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第二次米国政府の責任ある企業行動に関する国家行動計画(U.S Government’s National Action Plan)の概要

2024-03-26 11:09:34 | 国家の内部統制

 3月25日、バイデン・ハリス政権は、(1)人権と労働者の権利の尊重を強化および改善し、(2)グリーンエネルギーの利用を拡大、(3)汚職に対抗、(4)環境を保護、(5) 人権擁護者を保護、(6)ジェンダー平等と平等を推進し、(7)権利を尊重したテクノロジーの使用を促進するというコミットメントを反映した、責任ある企業行動に関する「米国の第二次国家行動計画(NAP)(以下、NAPという)」を発表した。

 11月の大統領選挙を控えたバイデン政権の活動の一環ではあるが、その重要性から見て本ブログではその概要書を注補足の追加を踏まえ仮訳する。

 バイデン大統領は史上最も労働者寄りの大統領であり、ボトムアップとミドルアウトから持続可能な世界経済を構築することに尽力している。 同氏とハリス副大統領は共に、高い労働基準を推進し、意思決定の場に労働者の声を反映させ、ここ米国内だけでなく世界中で不当労働行為に対する規則を執行することに取り組んできた。

 今回の第二次行動計画(NAP)の発表は、複数の利害関係者の調整、会議、経済的インセンティブ、規制、その他の活動を通じて責任ある事業活動を強化するという政府全体の取り組みを反映している。 この NAP は、海外で事業を展開し投資する米国企業の責任ある企業行動 (responsible business conduct :RBC) (注1)に関するあらゆる問題に取り組んでいるが、特に、急速に変化するリスク環境における効果的なデューデリジェンスなどを通じて、人権を尊重するという企業責任への期待に焦点を当てている。

 NAP は、企業が国際基準に基づいてバリューチェーン全体にわたって人権デューデリジェンス (human rights due diligence :HRDD)(注2) を実施することに対する政府の期待を定めている。この報告書は、企業が利害関係者と協力して策定したセクター固有の基準の導入をさらに進める必要があることを強調している。この基準は、バリューチェーン全体にわたる人々に対するビジネスの影響に関する進捗状況を有意義に測定するための信頼できる指標を提供する。

 NAP は、米国政府が RBC を促進および奨励し、企業による効果的な HRDD 実践の実施を加速するために、利害関係者との協議に基づいて以下の 4 つの優先重点分野を定めている。

1.責任ある企業行動に関する連邦諮問委員会の設置

国務省は、責任ある企業行動に関する連邦諮問委員会(Federal Advisory Committee)(注3)を活用して、民間部門、影響を受ける地域社会、労働組合、市民社会(人権擁護活動家を含む)、学界、およびRBCに関する政策の編成、その他の関連利害関係者との連携や取組みを強化する。

②諮問委員会は、RBC 問題に関する進展を継続し、NAP 実施の追跡を支援することができる。

2.連邦の調達政策およびプロセスにおける人権尊重の強化

① 保健社会福祉省、国土安全保障省、司法省が議長を務める米国政府ホットライン作業部会は、労働者と市民社会が連邦請負業者や下請け業者による人身売買違反を政府に通報できる方法を改善するための選択肢を特定する予定である。

② 国務省は、買収要員と連邦請負業者がプロジェクトの設計、要請、監視中にデューデリジェンスを実施できるよう支援するため、高リスクかつ大量の契約に対する人身売買リスクマッピングプロセスを試験的に実施する。

③ 国土安全保障省の税関・国境警備局( Customs and Border Protection:CBP)は、CBPが関税法に基づいて罰則を課す場合は常に、企業の連邦政府との取引の停止や禁止について、ケースバイケースで積極的な検討を指示するためのガイダンスを草案する予定である。サプライチェーンで強制労働を使用している企業に米国の税金が流れないよう関税法違反やその他の法律の繰り返しによりCBPが強制労働と闘うために施行する。

④ 国防総省は、国際人権に沿って民間セキュリティプロバイダーの監視と認証を提供する複数の利害関係者によるイニシアチブである民間セキュリティプロバイダー協会国際行動規範協会(International Code of Conduct Association for Private Security Providers’ Association :ICoCA)への加盟を奨励または要求するかどうかを評価するための民間セキュリティベンダー向けの人道法基準にもとづく審査を実施する予定である。

3.救済策へのアクセスの強化

 ①国務省は、利害関係者の関与を強化することにより、RBC に関する OECD 多国籍企業ガイドラインのための米国国内窓口 (U.S. National Contact Point :NCP) を強化する。 NCP の改革には以下が含まれる。 1)NCP の新しい諮問機関の創設、2) NCP の機密保持ポリシーの変更を提案し、その手順規則を更新する。3) 刑務所に関するNCPの最初の政策の1つを策定する,4) NCP ウェブサイトのアクセシビリティを向上させる。 NCPを強化するためのオプションを評価する。

②連邦労働省は、労働者主導の社会コンプライアンスを促進し、グローバルバリューチェーンにおける労働者の権利を保護する国際労働機関が実施する200万ドル(約3億200万円)の技術支援プロジェクトに資金を提供することで、救済制度への革新的なアクセスを開発する

