11月3日、筆者の手元に CNBC記事「ニュ―ヨーク州最高裁判所裁判官は、ニューヨークAGの勝利 となるトランプ一家(Trump Organization)の財務報告等を監督する独立した監視人の任命を承認」が届いた。
【裁判所決定のキーポイント】
ニューヨーク州ニューヨーク郡最高裁判所(注1)のアーサー・エンゴロン裁判官(Arthur Engoron)は、トランプ一家の財務諸表(financial statements)と財務報告書(financial reports)を監督する特別な独立監視人の任命を承認した。
また、アーサー・エンゴロン裁判官(注2)の命令は、裁判所と司法長官事務所に事前に通知することなく、会社が非現金資産を譲渡することを禁じた。
この独立監視人の任命は、「2011年から2021年までのトランプ氏の[財政状態に関する財務諸表等のすべてを通して永続的な虚偽表示を考えると正当化された」とエンゴロン判事は決定で明確に述べた。
ところで、筆者は、まず2022年9月21日、ニューヨーク州司法長官(AG)のレティシア・ジェームズ(Letitia James)氏は、ドナルド・トランプ前大統領、トランプ一家、彼の成人した子供3人等を、会社の事業に関連する何年にもわたる虚偽の財務諸表を含む広範な詐欺の疑いで訴えた裁判の詳細を調べた。
今回のブログは、まずジェームズ氏の長年にわたるトランプ企業の虚偽の財務諸表、財務報告に関する民事訴訟提起の内容をCNBC記事等を詳細に解析し、そのあとで特別な独立監視人の任命について法的に見て補足しながら解説する。
なお、いうまでもなくこの裁判論争は連邦議会の中間選挙や州知事選挙(注3)を左右する重大問題といえる。
1.ニューヨーク州司法長官のレティシア・ジェームズは、9月21日ドナルド・トランプ前大統領、トランプ一家の彼の成人した子供3人などを、会社の事業に関連する何年にもわたる虚偽の財務諸表や財務報告を含む広範な詐欺・虚偽行為の疑いで告発
ニューヨーク州は、広範囲にわたる詐欺の申し立てをめぐってドナルド・トランプ、彼の会社、家族等を訴え、少なくとも2億5000万ドル(約367億5000万円)の損害賠償(in dameages)を求めた。
CNBC記事11/4, 同記事を仮訳する。なお、これら記事の筆者は法律専門家ではない点が気になるため補足するとともに、筆者の責任で原文が冗長なので整理し直した。
ニューヨーク州司法長官のレティシア・ジェームズは9月21日に、ドナルド・トランプ前大統領、トランプ一家の彼の成人した子供3人などを、会社の事業に関連する何年にもわたる虚偽の財務諸表や財務報告を含む広範な詐欺・虚偽行為の疑いで訴えた。
CNBC動画から引用
マンハッタンの州の最高裁判所に提起された220ページにわたる民事訴訟の訴状は、少なくとも2億5000万ドル(約367億5000万円)の損害賠償を求めている。
【訴状の主な内容】
(1)ドナルド・トランプ、その子供であるドナルド・トランプ・ジュニア(Donald Trump Jr.)、エリック・トランプ(Eric Trump)、イヴァンカ・トランプ(Ivanka Trump)がニューヨークの会社の役員を務めることを永久に禁止し、訴訟で指名されたトランプ企業がニューヨーク州で事業を行うことを永久に禁止する。
また、ジェームズ氏は、マンハッタンの連邦検察官と合衆国内国歳入庁(IRS)に、連邦犯罪の可能性についてトランプ氏を捜査するよう要請したと述べた。彼女は、トランプの3年間の民事調査中に得られた証拠は、銀行詐欺と金融機関への虚偽の陳述の犯罪の可能性を示していると述べた。
(2)トランプ氏が銀行、保険会社、IRSへの財務諸表で資産の価値を大幅に誇張して、彼の会社にとってより有利なローンと保険条件を取得し、他方で違法に納税義務を引き下げた。
ジェームズ氏は記者会見で「トランプは彼の純資産を数十億ドル誤って膨らませ、トランプと彼の会社がニューヨークの不動産を5年間取得することを禁じ、同じ期間に州にチャートされた銀行からのローンを申請することを禁じることを目指す」と発表した。
彼女は声明で「あまりにも長い間、この国の強力で裕福な人々は、法律等規則が彼らに適用されないかのように活動してきた。ドナルド・トランプは、この不正行為の最もひどい例の一つとして際立っている。ドナルド・トランプは、彼の子供たちとトランプ一家の上級幹部の助けを借りて、彼の純資産を数十億ドル誤って膨らませて、自分自身を不当に豊かにし、システムをだました」と述べた。
同訴訟では、「大幅に膨らんだ資産価値の数値は驚異的であり、特定の年の不動産保有のすべてではないにしてもほとんどに影響を与えている」と主張している。
