Last Updated: March 1,2021
(4) EU独立登録簿共同体取引ログ・システム(CITL)
NTTデータ欧州マンスリーニュース 2009年3月号「欧州における排出権取引システムの動向」の解説がシステム面からは分かりやすいので抜粋引用のうえ一部加筆した。なお、筆者が独自に各キーワードについてはEUの関係サイトにリンクさせた。
「2005年から運用されているEU排出権取引制度登録簿共同体独立取引ログ(Community Independent Transaction Log:CITL)は、EU排出権取引制度でのEU排出権割当の所有者を追跡する電子会計システムである。CITLは、EU割当の発行(issuance)、移転(transfer)、取消(cancellation) 、脱退(retirement)、溜め込み(banking)データを保管する。全ての国別登録簿システムは、CITLに連結されており、CITLは、対象事業所が国別割当計画に基づいて、排出上限を遵守できたかを監視する役割を持つ(このログに全取引の内容を記録してNAPとの整合性のほか不正等がないかがチェックされる)。
なお、取引登録は法人以外の自然人も口座開設が可能である。
EU排出権取引制度にて、京都議定書によって定められている排出権を取引するためには、京都議定書によって定められたクリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism:CDM)(筆者注6)理事会が管理するCDM登録簿、UNFCCが管理する国際取引ログ(International Transaction Log:ITL)とEU排出権取引制度のCITLをネットワークで接続することが不可欠である。
CDM登録簿は、CERの発行、保有、移転、取消、償却に関するデータを管理する。CERは、 ITLを通して、国別登録簿に移転される。ITLは、CITLがEU割当の管理を行うのと同様に、京都メカニズムの排出権の発行、国別登録簿内の保有口座への移転、償却、取消のデータを管理するための電子会計システムである。京都メカニズム参加国の国別登録簿は全てITLに接続されている。 国別登録簿間における排出権の移転は、全てITLを通して行われる。また、ITLは、京都メカニズムの排出権の管理のみならず、排出権の種類、移転量等を確認するモニタリング機能を有している。
国別登録簿のソフトウェア(英国のソフトGRETA の利用国が最も多い)(筆者注7)は、ウェブベースのアプリケーションであり、登録簿システムの相互認証や、取引市場の形成を促進するために、参加国は同ソフトウェアを利用することができる。ウェブサイトは、公共エリアとセキュアなエリアから構成されており、公共エリアでは、新規口座の開設と、公開報告書の閲覧ができる。セキュアなエリアへは、「ユーザネーム」と「パスワード」の認証によってアクセスできる。」
(5) EU における排出枠の法的性質と財産権性の議論
基本的に重要な問題であり、参考までにわが国での検討内容につき簡単に「国内排出量取引制度の法的課題に関する検討会」資料 (筆者注8)から抜粋、紹介しておく。
①排出枠の法的性質
・ EU-ETS では、EC 指令において、排出枠(allowance)とは、「一定期間における二酸化炭素等価量1t-CO2 を排出する割当量」を意味するとされている(3 条(a))。
・EU では、排出枠は、行政上の許可(grants)と私的所有権(財産権)の双方の性質を有するとされている。政府から割り当てられるときは、行政上の許可の性質を帯びるが、一旦民間企業や操業者に移転されると、私的財産権のいくつかの特徴を呈するものとなるとされる。
・EC 指令では、EU-ETS における排出枠の発行、保持、譲渡及び取消を確実に行うため、加盟国が国別登録簿を創設し、管理することとされている(19 条(1))。
また、いかなる者、すなわち自然人も法人も、登録簿に口座を持ち、排出枠の保持等をすることができるとされている(19 条(2))。
・EC は、標準化された電子データベースの形態による、安全性を確保した登録簿システムに関する規則を定めることとされており(19 条(3))、EC 登録簿規則(Commission Regulation(EC) No.2216/2004)において、登録簿の構成等基本的な仕様、登録簿システムにおける排出枠の発行、移転、償却、取消に関する基本的な手続、登録簿システムの安全性基準等について定めている。すなわち、排出枠は、登録簿上の電子データとしてのみ存在することが前提となっている。
②券面がなく、固有のシステム上にのみ電子情報として存在するが、財産権的性質を持つものの取扱いを定めた法律としては、例えば社債、株式等の振替に関する法律(平成13 年法律第75 号。以下「社振法」という。)や、温対法がある。
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(筆者注6) “CDM”は、温室効果ガス排出を削減するための京都メカニズム(クリーン開発、共同実施、および排出量取引)の一手法。先進国が資金的技術的支援を行って、途上国で温室効果ガス削減事業または二酸化炭素吸収促進事業を実施した場合、排出削減量の一部をその先進国の排出削減量としてカウントできる制度。排出削減クレジット(Certified Emission Reduction:CER)は CDM で発行されるクレジットのこと。クレジット1 単位はCO2 削減量1 トンに相当し、1 トン単位で取引される。(新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)海外レポート No.1030, 2008.10.15「EU 排出量取引(EU-ETS)の実施状況」から抜粋。
(筆者注7) GRETAのユーザマニュアルは、「EU / ETS Emissions Trading Registry User Manual」で公開されている。GRETAは、EU規則とUNFCCC要件に準拠しており、排出枠、取引、検証済み排出量、およびコンプライアンスデータの正しい会計と記録を保証するように設計されている。 これは、EU ETS内および京都議定書の下での使用が認定されており、高品質で信頼性の高いシステムを保証する。 また、スイスの場合のように、他のコンプライアンス炭素市場に使用するのに十分な柔軟性もある。(2013.10.7 real wireのリリースから抜粋、仮訳)
(筆者注8) 環境省はわが国の地球温暖化対策の一環の施策として「国内排出取引制度(キャアップ・アンド・トレード」について①制度設計面、②法的課題と言う観点から専門家による検討が行われており、本文で引用した内容は②の検討会中間報告からの抜粋である。「国内排出量取引制度の法的課題について(第二次中間報告)」2010年1月13日:国内排出量取引制度の法的課題に関する検討会資料。
[参照URL]
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEX/10/0218&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://www.euractiv.com/en/climate-change/eu-moves-tackle-carbon-trading-fraud/article-185933
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:32003L0087:EN:HTML
http://ec.europa.eu/environment/climat/emission/emission_plans.htm
http://europa.eu/legislation_summaries/energy/european_energy_policy/l28012_en.htm
http://ec.europa.eu/environment/climat/emission/citl_en.htm
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/det/other_actions/ir_100113.pdf
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