Last Updated :November 24,2015
北京郊外中信国安第一城(Grand Epoch City)で12月12日、13日の2日間米国(美国)と中国の政府代表が共同議長を務める第3回米中戦略経済対話(The Third U.S.-China Strategic Economic Dialogue:SED Ⅲ、第三次中美战略经济对话)が開催され、13日に共同文書を採択して閉幕した。
SED自体は2006年にブッシュ大統領と胡錦濤国家主席が創設したもので、財政、金融、貿易、環境、厚生、農業等の閣僚級が一堂に会する経済協議の枠組みであり、半年に1度のペースで米中交互で開催され、今回が3回目。ポールソン(長鮑爾森)財務長官と呉儀国務院副總理(Vice Premier Wu Yi)が共同議長を務める。短期的成果を目指す交渉とは異なり、長期的視野に立って中国の貿易黒字の元凶である輸出主導の経済構造を内需主導に転換することを目指す。ただし、米議会の関心が高い人民元(RMB)の柔軟化等は遅れており、米国内では戦略経済対話を基軸とするポールソン長官の対話路線は目に見える成果を上げていないとの批判は根強い。(筆者注1)
一般的にわが国の経済専門家・メディアの見方は、今回の対話は中国ベースで進んだとの評価が多い。(筆者注2) 。その理由には、米国が従来から強調してきた①人民元改革(米国の対中貿易の赤字解消)、②知的財産権保護強化、③繊維製品をめぐる輸入摩擦問題、④中国の金融市場開放、⑤エネルギー・環境分野の協力、⑤航空の自由化といった重要課題において著しい成果があったとはいえないからである。(筆者注3) 国際政治の世界において2国間の間では公表されない具体的な交渉内容があるとは予想されるが、本文で述べるとおり米国民の期待(=議会)に応えるものになっていないといえよう。
米国内の議会等の論調は保護主義強化を求めており、次回(2008年6月)ワシントンで開かれる第4回SEDまでの間にこれら未解決の課題について進展が見られないとブッシュ政権自体の支持率等にも大きな影響が出ることは間違いなかろう。
今回のブログは、財務省の米中共同記者発表資料(Joint Fact Sheet)、通商代表部(U.S. Trade Representative)や商務省(U.S. Department of Commerce)および中国政府の発表等を中心として議会やステーク・ホルダーを中心とする国際経済や外交問題の取組み情報に弱いわが国のメディアの情報を、米国や中国の具体的なオリジナル情報に基づき補完するという目的でまとめたものである。
今回の米国政府のファクト・シートの両国の署名や合意に関する公表内容は国際公法の観点からも、微妙な内容を含んでいる。法解釈上、正確な訳に努めたつもりであるが専門家による補完を期待したい。
1.保護主義化をすすめる米国連邦議会の動き
米国議会・上院財政委員会(Senate Finance Committee:Max Baucus委員長(民主党モンタナ州))では2007年7月26日、中国を念頭に置いたと思われる「通貨為替監視改革法案(Currency Exchange Rate Oversight Reform Act of 2007)(S.1607)」を、20対1の圧倒的賛成多数で可決した。内容は不当に為替操作を行う国を財務省が指定し、IMF(国際通貨基金)やWTO(世界貿易機関)への提訴、介入による是正、反ダンピング(不当廉売)関税の適用などの是正措置を米政府に求めるというものである。さらに8月1日には上院銀行・住宅および都市問題委員会(Banking,Housing,and Urban Affaires Committee:Chris Dodd委員長(民主党コネチカット州))がさらに相殺関税の導入を盛り込んだ「通貨改革および金融市場法案(Currency Reform and Financial Markets Act of 2007)(S.1677)」を可決した。 (筆者注4) (筆者注5)
2.米国商工会議所(U.S.Chamber of Commerce)の保護法案反対の主張Letter
同会議所は2007年9月24日に連邦議会下院議員に対し、上院の前記2法案(S.1607,S.1677)について提案の趣旨自体は評価するもののこれらの法律は輸入問題だけでなく、米国にとって急激に伸びている輸出相手国である中国の経済・金融制度改革を遅らせ、ひいては米国自体の経済的地位を弱めるとの懸念を示している。
そういう意味で、市場決定型為替レートへの移行の必要性は強く認識するものの政府のポールソン長官を中心とするSEDの継続的活動を支持し、また米国の貿易関係法やWTOルールとの整合性の取れた二国間の相互的かつ多面的な手段を用いるべきであると述べている。(筆者注6)
しかし、一方で米国の小売事業者経営者団体であるRILA(Retail Industry Leaders Association)は、中国元とドルとの為替レートの不均衡や両国の貿易にかかわる諸問題に対する強い姿勢を議会や政府に求めている。
3.第18回米中商業・貿易に関する共同委員会の合意内容
