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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第2回―その1)

2010-06-29 12:24:05 | 国際政策立案戦略

 

Last Updated:February 25,2021


 6月24日付けの本ブログで、世界的に注目されている歴史的海洋汚染事故である米国「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig )爆発事故とその後の大規模な原油流失についてとりあえず第1回目の報告を行った。

 今回は、6月20日記載時に時間の関係で十分言及できなかった、(1)連邦内務省の下部機関で石油やガス施設の掘削認可・監督機関である「海洋エネルギー管理、規制、執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)(同局は6月17日即日施行で従来の「鉱物資源管理局(Minerals Management Service:MMS)」から職員等の倫理面強化や権限の細分・明確化による監督強化のため改組・改革・改称し、連邦内務省長官ケン・サラザール(Ken Salazar)
(筆者注1)は元連邦司法省監察官(former Justice Department Inspector General)のミシェル・ブロムウィッチ(Michael Bromwich)を局長に任命するといった取組みの背景、(2)連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)の取組状況について解説する。

 特に、今回、ディープウォーター・ホライズンの司法省、内務省(BOE)、エネルギー省を除く環境、保健、食品連邦関係機関や関係州の取組みについて網羅したサイトが、連邦保健福祉省・国立衛生研究所(The National Institutes of Health :NIH)) NIH・国立医学図書館(The National Library of Medicine :NLM)の「大規模災害情報管理センター(the Disaster Information Management Research Center)」サイトであることが分かった。
(筆者注2)

 次回以降、USCG、FDA といった連邦環境調査や沿岸安全保持機関、食品安全保障機関や漁業規制機関等の取組状況について解説する。

 また、EU等国際的石油掘削メジャーの監督にあたる国々の対応にも厳しさが増している。さらに、当然のことながら環境保護団体はBP社のコンプライアンスや労務管理態勢につき重大な指摘を行っており、その内容も合わせて解説する予定である。

 今回は 3回に分けて掲載する。


Ⅰ.「海洋エネルギー管理・規制・執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)への組織改組・改革と新人事を巡る課題

1.連邦内務省のMMSの抜本的機構改革の背景と内容
 内務省(DOI)のサラザール長官は5月19日、6月21日にMMSの改組に関する長官令と人事発令を行った。

 その内容を理解する上で、同長官が2009年1月に行ったMMSの独立性強化、改組のための連邦議会行政監査局(GAO)や内務省監査総監(Inspector General:IG)が指摘したMMS職員倫理基準、資源収入の支払方針やプログラムについて監視機能強化と納税者への公平な還付を保証、さらに積極的な沖合いのエネルギー構成施設の更新についての連邦関係機関のバランスを取るといった「MMS改革プログラム10原則」を理解しておく必要がある。

 これまでの経緯やその内容は、わが国ではほとんど解説されていないが、米国のオバマ政権のエネルギー戦略に関する重要な内容であり、以下、概要をまとめておく。

(1) 2009年8月31日にGAOが行った厳しいMMS改善勧告報告
 GAOが行った報告「Royalty –in-Kind(RIK)-Program:MMSはロイヤルティ収入の権利者としての当然の権利を的確に行使しておらず、結果として当然受けるべき数百万ドルにわたる 財務収入利益受領権行使を合理的に保証していない(MMS Does Not Provide Reasonable Assurance It Recieves Its Share of Gas,Resulting in Millions in Forgone Revenue)」の内容は概ね次のとおりである

・MMSは2008年財政年度でMMSは“Royalty –in-Kind(RIK)”方式でガス販売収入として24億ドル(2,160億円)を得た。GAOが重要視するのはMMSが当然の権利を持つ範囲でRIKガスを受け取っていることを納税者に対し保証する義務がある点である。「MMSがRIKに基づき所有するガス量」、「MMSのガス占有割合」、および「ガス生産不均衡調整(gas imbalance)」(筆者注3)として実際にMMSが受け取るガス量の相違が重要な点である。
 すなわち、次のとおりMMSにおいて十分なチェック機能が働いていない問題点をあげている。

①MMSが天然ガスの不均衡量として2,100万ドル相当を所有していると推定している一方で、同金額が適切であるか確認するすなわちRIKガス収入の100%が収入として計算できているか否かを確認する十分な情報がないーすなわちもっとMMSが得るべき金額が多いのではないかーという問題

②MMSは、RIK支払ガス会社の自主的作成報告書や割当データ(allocation data)について承認手続きが十分であるとして部分的に独自に監査しないので、RIKガスの正しい量に見合う金額を受け取っているか否かの確認が出来ない。

③仮に不均衡量を見出したとしても、PKIプログラムの担当官はその不均衡の調整や解決を行うための適切な方針や手続を持たない。

④MMSは効率的にPIKプログラムを管理する監督するスタッフと教育体制を欠いている。

⑤MMSはRIKガス不均衡によるデータ修正のための時宜に合いかつ適切なデータ提供のITシステムを持たない。2003年にMMSは民間ソフトウェア・ハウスから既製のソフトを購入してカスタマイズしたデータベースを利用している。この目的は全データを1つのデータベースにまとめデータの追跡も含め一元管理するというものであった。しかし、RIKガス不均衡データの提供能力はない。

 GAOが石油会社からの不均衡報告につき2007年1月から2008年6月の間のRIKプログラムを追跡した結果、MMSの集計表(spreadsheets)では少なくとも35%が同報告が遅延し、10%は完全に集計表がなくなっていた。この点に関し、GAOはMMSが必要な情報をすべて入手したとしても頻繁に報告の変更を手作業で行う点に注目した。すなわち、MMSは石油会社が不均衡報告をどのように提出すべきかにつき標準化した方針をもっていないのである。

