知県で働く30代の一般男性社員は、3人に1人が年収300万円台以下になってしまったのだ。
「低年収層が増え、高年収層が減ったということは、全体が低年収化しているということ。つまり日本は格差社会になったのではない。リーマンショックをきっかけに『低年収社会』に突入したのです」。
さらに、働く人びと全体の給与合計の推移を追うと、とんでもないことがわかった。
1998年、働く人々全体の給与は222兆円だった。それが2009年には192兆円にまで落ち込んでいたのだ。この10年余りの間に日本人は30兆円もの給与を失ったことになる。30兆円と言えば、経済破綻した当時のギリシアのGDPと同じ規模だ。
50代になっても年収500万円に届かず…
社会保障制度の前提崩れる
ショッキングなのは50代一般男性社員の年収中央値だ。
「530万3000円から480万7000円とおよそ51万円減っている。ついこの間まで、大都市圏に勤務する50代男性は、一般社員であっても年収500万円はなんとか確保できていた。ところがリーマンショック以後は、ついにその水準を切ってしまったんですよ」
労働者にとって日本の成長神話はすでに終わっており、収入は今後ますます減少していくことになりそうです。
待ちに待った夏のボーナスが出た。使い道について、あれこれ楽しく思いを巡らせている人も多いことだろう。だが、その一方で「もともとボーナスなんかないし…」「制度はあるけど、出なかったし…」という人もいる。
じわじわと広がっているように見える「ボーナス格差」。だが、その裏ではもっと不気味な現象が進行しているようだ。さて、その現象とは――?賃金・人事コンサルタントで北見式賃金研究所の代表を務める北見昌朗さんに話を聞いてみた。
今回のお題
「今後、ボーナスがアテにできない世の中になったら……耐える?攻める?」
北見昌朗(きたみまさお)さん
北見式賃金研究所所長。給与コンサルタント。社会保険労務士。経済記者を経て、平成7年に独立。モットーは「社員あっての会社 会社あっての社長 社長あっての社員!」。「消えた年収」(文藝春秋)など著書多数。名古屋市出身
「信じられない。ボーナスも出ない会社に勤めているなんて……」。
山崎愛美さん(仮名・31歳)は最近付き合い始めた彼氏と、かなりうまく行っていた。結婚も真剣に考えていたらしい。ところが、つい先日彼に「ボーナスいくら出た?」と聞いたところ、「今年は出なかったよ」という返事が――。
母親にそのことを話すと「そんな人と付き合うのはやめなさい、結婚してボーナスが出なかったらマンションだって買えないじゃないの!」と交際を反対されたという。
経団連の発表を見る限りは、2011年夏のボーナスはおおむね「太っ腹傾向」のようだ。大手企業120社の今夏の平均妥結額は79万3457円。前年を上回る結果となった。震災の影響がもろに出るのは今年冬からの見通し、というのが大方の見方だ。
その一方で、雀の涙しかもらえない人や、まったく支給されなかった、という人も。筆者などもフリーランスなので、バーゲンにも行けない悲惨な有様である。
会社によって大きな差がつきやすいボーナスだが、一方で官民の格差もある。
北見さんはこんな話をしてくれた。
「会社ではボーナスを『賞与』と呼びますけど、公務員の間では『期末・勤勉手当』と呼ばれる。会社員の場合と違い、彼らのボーナスは給与の一部としてしっかり保証されています。
また、公務員の場合、4月に入ったばかりの新人でも6月にはばっちりボーナスが支給されます。これに対し、大企業の新人は入社年の夏のボーナスはゼロで、冬から出る。一方、中小企業の場合は夏、冬ともに出ません。翌年夏から支給されます」
なにしろ中小企業の経営実態は依然苦しい。東京商工リサーチの調べでは、今年5月、6月の企業倒産件数は2ヵ月連続で前年を上回った。「ボーナスどころじゃない」という会社も相当あることだろう。その実態は、経団連の統計には一切反映されていない。
さらに言えば、「そもそもボーナスをもらえない」という非正規労働者の割合も多い。厚生労働省の平成21年若年者雇用実態調査によると、全労働者に占める若年労働者(15~34歳)の割合は32.9%。このうち21.1%が正社員で、非正社員はその半数以上の11.7%に及んでいる。
会社によって差が生じるのはある意味しかたがないが、これまでのような公務員の優遇ぶりや、正社員と非正規社員の待遇の違いはフェアとは言えないだろう。
公務員、大企業社員、中小企業社員、そして非正規社員――ボーナスをめぐる待遇差は、どんどん開いているのではないだろうか。そんな「ボーナス格差社会」で負け組になれば、冒頭の彼のように恋人に逃げられてしまうことだってありうる。
20年間で30兆円の給料が消えた!
