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米国国防総省が緊急対応した“Don’t Ask,Don’t Tell Act”差止命令と連邦憲法上の諸問題(その2完)

2010-11-21 10:22:20 | Weblog

(3)2010年9月9日、フィリップ裁判官の予備判決(Memorandum Opinion:Filed
Concurrently with Findings of Fact & Conclusions of Law)
 この判決の意義は、事実および法解釈上で明らかになった点を包括的にまとめたもので全86頁にわたるものである。
 この原告への判決案の提示という裁判行為自体、筆者は良く理解できていなかったため混乱したが、結論部分を読んである程度理解できた。
 すなわち、予備判決第4章〔結論部〕は次のとおりまとめている。

「本裁判での論議の考察および解決を通じ、裁判所は議会の執行権限と司法の役割の相違は議会の権限に基づく軍隊を強化しかつ支援する立法および政府ら行う規則等の制定という取組により頂点に達するという原則を無効視すべきものとして十分に留意してきた。連邦最高裁の1981年6月25日判決「ロストカー対ゴールドバーグ(Rostker v. Goldberg,453 U.S.57 (1981))」 (筆者注9)が述べているとおり、この相違は放棄されるべきでない。原告はメンバーに代り憲法修正第1および第5に基づき、"Don't Ask, Don't Tell" Actの憲法違反ならびにDODなどの執行行為につき恒久的な差止命令といった法的な救済を求める権利が認められる。
 原告は、2010年9月16日にまでにこの本裁判所の理由メモ(Memorandum Opinion)に合致するかたちで恒久的差止命令にかかる判決案(Proposed Judgment)を受け入れることが出来る。また、被告は原告が本判決案を認めた後7日以内に判決案に意義を申し立てることが出来る。」

(4)2010年9月23日、国防総省および司法省民事局が「原告が裁判所に要請した判決の適用範囲に関する異議申立」を裁判所に提出

 同申立書の趣旨は次のとおりである。
「過去の最高裁判所が明らかにしたように、合衆国は典型的な被告ではない。そして、裁判所は注文を引き受ける前の政府が議会によって正当に制定された法を実施するうえで政府の能力を制限するか、または他の裁判所で合憲性を防御する能力を制限する場合は警告と実行せねばならない。 本事件のように全国いたる所の他の多数の法廷で問題と法律が本質的であることがわかっている場合はこれは特に重要な点である。
当該警告は、法律がわが国の軍の規律にかかる問題として最高裁判所が軍事の判断に実質的な服従を行うよう裁判所に命じた領域では一層適切である。
 このような背景にもかかわらず、原告(LCR)は支持できない差止め命令提案を裁判所に求めた。この場合、いかなる差止命令はそれが原告(LCR)およびそのメンバーを代表して行う請求に制限されなければならず、非訴訟当事者に達することができないので、原告は、当該法律につき世界中で差止命令を求めており、入口の時点で問題がある請求を行っている。
 さらに、軍全体にかかわる広い範囲にかかる裁判所命令自体、他の裁判所での同様の訴えへの考慮を禁止することとなり、最高裁判所の明確な指示すなわち合衆国が被告である場合、それらが特定の巡回区裁判所で拒絶された後でも、法律で認められた主張を進め続けることが認められなければならないという法律上の重要な問題への対処を凍らせるという問題を引き起こす。(以下略す)」

(5)司法省による裁判判決の差止命令請求に関するメモの提出
 この問題は、連邦議会やホワイトハウスを巻き込んだ極めて政治色が強まっていることは間違いない。(筆者注10)
 なお、1993年以来、約13,000人の軍人や女性がDADTに基づき除隊処分を受けている。

 被告は10月14日、同裁判所に対し判決の緊急執行停止等を求める書面を提出した。

 また連邦司法省民事局は、10月14日に同裁判所に対し「本訴訟の争点および法的権限に関するメモ(Memorandum of Points and Authorities:Case 2:04-cv-08425-VAP-E Document 253-1 Filed 10/14/10 )」を提出した。
 結論部分を引用する。
「以上の理由から裁判所は、2010年9月9日判決(10月12日修正判決)、および10月12日の判決と恒久的差止命令に関し被告の控訴権を保障するため差止の停止措置を行うべきである。また、被告は通常の訴訟における控訴裁判所への控訴猶予期間と同様に10月12日判決の緊急行政措置に基づく判決執行停止を求めるものである。被告は問題の重要性に基づき、本決定については10月18日までの一方当事者審理(ex parte)の適用を求める。(以下略)」