 MMSが保有する利益権(royalty)の決定時にエラーが発生する機会の増加だけでなく、標準化された方針の欠如は不均衡の有無のチェックする時間がかかることにつながる。

 また、GAOは次のような事例でMMSへの石油会社の支払の遅延は納税者の還付金を受け取る機会を奪っていることを証明している。

・「連邦石油・ガス利益受領権管理法(Section 115 of the Federal Oil and Gas Royalty Management Act of 1982)」の第115条 (筆者注4)は月次での不均衡報告を義務付けているためMMSのモニタリングは日次ではなく月次である。しかし、一方、石油会社は比較的原油価格が高いときはMMSの保留量を低く計算し、他方書くが低いときは保有量を多く計算する。この結果、本来価格が高い時期にMMSが得られるべき収入が少ないという問題がある。なお、この指摘に関しGAO報告では日次のモニタリング方式の採用については内務省は同意していないと記している。
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(筆者注1) 2009年12月17日、オバマ政権は内務省長官に新しくコロラド州出身の連邦議会民主党上院議員ケン・サラザール(Ken Salazar)を内務長官に任命、2010年1月20日、上院本会議で正式に承認された。米国内務省は他の欧米諸国の内務省とはかなり機能が異なる。すなわち、環境政策、エネルギー政策、連邦政府所有地の管理・利用、野生生物の保護等の関する政策管理機関である。
 また、サラザール長官の環境問題の考え方であるが、上院議員在職中(2005年1月-2009年1月)は、車やトラックの排気ガス基準引上げのためのCAFÉ 改善法案に反対投票したり、エクソン・モービルや他の大手石油会社の税優遇措置の撤廃法案の廃止修正に投票した。また、2006年には、フロリダ州沖の沖合いの原油・天然ガス掘削を禁じる保護措置に終止符を打つ内容の法案に共和党議員とともに少数の民主党員とともに賛成しており、環境保護団体から批判を受ける投票行動をとっている。今回のMMSからBOEの改称やトップ人事がオバマ政権のエネルギー政策の変化にどのようにつながるのかまさに注目の的とすべき点である。ただし、この点について分析しているメディアは米国でも少なく、わが国では皆無である。

(筆者注2) H1N1の新型インフルエンザに関する情報収集をきっかけとしたものであるがピッツバーグ大学の公衆衛生危機管理センター(Center for Public Health Preparedness)のサイトは最新情報を整理するうえで貴重なサイトである。今回、メキシコ湾の原油流失事故についても基本的な観点から現状と回復のための施策について平易に解説を加えており、関係者は是非参照されたい。

(筆者注3) 「ガス生産不均衡(gas imbalance)」:この用語を理解できる日本人は石油関係者以外では少なかろう。筆者も専門家でないので米国の関係サイトで調べてみた。GAOの問題指摘のキーとなる言葉であり、その正確な理解には欠かせないためである。筆者なりに解説してみるが、関係者による正確な解説を期待したい。

 石油生産の過剰生産と過少生産のための生産調整といったところであろう。油源の開発事業者が競合した場合、当然生産性が高い油田と低い油田がありうる。これを放置すれば油田が枯渇するといった資源開発の根本問題だけでなく、事業者の権利・義務の調整のための業者間開発協定(operating agreement)は、この問題を根本的かつ完全に解決できるであろうか。
 なお、開発業者間の生産調整協定に関し、欧州エネルギー監督機関協議会(the Council of European Energy Regulators:CEER)は「生産量均衡原則(Balancing Priciples)」を定めている。

参考:2005年12月23日「Gas Balancing Rules in Europe (EU加盟国におけるガス開発均衡協定に関するレポートでCEERの生産調整原則について解説」(英国シンクタンクNERA Economic ConsultingとTPA Solutions Ltdの共同レポート)は参考になる。
http://www.tpasolutions.co.uk/documents/050128_Final_Report_on_gas_balancing_for_the_CEER.pdf

(筆者注4) 「連邦石油・ガス利益受領権管理法(Section 115 of the Federal Oil and Gas Royalty Management Act of 1982)」の第115条は、「1996年連邦石油およびガスのロイヤルティの簡素化と公平性に関する法律(FEDERAL OIL AND GAS ROYALTY SIMPLIFICATION AND FAIRNESS ACT OF 1996)」に基づき追加された条項である。


[参照URL]

http://www.gao.gov/new.items/d09744.pdf
(2009年8月、GAO報告「ROYALTY-IN-KIND PROGRAM:MMS Does Not Provide Reasonable Assurance It Receives Its Share of Gas,Resulting in Millions in Forgone Revenue」(全45頁)
・https://www.doi.gov/sites/doi.gov/files/migrated/news/pressreleases/upload/OCS-Safety-Oversight-Board-Report.pdf

(5月19日付「海洋エネルギー局、安全・環境法執行局および天然資源収入管理局の設置に関する内務省長官令(No.3299)」)
・http://www.doi.gov/deepwaterhorizon/loader.cfm?csModule=security/getfile&PageID=35872
(6月21日付:BOEの局長等人事に関する長官令(No.3302)」)
・http://www.mms.gov/ooc/PDFs/TheMMSRoyalty-in-KindProgram.pdf
(MMSの“Royalty-in-Kind Program”の解説サイト)
https://response.restoration.noaa.gov/about/media/where-find-noaa-information-deepwater-horizon-oil-spill.html
NOAAの「Where to Find OR&R and other NOAA Information on the Deepwater Horizon Oil Spill」ディープウォーター・ホライズン解説サイト

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