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米国の低所得者給付金支払デビット・カード化完全移行と銀行非取引世帯救済対策の現状と課題(その1)

2010-05-14 21:27:59 | 電子政府(eGovernment)


Last Updated:February 25,2021
 

 2010年4月19日、連邦財務省ティム・ガイトナー長官(Timothy  F. Geithner)は財務省と数百万の個人や民間企業を取り込む結果として連邦経費4億ドル(約364億円)の節減および1,200万ポンド(約540万トン)の紙の節約をもたらすことが期待される大規模な弱者救済給付金プリペイド・カード・システム(Direct Express Debit Card)や企業の電子納税の普及拡大や確実な資金振込の徹底化策計画を発表した。

Timothy F. Geithner 氏(2021.2現在はPrivate equity firm( 未公開株式投資会社).Warburg Pincusの社長である

 また、本計画によりコスト削減、関係者向けサービスの向上、さらに紙(政府発行小切手)から電子取引への移行により公金の受給者や納税者にとって信頼性、安全性やセキュリティを高めるとともに財務省の環境問題に対する影響を考慮することになるとしている。

 今回拡大の対象となる“Direct Express Debit Card” は、連邦財務省が2008年6月10日にその導入を公表したものである。筆者なりに調べたが、なぜかわが国では詳しい解説が見当たらない。そもそも米国の社会保障制度のうち、①社会保障における障害(Social Security disability insurance program :SSDI)、②補足的保障所得(SSI)についての法的にみた正確な解説がないのである。
 筆者は連邦社会保障庁(Social Security Administration:SSA)
(筆者注1)のサイト等で改めて調べてみた。 (筆者注2)

 保険、労働問題や社会保障等を専門とするウィンスコン州のピッツ法律事務所の解説は、米国の連邦SSDI等の適用条件の厳しさ
(筆者注3)や手続きの特異な複雑さを指摘している。適用申請手続には原則弁護士はつかないが、請求が地方の社会保険事務所から却下されたときの再審査請求を行政法審判官(Administrative Law Judge) (筆者注4)に提訴するときに弁護士の支援が必要になるとされている。このように社会的弱者に厳しい米国の実態を垣間見た気がするが、この問題自体が社会保障上の大きな問題であり別途論じたい。

 今回のブログは、“Direct Express Debit Card”システムの概要および連邦政府の最大の課題でもあるFDICを中心とする連邦政府の弱者たる国民金融サービスの改善およびその効率化の取組み状況について解説する。

 なお、本文で説明するとおり米国では海外からの移民や低所得者等銀行口座を開設
(筆者注5)できない人々が多くいる(米国の全世帯数のうち7.7%にあたる約900万世帯)。口座が作れない結果として、①パーソナルチェック(当座取引)  (筆者注6)が利用できない、②クレジットカードが使えない、③各種融資が受けられないなど、多くの不利益を被っている国民層があり、連邦政府は銀行界へ強力なイニシアティブを取るべく連邦預金保険公社(FDIC)を中心とした具体的な調査や改善策につき具体例をもとに模索し続けている。 (筆者注7)

 今回は、2回に分けて掲載する。


1.“Direct Express Debit Card”制度の概要
(1)2008年6月の財務省の制度導入に関する説明
 米国の社会的弱者である社会保障給付金の受給者(連邦社会保障庁 (筆者注8)が担当)や追加所得保障給付金(Supplemental Security income :SSI)の計約400万人に対し、“Direct Express Debit Card”の運用を10州(アラバマ、アーカンサス、フロリダ、ジョージア、ルイジアナ、ミシシッピー、ノースカロライナ、オクラホマ、サウス・カリフォルニ、テキサス)で開始した。