「低年収社会」に突入した日本
ところが北見さんに聞いてみたところ、意外にもこんな答えが返ってきた。
「ボーナスや年収の変化を見る限り、日本はけっして格差社会になったわけではないんですよ」
いったいどういうことなのか。
北見さんは有志のネットワークを通じ、毎年、じつに数万人分もの給与明細を集めている。これをもとに独自の給与統計を作成しているそうだ。その名も「ズバリ!実在賃金」。東京や大阪、愛知など、全国の都市のデータを網羅している。
統計を分析する際は、平均値ではなく、「分布」や、すべてのデータを並べたときど真ん中に来る「中央値」を見るという。高額な給与を得ている人がいると、平均値は上の方へ引っ張られ、正確な実態を映し出さなくなるからだ。
この統計を使い、ボーナスの分布をリーマンショックの前と後で比較したところ、なんとも不気味な事実が浮かび上がってきたという。
「愛知版のデータを見てみてください。夏と冬のボーナスの合計を見ると、リーマンショック前は年間300万円もらっていた管理職が10%以上いた。ところがリーマン後は2%にまで下がっていますよね。
一方、60万円未満という人は、以前は7%だったのが14%と倍増。90万円未満も12%だったのが、18%に増えた。つまり、高額なボーナスをもらっていた人のシェアが落ちて、より少額の人がガーンと増えているってことなんですよ」
ボーナス格差が開いたわけではなく、全体的に支給額が下がっているというのだ。ちょっと意外な話だが、年収全体ではどうなのだろう?
北見さんが、年代や階層ごとにリーマンショック前後の年収を比べたところ、グラフはみな同じ傾向を示していた。どれも年収の低い層が増え、高い層が減っていたのだ。
たとえば30代一般男子の年収を見ると600万円未満の人は28%から19%に減った。かたや400万円未満の人は15%から29%に跳ね上がっている。愛知県で働く30代の一般男性社員は、3人に1人が年収300万円台以下になってしまったのだ。
「低年収層が増え、高年収層が減ったということは、全体が低年収化しているということ。つまり日本は格差社会になったのではない。リーマンショックをきっかけに『低年収社会』に突入したのです」。
さらに、働く人びと全体の給与合計の推移を追うと、とんでもないことがわかった。
1998年、働く人々全体の給与は222兆円だった。それが2009年には192兆円にまで落ち込んでいたのだ。この10年余りの間に日本人は30兆円もの給与を失ったことになる。30兆円と言えば、経済破綻した当時のギリシアのGDPと同じ規模だ。
50代になっても年収500万円に届かず…
社会保障制度の前提崩れる
ショッキングなのは50代一般男性社員の年収中央値だ。
「530万3000円から480万7000円とおよそ51万円減っている。ついこの間まで、大都市圏に勤務する50代男性は、一般社員であっても年収500万円はなんとか確保できていた。ところがリーマンショック以後は、ついにその水準を切ってしまったんですよ」
労働者にとって日本の成長神話はすでに終わっており、収入は今後ますます減少していくことになりそうです。