(2)全体として、トランプ氏、トランプ一家およびその他の被告は、繰り返されるパターンと共通のスキームの一部として、2011年から2021年までをカバーする11の財務諸表に含まれる資産の200を超える虚偽の誤解を招く評価を導き出した」と訴状は明記した。
訴状によると、トランプ氏の個人的な財務諸表は「2011年から2021年までの期間、その構成と表現の両方で詐欺的で誤解を招くものであった」。
ジェームズ氏は、トランプがマンハッタンの彼のアパートが詐欺の疑いの一部として実際の3倍以上のサイズであると偽って主張したと述べた。そして訴状によると、トランプはフロリダ州パームビーチにある彼のMar-a-Lagoクラブの資産を、資産が多くの厳しい制限の対象であることを知っていたにもかかわらず、無制限の財産にあり、住宅用に開発できるという誤った前提で評価した。
Mar-a-Lagoは「年間収益は2500万ドル未満であった」とジェームズ氏は述べている。「それは約7500万ドルと評価されるべきであったが、それは7億3900万ドルと過大評価した」
訴状によると、「トランプ一家が第三者に反対の主張をしているにもかかわらず、トランプの財政状態の声明を作成するために社外の専門家を雇っていなかった。これらの財務報告書には、ローンや保険の適用範囲を取得するために使用されたさまざまな不動産資産の価値に関する請求が含まれていた。トランプ氏とトランプ一家が、資産の評価にアプローチする方法に関係する外部の専門家からアドバイスを受けた限り、彼らは日常的にそのようなアドバイスを無視または矛盾していた」とある。
ジェームズは、その具体例として、訴訟に記載されているマンハッタンの不動産、「ウォール街40番地」を指摘した。すなわち、彼女は、トランプ一家とトランプは、その資産の価値を2010年8月1日時点で2億ドル、2012年11月1日時点で2億2000万ドルと計算する銀行から評価を受けたと述べた。
しかし、トランプの2011年の財務諸表では、ウォール街40番は5億2400万ドルの価値があると記載されていた。その後、その評価額はトランプの2012年の財務諸表で5億2700万ドル、2013年の声明で5億3000万ドルに増加し、「『専門家』によって計算された価値の2倍以上」となったと訴状は述べた。
(3)トランプに加えて、訴訟の被告には、トランプ一家の最高財務責任者(CFO)を長年務めたアレン・ワイセルバーグ(Allen Weisselberg)氏(注4)が含まれている。
Allen Weisselberg氏
ワイセルバーグとトランプ一家は2021年、マンハッタン地方検事局から、ワイセルバーグを含む企業幹部に与えられた報酬の一部に税金を払わないようにするための計画の疑いで刑事告発された。
(4)訴訟の他の被告には、ワイセルバーグのサブである経理部門幹部ジェフリー・マコニー(Jeffrey McConney)氏
Jeffrey McConney氏
およびマンハッタン、ウエストチェスター郡、ニューヨーク、ワシントンDC、シカゴに不動産を所有するいくつかのトランプ企業が含まれる。
(5)全部で7訴因からなる損害賠償訴訟は、企業財務記録の改ざんビジネス記録を改ざんする陰謀、虚偽の財務諸表の発行、虚偽の財務諸表を改ざんする陰謀、保険金詐欺保険金詐欺を犯す陰謀等、執拗で繰り返される詐欺行為を主張している。
マンハッタンの地方検事局(Manhattan District Attorney's Office:DA))のスポークスマンは、ジェームズがトランプについてその事務所に刑事照会したことについてコメントすることを拒否したが、トランプは何年もの間、民主党の司法長官が共和党の元大統領に対する政治的敵意によって動機付けられたと言って、彼のビジネスを調査したとしてジェームズを強く非難してきている。
(6)トランプ一家や弁護士等の反論
アメリカの億万長者は、米国の中間選挙に記録的な8億8000万ドルを費やした。2022年の選挙への連邦および州の支出は167億ドルを超え、これまでで最も高価な中間選挙期になった。トランプ顧問弁護士のカッシュ・パテル(Kash Patel )は、マー・ア・ラゴ文書事件で証言するための免責を認めた。
Kash Patel氏
刑事告発されたポール・ペロシ(ペロシ下院議長の夫)の攻撃者(注5)であるデビッド・デパペ(David DePape:カナダ国民)は、拘留から解放された後、国外追放される可能性があると国土安全保障省(DHS)は述べている。選挙当局は、陰謀を煽る脅威に備えているが、それでも最高のものを望んでいる。
