今年のファイナリストの顔ぶれを見ていると、一般的な知名度がゼロに等しかったり、そこそこテレビに出てるけど人気はさほど高くないコンビがほとんどで、なんつーか、視聴率稼ぎとか、吉本興業の思惑とか、そういった大人の事情をあまり反映していない、ほんとに実力で選ばれたんだなって思えるメンツになってますね。リアルな実力勝負になった大会、というかんじです。
個別の感想は以下の通り。まずはファーストラウンドから。
モグライダー・・・話の入りがやや強引な気がしましたが、設定を理解してからはスルスルと飲み込むことができました。美川憲一の「さそり座の女」の「いいえ」の前に行われたであろうやり取りを想像するという、着眼点が素晴らしい。芝が歌うときに口を曲げて、微妙なモノマネしてるのもジワジワ笑えます。ともしげの滑舌の不安がありましたが、星座を次々言っていく場面でちょっと怪しくなる以外は問題ありませんでした。
「もっかい聞いても意味わかんなそうだな」の後、余計なことは言わずに歌い出したスムーズさや、「お黙り案件」というワードが特によかったです。ふたご座を2人分数えてしまうのは、ツッコミしだいでもうちょっと面白くなったんじゃないでしょうか。
ただ、僕はもっとともしげのキャラを活かしたネタにしといたほうがよかったんじゃないかと思えてしかたないんですよね。ともしげって、すごくキャラが立ってるんです。だから今回のM-1を機に、ブレイクする可能性が大だと思ってたんですよ。ともしげ単独で、「ANZEN漫才みやぞん‐ティモンディ高岸」のラインで売れるという筋書きになったかもしれませんが、いずれにせよ今大会で一番ブレイクを果たすのがモグライダーだろうと予想してたんです。
だから優勝は二の次で、インパクトを残すことを狙ったほうが、モグライダーの戦略としては吉じゃないかって考えてたんです。これだと2番手のランジャタイのほうがインパクト強かったですよ。モグライダーのブレイク、もう少し時間がかかりそうですね。
ランジャタイ・・・せり上がりからステージに出てくるところで、国崎が伊藤の背中を軽く押したのがちょっとジーンときました。
いつも通りのランジャタイワールド。何を見せられてるのかよくわかんないんだけど面白いというね。国崎が暴れまわって、伊藤はほぼ傍観しているというのもいつも通り。国崎がトレードマークの黄色ジャージ着てませんでしたけど、お腹の中で暴れまわるネコを演出するためだったんですね。上手すぎず下手すぎないムーンウォークもツボにくる。でも、音響さんがネタ終わりに気づかず、音出し遅れたのが一番面白かったかもしれません。
審査員が頭をかかえていたのが子気味よかったです。ランジャタイは何年後かに、マヂカルラブリーのような優勝を果たすかもしれません。その時は最後に「国民最高!」って叫んでいただきたい。
ゆにばーす・・・明らかに2年前よりよくなっています。技術はまだもう少し向上の余地があるかもしれませんが、ネタの形式はほぼ出来上がっているというか、「ゆにばーすが行える漫才」の完成形に到達しているのではないでしょうか(まだいくつかパターンを作れるにせよ、ですが)。この漫才が観れなくなってしまうのであれば、優勝しないでほしい、とすら思えてきます。
ディベートという題材を導入することで、漫才の基本形、しゃべくりを軸に展開し、時折動きも入れて変化をつける、という構成もすごくいい。川瀬が悔しがって地面を蹴る動きの反復も気持ちいい。ですが、すごくいいはずなのに、観ていて少し違和感を感じてしまったんですね。それは何か。
川瀬ってM-1優勝のためだけに芸人になったというほどM-1に賭けていて、まさに「M-1の申し子」と呼ぶにふさわしいのですが、それゆえに、ネタ作りに時間をかけすぎてしまっているんじゃないかと思うんですよね。「このセリフが◯秒、ここの間が◯秒」というふうに、細かく計算して、練習も人一倍やって仕上げてきてるんじゃないかと思うんです。つまり、ゆにばーすのネタは高度に計算されている。川瀬はそれが必要と思ってやってるんでしょうけど、そのせいで「計算の跡」がうっすら透けて見えてしまっているのではないか。それが僕の感じた違和感の正体であり、完成度の高さとは裏腹の、低めの点数につながったのではないか、という気がするのです。
