わが国では2009年5月21日から「裁判員制度」が開始され、裁判や捜査等に関する国民やメディアの関心も高まりつつあるが、一方で去る9月10日、大阪地裁で元厚生省局長村木厚子氏に対する無罪判決が下された事件の内容を見るにつけ、わが国でも捜査や裁判の公正・公開性の重要度はますます増加するといえよう。
このような中で、筆者の手元に9月14日付けで米国連邦司法会議(Judicial Conference of the United States)が連邦地方裁判所法廷のカメラ撮影や一定の民事裁判手続きのデジタル・ビデオ録画の一般公開につき限定的ではあるが、今後最長3年間のパイロット計画 (筆者注1)の実施につき承認した旨のニュースが届いた。
連邦司法会議については本ブログでも何回か紹介してきたが、タイムリーな話題として簡単に紹介する。また、これに関し、アイオワ州司法部から届いた最新情報として同最高裁判所主席裁判官であるマーク・キャディ(Mark S.Cady)が12月6日に連邦議会上院司法委員会「行政監視および法廷に関する小委員会(Subcommittee on Administrative Oversight and the Courts)」で証言するというリリースが手元に届いたので、関連情報として追加する。
なお、2010年9月現在の司法会議の構成メンバーを参照されたい。
1.パイロット期間
最長3年間とする。
2.計画の評価対象
(1)連邦地方裁判所の法廷のカメラ撮影の効果、裁判手続のビデオ録画およびそれら記録の一般的公開の評価とする。その開発の詳細およびパイロット計画の実施については「同会議:裁判運営および事件管理委員会(Conference’s Committee Administration and Case Management)」により今後決定される。
(2)必要に応じ、本パイロットに参加する裁判所はパイロット試験計画に参加する裁判官に例外を提供するためローカル・ルール(適切な公的通知やコメントの機会の提供)を改正することとなる。
(3)本パイロット計画への参加は公判裁判官(trial judge)の裁量に基づく。
(4)パイロットの下で参加する裁判所は裁判手続を録音するが、その他の団体や個人」による録音は認められない。陪審メンバーの発言録音は認められず、また公判における訴訟当事者のパイロットへの同意が必要である。
2.実施結果の報告
連邦司法センター(Federal Judicial Center) (筆者注2)は、本パイロット計画の中心的役割を担い、開始後1年目と2年目の終わりに中間報告を作成する。
3.電子メディアへの報道原則の見直しの経緯
刑事裁判手続の電子メディアへの適用は1946年採択された連邦刑事訴訟規則第53条(筆者注3)の下ならびに1972年連邦司法会議により明白に禁止されている。しかし、1996年に司法会議は控訴裁判所におけるカメラ撮影禁止を撤回し、口頭弁論の放送を認めるか否かは巡回区控訴裁判所の裁量に委ねることとなった。
今まで、第2巡回区控訴裁判所および第9巡回区控訴裁判所が当該報道(coverage)を認めている。
なお、連邦司法会議は1990年代前半に6つの連邦地方裁判所と2つの控訴裁判所で民事訴訟事件において電子メディア報道を認めるパイロットプログラムを実施した。
4.アイオワ州最高裁判所主席裁判官等による上院小委員会での証言
アイオワ州の司法部のリリースは関係者向けのためか、あまり説明内容は詳細でない。本ブログはわが国の読者が中心であるため、筆者なりに補足して説明を行う。
なお、実は小委員会の証言の模様はライブ(WEBCAST)で見ることが出来るのであるが、(筆者注4)筆者がこの原稿を書いているのは12月6日の午前中である。米国はまだ12月5日の夜中であるため、その感想を記すことはあきらめ、ここでは司法部のリリース内容のみ紹介する。
・12月6日、アイオワ州最高裁判所主席裁判官マーク・キャディは、連邦議会上院司法小委員会においてアイオワ州裁判所における裁判手続中のビデオ等の報道の前向きな取組み内容につき証言する。
・アイオワ州司法部は、法廷でのビデオやオーディというメディア報道を認める米国内のリーダー的存在といえる。30年以上にわたり、アイオワ州の法廷は法廷内での録音、写真撮影とビデオ撮影を認めてきた。このような取組みを行う前は、米国の他州における裁判所慣行と同様、公判におけるメディア報道の手段はペン、鉛筆、紙およびスケッチ帳に限定されていた。