 同カード利用の具体的な利点は次のとおりである。
①SSDIおよびSSI (筆者注9)の受給者は、銀行口座を持たないため毎月の受給にあたり政府発行小切手の受取に依存していた。
②政府発行小切手については、小切手詐欺・盗難や天候不順による交付遅延等があった。カードには法律で認められる最高額までFDICが保障する金額が入力されており、保持者はATMや小売店でPIN入力により安全な利用が保証される。仮にカードが紛失・盗難にあったとき、カードは再発行される。
③需給者にとって、利用の無料化または低コスト化がかなう。カード発行の申込費用や月次利用料はかからない。オプション利用による手数料が一部適用されるが基本的には無料である。
 例えば、カード保持者は小売店のレジでキャッシュ・バックを無料で受けたり、銀行や信用組合の店頭で現金の引出が可能となる。さらに、保持者は合衆国内の給付金受取のため指定された口座から現金を1回は無料で引き出すことができる(同ネットワーク以外のATM引出しについてはATM所有機関等に割増手数料が課されることがある)。
④利便性として、保持者はATM、電話およびオンラインにより無料で同プリペード・カード残高の照会ができる。

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(筆者注1) 連邦社会保障庁は、年金加入者の記録、社会保障税の納付記録、給付額の算定、給付等年金制度の運営に当たる。より具体的に言うと、退職年金、障害者および寡婦(夫)年金の申請取扱い、社会保障番号(ソーシャル・セキュリティー・ナンバー)の発行、年金受給開始後の住所変更、受け取り方法の変更、給付金用小切手の再発行、死亡による支給停止などの業務を行う(米国日本大使館サイト等より引用)。オンライン公式ウェブサイトが“Social Security Online ”である。

(筆者注2) 米国の主な公的社会保険制度は、社会保障法に定められたOASDI( Old-Age,Survivors and Disability Insurance )プログラムとメディケア・プログラムであり、その財源は、主に、連邦保険拠出法の趣旨を具体化した内国歳入法§3101に基づいて賦課される社会保障税と同法§3121が定めるメディケア税によって各々調達され、社会保障給付は、原則として、社会保障税やメディケア税等を一定期間以上納めることによって得る受給要件に基づいて行われる(務税大学校教授松 田直樹氏「国税と社会保険料の徴収一元化の理想と現実」から抜粋)。

(筆者注3) ピッツ法律事務所の指摘では、米国の社会保障法規でいう「障害」の意義はしばしば保険契約(insurance policies)や他の法律と異なるものであると記されている。具体的には連邦行政規則集(C.F.R.)第20編第404部が連邦法における老人、相続人や障害者保障に関する規則部分である。また、その1505条が障害の基本的定義規定である。

(筆者注4) 米国の「 行政法審判官(administrative law judge)」においても,やはり問題となるのは,行政法審判官が行政機関においてどれだけ独立して職務を行うかということである。・・・・・・この問題が注目されたのは,社会保障局の行政法審判官統制プログラムが実施された時であった。社会保障局は各行政法審判官の申請認容率を均一化するため「質保障プログラム」を行っていたが,しばしば行政法審判官の独立を害するとして、問題となっていた」立命館大学 正木宏長氏「行政法と官僚制(4)」や内閣府サイトから抜粋。

(筆者注5) 銀行等民間金融機関やゆうちょ銀行に個人が口座を開設する場合の条件につき簡単に解説しておく。これは消費者向け金融リテラシー上重要な点であるが、わが国でははたしてどのサイトや窓口で正確に説明しているであろうか。以下の内容と比較して欲しい。