David DePape被告(Los Angels Times記事から引用)
バイデン大統領は、極端な「MAGA共和党員」が有権者と選挙当局を脅迫したと非難し、民主主義を「腐食させる」と呼んでいる。
「彼女(ジェームズ氏)の本当に悪い世論調査数を見るまで、この訴訟が提起されるとは思っていなかった」とトランプはジェームズ氏の再選レースに言及して書いた。「彼女は、都市が彼女の監視下にある世界の犯罪と殺人の災害の1つであるという事実にもかかわらず、「トランプを手に入れる」プラットフォームでキャンペーンを行った詐欺師である!」
トランプ氏の顧問弁護士、アリーナ・ハバ氏( Alina Habba)(注6)は9月21日の声明で、「今日の司法長官の訴状提出は事実や法律に焦点を当てているのではなく、司法長官の政治的議題を推進することだけに焦点を当てている。司法長官事務所が、不正行為が全く行われていない取引を詮索することで、その法定権限を超えていることは十分に明らかである。我々は、わが国の司法制度がこのチェックされていない権限の濫用に耐えられないと確信しており、司法長官の無益な主張のすべてからクライアントを守ることを楽しみにしている」と批判的に述べた。
訴状によると、ジェームズ長官事務所は65人以上の目撃者にインタビューし、調査の一環として何百万もの文書を検討したという。
(7)ニューヨーク州マンハッタン地方検事局は、トランプと彼の会社の犯罪捜査を行っており、ジェームズが訴訟で行った主張を多くの点で反映している。
しかし、DAの事務所は今日まで刑事告発を行っておらず、2022年の初め以来、そうする可能性は低いようである。
司法長官の記者会見の後、DA局長アルビン・ブラッグ(Alvin Bragg)氏は声明で、「ドナルドJ.トランプ前大統領、トランプ一家およびそのリーダーシップに関する私たちの犯罪捜査は活発で進行中である」と述べた。
*トランプ氏らに対する訴状は参照可である。
2.ニュ―ヨーク州最高裁判所裁判官はニューヨーク州司法長官の要請に基づくトランプ一家(Trump Organization)の財務報告等を監督する独立した監視人(monitor)の任命を承認
CNBC記事を以下、仮訳する。
ニューヨーク州最高裁判所のエンゴロン裁判官は、任命のほか同時に説明責任を回避するため裁判所と州司法長官事務所に事前に通知することなく、トランプ企業が非現金資産を州外に譲渡することを禁じた。
11月3日のエンゴロン裁判官の11頁にわたる決定文(decision and order)は、ニューヨーク州司法長官のレティシア・ジェームズによって2022年9月21日に提起された抜本的な訴訟で指名されたトランプと彼の成人した3人の子供たちにとって重大な打撃といえる。
このニューヨーク州司法長官による訴訟は、トランプと他のトランプ一家の幹部を、財務諸表等に関連する数十年にわたる詐欺行為で非難するものである。
エンゴロン氏の書面による裁判所命令は、「2011年から2021年までのトランプ氏の[財政状態に関する声明]のすべてを通して永続的な虚偽表示」を考えると、独立した監視人の任命は正当化されると述べ、11月15日まで、双方から推奨される潜在的な監視人を検討するように双方に与えた。
監視人は、詐欺を禁止するニューヨーク州法に違反する「さらなる詐欺や違法性がないことを保証する」ことになろう。
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(注1) ニューヨーク市の裁判所制度について、筆者のブログで詳しく解説している。
参考までにWikipediaの解説(New York Supreme Court)を仮訳する。
ニューヨーク州最高裁判所は、ニューヨーク州統一裁判所制度における一般管轄権を有する裁判レベルの裁判所である。 (その上訴部は、最高の中級上訴裁判所でもある) ニューヨーク市以外の多くの郡では、主に民事管轄裁判所として機能し、ほとんどの刑事事件は郡裁判所で処理されるが、無制限の民事および刑事管轄権が付与されている。
最高裁判所は事実審裁判所であり、州の最高裁判所ではないという点で、他のほぼすべての州の裁判所とは根本的に異なる。 ニューヨーク州の最高裁判所は上訴裁判所である。 また、それは事実審裁判所ではあるが、最高裁判所は「州のいくつかの郡または司法区にある別々の裁判所の集合体ではなく、一般的な州全体の管轄権を持つ単一の大きな法廷」として機能している。 最高裁判所は、ニューヨーク州の 62 郡のそれぞれに設置されている。