 これと並行して、10月14日に原告は第9巡回区連邦控訴裁判所に対し正式の控訴申立通知を提出した。(10月15日の国防総省の控訴のプレス・リリース)

2.DADTに基づく除隊処分裁判例としての「マーガレット・ウィッツ裁判」
 2010年9月24日、ワシントン西部地区連邦地方裁判所は「空軍予備役軍団(Air Force Reserves)による原告空軍少佐(major)で“flight nurse” (筆者注11)であるマーガレット・ウィッツ(Margaret Witt)のレスビアンであるとの理由で除隊処分を行ったことは合衆国憲法修正第5に定める適正手続に違反する」とする裁判所命令の理由書(memorandum opinion)で述べ、ウィッツの復職を命じた。

 この裁判(事件番号:06-5195-RBL)は2004年から軍に対応が始まっている長期にわたる裁判である。訴訟内容の概要と裁判の経緯についてまとめておく。(筆者注12)
 6日間にわたる公判の後にロバート・レイトン裁判官はウィッツの性的指向が部隊の士気やまとまりにマイナスの影響を与えていないことが理解できた。
 この裁判の突破口が見えてきたのは2008年12月4日、第9巡回区控訴裁判所が被告たる空軍はウィッツを除隊処分する場合、軍の準備の目的上必要であることを証明しなければならないと裁決(Order:Witt v. Department of the Air Force, 527 F.3d 806, 813 (9th Cir. 2008))したことである。同判決では、政策に基づいて軍人を除隊処分するときは当該個人の行為が実施に部隊の士気やまとまりに害を与えることを証明しなければならないとすると判示し、公判廷に差し戻した。この基準は「ウィッツ基準」と呼ばれている。

 実際に彼女は19年間軍のフライト・ナースとして米軍に貢献し、彼女の上司は常に高い評価を行って来ており、多くの勲章や賞賛を得ている。

 ACLUの説明では、除隊処分や告訴にいたる事実関係は次のとおりである。
「ウィッツ少佐は1997年から2003年の間、民間の女性との性的関係を持った。2004年夏にウィッツは空軍が同性愛関係をもっているという訴えに基づき調査を開始した旨の通知を受けた。2004年11月にウィッツは無給休暇が与えられ、正式な隔離手続中はこれ以上の軍務は行えないという通知を受けた。

 2006年3月、空軍はウィッツに対し「同性愛行動」を行っていたことを理由として人事監督上の除隊処分を行うことをウィッツに通知した。ACLUはこの処分に対しウィッツの復職を求めて裁判所に告訴した。」

 2010年8月31日、ACLUは裁判所に対し17頁にわたる意見書を提出している。

3.同性婚の禁止を決めたカリフォルニア州民の州憲法改正決議(vote 8)が合衆国憲法に違反するかどうかが争われていた裁判内容と今後の取組み課題

 2010年8月4日、カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所(裁判長:ヴォーン・ウォーカー)「同性愛者間の結婚を禁止するカリフォルニア州民投票に基づく規則案8を憲法違反として破棄する判決」を下した。(筆者13)

 判決文(事件番号:C-09-2292-VRW)の要旨は次のとおりである。
「原告は合衆国憲法修正第5の適正手続と第14の法の下での平等に違反したとして規則案8に挑戦した。規則案8は結婚に関する違憲なことを実践させるものでかつ性的指向を理由として不合理な差別を行わせるものである。原告はカリフォルニア州に対し2人の関係構築の努力を認めさせるよう努め、また原告の関係は合衆国の結婚の歴史、伝統および結婚の実践結果と合致する。規則案8は結婚許可書に作成拒否のための同性愛者のゲイ男性やレスビアンを選び抜く合理的な根拠をより進めることに失敗した。」

 一方、8月16日、第9巡回区控訴裁判所(3人の裁判官合議(three judge panel)はカリフォルニア州が本裁判の結果を受けて同性愛者の結婚の連邦憲法の合憲性について検討している間は同州の同性者間の結婚は無期限に受付けない旨決定(Case: 10-16696)した。

 実はカリフォルニア州最高裁判所は2009年5月26日、州憲法改正決議(vote 8)は合憲とする判決を行っている。この裁判は同性愛者カップルの結婚の憲法判断を求めるため、連邦最高裁判所に持ち込まれることは間違いないと言われている裁判である。

 原告はウォーカー判決につき控訴しないとしているが、控訴裁判所の問題視してる点ははたして州の官吏でない「修正決議vote 8」の支持者が、同控訴裁判所に控訴権を行使できるかどうかと言う点である。