1.口座名義人が日本国籍を有し満18歳以上であること(学生、無職でも可)
自身で手続やその意味が出来ないできない行為無能力者(行為能力とは、単独で完全に有効な契約などの法律行為をすることが出来る能力で「意思能力」がない者が該当)、制限行為能力者(未成年者(民法5条)・成年被後見人(同法8条)・被保佐人(同法12条)、被補助人(同法16条)の4つが該当)の場合は代理人への委任状および代理人自身の本人確認書類(原本)を持参した手続が必要である。
 さら具体的なケースでの解説が金融実務面では重要となり、顧客への丁寧な説明にも留意すべきであろう。
(1)口座名義人が満12歳以下(13歳未満)の場合
 法定代理人たる親権者(原則として父・母)双方の代理人取引届出が必要となる。この場合、名義は未成年者であってもその財産管理を法定代理人が行うものである。なお、銀行によっては未成年者がみずから口座取引を行うことを希望しかつ銀行が相当と認めたときは本人が取引を認めることがあると定める例があるが、わが国の民法の不法行為の責任能力(自己の行為が違法であること=法的に非難を受け何らかの法的責任が生ずること)を認識できるだけの知能)が12歳と解されていることから、認めるとしても一般的には15歳以上と考えられよう。
ただし、この年令確認はインターネット・バンキング(テレフォン・バンキングではさすがに預金者とのやり取りから不自然さを感じることもあろう)」のような場合はかならずしも可変暗証等の仕組み自体を12歳の未成年者が行うリスクは消えない。このためか銀行は「利用約款」で暗証番号などの管理責任を明確化(「当行が本規定にしたがって本人確認を行った上、取引を実施した場合、「契約者ID」、「パスワード」等について不正利用、その他の事故があっても、そのために生じた損害については、当行は責任を負いません。但し、「契約者ID」および各「パスワード」の管理について、契約者の責めに帰すべき事由がなかったことを当行が確認できた場合の当行の責任については、この限りではありません」等)という免責規定の内容を定めているのが一般的である。

(2) 口座名義人が満13歳以上で20歳未満)の場合
取引者につき法定代理人または名義人本人の選択が可能となり、本人が行う場合は未成年者と法定代理人(父・母)の同意書(賠償同意を含む)の「連名同意書」を提出する例が一般的である。

2.本人確認書類
 次の本人確認書類の場合には、窓口で原本を直接提示することにより本人確認を行う。(銀行協会のHP から引用) なお、本人確認制度の目的はあくまで、 マネー・ローンダリングやテロ資金供与を防止するための対策の一環として、金融機関をはじめとする各種の事業者に対する法律(犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)の遵守である。このため筆者も経験したがわが国でもこの制度の厳格適用の開始によりいわゆる略字の姓名による新規開設届出は受けつけられない可能性が高いので要注意である。
1.運転免許証
2.旅券(パスポート)
3.住民基本台帳カード(写真付のもの)
4.各種年金手帳
5.各種福祉手帳
6.各種健康保険証
7.外国人登録証明書
8.取引に実印を使用する場合の当該実印の印鑑登録証明書

 次の本人確認書類の場合には、窓口で原本を提示するとともに、当該取引に係る書類などを顧客に郵送し、到着したことを確認することによってご本人の本人確認を行う。
1.住民票の写しまたはその記載事項証明書
2.印鑑登録証明書
3.戸籍謄本・抄本(戸籍の附票の写しが添付されているもの)
4.外国人登録原票の写しまたはその記載事項証明書
5.官公庁から発行・発給された書類

3.届出印鑑(市販の三文判でも可であるがシャチハタ等は不可)

(筆者注6) 米国の銀行にパーソナルチェック用の当座預金口座(checking account)を開設することをいう。なお、わが国の説明は一般的にと言うかほとんど「米国の銀行や信用組合の当座預金口座には利息(付利)がない」と書かれている。これは明らかな誤りで、米国の金利比較専門サイトで見れば一定の当座預金の場合には条件によっては金利がつく商品がある。
 当座預金の付利のための条件とはどのようなものであろうか。ためしに“Bankrate .com”サイトでミシガン州デトロイト地区の銀行の非インターネット・バンキングでの“Checking Account”につき比較してみた。なお、同社サイトで見るとおり、米国の取引銀行の比較は金利を含む利用条件がほぼ横並びのわが国と比べ面倒くさい。反面、比較研究材料は多い。

