例のシーンからの稽古だ。
Aは、深く息を吸い込んだ。
穏やかなセリフから、激しく言い合う…というシーン。
う~ん、今までと比べると、ずいぶん前進した感じだが…、やはりあゆみに食われている。
稽古場がし…んとなった。
演出も拳を顎にあてて、考え込んでいる。
「先生、あゆみと役をチェンジしてください」
えっ⁉
まさかの展開に、皆、固まった。
「何を言ってる?そんな事をしたら、あゆみにも迷惑だ。」
「……」
「あゆみだって、万全の役作りをして臨んでるんだ。今さらチェンジなんて出来ない。」
「私も今の役が好きです。変わりたくありません。」
「ふたりで、…いや、皆で話し合ってくれ」
困ってしまったのか…呆れたのか…、演出は、腕組みをしたまま稽古場を出ていった。
「どうして、急に、こんなこと?」
Uが聞いた。
「力量が無いと言うならそうなんだと思う…。だけど、私なりの役作り、演技プランがあって、どうしても皆が思うパワーは出せない。」
Aも、頑なに意見を撤回しない。
「…だけど、このままじゃ平行線だよ」
長い沈黙がつづく…。
「あゆみ、主演をやったら?」
あゆみも黙ったままだ…。