あの頃(新入生)10

2020-06-25 07:54:40 | 日記
例のシーンからの稽古だ。

Aは、深く息を吸い込んだ。

穏やかなセリフから、激しく言い合う…というシーン。

う~ん、今までと比べると、ずいぶん前進した感じだが…、やはりあゆみに食われている。

稽古場がし…んとなった。

演出も拳を顎にあてて、考え込んでいる。

「先生、あゆみと役をチェンジしてください」

えっ⁉

まさかの展開に、皆、固まった。

「何を言ってる?そんな事をしたら、あゆみにも迷惑だ。」

「……」

「あゆみだって、万全の役作りをして臨んでるんだ。今さらチェンジなんて出来ない。」

「私も今の役が好きです。変わりたくありません。」

「ふたりで、…いや、皆で話し合ってくれ」

困ってしまったのか…呆れたのか…、演出は、腕組みをしたまま稽古場を出ていった。

「どうして、急に、こんなこと?」

Uが聞いた。

「力量が無いと言うならそうなんだと思う…。だけど、私なりの役作り、演技プランがあって、どうしても皆が思うパワーは出せない。」

Aも、頑なに意見を撤回しない。

「…だけど、このままじゃ平行線だよ」

長い沈黙がつづく…。

「あゆみ、主演をやったら?」

あゆみも黙ったままだ…。




あの頃(新入生)9

2020-06-24 09:03:08 | 日記
演出に言われたく無いことを言われて、Aは、稽古場を出ていった。

そのまま、稽古は続けられた。

そして、その日はAは、戻って来なかった。


「明日、来るよね。」

私は電話をした。

「……」

言葉に詰まっているようだ…。

「明日、来ないとかなりまずいよ。」

「わかってる。」


翌日、例の団子屋に寄ってみた。

ーーいた。

Aが背中を丸めて、店の隅でお茶を飲んでいた。

「良かった」

「…来ないかと思った?」

「来ないと、本当にまずいから…」

「今日、来なかったら、あゆみと役をチェンジかな?

Aは、笑った。

私は笑えない…。

「限界なんだけど…」

「限界?」

「私の演技…。おさえてるワケじゃなくて…。」

「……。」

団子を一串残してAは、立ち上がった。

稽古場には、すでに準備万端な仲間たちが待っていた。

あゆみもストレッチに余念がない。

「さぁ、例のシーンから行こうか!」

例のシーンとは、Aとあゆみが絡むシーンだ。

穏やかな会話から徐々に激しくなり、言い合いになる…というシーンだ。

Aは、深く肩で息を吸い込んだ。




あの頃(新入生)8

2020-06-23 07:52:26 | 日記
「あゆみ、出過ぎ‼️」

キレてしまったAは限界をむかえて震えていた。

急に大きな声をあげたAに、周りの人たちは固まってしまった。

「ごめんなさい💦そうですよね。気を付けます💦」

あゆみは平謝りに謝ると、周りの緊張も解けた。

「あゆみが出過ぎだと思うなら、自分ももっと出ていけばいいんだよ。」

たまらず、演出が言葉を発した。

「この役柄は出過ぎない方がいいと思います」

「Aは、おさえた演技をしているつもりかも知れないが、見た目には、お前の演技はおさえ過ぎだ。このままでは、あゆみが主演になるぞ」

一番言われたく無いことを言われてしまった。

Aは、唇を強く噛むと、平静を保てなくなり、稽古場を飛び出した。

あ~💦💦

このタイミングで稽古場を出ていくと、戻りにくくなるのに💦💦



あの頃(新入生)7

2020-06-22 10:08:13 | 日記
主演のAの力量より、はるかにパワーのあるあゆみの演技。

Aは、おさえた演技をしたいのに、ライバル役のあゆみのパワーが強いので、食われてしまいそうだ…💦

この役は、おさえた演技の方がいいと思う…というAの思いに気づいてか、それとも知っていての挑戦なのか、どんどんパワーアップしていく。

Aは、追い詰められていた。

「もう少し、おさえた演技の方がいいかしら?

あゆみが聞いてきた。

「そうね…。パワーバランスが崩れている気がする」

「私、なんでも全力で挑みたいの…。…周りの迷惑考えずに突進するから、嫌われちゃうのよね…。」

あゆみが、某有名劇団を辞めた理由は、これ…?

だけど、凄い人たちが集まるだろう…と思われる凄腕集団なら、どんな状況も上手くクリアー出来る人たちばかりなんじゃないかな?

Aとあゆみ、二人だけのシーン。

ここが問題だ。

どうしてもAが、あゆみの勢いにのまれてしまう。

Aも限界をむかえていた。

「あゆみ❗ちょっと出過ぎなんじゃない?!」

ついにキレた。


あの頃(新入生)6

2020-06-21 07:48:54 | 日記
3度目からの稽古からあゆみの本領を発揮してきた。

最初の読み合わせでは、かなり低めのテンションでの発声だったので、周りの出演者たちが、思わず顔を見合わせるほどだった。

ところが、ところが❗

おそらく、周りの出演者たちの力量を見極める"様子見"だったのでしょう。

これぞ、あゆみさん❗…と言うくらいの勢いです。

ところが、一番の被害を被ったのは主演のAです。

このままでは、ライバル役のあゆみか主演の物語になってしまいそうだ。

Aの動揺が見てとれた。

「あゆみ。やり過ぎじゃない?」

来た~~💦💦

もちろん、本人には言えない。

陰でこっそり、私たちのいる場所にやって来て愚痴った。

「負けずにパワーアップしたら?」

Uがすかさず答える。

「周りの空気を読んで、あゆみも演技をおさえるべきじゃない?」

「最初、あゆみはテンションをおさえた読み方をしたけど、私たちの力量を見たんだと思う」

「力量を見て、空気を読んで、あのテンション?」

「…私たちの力量が彼女の思惑に達して無い…として、だからと言って、あゆみが力量をおさえる…というのも、おかしな話しじゃない?」

「私たちがあゆみに合わせるべき?」

「う~ん、すべてにそうはいかないけど、ある程度はね…。」

「私は、この主演はおさえた演技がいいと思うの」

「100%のエネルギーを50%におさえるのと、はじめから50%しか出さないとでは違うと思う」

「私が、50%しか出してないと思うの?これこらよ‼️」

突然のスター、あるいはモンスターの出現に、皆戸惑っていた。