Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

米国連邦預金保険公社が一部預金保険対象預金の保障額を25万ドルとする恒久措置通達を出状

2010-08-14 11:53:00 | 米国の金融監督機関

 

 5月3日付けの本ブログで、米国金融監督機関でありかつ預金保険保障機関である連邦預金保険公社(FDIC)の預金保護限度額の引上げ措置および暫定措置の延長にかかる経緯等について次のとおり詳しく解説した。

 「米国では2008年10月3日 「緊急経済安定化法(Emergency Economic Stabilization Act of 2008(EESA):H.R.1424)」が成立し、同年10月8日にFDICは、EESAに基づき、預金保護限度額を 10万ドル(約850万円)から25万ドル(約2,125万円)に引き上げたと発表した。また非金利の当座預金等についてはFDICによる「暫定流動性保護プログラム(temporary Transaction Account Guarantee Program:TTAGP)」として金額無制限に保護すると発表した。施行は同年10月3日からであり、何れも2009年12月末までの暫定的措置であった。

 しかし、銀行の経営破たんの状況は引続いており、預金者の信用不安を回避するため2009年5月20日に成立した前記“Helping Families Save Their Homes Act of 2009”により、オバマ政権は、借入枠の拡大(2010年までは5,000億ドル)と、預金保護拡大措置の延長とを決めた。すなわち2008年10月に成立した金融安定化法で導入された保護上限の拡大措置(10万ドルを25万ドル)を2013年12月31日まで延長するとした。」

 実はこのようなTTAGPに基づく暫定延長措置はその後も続いており、FDICは2009年8月26日に2010年6月30日まで金額無制限の適用範囲の拡大を行い、さらに2010年4月13日には、同措置の2010年12月31日までの暫定期間の再々延長(更なるFDIC規則の改正措置なしに12か月の再延長の可能性も明記)通知を行うとともに、TTAGPの延長措置の脱退を希望する加盟金融機関については4月30日までに「オプト・アウト」する権利を留保した(同権利は2010年7月1日から有効となる)。

 今回のブログは金融規制監督や銀行経営の抜本的改革を目指して本年7月21日に成立した「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法(Dodd–Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act:H.R.4173)」(ドッド・フランク法)
(筆者注1)の包括的な解説作業をまとめる中で出てきた問題ではあるが、実は米国金融改革の更なる大きな課題を提供する預金保険制度の課題を正確に見据える意味で取り上げた。

1.FDICによるTTAGPに基づく保障金額や対象預金に関する暫定措期間の延長
(1)FDICは2009年8月26日に2010年6月30日までTTAGPに基づくFDIC加盟金融機関において金額無制限の適用範囲を「非金利(無利子)預金(要求払い預金(Demand Deposit Account:DDA))、0.5%以上の金利を得られない「低金利の普通預金(low-interest NOW account)」、「銀行振出小切手(cashier or bank checks)」および「弁護士預り金信託勘定(Lawyer Trust Accounts)」(筆者注2)まで拡大することを通知した。

(2)2010年4月13日には、同措置の2010年12月31日までの暫定期間の再延長(更なるFDIC規則の改正措置なしに12か月の再延長の可能性も明記)通知を行うとともに、TTAGPの延長措置の脱退を希望する加盟金融機関については4月30日までに「オプト・アウト」する権利を留保した(同権利は2010年7月1日から有効となる)。

2.「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法」の可決・成立と一部預金につきFDIC標準保証金額25万ドルの恒久措置
(1)2010年7月21日「ドッド・フランク法」の大統領署名と成立
 第Ⅲ編副編C FDIC 第335条「銀行や信用組合の預金保障額の恒久的増額( PERMANENT INCREASE IN DEPOSIT AND SHARE INSURANCE):165頁」に定める内容に従い、従来の預金保険法(12 U.S.C.1821(a)(1)(E))で定める10万ドルから暫定措置により引上げられていた25万ドルに恒久的に引上げられた。
(7月21日付、FDIC通達参照。)

(2)FDICの最終規則
 これを受けて、FDICは8月10日開催の理事会において「FDICの標準保障限度額(standard maximum deposit insurance amount:SMDIA)の10万ドルから25万ドルへの恒久的引上げおよびその店頭ロゴ広告の改正規則最終案)(Final Rule to Conform Deposit Insurance and Advertising (Logo) Regulations to Permanent SMDIA of $250,000 )」を採択した。この結果、連邦預金保険規則の第12編パート330および同編パート328が改正され、SMDIAは7月22日から施行されることとなった。
 なお、FDIC保障額の公式署名ロゴは即日25万ドルに改正されており、加盟金融機関は2011年1月3日までにロゴ等の差し替えを行うことが義務付けられている。
(8月12日付、FDIC通達参照)