漫才というのは、自然に話しているように見せかけなくてはなりません。実際には何十回、何百回と練習して本番を迎えるわけですが、その練習の跡が見えないよう、あたかも今その場で思いついたことを話しているかのように行わなくてはならない。その自然さがあってこそ抵抗なく耳に入ってきて笑いが生まれるのです。しかし今回のゆにばーすは、川瀬の計算高さゆえに自然さを失ってしまい、計算の跡・練習の跡が背後に見える形になっていた。隙がなさすぎるというかね。それがこの結果となったのではないでしょうか。オール巨人が言ってた「もうちょっと気楽に出来たら」というのも、たぶん同じことを指摘しているのだと思います。「すごい上手くなったなーって思ったのになんで俺88点」と言ってたまつもときんに君も、同じことを感じ取っての点数だったのではないでしょうか。
だとすると、ゆにばーすの今後の課題は、「適度に肩の力を抜くことを覚える」ということになるでしょう。
ところで、はらちゃんが口ずさんでたBGMがわかんなかったんですけど、あれなんですか?
ハライチ・・・僕はハライチのノリボケ漫才あんまり好きじゃないんで、それじゃなかったのはよかったです。しかし、人が始めようとしてる趣味にことごとくケチをつける、というのは笑いの種類としてはすごくシンプル。このまま行くのかと思ってたら、自分がケチをつけられると異常に激高したため、「ここがネタの中心なんだ」と理解しましたが、それにしたってひねりがない。
岩井ってけっこう尖ってて、「新しい笑いを作っていきたい」とも言ってたんですけど、そのくせこんなネタしか持ってこれなかったの?M-1のラストチャンスなのにこれなの?って意地悪く思っちゃいました。澤部のツッコミにキャラが滲んでたところはよかったです。
上沼恵美子が「審査員の皆さんおかしい」って怒ってましてけど、えみちゃん、おかしいのはアンタだよ。
前にも言ったかもしれませんけど、視聴者投票って人気投票の面が大きいですよね。純粋に面白いかどうかだけではなく、顔なじみであるかどうかが集票に影響する。今回の敗者復活組の中で、一番お茶の間に馴染んでで、好感度が高いのがハライチです。ですから、ハライチが敗者復活したのは、人気票によるところが大きいのではないか、投票の半分くらいは人気票だったのではないか、と思うのです。だとすれば、その人気票を差し引いたら2位の金属バットが1位になります。つまり、実質1位は金属バットだった、ということです。あ、あくまで僕の妄想ですよ。
真空ジェシカ・・・川北の声が小さめなのが少し引っかかりましたが、それ以外はすごくよかったです。1日市長から派生して10日副市長、2ヵ月会計、5秒秘書と展開していくところや、沖縄の名字からの流れで「罪人と書いてつみんちゅ」と言うところ、駒澤大学のタスキの伏線回収なんかが特によくできてました。ひとつひとつのボケ(場面)は単独で存在してて、つながりがないんですけど、それでも続けて見せられるとひとつながりに見えるようになっていて、腕のよさと台本の完成度を感じました。でも最後の酸性雨はいらなかったかな。
オール巨人と上沼恵美子も言ってましたけど、センスと頭がいい。個人的に一番「これからずっと見ていたい」という気持ちになったコンビです。
オズワルド・・・つかみが早くて強烈。畠中がサイコパスな発言をし、それに振り回される伊藤。鬼ごっこで友達選ぼうとするところや、林の一点張りで名前を当てにくるところ、脈拍で正解当てするところなんかが特にサイコパス。2人が指になってビッグピースの場面以外は全部しゃべくりで、会話だけでこれほど面白くできるというのは、相当才能がある証拠です。今大会で一番面白かったネタ。ずっと聞いていたいくらい。
