叶わぬ想い

この世代の割りに背が高いというのもあって、私はハイヒールを履いたことがほとんどない。

大学の入学式に履いたのが７センチヒールだった。
当時走っていた路面電車の中で、ヒールの私は、頭一つ分くらい、他の女性より
高かったと思う。

学生時代は（今でもそうなのだが）ほとんどジーンズだったので、入学式以来、ハイヒールに目が留まるという事もなかった。
お勤めしだして、それなりに足元にも気を使ったが、なんせ一日中立って接客、という商売柄、ここでも３センチだの、せいぜい５センチヒールまでの、パンプスがほとんどだった。

ジムに行くと、外反母趾なの、という人が結構多い。
確かに、足の親指の付け根の骨が『く』の字型に飛び出していて、痛そうにも見える。
「若いときからずっとハイヒールを履いてらした？」と訊くと、おおかたの人はこっくりと頷かれる。

外反母趾にはなりたくないけれど、私は、ハイヒールを履いていた、という過去にちょっと嫉妬する。
赤い、ピンヒールなんて女らしさの極致のように思える。
深いスリットのタイトスカート、その足元がハイヒール、って女らしくて羨ましい。

私たちの時代には、ジーンズは作業服？みたいなイメージがまだ残っていて、ホテルなんかもジーンズでは入れてくれなかった過去がある。
なのでジーンズにピンヒールを合わせる、なんて思いもしないのだが、最近、ぴちぴちスリムのジーンズに、ピンヒールの靴を履いているうら若き？女の子を見るにつけ、私もああいう格好してみたい、なんて思わないでもない。

まぁ、世代的には大柄とは言え、最近の若い子たちは楽母の背をゆうゆう超えている子も多い。カッコいいな～と感じる。
私も、スリムのジーンズにハイヒールを合わせて、街並みを闊歩したいと思う。

でも、もう何十年もスニーカーになれた足にハイヒールは大変だろうし、第一、
背筋を伸ばして、膝を折らないように、綺麗に歩ける自信がない。
どっかおっかなびっくりだったり、靴擦れの一つも起して、かかとから血が滲むのが関の山だろう。

ミニスカートが履けなくなった。二の腕が丸出しになるタンクトップ一枚では外に出られなくなった。そんな風に、ひとつひとつ出来ない、身に纏えないものが出てきて、私は今後、もう絶対にハイヒールの靴を履くこともないんだろうな、って思うのはやっぱり少し、淋しいね。