(3)FDICのその他関連措置
 FDICの「保障保険料計算の専用ウェブ“Electronic Deposit Insurance Estimator:EDIE”」の内容も即日限度額は25万ドルに更新された。
*************************************************************************************************:

(筆者注1)「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法(ドッド・フランク法)」に関する連邦議会での審議経緯の概略は次のとおりである。
「2009年12月11日、連邦議会下院で「ウォールストリート金融街改革および消費者保護強化法案( Wall Street Reform and Consumer Protection Act of 2009:H.R.4173)(以下“H.R.4173”という)」が可決された(提案者(sponsor)は下院「金融サービス委員会」委員長バーニー・フランク(Barney Frank:民主党、マサチューセッツ州選出)および連邦財務省)。本法案はオバマ政権も強くその成立を希望しており、今後はより規制強化の内容をもつ別法案「2009年米国金融安定復元法(Restoring American Financial Stability Act of 2009)」(提案者はクリス・J・ドッド上院「銀行・住宅・都市委員会」委員長)を擁している上院で審議が行われた。
 また、フランク委員長が同時に提案した「2009年金融安定化改善法(Financial Stability Improvement Act of 2009:H.R.3996)(以下“H.R.3996”という)」も11月18日、金融サービス小委員会で修正のうえ同委員会を通過している。

 参考までに2009年12月、H.R.4173が下院に上程されたときの主旨説明のキーワードを紹介しておく。
①「消費者金融保護庁( Consumer Financial Protection Agency:CFPA)」の創設
②財務省内に「金融安定化協議会(Financial Stability Oversight Council:FSOC)」の創設
③財務省内に「金融調査局(Office of Financial Research:OFR)」の創設
④銀行事業体に対する自己勘定取引の原則禁止、ヘッジファンド等への投資の一般的禁止(ボルカー・ルール)
⑤巨大な金融機関の解体権限と「破綻させられないくらい大きすぎる金融機関」の存在を終結させる(Dissolution Authority and Ending “Too Big to Fail”)
⑥役員報酬やゴールデンパラシュートに対する株主の勧告的投票権(Executive Compensation)付与:
⑦SECの権限強化など投資家保護(Investor Protection)
⑧金融派生化商品の規制強化(Regulation of Derivatives)
⑨不動産担保制度改革と略奪的融資禁止(Mortgage Reform and Anti-Predatory Lending)
⑩信用格付け機関の改革(Reform of Credit Rating Agencies)
⑪ヘッジファンド、未公開株式および私募資本プール登録制度(Hedge Fund, Private Equity and Private Pools of Capital Registration)
⑫連邦財務省内に保険局の創設(Office of Insurance)

 同改革法案は上院で2010年5月20日可決、6月30日に下院で上院との調整修正案が可決、H.R.4173は7月15日に上院で最終可決された。
  この間、上院と下院は内容の調整協議(House and Senate conferees)を行い、6月29日に下院委員会は「ドッド・フランク・ウォールストリート改革および消費者保護法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)」の最終調整案の要旨を公表した。

(筆者注2) “Interest on Lawyers Trust Accounts (IOLTA)”とは、弁護士が依頼者から受け取っている預り金を、小口のまま銀行に預けていたのでは手数料等差し引かれ実質的な利子が付かないので、1つの口座にまとめてその利子を貧困者への法的サービス提供の資金して利用する効率的口座管理制度である。


[参照URL]
[FDICの関係通達]
http://www.fdic.gov/news/news/press/2010/pr10161.html
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2010/fil10049.html

[ドッド・フランク・ウォールストリート改革および消費者保護法(ドッド・フランク法)の原文]
http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/getdoc.cgi?dbname=111_cong_bills&docid=f:h4173enr.txt.pdf

[連邦議会下院金融サービス委員会のH.R.4173専用サイト]
http://financialservices.house.gov/Default.aspx

********************************************************************

Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission

 




コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 米国史上最大規模の原油流出... | トップ | 米国史上最大規模の原油流出... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

米国の金融監督機関」カテゴリの最新記事