去年はまつもときんに君とオール巨人の意見に引き裂かれていましたが、結局自分たちが信じるスタイルを貫いてきた、ということですね。それが正解だと思います。
ロングコートダディ・・・笑神籤を落っことされるという縁起の悪いスタート。最初兎の表情に緊張が見えましたけど、ちゃんとやれてましたね。「ワニになりたい」とか「生まれ変わりの練習をする」という突飛な設定はよかったです。しかし、振り分け担当と設定担当を分ける必要はあったでしょうか。1人で両方やれたし、立ち位置を上下に分けて移動するのも必然性を感じられませんでした。肉うどんの啜られる動きはツボ。振り分けがしりとりになってるからワニを狙って肉うどんになってしまう、という流れもうまい。ロングコートダディはコントのほうが向いてるのかもしれません。
錦鯉・・・以前からやってた合コンのネタをブラッシュアップしてきましたね。隆のツッコミのキレが増しているというか、頭をぴしゃんと叩く動きがきれい。雅紀さんの後頭部が真っ赤になってないか心配になりました。もちろん雅紀さんの腕もいいんだけど、隆がうまくコントロールしていたように思います。最初はゆったりしてて、「穴は掘らないよ」ってセリフのところが間延びしているように感じましたが、徐々に勢いを増し、見事な畳みかけ。あと「ヒ・ザ!」の言い方ね。
「こんにちは」ではなく「こんばんは」と言うべきというオール巨人。弟子に礼儀は徹底的に教え込むけど、笑いはあまり教えることができない、ボンクラ師匠ならではの的外れアドバイス。
インディアンス・・・手数の多い小ボケをひたすらくり出す、いつも通りのインディアンス。「恐怖心が行方不明」という例えから派生するドラマは続きが観たくなります。アクションも多めでキレがある。しかし手数がやや多すぎというか、セリフ量の多さゆえに終盤ほぼ早口になってて、部分的に聞き取りづらい箇所がありました。もっとひとつひとつのボケを大切にするというか、手数を絞ることを覚えたほうがいいのかもしれません。まつもときんに君が言ってた「拍手笑いがあるので、そこをもうちょっと感じられたら」というのも、それと同じことだと思います。
あと、田渕の舌が異様に白かったですね。緊張の産物?
もも・・・いかつい見た目のまもる。と、オタクっぽい見た目のせめる。が、それぞれズレたことを言い合う、という形式の漫才(お互いの名前からしてズレている)。序盤に「ズレてるわー」「ズレてるか?」「いやズレてますよね」「ズレてます?」のやり取りを行い、途中からそれを省略して速度を上げていくという畳みかけ。オール巨人が「もっと早めに行っといたら」「最初から言葉の殴り合いをしといたら」って言ってて、それはズレてるズレてるかのセリフを省けということだったんでしょうけど、僕はネタの緩急として必要だったと思います。「◯◯顔」の例えもいちいち面白い。「妹がほしい言うたらアカン顔」は犯罪臭。ただ、こちらもインディアンス同様やや詰め込みすぎで、セリフ量をちゃんと聞き取れるくらいのボリュームにしたほうがいいと思います。
この形式はももが手に入れた強烈な武器で、彼らだけのオリジナリティ。この形式をひたすら追求して深化させ、ミルクボーイのような道を目指すか、それともほかのパターンを模索するか。これからどうなっていくかが一番楽しみで、定点観測していきたいコンビですね。
続きましてファイナルラウンド。
インディアンス・・・1本目とほぼ同じ感想です。「あっち向いてホIKKO」というワード、サザエさんの腹立つ顔、真美の天丼が特によかったです。もう中学生が怖い先輩だった、というボケは、本人知らないと伝わりません。
そういやインディアンスって、M-1でもアドリブ入れてくることがあるそうで、その度胸はすごいですよね。川瀬名人もそれくらいのゆとりを持ったほうがいいのではないでしょうか。