米国国際開発金融公社(U.S. International Development Finance Corporation :DFC))は、政策コミットメントを更新し、報復疑惑に対応するための内部ガイダンスを開発し、DFC 苦情処理メカニズムでの匿名苦情を可能にすることにより、DFC 苦情処理メカニズムを利用する団体および個人に対する報復からの保護を強化する。

 ④ 連邦財務省は、プロジェクトの影響を受けた地域社会に対して、国際金融公社や多国間投資保証機関を含む多国間開発銀行における効果的な救済システムを提唱する。

米国輸出入銀行(Export-Import Bank of the United States)は、救済手続きの強化について輸出信用庁と協力し、救済へのアクセスとプロジェクトベースの苦情処理メカニズムの有効性を改善する方法について意見を求めるための一般向けの働きかけに取り組む。

4.企業へのリソースの提供

① 連邦労働省は、事業運営とバリューチェーンにおける労働者の権利の成果を推進するための政府全体の視点、アプローチ、および一連のリソースを伝達するオンライン・リポジトリ(オンライン収納庫)である責任ある企業行動と労働者の権利にかかる情報ハブを設立する。

②米国政府は、先住民コミュニティおよび影響を受けるコミュニティとの部族協議および関与に関するベストプラクティスに関する企業向けのガイダンスを発表する予定。

③ 連邦国務省は3月25日の週、1)検索エンジン、2)ソーシャル メディア プラットフォーム、3)その他のデジタル サービスなどのオンライン プラットフォームに対する、人権活動家の保護に関する米国政府のガイダンスを発表した。

④ 国務省は、人権侵害を可能にする、または悪化させる可能性のあるテクノロジーへの投資を検討する際に、投資家が人権デューデリジェンス( HRDD)を実施することを奨励するためのガイダンスの開発を主導する。

⑤ 米国連邦政府は、特定の国および/または分野で事業を行う、またはそれに関わる取引に従事する企業、投資家、その他の利害関係者向けに追加のビジネス勧告を作成する予定である。

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 本NAPには、前述の4つの優先分野以外にも、特定の優先分野の取り組みを詳述する付則(appendix)が含まれており、技術、気候、公正な移行(just transitions)(注4)、労働者の権利、反汚職などの分野で、米国政府がRBCを推進するために講じる追加の措置を列挙している。

 本NAP の全文は state.gov 参照。なお、 関係者は、RBCNAP@state.gov まで電子メールでいつでもフィードバックや提案を提供可である。

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(注1) 「責任ある企業行動」の国際的なスタンダードに「OECD多国籍企業行動指針」がある。人権問題に対処するための手法として提唱された「デュー・ディリジェンス(DD)」の対象を企業行動全般に拡大させたガイドラインである。

 2023年、OECD多国籍企業行動指針の改訂が検討されている。公表されている改訂案では、DD対象の拡大・明確化が提案されている。環境・科学技術等の分野で、求められるDDの量と質が底上げされ、DD義務化の潮流を加速させる可能性がある。

 欧州では、既に環境DDを義務化した国がある。AIガバナンスの法整備も進んでいる。ハードローのプレッシャーに接している欧米企業に比べ、日本企業のDD義務化への備えは遅れている。

 DDは「責任ある企業行動」を達成するための手段に過ぎない。その義務化の潮流を、受動的な「規制対応」と捉えるのではなく、能動的に「企業文化の改革を求める社会からの要請の高まり」と捉えることが重要だ。

(第一生命経済研究所「企業行動デュー・ディリジェンス拡大への対応~責任ある企業行動のための国際ガイドライン改訂案から読み解く~」から抜粋)

(注2)国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)が作成した「人権デュー・ディリジェンス:解釈の手引き」およびビジネスと人権リソースセンター「ビジネスと人権リソースセンター「人権デューデリジェンスと影響評価」参照。

(注3)    連邦諮問委員会は、1972年成立の連邦政府諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act - PL92-463)に基づき個別法、大統領、議会、機関が設置するものである。総合サービス庁(General Services Administration-GSA)は、他の連邦政府機関の行政サービス改善を目的とした連邦政府機関であるが、その業務の一つに連邦政府諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act-FACA)の管理運営責任がある。

 2019 年 6 月 14 日に、連邦諮問委員会の効用を評価及び改善する大統領令 13875 号(Evaluatingand Improving the Utility of Federal Advisory Committees)が発令された。連邦政府の各省庁に設置され、政策上の助言等を行う諮問委員会は、連邦諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act,P.L.92-463: FACA)に基づき設置され活動しているが、その設置の必要性を評価し、不要な諮問委員会の廃止を求めるものである。(外国の立法 No.281-2(2019.11) 国立国会図書館 調査及び立法考査局「連邦諮問委員会の効用を評価・改善する大統領令」他から抜粋)

また、遠藤悟「政府諮問委員会の役割」が詳細に解説している。       

(注4) 「公正な移行(Just Transition)」とは、環境問題の解決や対策を実施するうえで、関係する産業分野に従事する労働者や、産業が立地する地域が取り残されることなく、公正かつ平等な方法により持続可能な社会へ移行することを目指す概念のことです。2015年に開催された気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」の前文では、「自国が定める開発の優先順位に基づく労働力の公正な移行並びに適切な労働(ディーセント・ ワーク)および質の高い雇用の創出が必要不可欠であることを考慮」すると言及されています。(朝日新聞デジタル版から抜粋)

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