表通りの裏通り

~珈琲とロックと道楽の日々~
ブルース・スプリングスティーンとスティーブ・マックィーンと渥美清さんが人生の師匠です。

みんな『罠』に引っかかってしまうはず

2024-11-04 11:59:28 | 映画

M・ナイト・シャマラン監督待望の新作(その割には仙台市内一館だけなのは何故?)『トラップ』が公開中です。

https://youtu.be/fiTtn3bFcsE

娘を溺愛する家族思いの優しい父親が実は...という設定はサスペンスホラーの常套手段。そんな優しい父親が豹変する映画の金字塔と言えば、もちろんキューブリック監督の傑作『シャイニング』。しかし何者かに憑依されて豹変する系の作品は大抵”顔芸”のように、ちょっとオーバーアクト気味になりがちです。

元々おかしなヤツらはレザーフェイス(『悪魔のいけにえ』)だったりホッケーのマスク(『13日』)を被ったりと、実に(見た目にも)分かりやすく観衆に訴えかけてくれます。『ケープ・フィアー』のマックス(ロバート・デ・ニーロがドハマり)や『踊る大捜査線』のキョンキョン、『グッドフェローズ』の愛すべきナイスガイ、ジョー・ペシ演ずるトミー、『ノー・カントリー』の我らがアントン・シガーたちはは冒頭からブッ飛んでいたし、そこまで異常者全開じゃなかったけど、徐々に化けの皮が剥がれていったのは『サイコ』のノーマン。神経質さでは他の追随を許さないアンソニー・パーキンスの演技が怖かった。『スピード』のハワード・ペインは登場した時点では前述したマックスと同じ系列だけど、実は可哀そうな過去があったという”逆恨み系”異常者。終始普通(?)だった異常者って『羊たちの沈黙』のレクター博士と『コレクター』のテレンス・スタンプくらいじゃないでしょうか。

『スカイフォール』のラウル・シルヴァ(ハビエル・バルデムさん、奇しくも再登場)も”こっち系”に入れてあげても良いかな。あ、シルヴァはマトモではないか笑

でもその”普通”に見えるのに、やっていることは実にエグいというヤツらはほんとに厄介です。最近の不良の中高生が見た目で判断できないのと一緒です。衝動的に犯罪犯す人も「え?こんなおとなしそうな人が?」という風が多いように思います。

そう、『トラップ』の主人公クーパーはまさにそんな感じの人。演じたジョシュ・ハートネットも正義感役の似合う役者さんですしね。

映画は序盤、この何てことない仲の良い親子が人気アーティスト、レディ・レイヴン(演じたサレカ・シャマランは監督の娘さん?手元にチラシしか資料がないので未だ分からず。似てるからきっとそうですよね)のライヴに行くという、どこの国にでも見られる日常から始まります。

しかし、ライヴ会場の周りには徐々に警官隊やスワット隊やFBIが至る所を囲みはじめます。警察は何故ここに容疑者が来るのことを知ってるの?という疑問から、二万を超える観衆の中からどうやってその連続猟奇殺人鬼を追い詰めていくのか?警察・FBIらは(カオも知らない)殺人鬼をどう発見し逮捕するか?

対する殺人鬼(クーパー)は引っかかってしまった罠(警官隊が包囲する完全厳戒中のライヴ会場)からいかに脱出するのか?果たしてそんな芸当ができるのか?

並の映画ならまず犯行声明があり、ライヴ会場での無差別殺人予告や爆破予告があったりして、それを警察(大体一人犯人の特性を見抜く敏腕がいる)どう防ぐか?みたいな展開になりがちです。

でもそこは予測不能な作品を撮り続けるシャマラン監督。全然逆の発想で観る人をグイグイ引き込んでいきます。実際前半は全く予測のできない裏切り描写の連続展開でした。もうその時点で僕らはシャマラン・マジックの罠に引っかかって逃げ出せなくなってしまいます。

個人的にはシャマラン映画の断然一位は『シックス・センス』(殆どの方がそうですよね?)ですが、今回の『トラップ』のこの畳みかけるような緻密なプロット構成は素晴らしすぎます。

後から考えれば色々矛盾してる(ように思っているだけかも)部分(アリーナ脱出直前のやりとりとか、スマホを奪われた件とか)もあるし、例によって余計な説明は一切省かれているから、そういう”優しい映画”が好きな方からは敬遠されちゃうかもしれません。

正直配役も地味めだけど、それが功を奏して物語にリアリティ感が生まれるんでしょうね。これで主役がトム・クルーズなら観る人全員が”絶対あっさり脱出しちゃうんだろうな”って思うわけで、往年のシルベスター・スタローンやシュワちゃんなら力業で脱出するはずだから、一見地味で普通のジョシュ・ハートネットだからこそのリアル感が生まれた...と考えると、地味なキャスティングは大成功です。

どうやってそこまでやってきたのかすら全く説明はないまま、奥さまと対峙するクーパー。そこで意味深に出てくるピカピカのヤ〇ン。「絶対これはあーしたりこーしたりして対決に使うはず!」と思わせおきながら、緊迫感溢れるドキドキのシーンの連続。庭に倒れた(多分息子の)自転車を起こしてあげるクーパー父ちゃんの優しさに隠された描写から、ラストにまたまた待ち構える大ドンデン返し(何回ひっくり返せば気が済むんだこの人)と、切り裂き魔の不敵な大笑いは続編への布石?果たしてクーパーはハンニバル・レクターになれるのか?

そしてエンドロール中に挿入される笑いのシーン(これでそこまで強いられてきた緊張が一気に開放される爽快感は格別です)。このシーンがあったからこそ、「この先にも何か隠されているんじゃないか?」と、(シャマラン監督を信用していない)観客は場内が明るくなるまで席を立てないのでありました。シャマラン監督してやったりですな。

次作ではどう僕たちを怖がらせて(楽しませて)くれるのかな?