(注2) Arthur F. Engoron 判事は現在、ニューヨーク州最高裁判所第一裁判区(ニューヨーク郡)判事である。
決定文は正式には“preliminary injunction and appointment an independent monitor”である。この“preliminary injunction”は、予備的差し止め命令である。
(注3)2022年11月8日(火)に中間選挙が実施され、下院の全435議席、上院は3分の1の34議席が改選される。バイデン政権の審判となる選挙になるが、バイデン政権の支持率低迷で民主党の劣勢が予想されている。また、中間選挙投開票日には、36州で州知事選が行なわれる。
(注4) 2022.9.18 Bloomberg 記事「トランプ一家のCFO、税金詐欺で司法取引」を引用する。なお、補足説明、リンクは筆者の責任で行った。
トランプ前米大統領の一族が経営するトランプ一家のアレン・ワイセルバーグ最高財務責任者(CFO)は9月18日、ニューヨーク市マンハッタンの州裁判所に出廷し、税金詐欺の罪で有罪答弁を行った。40年間トランプ家の不動産ビジネスを支えてきたワイセルバーグ被告(75歳)は、起訴された15件すべてについて有罪を認めた。
ワイセルバーグ被告は司法取引によってトランプ氏の不動産会社に対して証言する義務を負うと、事情に詳しい関係者2人が述べた。嘘の証言をすればこの司法取引は無効になる。関係者によれば、トランプ一家に対する裁判が決着するまでは、ワイセルバーグ被告の量刑は言い渡されない取り決めになっている。
ペース大学ロースクール(ニューヨーク州)のベネット・ガーシュマン(Bennett L. Gershman)教授は、マンハッタン地区検察当局にとって「大勝利」だと評価する。「この有罪答弁は、会社が詐欺に関与していたことを証明するのに使われる可能性がある。詐欺を認めたということは、CFOとして会社の代わりに詐欺を働いたということだ」と説明した。
Bennett L. Gershman教授
ワイセンバーグ被告とトランプ一家に対する公判は10月24日に設定された。予定通りに裁判が進むとすれば、中間選挙の時期とちょうど重なる可能性がある。
(注5) 米下院議長宅侵入の容疑者、暴行・誘拐未遂容疑で訴追=司法省
米検察当局は31日、ナンシー・ペロシ下院議長の自宅に侵入し議長の夫であるポール・ペロシ(Paul Pelosi)氏にけがを負わせたとして、デビッド・デパペ(David DePape)容疑者(42歳)を暴行と誘拐未遂容疑で訴追した。連邦司法省が発表した。2件の訴因で最高50年の拘禁刑(朝日新聞の訳、「禁固刑」は誤り)が科せられる可能性がある。デパピ容疑者は10月28日未明、カリフォルニア州サンフランシスコにあるペロシ夫妻の自宅に押し入った。(2022年11月1日朝日新聞(10/31ロイター通信記事の訳)記事)
州および連邦検察当局は10月31日、連邦議会下院議長のナンシー ペロシ (D-カリフォルニア州) 氏の夫に対する10月28日の残忍な攻撃の容疑者に対する刑事告発を発表した。
連邦検察官は、42歳のデビッド・デパペ容疑者を、家族を脅したり傷つけたりすることで連邦当局者に報復することを目的とした誘拐と暴行の試みを理由に起訴した.
数時間後、サンフランシスコ州地方検事のブルック・ジェンキンス(Brook Jenkins)氏は、殺人未遂、住居侵入窃盗、致命的な武器による暴行、高齢者への虐待、高齢者の不法監禁、公務員とその家族に対する脅迫を含む州の罪状を発表した(カリフォルニア州北部地区連邦裁判所への起訴状 参照。)
Brook Jenkins氏
(注6) Alina Habba 氏は現在、Habba Madaio & Associates LLP のマネージング・ パートナーである。
LLP会社を設立する前は、フォートレスの子会社にサービスを提供する中規模の会社のマネージング パートナーを務め、7 年間、北東地域全体に事業を拡大することに成功した。アリナは、企業訴訟と設立、商業用不動産(取引と訴訟)、家族法、金融サービス業界、建設関連の問題を含むがこれらに限定されない訴訟の多くの分野での経験を持っている。アリナ は、ニューヨークの東部地区、ニューヨーク、ニュージャージー、コネチカット、ニュージャージー地区連邦地方裁判所、コネチカット地区連邦地方裁判所、および南部地区連邦地方裁判所での弁護士資格を持っている。(Habba Madaio & Associates LLPを抜粋、仮訳した)
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