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米国ブリンケン国務長官のモルドバ共和国訪問の本当の目的とは?東欧の3か国のEU加盟申請と更なるロシアの拡大戦略に要注意すべき

2022-03-07 20:49:16 | 国際政策立案戦略

 3月6 日、ロイター通信(日本語版)は「米国務長官がモルドバ共和国訪問、ウクライナ避難民の受け入れ称賛」したとある。しかし、その最大の目的はジョージア、ウクライナに続いてEU加盟申請したモルドバ共和国(以下、モルドバという)を米国としていかに後押しするかである。

 ウクライナ以外は旧ロシア連邦の一部をなす経済的・政治体制的にも小国である。以下で述べるとおり、これら3か国のEU加盟について、EU内の議論の進展は極めて弱い。すなわち、これら3か国の加盟はドイツやフランスなどと異なり、今後EU加盟国にとって足かせになることはいうまでもない。

 つまり、米国のロシアとの対峙はEUの将来にとって極めて重要な意味を持つ点をわが国としても十分理解しなければならないのである。

 今回は、ウクライナ戦争が仮に停戦合意に至ったとしてもこれら2か国の動向がさらに大きな世界的不安定を招くという問題を改めて取り上げるものである。

 また、ウクライナ戦争に関し、米国は独自にポーランドへの軍事支援(ロシア製MiG-29戦闘機(注1)、Su-57第5世代ステルス戦闘機(注2)をウクライナに譲渡する)承認すると明言していたが、ウクライナ空軍は3月1日 facebookで、EU加盟国のブルガリアからMiG-29×16機とSu-25×14機、ポーランドからMiG-29×28機、スロバキアからMiG-29×12機を受け取ると発表、これはEU外務・安全保障政策上級代表のボレル氏が「ブリュッセルの資金でウクライナに戦闘機を提供する」と27日に発表したことを受けての措置だ。

  しかし、実際は、ポーランド、ブルガリア、スロバキアはこの考えを拒絶し、ウクライナのパイロットはMiG-29を得ることなく手ぶらで去ったという記事もある。

 また米国政府は3月1日、ロシアが隣国ウクライナに侵攻した後、欧州連合(EU)とカナダによる同様の動きを受けて、アメリカ領空からのロシア便の禁止を発表した。米国運輸省連邦航空局の命令は水曜日の終わりまでに発効し、ロシア市民である人物が所有し、認定、運用、登録、チャーター、リース、または管理されているすべての航空機の運航を停止した。ただし、ロシアは当然のことながら対抗措置を取った。

 今回のブログは泥沼化するウクライナ戦闘問題と、周辺国のEU加盟の動き、さらにNATO軍の最新動向等を概観する。

1.モルドバ共和国の現状

(1)国勢

* 面積:3万3,843平方キロメートル(九州よりやや小さい)

* 人口:264万人(2020年:モルドバ国家統計局。トランスニストリア地域の住民を除く)

モルドバ(ルーマニア系)人(75.1%)、ウクライナ人(6.6%)、ロシア人(4.1%)、ガガウス(トルコ系)人(4.6%)等(2014年:モルドバ国勢調査)

マイア・サンドゥ大統領(任期4年)(Maia Sandu)ルーマニア語 )首相:ナタリア・ガブリリツァ(Natalia Gavrilița)

*トランスニストリア問題(注3)

 ロシア系住民が入植し、ロシア軍の駐留するトランスニストリア地域が1990年9月に「独立」を宣言し、1992年には本格的な武力紛争に発展(トランスニストリア紛争)。現在は停戦状態にあるが、モルドバ政府の実効支配が及んでいない。問題解決に向けた枠組として、当事者・仲介者であるモルドバ、トランスニストリア地域、ロシア、ウクライナ、OSCEに、オブザーバーの米国、EUを加えた「5+2」協議があり、教育、運輸、電話通信、環境等の分野での協力に関する合意文書が署名され、日常的に生じる問題解決に取り組んでいるが、根本的な問題解決の目処は立っていない。

* GDP: 119億ドル(2020年:IMF):日本50,451億ドル

* 一人当たりGDP:4,523ドル(2020年:IMF);日本 40,089 USドル

* 経済成長率:-7.0%(2020年:IMF)

*失業率:8.0%(2020年:IMF) 農業・食品加工業以外の基幹産業に乏しい。市場経済移行中であり、IMFと協調して構造改革に取り組んでいる。

(2)EUの加盟申請

 モルドバは3月3日(木)に正式にEU加盟を申請し、ロシアのウクライナ侵攻が始まってから1週間後に、いわゆるアソシエイテッドトリオのパートナーであるウクライナとジョージアに加わった。

 隣国のウクライナでの戦争をきっかけに、モルドバのマイア・サンドゥ大統領、首相、議会議長は、3月3日に自国がEUに加盟するための正式な申請書に署名した。

 