錦鯉・・・感想は1本目と同じなので、ネタと違うこと書かせてもらいますけど、僕、M-1優勝できるかどうかには、知名度がけっこう関係してくるんじゃないかって気がしてるんですよね。たとえばミルクボーイ。彼らは優勝した2019年の大会の時点で、全国的な知名度はほぼゼロに等しかった。ミルクボーイの漫才は「◯◯だ・◯◯じゃない」をひたすら繰り返す形式ですが、もし彼らが2019年のM-1前にいくらか売れていて、漫才の形式をみんなが知っていたらどうだったでしょうか。そうなっていたら、当日あれほどのインパクトを残すことなく、点数も低めとなり、優勝を逃していたかもしれません。今現在、僕らがミルクボーイの漫才を観るとき、「いつものアレね」という、ややマンネリ化した眼差しを向けます。ミルクボーイの漫才は、形式が決まりきっているため、どれも同じに見えてしまうきらいがあるからです。それと同じ視線で採点されたら、当然点数は伸びるはずもない。つまり、未知であったこと、無名であったことが、ミルクボーイにとってプラスに働いた、ということです。
対して、錦鯉はすでにみんなの顔なじみになっていた、というのがプラスに働いたと思います。雅紀さんは、愛すべきおバカキャラ。そのキャラクターを、去年のM-1以降、1年かけてみんなが知ることになりました。「知った顔」だということ。馴染んだキャラクターということ。錦鯉の漫才は、「親しみ」によってより面白く感じられる漫才なのです。顔なじみであったことが優勝に大きく影響したのではないか、つまり、錦鯉にとってのこの1年は、今大会の優勝のための下地作りをひたすら行っていた1年だった、と言えるのではないかと思うのですね。
それと、ゆにばーすとは対照的な自然体。雅紀さんのキャラクターゆえなのかもしれませんけど、完全に脱力しているように見えます。この脱力感もプラスに働いている。
僕は去年のM-1の記事で、「錦鯉は年を取るほどおバカが際立って面白くなっていくのではないか」って書いたんですけど、今回その確信を深めました。雅紀さんのとぼけた顔とギョロ目は、ただそれだけで面白い。そのルックスは年々味が増していくことでしょう。
隆、雅紀さん、本当におめでとう。ライフ・イズ・ビューティフル。
オズワルド・・・1本目と比べて、2人の会話、というか歯車が嚙み合っていないように感じました。畠中が割り込んだおじさんに怒ってるのか怒ってないのかよくわからず、どう見ていいのかわからないまま話が進んでいきます。すると畠中が分裂。2つの相反する感情に引き裂かれてたことがわかりますが、理想の伊藤まで入ってきて、どの人格が話してるのか、わかりにくくなっていました。1本目がすごくよかっただけに残念。トマト投げられる縦軸はよかったです。
優勝後は仕事が殺到してしばらくは休みがなくなり、睡眠時間も大幅に削られる、という話をよく聞きます。雅紀さんの体力がもつのか、今から不安です。
それから川瀬名人。以前名人は、もし優勝できないままコンビ結成15年が過ぎたらどうするか、という質問に、「その時は解散してほかのコンビで優勝目指すだけ」って答えてたんですよね。なんかそういう展開も面白いというか、名人が15年単位でコンビ結成と解散を繰り返し、その時々ならではの漫才を見せる、というのもいいんじゃないかって思うんです。そして80歳くらいで優勝して、雅紀さんの最高齢記録を大幅に更新するとかね。そうなったらドラマチックですよね。
個別の感想は以下の通り。まずはファーストラウンドから。
モグライダー・・・話の入りがやや強引な気がしましたが、設定を理解してからはスルスルと飲み込むことができました。美川憲一の「さそり座の女」の「いいえ」の前に行われたであろうやり取りを想像するという、着眼点が素晴らしい。芝が歌うときに口を曲げて、微妙なモノマネしてるのもジワジワ笑えます。ともしげの滑舌の不安がありましたが、星座を次々言っていく場面でちょっと怪しくなる以外は問題ありませんでした。
「もっかい聞いても意味わかんなそうだな」の後、余計なことは言わずに歌い出したスムーズさや、「お黙り案件」というワードが特によかったです。ふたご座を2人分数えてしまうのは、ツッコミしだいでもうちょっと面白くなったんじゃないでしょうか。
