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海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.7)

2009-06-20 10:07:49 | 海外の医療最前線

Last Updated : March 5 ,2021

 WHOの統計を始め各国の確認感染者や死者数は引続き拡大傾向にある。今回は感染者の最新情報とともに、主題の1つである「ワクチンや試薬開発の最新動向」について英国の国立生物学的製剤研究所(A Center of the Health Protection Agency:NIBSC)のサイトから最新動向を紹介する。
 言うまでもなく、“NIBSC”はWHOや米国連邦保健省疾病対策センター(CDC)等との連携作業を行っており、今まで本ブログで紹介してきたワクチン開発の動向が具体的に確認できる。(筆者注1)
 それにしても国民に冷静な対応を呼びかける前提として、わが国の入手しているワクチン開発の世界の最新情報は公的関係サイトで流すべきではないか。(筆者注2)(筆者注3)
 なお、たびたび紹介している”Eurosurveillance”の最新号(6月18日号)が手元に届いた。今回の特集論文は、「南半球のインフルエンザA(H1N1)―ヨーロッパにおいて学ぶべき点は?」と題し、チリとオーストラリアに見る南半球のインフルエンザA(H1N1)vの本年秋以降の北半球への影響を予測している。機会を改めて解説したい。

1.わが国の最新情報
 2009年6月19日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、740人(6月18日比+51人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。

2.WHOの最新発表情報
 WHOの公表感染者数(2009年6月19日世界標準時07時現在)(update51)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国(23か国)のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)(update50は筆者の都合で間に合わず省くが、前回比は前々回update49(6月15日)比を用いた)

 全体の数字は84か国(6月15日比+8か国)、累計感染者数は44,287人(6月15日比+8,359人)(うち死者は180人(6月15日比+17人))

 「国名」、「累計感染者数(死者数)」、「6月15日比増加数(死者数)」の順に記載した。
①米国:17,855人(うち死者44人(―1人))(+0人) (筆者注4)、②メキシコ:7,624人(うち死者113人(+5人))(+1,383人)、③カナダ:4,905人(うち死者12人 (+8人) )(+1,927人) 、④チリ:3,125人(うち死者2(+0人))(+1,431人) 、⑤オーストラリア:2,199人(+376人(筆者注5)、⑥英国:1,752人(+526人)(筆者注6)、⑦アルゼンチン:918人(+573人)、⑧日本:690人(+85人)、⑨中華人民共和国:519人(+431人)、⑩タイ:518人(+489人)、⑪スペイン:512人(+24人)、⑫フィリピン:311人(+234人)、⑬パナマ:272人(+0人)、⑭ドイツ:238人(+68人)、⑮イスラエル:219人(+102人)、⑯ニュージーランド:216人(+130人)⑰エルサルバドル160人(+65人)、⑱ガテマラ:153人(うち死者1人)(+34人)、⑲コスタリカ:149人(+45人)、⑳ニカラグア:144人(+88人)、(21) ペルー:141人(+50人)、(22)フランス:131人(+51人)、(23)ホンジュラス:108人(+19人)

3.新型インフルエンザ・ワクチン開発と試薬をめぐる英国や他の国の最新動向
 今回は“NIBSC”のサイトにもとづき、英国その他の国の研究室が取組んでいる新型インフルエンザA(H1N1)(ブタ由来)ワクチン候補株(candidate vaccine virus)や試薬(reagents)の開発動向について概要を紹介する。
(1) ワクチン候補株(candidate vaccine virus)の研究・開発状況
現在新型インフルエンザA(H1N1)(ブタ由来)ワクチン候補株について“NIBSC”取組みのため入手したウイルスサンプルは次のとおりであり、2009年5月初めから研究・開発を開始している。
(A)カリフォルニアで分離されたA(H1N1)ウイルスのサンプル:1
(B)メキシコで分離された同サンプル:2
(C)ニューヨークで分離された同サンプル:1(以上は、米国CDCから入手)
(D)英国で分離された同サンプル:3
(E)ニュージーランドで分離された同サンプル:2

○ NIBSCは、迅速なウイルスの世代交代を把握するため、過去におけるワクチン候補株の開発において成功してきた確実な手法である、①古典的再集合法(classical reassortment)、②逆遺伝学法(reverse genetics)という2つの手法を用いている。
 また、追加的活動としてワクチンの大量製造やA(H1N1)ワクチンの研究機関の全国的な管理やワクチンの品質管理のための標準化目的でと特性化研究や試薬の製造のため坑血清の開発のためウイルス量の増量が必要となる。
 さらに、A(H1N1)の毒性の特徴づけおよび最近時のヒト A(H1N1)ウイルスとの類似性の調査を開始している。