SEDに先立って12月11日に北京で第18回「米中商業・貿易に関する共同委員会(The U.S.-China Joint Commission on Commerce and Trade:JCCT)」が開かれた。同委員会のメンバーは米国側がスーザンC.シュワブ(Susan C. Schwab)通商代表部代表、グティエレス(Carlos M. Gutierrez)商務長官、中国側が呉儀国務院副總理である。
また、通商代表部は両政府間の署名内容(MUAやMOU)のファクト・シートを公表している。SEDのファクト・シートよりは具体性があり、またMOAとMOUの区分が明確であるので、併せて参照する必要があろう。(筆者注6-2)
なお、同ファクト・シートに記されている今回米中間で同意された「米中ハイテク・戦略貿易開発に関するガイドライン(Guideline for U.S. High-Technology and Strategic Trade Development)に基づき両国間の民間レベルの障壁撤廃に向けた作業部会(Begin a high-level exchange of investment policies, practices, and climates. Intensify ongoing discussions regarding the prospects for negotiating a Bilateral Investment Treaty. Continue consultations in a cooperative manner on China achieving market economy status. Continue cooperation through the JCCT High Technology and Strategic Trade Working Group by positively implementing "Guidelines for U.S.-China High Technology and Strategic )が今後進む。技術立国のわが国としては重要な研究課題であろう。
4.連邦政府の対応と今回の成果に関する財務省の公表内容
2007年12月13日の声明発表(The Third U.S. - China Strategic Economic Dialogue December 12 - 13, 2007, Beijing Joint Fact Sheet )でポールソン長官は「米国は経済ナショナリズムや保護貿易主義に反対する」と明言し、中国との対話路線の継続を表明している。しかし、議会との軋轢は残されており、今後の舵取りはさらに困難を増すであろう。
今回、第3回SEDの結果について財務省の公表内容を詳しく紹介するのは、わが国のメディアではほとんど紹介されていない両国の実務レベルの協議や今後のロードマップが意外と計画的に進んでいる点(中国の経済・社会・文化等のアメリカ化はわが国の比でない点)を見逃すと、わが国自体の対米戦略をも誤ると思えるからである。
(1)製品の品質および食品の安全性について
米国と中国は、(ⅰ)両国の対話の拡大、(ⅱ)食品、薬品および消費財の輸出の政府による効果的監視を認めるため、法律・方針・プログラムおよび動機付けといったインフラ強化のための情報の共有について責任を持つ。これらの目的を達成するため、両国は輸出の安全性に関し、次の8分野についての覚書文書(Memorandum of Agreement:MOA またはMemorandum of understanding:MOU)に署名した。 (筆者注7)
①食品(food and feed):米国保健社会福祉省(U.S.Department of Health and Human Services (DHHS))と中国国家品質監督検査検疫総局(General Administration of Quality Supervision,Inspection, and Quarantine:AQSIQ)
は、2007年12月11日付けの同意覚書(MOA)
②薬品および医療製品(Drugs and Medical products):米国HSSと中国国家食品薬品監督管理局(SFDA)は、2007年12月11日付けの共通理解に関する覚書(MOU)
③環境面に適合した輸出入(Environmentally compliant exports/imports):
米国環境保護局(U.S.Environmental Protection Agency:EPA)と中国AQSIQ
間の共通理解に関する覚書(MOU)
④食品の安全性(Food safety):米国農務省(U.S.Department of Agriculture)と中国AQSIQ間の食品の安全上の共同活動に関する閣僚級の合意による改善内容についての合意
⑤アルコールとタバコ製品:米国財務省と中国AQSIQは、2007年12月11日付けの共通理解に関する覚書(MOU)
その他署名した分野:⑥おもちゃ・花火・ライターおよび電化製品、⑦自動車の安全性、⑧殺虫剤使用の寛容度と貿易問題
(2)金融分野について
中国は、第4回SEDまでに次の行動を行うことについて合意した。