ただ、僕はもっとともしげのキャラを活かしたネタにしといたほうがよかったんじゃないかと思えてしかたないんですよね。ともしげって、すごくキャラが立ってるんです。だから今回のM-1を機に、ブレイクする可能性が大だと思ってたんですよ。ともしげ単独で、「ANZEN漫才みやぞん‐ティモンディ高岸」のラインで売れるという筋書きになったかもしれませんが、いずれにせよ今大会で一番ブレイクを果たすのがモグライダーだろうと予想してたんです。
だから優勝は二の次で、インパクトを残すことを狙ったほうが、モグライダーの戦略としては吉じゃないかって考えてたんです。これだと2番手のランジャタイのほうがインパクト強かったですよ。モグライダーのブレイク、もう少し時間がかかりそうですね。
ランジャタイ・・・せり上がりからステージに出てくるところで、国崎が伊藤の背中を軽く押したのがちょっとジーンときました。
いつも通りのランジャタイワールド。何を見せられてるのかよくわかんないんだけど面白いというね。国崎が暴れまわって、伊藤はほぼ傍観しているというのもいつも通り。国崎がトレードマークの黄色ジャージ着てませんでしたけど、お腹の中で暴れまわるネコを演出するためだったんですね。上手すぎず下手すぎないムーンウォークもツボにくる。でも、音響さんがネタ終わりに気づかず、音出し遅れたのが一番面白かったかもしれません。
審査員が頭をかかえていたのが子気味よかったです。ランジャタイは何年後かに、マヂカルラブリーのような優勝を果たすかもしれません。その時は最後に「国民最高!」って叫んでいただきたい。
ゆにばーす・・・明らかに2年前よりよくなっています。技術はまだもう少し向上の余地があるかもしれませんが、ネタの形式はほぼ出来上がっているというか、「ゆにばーすが行える漫才」の完成形に到達しているのではないでしょうか(まだいくつかパターンを作れるにせよ、ですが)。この漫才が観れなくなってしまうのであれば、優勝しないでほしい、とすら思えてきます。
ディベートという題材を導入することで、漫才の基本形、しゃべくりを軸に展開し、時折動きも入れて変化をつける、という構成もすごくいい。川瀬が悔しがって地面を蹴る動きの反復も気持ちいい。ですが、すごくいいはずなのに、観ていて少し違和感を感じてしまったんですね。それは何か。
川瀬ってM-1優勝のためだけに芸人になったというほどM-1に賭けていて、まさに「M-1の申し子」と呼ぶにふさわしいのですが、それゆえに、ネタ作りに時間をかけすぎてしまっているんじゃないかと思うんですよね。「このセリフが◯秒、ここの間が◯秒」というふうに、細かく計算して、練習も人一倍やって仕上げてきてるんじゃないかと思うんです。つまり、ゆにばーすのネタは高度に計算されている。川瀬はそれが必要と思ってやってるんでしょうけど、そのせいで「計算の跡」がうっすら透けて見えてしまっているのではないか。それが僕の感じた違和感の正体であり、完成度の高さとは裏腹の、低めの点数につながったのではないか、という気がするのです。
漫才というのは、自然に話しているように見せかけなくてはなりません。実際には何十回、何百回と練習して本番を迎えるわけですが、その練習の跡が見えないよう、あたかも今その場で思いついたことを話しているかのように行わなくてはならない。その自然さがあってこそ抵抗なく耳に入ってきて笑いが生まれるのです。しかし今回のゆにばーすは、川瀬の計算高さゆえに自然さを失ってしまい、計算の跡・練習の跡が背後に見える形になっていた。隙がなさすぎるというかね。それがこの結果となったのではないでしょうか。オール巨人が言ってた「もうちょっと気楽に出来たら」というのも、たぶん同じことを指摘しているのだと思います。「すごい上手くなったなーって思ったのになんで俺88点」と言ってたまつもときんに君も、同じことを感じ取っての点数だったのではないでしょうか。
だとすると、ゆにばーすの今後の課題は、「適度に肩の力を抜くことを覚える」ということになるでしょう。
ところで、はらちゃんが口ずさんでたBGMがわかんなかったんですけど、あれなんですか?