①非付利タイプの銀行:11行、口座開設時預入額0ドル(1行)~200ドル(1行)、月間口座維持手数料0ドル(7行)~8.95ドル、口座維持手数料無料化残高0ドル(9行)~1,500ドル(1行)
②付利タイプの銀行:12行、平均金利(APY)0.01%(1行)~1.25%、口座開設時預入額1ドル(3行)~3,000ドル(1行)、月間口座維持手数料3ドル(3行)~25ドル(1行)、口座維持手数料無料化残高0ドル(3行)~15,000ドル(1行)

(筆者注7) 米国における銀行口座開設が出来ない個人の問題に関する実態を踏まえた分析としては、モナッシュ大学ビジネス経済学部スティーブ・ワーシントン教授の小論文“Financial services for the unbanked in the U.S. — why, who, and what?”( Steve Worthington, Professor, Department of Marketing, Monash University)が参考になる。

(筆者注8) 連邦社会保障庁(Social Security Administration:SSA)は委員長Michael J. Astrue氏をヘッドとし、従業員数は約62,000名、本部はメリーランド州のバルチモアにある。地方レベルのサービス提供に当たるため10の地方事務所、6つの事務処理センター、約1,300の出張所をもつ。

(筆者注9) 補足的保障所得(SSI))は、65歳以上であるか、視力障害またはその他の障害を持ち、収入や経済リソースが限られている障害者に毎月手当が支払われるプログラムである。SSI受給資格がある場合、自分がどの州に住んでいるかに応じて、メディケイドや食料切符の形で、毎月手当を受け取ることになる。メディケア保険料は全州で支払われます。
 補足的保障所得は、本人や家族が以前に職業に従事していたか否かには関係なく支払われます。
(Christpher & Dana REEVE FOUNDATIONの日本語サイトから抜粋、引用(一部筆者の責任で加筆))

[参照URL]
・http://www.fms.treas.gov/news/press/directexpress_launch.html(2008年6月10日、財務省財務管理局(U.S.Department of the Treasury’s Financial Management Service(FMS))が社会保障費の支払につき小切手からDirect Express Debit Cardへの移行計画を公表)。

【補筆】2021.2.25 現在のFMSのDorect Express Debit Cardの解説サイト

また、2011年4月26日財務省Bureau of theFiscal ServiceはiU.S. Treasury to "Retire" Paper Check for New Recipients of Social Security and Other Federal Benefits, Saving Taxpayers $1 Billion」を発表し、その冒頭で「米国財務省は、連邦給付を申請している何百万人ものベビーブーム世代やその他の人々に対する紙の社会保障小切手を廃止する。これにより、納税者は今後10年間で10億ドル節約できる。 2011年5月1日以降、社会保障、退役軍人、またはその他の連邦給付を新たに申請する人は、電子支払い方法を選択する必要がある。紙の小切手はオプションではなくなる。 現在、紙の小切手で連邦給付を受け取っている人は、2013年3月1日までに直接預金に切り替える必要がある。・・・・」

http://www.fdic.gov/unbankedsurveys/unbankedstudy/FDICBankSurvey_ExecSummary.pdf
2009年2月、FDIC「非銀行口座保有者の口座開設に向けた銀行の努力に関する調査結果および改善勧告の要旨(FDIC Survey of Banks’ Efforts to Serve the Unbanked and Underbanked)(12頁)」
http://www.fdic.gov/news/news/press/2009/pr09216.html
FDICが2009年12月2日公表(FDIC National Survey of Unbanked and Underbanked Households)した非銀行取引世帯に関する低所得や種数民族に偏った全世帯の4分の1が該当する旨の研究結果リリース
http://www.treas.gov/press/releases/tg644.htm
2010年4月19日、連邦財務省が社会保障等個人向け公金支払システムの完全電子化(カード化)開始を公表
https://economicinclusion.gov/
米国連邦政府の経済的弱者支援サイト“EconomicInclusion.Gov."経済的包摂”

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