 いずれにしても、第9巡回区控訴裁判所は2010年12月6日に控訴審の審問を開く旨決定で明記しており、連邦最高裁の憲法判断・対応を含め、今後の展開が注目されるところである。(筆者注14)

 なお、米国で同性の結婚が法的に認められている州はマサチューセッツ、アイオワ、コネチカット、ニューハンプシャー、バーモント、ワシントンD.C.のみである。
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(筆者注9) 「ロストカー対ゴールドベルグ」連邦最高裁判決についてはわが国では上原正夫「アメリカにおける男女平等-男だけの徴兵登録合憲判決に寄せて-」(判例タイムズ446号1981年10月1日号)が詳しく紹介している。筆者なりに連邦最高裁の判決要旨等の基づき簡単に事実関係と法廷意見等をまとめておく。
「1948年選抜徴兵法(Military Selective Service Act of 1948, 50 U.S.C.App. § 451 seq.
)は大統領が女性ではなく、男性のみ可能な兵役のための登録を必要とすることを認めており、徴兵登録の目的は同法に基づきいかなる徴兵も容易にすることであった。徴兵召集のための登録(Registration for the draft)は1975年に大統領告示(Presidential Proclamation)によって中止されたが(同法は、1973年に徴兵制を排除するために改正された)、南アジアの政治危機の結果として、カーター大統領は1980年に徴兵登録手続を再度有効化することが必要であると決め、そのために連邦議会に基金の配分を求めた。
 また、大統領は議会が男性と同様に女性の登録と徴兵を可能にするために法改正を進めた。連邦議会は、登録手続を有効化することの必要性については同意したが、男性を登録するのに必要なそれらの資金だけを割り当てて、女性の登録を可能にするために法律を改正するのは否定した。その後、大統領は指定された青年グループの登録を命令した。 条例の合憲性に挑戦する数人の男性によって起こされた訴訟では、3人の裁判官で構成する連邦地方裁判所は、結局、法律の性別による差別は米国憲法修正第5の「デュー・プロセス規定」に違反するとして法律に基づく登録を命じた。
 この裁判が最終的に最高裁に上告され、同裁判所は共同防衛・軍事については議会の判断を尊重するという法廷意見に大筋で同意し同法を合憲とした。ただし、レーンキスト(William H.Rehnquist)判事の法廷意見やマーシャル(Thugood Marshall)、ホワイト(Byron R. White)判事の反対意見等意見が分かれた判決であった。
米国では徴兵問題は常に国際的な政治不安(第一次世界大戦、第二次世界大戦、東西冷戦、朝鮮戦争など)による議論が高まっている。
 なお、米国の選別徴兵制度に関する法解釈問題についてはコーネル大学ロー・スクールのサイト“law and legal reference library”が詳しく解説している。

(筆者注10) 米国メディアの“CNN”は、2010年5月に行った世論調査結果では米国成人では78%が同性愛者がオープンな形で軍務に服すことは認められるべきであると投じた旨報じている。

(筆者注11) 米軍における「フライト・ナース」の重要性や活動の実態について実際にDODの解説文を読んでみた。1つ目はアフガンやキルギスタンの戦地での24時間体制で「Alpha alert(1時間以内の重傷者向け対応)」、「Bravo alert(2時間以内で即時の非難を要しない対応)」、およびより緊急性の薄い患者に1週間に2回看護するといった任務内容である。戦地での看護作業は悪条件の下での活動であり、兵隊の効率的な戦時活動に欠かせないものである。また、もう1つの記事は航空医療活動のためのフライト・ナースの合同訓練についてである。その専門性もさることながら「飛ぶ病院」としての重要性が詳しく解説されている。

(筆者注12) 本裁判は、米国の人権擁護団体ACLU(Americans Civil Liberties Union)が全面的に支援した訴訟である。

(筆者注13) 国立国会図書館「外国の立法 (2009.7)」は2009年5月26日、カリフォルニア州最高裁の判決につき簡単に解説している。

(筆者注14) カリフォルニア大学法学部憲法専門のビクラム・ディビッド・アマル(Vikram David Amar)教授がウォーカー判決の意義につき憲法解釈上の論点を整理して“Find Law”に発表しており、わが国の関係者にとっても参考になる。なお、同教授は2021.2.現在はイリノイ法科大学院(College of Law:法務研究科)はデーン・イワン財団の教授である。

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Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All rights reserved.No reduction or republication without permission.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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