①中國證券監督管理委員會(China Securities Regulatory Commission:CSRC)は、(ⅰ)中国の證券会社に外国の投資家が参入することによる中国の証券市場への影響について慎重な調査を行い、また(ⅱ)その調査結果に基づき中国の証券会社に対する外国株を適用する問題について政策勧告(policy recommendation)を行う。
②中國銀行業督管理委員會(China Banking Regulatory Commission:CBRC)は、現在取組んでいる外国の金融部門の中国銀行部門への参入に関する科学的研究を2008年12月31日までに完成させる。また、CBRCはその時までに政策評価結果に基づき外国資本の銀行業務への参入問題について政策勧告を行う。
③中国は関係する監督諸規則に即して、(ⅰ)人民元建の株式(A株)のについて銀行を含む指定を受けた海外の投資家(qualified foreign-invested companies) (筆者注8)の参入、(ⅱ)指定を受けた上場会社による人民元建社債の発行、()指定を受けた合弁設立外国銀行(incorporated foreign bank)による人民元建金融債の発行を認めることに同意する。
④米国政府は、中国の銀行について内国民待遇の適用を引続き維持し、その適用が優れて内国民待遇の原則に合致することを確認する。また米国政府は同様に外国の銀行が(ⅰ)支店や子会社の設立、(ⅱ)既存の米国銀行へ出資することについて監督基準を適用する。
⑤米国は、金融監督に関する規則や手続きを迅速に中国の銀行に対して適用すべきとする中国側の要請を記した(note)。
⑥米国政府は、米国内における中国のブローカー・ディラーや投資アドバイザーの登録や運用について内国民待遇を適用することについても引続き責任を持つ。
⑦中国CBRCと米国証券取引員会(SEC)は、これら監督機関から免許を受けた金融機関が越境的活動に関し情報の共有を行うことについて近い将来文書を取り交わし署名することについて合意する。
(3)エネルギー・環境問題について
米国と中国は、(ⅰ)燃料に替わるバイオマス資源分野への切替、(ⅱ)違法な森林伐採に共同して戦うことおよび適切な森林管理を適切に推進させことについてMOUに署名した。中国は、今後エネルギー部門の全国的SO2排出権取引プログラム(nationwide program on SO2 emission trading )の開発を行い、また米国は同プログラムに関し、基本的水質環境管理や環境にやさしい燃料および車の排出ガス規制と同様に中国に技術的支援を行う。米国と中国はWTOにおける「環境改善に向けた関税および非関税障壁の軽減また適切な場合は撤廃」における両国の責任を再確認した。
(4)行政許可に関する透明性について(筆者注9)
米国と中国は行政ルールの策定時(in administrative rule-making )の透明性の拡大ならびに一般大衆の参加機会の強化について合意した。
両国はAPECおよびWTOにおける責任を含む透明性に関する国際的責務として次のことに取組むことにつき合意した。
① 極力(when possible)、(ⅰ)行政手続きの適用・採用に関しWTO協定に基づく責任において扱われる方法案について予め公表し、(ⅱ)提案方法についてコメントする合理的な機会を関係者に提供する。各国は、このWTO責務の遵守について指定した官報への掲載または公的ウェブサイト上での恒久的掲示を行う。
② 行政手続きの適用または執行の前に指定された官報においてWTO協定に基づく責任において扱われる最終的方法について公表する。
(5)米中のバランスの取れた経済成長のあり方について
米国と中国は、米中合同経済委員会(U.S.-China Joint Economic Committee)の下での議論を含む対話と協議を通じた米中の経済の不均衡に関する方法について話し合う責任がある。両国は貿易および投資に関する保護主義に対し強く反対することに合意した。
米国と中国は最近時の米国のサブプライム市場および世界的金融市場の混乱によって導かれた米国や国際的な取組みを歓迎する。両国は、引き続き構造的に重要な経済および金融の発展に関し、時宜に応じて話し合いと情報の共有を行うことに合意した。
両国の金融監督機関は、監督方法について意見交換を行うことについて合意した。2007年12月13日、14日に中国税関局と米国税関国境警備局(CBP)は2008年1月の早い時期に開始する予定の米国関税テロ対策プログラム(C-TPAT) (筆者注10)の中国における共同認定手続きのパイロットプログラムの技術的討議について合意した。
(6)官民一体の改革の促進について
米国と中国は2007年12月10日に北京で改革会議を共催した。その中で①エコシステムのための改革を成功裡に収めるための要素、改革の育成のための適切な官民の役割および知的財産の創造、保護、普及についていかなる方法で促進させるか等について議論した。その結果、両国は引続き官民改革の議論を合同で開催するとともに第3回改革会議で概要取りまとめ文書に即した共同活動を行うことについて合意した。
5.両国の今後6か月間の優先的取組作業内容
両国は、次回SEDまでに次の優先課題に取組む。