カタールのメディア「Al Jazeera」から引用写真

 「我々は平和と繁栄の中で生き、自由な世界の一部になりたいと思っている。時間がかかる決定もあれば、変化する世界に伴う機会を利用して、迅速かつ断固として決定しなければならない決定もありうる」と彼女は語った。さらに、申請書は数日中にブリュッセルに送られるであろうと大統領は言った。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今週初め、キエフが ロシアの侵略から身を守るために特別な迅速な手続きの下で「即時」EUのメンバーシップを取得することを許可する公式の要請を提出したときの道を示した。

 モルドバの動きは、東方パートナーシップのメンバーであるジョージアが正式にブロックのメンバーシップを申請したのと同じ日に行われた。

2.ジョージア国(共和国制)

(1)国勢

* 面積:6万9,700平方キロメートル(日本の約5分の1)

* 人口:400万人(2021年:国連人口基金)

*ジョージア系(86.8%)、アゼルバイジャン系(6.2%)、アルメニア系(4.5%)、ロシア系(0.7%)、オセチア系(0.4%)(2014年、ジョージア国勢調査)

* GDP:157.3億米ドル(2020年:IMF推計値)

* 一人当たりGDP 4,248ドル(2020年:IMF推計値)

* 経済(実質GDP)成長率:-6.1%(2020年:IMF推計値)

*失業率:18.5%(2020年:ジョージア国家統計局:)

主要産業は、茶、柑橘類、果物、たばこ、ブドウ栽培を中心とする農業及び畜産業、紅茶・ワインを中心とする食品加工業、マンガンなどの鉱業。

(2) 軍事力

総兵力20,650人(陸軍19,050人、国家警備隊1,600人)準兵力5,400人(ミリタリー・バランス2021)

(3)首相 イラクリ・ガリバシヴィリ(ირაკლი ღარიბაშვილი:Irakli Garibashvili)

(4)ロシアの強い影響

ジョージアは国内に分離独立を主張するアブハジア南オセチアを抱え、両地域には中央政府の実効支配が及んでいない。2008年8月、ロシアは両地域を「共和国」として独立承認したが、現時点でロシア以外に独立を承認したのは数か国のみ。

3.EUのこれら3カ国の加盟に関する最新動向

 本ブログでは詳しく論じないが、EURACTIVEドイツのメディアDWが詳しくEU加盟国内の動きを論じている。

4.NATO軍の対ロシア対応

 筆者の手元にNATO本部から届いた3月2日付けニュースがあるので一部抜粋し、仮訳する。

  NATO即応部隊は、月曜日と火曜日(2022年2月28日から3月1日)にルーマニアに到着し、同盟の東部でのNATOの防御態勢を強化した。 ルーマニアに配備する前に、500人のフランス軍が南フランスのイストルに集まった。

 NATOが集団的防衛と抑止のためにNATO即応部隊を活性化したのはこれが初めてである。 これは、ロシアの大規模な軍事力増強とウクライナへの侵攻によって引き起こされた、ヨーロッパで過去数十年で最大の安全保障危機の中で、NATOが防衛対応計画を活性化したことに続くものである。

 フランスは、NATO即応部隊の今年の最も準備の整った要素をリードしている。これは、NATOが必要に応じて急いで配備できる、最大40,000人の陸、空、海、特殊作戦部隊で構成される多国籍部隊である。

 NATO事務局長のイェンス・ストルテンベルグ(Jens Stoltenberg)は、この展開を歓迎し、「フランス軍はこの部隊の主要部隊としてルーマニアに到着した。 EUの集団的防衛条項である第5条に対する我々のコミットメントは、鉄壁である。 我々はNATOの領土の隅々まで保護し、防御する」と述べた。

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(注1) ロシア製MiG-29戦闘機(ポーラン空軍の飛行動画

(注2)Su-25  旧ソビエト/ロシアのスホーイ設計局で開発された亜音速攻撃機(シュトルモビク)。ロシアでの非公式の愛称は「グラーチュ*1」、NATOコードはFrogfootフロッグフット。

(注3) 日本ルーマニアビジネス協会(以下、「JRBA」)の「もうひとつのモルドバ共和国~トランスニストリア」を参照されたい。なお、JRBAのHPを抜粋する。「日本ルーマニアビジネス協会 (JRBA) は、日本ルーマニア経済または文化交流に興味をお持ちの企業・個人のための社団法人です。ルーマニア及び日本の企業や個人で構成され、両国間のネットワーキングを応援し、会員共通の利益を守る混合的な団体です。日本ルーマニアビジネス協会はビジネスの発信、交流、技術、知的交流、両国の文化及び言語教育の推進など、より多くの企業、そして人々との豊かなパートナーシップを築く為の、会員サポート向けのさまざまな事業を行っております。」

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