徳丸無明のブログ

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鉄道の時間・近代の時間

2017-02-27 21:07:12 | 雑文
今回は「モダン・タイムスという名の電車」(2016・9・13)の続き。
角山栄の『時計の社会史』を読んでいたら、鉄道と時間の深い相関関係を示す記述が出ていた。


ウォッチが人びとの憧れの商品となったのは、イギリスでは十八世紀。(中略)時計自身は機械の進歩で確かに正確な時間を刻むようになっていた。しかし標準時の制度がない以上、基準がないのも同然であった。(中略)したがって全国いたるところローカル・タイム圏で蔽われていた。(中略)
しかし産業革命の時代とともに、交通・運輸のスピードが早くなり、全国的な統一市場圏が形成されると、ローカル・タイムの制度が現実にさまざまの不便を引き起こすことになる。(中略)こうして鉄道網が拡大するにつれ、イギリス全土に適用される標準時をもたない不便さがしだいに明らかになってきた。
(中略)時間の全国的統一は本来政府が中心になって行うべきではないかと思うが、イギリスでは一民間企業によって試みられたのが特徴である。つまり一八四八年、同鉄道〔引用者注・ノースウェスタン鉄道〕がロンドンから北ウェールズのホーリーヘッド間に開通した機会をとらえ、グリニッチ・タイムによる標準時化を強行した。(中略)
地方はいつまでもローカル・タイムに固執することは、かえって不便で、したがって地方の生活も便宜上鉄道の時間に従うようになってゆく。その結果、一八八〇年、グリニッチ天文台の標準時をもってイギリス全土の標準時とすることが法律で決められた。
(中略)一八八四年、国際会議が開催されたその席上、グリニッチを通過する子午線をゼロとし、グリニッチ・タイムを標準時として採用するとともに、世界を一時間の時差をもつ二十四の時間帯に分けることが決定された。


全国いたるところにローカル・タイム圏があるということは、日本で喩えれば、都道府県ごとに時間が異なる、というようなものである。
鉄道においては、ダイヤの制定や、時刻表の記載などの利便性のために標準時が求められたわけだが、図らずもそれが現在の国際基準にまで帰結したというのだ。
つまり、ノースウェスタン鉄道の始発がロンドンのユースタン駅であったこと、そのロンドンの自治区のグリニッチに天文台があったことから、そこの時間が鉄道の標準時に認定され、のちには公の標準時、ひいては世界共通の標準時にまで昇格したわけだ。
一口に時間と言っても様々な時間があるが、現代の我々が時間と聞いてまず思い浮かべるのが、このグリニッチを起点とする国際標準の時間である。その国際標準の時間は、鉄道が生み出したものであったのだ。だから、少し大げさな言い方をすれば、近代の時間とは、鉄道の時間のことなのだ。
高橋秀実は、この歴史的経緯を知っていて『人生はマナーでできている』を書いたのだろうか。もし知らなかったのだとすれば、凄まじい直観力と言うほかない。