(1)既存の両国間の共同検討メカニズムを通じて、食品、薬品、医療製品を含む製品および消費財分野における対話と意見交換を一層発展させる。
(2)エネルギーと環境改善に向けた10年以上の広範囲な共同活動に取組む。この10年以上にわたる共同活動において、①技術的改革、②高度に効率的、クリーンなエネルギー技術、③気象の変化、④天然資源の持続の促進をすすめる。このため可及的速やかに計画を進めるため作業部会を設置する。
(3)①2008年の早い時期に会合を開き環境問題が緊急の課題であるという認識の下で、WTOにおいて環境改善に向けた製品やサービスなど環境改善に向けた関税および非関税障壁の軽減また適切な場合は撤廃について共同交渉を推進する。
②中国の第12次5ヵ年計画に合わせ、硫黄含有量の50PPM以下への漸次削減とより進んだ自動車汚染の管理技術の共同化の開発のための詳細計画の開発についての共同活動を拡大する。
③国際エネルギー機関(IEA)との協調を含め、情報および技術交換を通じて戦略的石油備蓄施設の建設およびその管理に関し共同活動を強化する。
(4)①投資政策、実践および投資環境についてハイレベルの意見交換を開始する。二国間の投資条約(Bilateral Investment Treaty)の交渉見通しに関する現下の議論を活発化する。
②中国の市場経済化を成功裡に導くために共同的方法により協議を継続する。
③両国間のハイテク技術と戦略的貿易の拡大と促進に向け「米中ハイテク・戦略貿易開発に関するガイドライン(Guideline for U.S. High-Technology and Strategic Trade Development)」の積極的な適用、適切な建設的方法の採用ならびに行動計画を作りあげる。両国の関係政府機関は原産地規則(rule s of origin)の分野において会合またはデジタルビデオ会議を行うことに合意する。
(5)①行政の透明性に関する各国の国際的な責務の範囲の調査を行う。
②行政ルールの策定の間における受け取ったコメントに対する調査および対応につい情報交換を継続する。
③米国に対する中国市場の分野および中国に対する米国市場分野において、行政免許を与えることに関し、条件、手続き、時間枠について定期的に両国間で情報交換を行う仕組みを確立する。
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(筆者注1)わが国でSEDについて、第1回からの交渉経緯について詳しく紹介している論文は以外に少ない。その中で参考となるのは、みずほ総合研究所「みずほアジアインサイト」2007年8月3日発行であろう。
(筆者注2)このような論調が明確なのはFujiSankei –Business i(2007.12.13) 等であろう。
(筆者注3)前記「みずほアジアインサイト」の解説も、これらの課題について米国国内の主張が十分交渉に生かされていないといった指摘が目立つ。
(筆者注4)「美中貿易全国委員会(US-China Business Council:USCBC)」は、米国と中国と取引関係の強い米国企業250社以上が集まった民間のNPO(理事会理事長はボーイング社の会長兼CEOであるW.James McNerney氏、USCBC事務局代表はJohn Frisbie氏)ある。1973年に設立され、30年以上にわたりメンバー企業に対し、貿易障壁の特定とその除去などに努め、また規則に基づく貿易、投資や競争に関し優れた情報、助言、擁護およびプログラム・サービスを行っている。
同委員会が取りまとめた現連邦議会(第110連邦議会)において提出されている中国関係の法案は下院計61本、上院計41本である。
その中で注目されている法案が、上院財務委員会が7月26日に可決したS.1607「為替相場監視法案(Currency Exchange Rate Oversight Reform Act of 2007)」 (経済実勢と乖離した為替レートを放置している外国に対抗措置を取ることが中心)と上院銀行委員会が8月1日に可決したS.1677「通貨改革および金融市場介入法案(Currency Reform and Financial Markets Access Act of 2007)」(相殺関税などより強硬な法案)である。
(筆者注5)今回のSEDのホスト役である中国の呉儀国務院副總理は、開会の辞の中で両国の友好関係を尊重しつつも米国の保護貿易主義の立法の動きには厳しい指摘を行っている。
(筆者注6)http://www.uschamber.com/issues/letters/2007/070924_china_house.htm
(筆者注6-2) U.S. -China Joint Commission on Commerce and Trade(JCCT)が開催されたのは2013年までである。最終公開日:2016年7月16日 サイトの概要を仮訳する。
1983年に設立された米中貿易貿易合同委員会(JCCT)は、米国と中国の間の二国間貿易問題に関するハイレベルな対話のためのフォーラムである。 JCCTは、発足から2004年まで、米国商務長官と中国商務大臣が共同議長を務めた。 2003年12月のブッシュ大統領とウェン首相の会合に続いて、双方は、委員会が2人の閣僚(商務長官と米国通商代表部)によって米国側で共同議長を務め、中国側では 外国貿易を担当する副首相が出席した。 JCCTには、知的財産、環境、情報産業、製薬および医療機器、統計、商法、貿易および投資など、さまざまな問題や産業をカバーする16のアクティブなワーキンググループも含まれていた。