○ 国際的に開発されているワクチン候補株
 ワクチン候補株は次の研究室およびWHOの指示により研究が行われている。
①NYMCX-179A従来型再集合ウイルス:担当国(米国ニューヨーク医科大学)
②IVR-153 従来型再集合ウイルス:担当国(オーストラリア)
③IDCDC-RG15 逆遺伝学ウイルス:担当国(米国CDC)
④NIBRG-121逆遺伝学ウイルス:担当国(英国NIBSC)

○試薬の開発
NIBSCおよびWHOの義務的基本研究室(Essential Regulatory Laboratories)において、インフルエンザA(H1N1)ウイルスの単放射拡散検査(Single Radial Diffusion)のための試薬が開発される予定である。

(2)H5N1ワクチン候補株の準備動向
 NIBSCはワクチン製造メーカーおよび他国の誠実な研究所のためにH5N1ワクチン候補株を準備している。その目的は、①世界的なインフルエンザの大流行への準備、②毒性のあるウイルス種の安全性を保証、③公衆およびWHO を支援することである。
 NIBSCは現在、次の4つのH5N1ワクチン候補株を無料で利用可能としている。
①NIBRG-12(A/Hong Kong/213/2-0-3(H5N1)
NIBRG-14(A/Vietnam/1194/2005(H5N1))
NIBRG-23(A/Turkey/Turky/1/2005(H5N1)
④NIBRG-88(A/Cambodia/R0405050/2007(H5N1)

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(筆者注1) 筆者が日頃から興味をもっている「インフルエンザワクチンの作り方」について5月1日付けのBBCの記事がある。NIBSC等への取材に基づくもので、内容はそう難しくないので、関心のある方は読まれてはいかがか。

(筆者注2) 6月12日付けWHOの「フェーズ6」引上げ時の厚生労働大臣の声明(「新型インフルエンザへの対処について」)の一部を引用する「これまで国内において合計539名の方が感染され、少なくとも394名は治癒しています。・・・秋口から第二波の感染拡大が起こる可能性があることを示唆しているものと受け止めています。したがって、現在の対策の基本的な枠組みを維持しつつも、今後日本においてある程度の感染拡大は避けられないということを前提に、専門家の方々の御意見を伺いながら、感染拡大の早期探知のためのサーベイランスの強化や医療体制について重症者への対応を中心としたものにシフトすること等を速やかに提示したいと考えております。政府としても、地方自治体や医療関係者などと十分協力・連携をとって、万全の備えに努めてまいります。国民の皆様におかれては、繰り返し申し上げておりますように、警戒を怠ることなく、正しい情報に基づき冷静に対応していただきたいと思います」。筆者が言いたいのは、ここで言う「ある程度」とはどの程度か、「正しい情報」とは誰の発言をどのように信頼して読めばよいのかなど、疑問はさらに拡がる。
 なお、同省は「新型インフルエンザ関連用語集」を6月17日に公表している。選択基準が不明であり、また国民が一般メディアの記事を理解するうえ最新情報とは思えないし、特に筆者がこだわるのは、内容から見てわが国のオリジナルなものかと言う点である。
 さらに気になるのは、厚生労働省サイトで「国立医薬品食品衛生研究所」の部長職など幹部の募集6/18③を行っている点である。国民の不安は拡がる一方である。

(筆者3) 筆者が6月18日未明に受信した情報で、欧州食品安全機関(EFSA)、ヨーロッパの疾病予防管理センター(ECDC)、およびヨーロッパのMedicines Agency(EMEA)は6月16日、家畜、ペット、および食物の中のメチシリン耐性がある黄色ブドウ球菌(meticillin resistant staphylococcus aureus :MRSA)に関する共同科学報告を記者発表している。
 “Wikipedeia” の説明では、MRSAは黄色ブドウ球菌が耐性化した病原菌であり、黄色ブドウ球菌と同様に常在菌の1つと考えられ、健康な人の鼻腔、咽頭、皮膚などから検出されることがある。そもそも薬剤耐性菌であるため薬剤の使用が多い病院で見られることが多く(耐性菌は抗生物質の乱用により出現すると言われている)、入院中の患者に発症する院内感染の起炎菌としてとらえられている。
 「院内感染とMRSA」に関する論文としては例えば、バージニア大学の論文などがある。

(筆者注4) 米国の疾病予防対策センター(CDC)の公表が毎週1回金曜日であるため、このような数値になっている。6月19日にCDCが公表した統計値は次のとおりである(6月12日比増加数)。
 累計感染者数:21,449人(うち死者87人(+44人))(+3,594人)

(筆者注5)オーストラリア保健高齢者担当省(DHA)は毎日午前5時、午後5時の2回公表している。6月19日午後5時の公表値は2,330人である。

(筆者注6) 英国も感染者数が急増しており、毎日、健康保護局サイト(HPA)で更新している。6月19日1,984人(前日比+224人)である。


〔参照URL〕
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/19.html
http://www.who.int/csr/don/2009_06_19/en/index.html
http://www.nibsc.ac.uk/

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