1979年に徹底的な検討にもとづきアイオワ州最高裁は訴訟当事者の権利や公正な裁判を受ける権利を保護する一方で、公判傍聴時のオーディオ、ビデオおよび写真撮影を認める裁判所規則を採択した。
・また、最近時同最高裁は口頭弁論手続のビデオ放映を認めた。
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(筆者注1)「計画要旨(The Plan in Brief) 」の部分を仮訳しておく。
「本計画は、連邦司法部門の中核的価値を保存する一方で、挑戦と機会を利用するという伝統に合致し続けるものである。それは、効果的に使命を果たす司法部の能力に挑戦したりまたは複雑化する司法部門に影響する様々な傾向や問題を考慮に入れたものである。さらに、本計画は、未来が正義を提供するシステムの改良にとって非常に大きな機会を提供するかもしれないと認める。
本計画は、連邦司法制度の(1)アクセスしやすさ、(2)タイムリー性、(3)効率性および(4)米国民の最もすばらしい法的な才能を司法サービスに引き付けるもので、非常に適任な幹部要員と補助スタッフのための選択に関し連邦政府の他の部門と共に力を発揮して、国民の信認や信用を受ける雇い主になると期待する。
本計画は、行動について概説する議題が、司法部の成功を保存して、適切である場合積極的な変化を引き起こす必要がある場合に役立つ。
そこに記された目標と戦略は目下進行中である。また考えられているあらゆる重要な活動、プロジェクト、イニシアティブや研究を含んでいないが、本計画は全体の司法部門に影響する問題に注目に焦点を合わせるもので、かつ司法部門全体と国民の利益となる方法でそれらの問題に対処するものである。
本計画で特定されているのは、司法部門が現在記述しなければならない「7つの基本的な問題」と各問題に関し組合せとなる対応策である。
これらの問題の範囲は(1)司法の提供、(2)裁判データ等の有効で効率的な管理、(3)司法従事者、技術の可能性、司法過程へのアクセス、連邦政府の他の部門との関係の未来、および(4) 連邦裁判所への国民の理解、信頼および信任のレベルを含む。
(筆者注2) 1967年に設立された連邦司法センター(Federal Judicial Center)は、継続的な教育・研究のための連邦最高裁の機関である。その職務は概して3つの領域に分かれる。すなわち連邦裁判所に関する研究を行うこと、連邦裁判所の管理・運営を向上させる提言を行うこと、司法府職員の教育・訓練プログラムを作ることである。
連邦司法センターの設立以来、裁判官たちは同センターが主催するオリエンテーションその他の教育プログラムを受けるという恩恵を受けてきた。近年は、治安判事、破産裁判所裁判官、管理職員たちも教育プログラムを受けることができるようになった。連邦司法センターは、ビデオや衛星中継技術を広範に活用しており、多数の人々が利用することができるようにしている。アメリカ合衆国日本大使館「Outline of the U.S.Legal System 」から引用。
(筆者注3) Rule 53の原文は次のとおりである。“Courtroom Photographing and Broadcasting Prohibited:Except as otherwise provided by a statute or these rules, the court must not permit the taking of photographs in the courtroom during judicial proceedings or the broadcasting of judicial proceedings from the courtroom.”
[参照URL]
・http://www.uscourts.gov/News/NewsView/10-09-14/Judiciary_Approves_Pilot_Project_for_Cameras_in_District_Courts.aspx
・http://www.uscourts.gov/uscourts/FederalCourts/Publications/StrategicPlanCover2010.pdf
・http://civilwatchdoginjapan.blogspot.com/2009/05/blog-post.html
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