(筆者注7)今回のブログの最大の課題は国家間における“MOA”や“MOU”の法的効果である。すでに述べたとおり、筆者は国際公法の専門家ではないが自分なりに海外のサイト情報を集めてみた。
一般契約法上の用語として用語集では契約(contract)と同様の「書面による合意」として法的拘束力(binding)を持つ場合と必ずしも持たない場合があり、またMOUとMOAは用語の違いにかかわらず互換性があり同一の法的効果があるというのが一般的である。
しかし、より正確な定義について解説したサイトにあたったところ、結構理解しにくい点があった。すなわち、契約と同様の法的効果が得られる場合の要件としては、標準的な契約条件(contract’s terms and conditions)が盛り込まれていなければならない点である(本文5.の内容が国際法上契約上の具体的条件にあたるかどうかは筆者には自信がない)。
一方、しばしばMOAは二者間の単なる共同活動や相互理解や相互の役割や責任の明確化を目的としたものがあるのである。今回の米中の合意文書が後者であるとするなら、米国内の世論に十分応えたものとならないであろう。
(筆者注8) Qualified Foreign Institutional Investors(適格国外機関投資家制度:QFII)とは、2003年5月ごろから試験的に導入され、認定を受けた機関投資家がA株(中国本土には上海、深圳(しんせん)に株式市場があり、A株は中国国内投資家限定で、通貨は人民元での取引をいう。徐々に開放されつつあるが、今のところ中国国内投資家向である)を買える制度。QFIIには機関投資家が認定されるのに厳しい条件があり、QFIIが執行されても認定を受けた機関が少なく影響はほとんどなかったが、機関投資家の認定は徐々に枠が広がり、日本では野村證券、第一生命、日興アセットマネージメント、大和証券が認定されている。2006年3月時点では世界で35社が認められている。
(筆者注9)中国の行政手続きの透明性問題について、富山県貿易・投資アドバイザー梶田 幸雄氏の論文に基づき補足しておく。「透明度の問題とは、中国市場におけるコストやビジネス機会を評価す情報開示の問題である。60%から数年来進展がないと回答し、毎年の主要課題として指摘され続けている問題である。解答の12%は、規制などの情報開示が拒まれることがあり、悪化ないし新たな問題となっていると述べている。中国の行政許可法が2004年7月1日から施行された。この行政許可法は、行政許可の範囲、種類、手続を定め、および行政許可の検査監督、費用徴収などにつき明確な規定をし、政府の行政許可および行政管理人の業務を法制化、規範化するものである。中国国内における企業活動にとっても重要な意味を持つものであるといえる。」
http://www.near21.jp/center/publication/journal/73/kajita.pdf
(筆者注10)米国C-TPAT(Customs-Trade Partnership Against Terrorism)とは、米国関税テロ対策プログラムのことで、国土安全保障省傘下の米国税関国境警備局(CBP)が実施している一連のテロ対策の中核プログラムである。
①米国に輸入される全貨物に危険物が混入するのを防ぐため、そのサプライチェーンの安全性を確保する官民共同プログラムで米国の輸入品に関係する全企業が対象になる。
②参加企業は自社サプライチェーンの保安計画を提出し、税関の検査・認証を受ける。
③米国税関が国・業種を段階的に指定。任意参加であるが、不参加者には通関時のチェックの増加など不利益が出るので、実質強制参加に近い。
④CBPが示すサプライチェーン・セキュリティ管理ガイドラインに沿って社内セキュリティ管理を実施していると認定した企業に対して、輸入通関時での低い検査率の適用などのベネフィットを提供する。
⑤輸入者、船社、通関業者、倉庫管理者、海外の製造者(メキシコ・カナダ)が対象。 既に6,600社が参加認定されている。日系米国法人も多数参加。⑥認定(validation)後、海外サプライヤーの事業所にも米国税関検査官の実地調査が入る。⑦実地調査により、評価はTier3からTier1まで3段階に区分される。Tier3が最上位。
http://nexus-partners.org/ctpat.aspxより引用。https://jp.usembassy.gov/ja/embassy-consulates-ja/tokyo-ja/sections-offices-ja/cbp-ja/customs-trade-partnership-against-terrorism-ja/
〔参照URL〕
http://www.ustreas.gov/press/releases/hp732.htm
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