ハライチ・・・僕はハライチのノリボケ漫才あんまり好きじゃないんで、それじゃなかったのはよかったです。しかし、人が始めようとしてる趣味にことごとくケチをつける、というのは笑いの種類としてはすごくシンプル。このまま行くのかと思ってたら、自分がケチをつけられると異常に激高したため、「ここがネタの中心なんだ」と理解しましたが、それにしたってひねりがない。
岩井ってけっこう尖ってて、「新しい笑いを作っていきたい」とも言ってたんですけど、そのくせこんなネタしか持ってこれなかったの?M-1のラストチャンスなのにこれなの?って意地悪く思っちゃいました。澤部のツッコミにキャラが滲んでたところはよかったです。
上沼恵美子が「審査員の皆さんおかしい」って怒ってましてけど、えみちゃん、おかしいのはアンタだよ。
前にも言ったかもしれませんけど、視聴者投票って人気投票の面が大きいですよね。純粋に面白いかどうかだけではなく、顔なじみであるかどうかが集票に影響する。今回の敗者復活組の中で、一番お茶の間に馴染んでで、好感度が高いのがハライチです。ですから、ハライチが敗者復活したのは、人気票によるところが大きいのではないか、投票の半分くらいは人気票だったのではないか、と思うのです。だとすれば、その人気票を差し引いたら2位の金属バットが1位になります。つまり、実質1位は金属バットだった、ということです。あ、あくまで僕の妄想ですよ。
真空ジェシカ・・・川北の声が小さめなのが少し引っかかりましたが、それ以外はすごくよかったです。1日市長から派生して10日副市長、2ヵ月会計、5秒秘書と展開していくところや、沖縄の名字からの流れで「罪人と書いてつみんちゅ」と言うところ、駒澤大学のタスキの伏線回収なんかが特によくできてました。ひとつひとつのボケ(場面)は単独で存在してて、つながりがないんですけど、それでも続けて見せられるとひとつながりに見えるようになっていて、腕のよさと台本の完成度を感じました。でも最後の酸性雨はいらなかったかな。
オール巨人と上沼恵美子も言ってましたけど、センスと頭がいい。個人的に一番「これからずっと見ていたい」という気持ちになったコンビです。
オズワルド・・・つかみが早くて強烈。畠中がサイコパスな発言をし、それに振り回される伊藤。鬼ごっこで友達選ぼうとするところや、林の一点張りで名前を当てにくるところ、脈拍で正解当てするところなんかが特にサイコパス。2人が指になってビッグピースの場面以外は全部しゃべくりで、会話だけでこれほど面白くできるというのは、相当才能がある証拠です。今大会で一番面白かったネタ。ずっと聞いていたいくらい。
去年はまつもときんに君とオール巨人の意見に引き裂かれていましたが、結局自分たちが信じるスタイルを貫いてきた、ということですね。それが正解だと思います。
ロングコートダディ・・・笑神籤を落っことされるという縁起の悪いスタート。最初兎の表情に緊張が見えましたけど、ちゃんとやれてましたね。「ワニになりたい」とか「生まれ変わりの練習をする」という突飛な設定はよかったです。しかし、振り分け担当と設定担当を分ける必要はあったでしょうか。1人で両方やれたし、立ち位置を上下に分けて移動するのも必然性を感じられませんでした。肉うどんの啜られる動きはツボ。振り分けがしりとりになってるからワニを狙って肉うどんになってしまう、という流れもうまい。ロングコートダディはコントのほうが向いてるのかもしれません。
錦鯉・・・以前からやってた合コンのネタをブラッシュアップしてきましたね。隆のツッコミのキレが増しているというか、頭をぴしゃんと叩く動きがきれい。雅紀さんの後頭部が真っ赤になってないか心配になりました。もちろん雅紀さんの腕もいいんだけど、隆がうまくコントロールしていたように思います。最初はゆったりしてて、「穴は掘らないよ」ってセリフのところが間延びしているように感じましたが、徐々に勢いを増し、見事な畳みかけ。あと「ヒ・ザ!」の言い方ね。
「こんにちは」ではなく「こんばんは」と言うべきというオール巨人。弟子に礼儀は徹底的に教え込むけど、笑いはあまり教えることができない、ボンクラ師匠ならではの的外れアドバイス。
インディアンス・・・手数の多い小ボケをひたすらくり出す、いつも通りのインディアンス。「恐怖心が行方不明」という例えから派生するドラマは続きが観たくなります。アクションも多めでキレがある。しかし手数がやや多すぎというか、セリフ量の多さゆえに終盤ほぼ早口になってて、部分的に聞き取りづらい箇所がありました。もっとひとつひとつのボケを大切にするというか、手数を絞ることを覚えたほうがいいのかもしれません。まつもときんに君が言ってた「拍手笑いがあるので、そこをもうちょっと感じられたら」というのも、それと同じことだと思います。
あと、田渕の舌が異様に白かったですね。緊張の産物?
もも・・・いかつい見た目のまもる。と、オタクっぽい見た目のせめる。が、それぞれズレたことを言い合う、という形式の漫才(お互いの名前からしてズレている)。序盤に「ズレてるわー」「ズレてるか?」「いやズレてますよね」「ズレてます?」のやり取りを行い、途中からそれを省略して速度を上げていくという畳みかけ。オール巨人が「もっと早めに行っといたら」「最初から言葉の殴り合いをしといたら」って言ってて、それはズレてるズレてるかのセリフを省けということだったんでしょうけど、僕はネタの緩急として必要だったと思います。「◯◯顔」の例えもいちいち面白い。「妹がほしい言うたらアカン顔」は犯罪臭。ただ、こちらもインディアンス同様やや詰め込みすぎで、セリフ量をちゃんと聞き取れるくらいのボリュームにしたほうがいいと思います。
この形式はももが手に入れた強烈な武器で、彼らだけのオリジナリティ。この形式をひたすら追求して深化させ、ミルクボーイのような道を目指すか、それともほかのパターンを模索するか。これからどうなっていくかが一番楽しみで、定点観測していきたいコンビですね。
続きましてファイナルラウンド。
インディアンス・・・1本目とほぼ同じ感想です。「あっち向いてホIKKO」というワード、サザエさんの腹立つ顔、真美の天丼が特によかったです。もう中学生が怖い先輩だった、というボケは、本人知らないと伝わりません。
そういやインディアンスって、M-1でもアドリブ入れてくることがあるそうで、その度胸はすごいですよね。川瀬名人もそれくらいのゆとりを持ったほうがいいのではないでしょうか。
錦鯉・・・感想は1本目と同じなので、ネタと違うこと書かせてもらいますけど、僕、M-1優勝できるかどうかには、知名度がけっこう関係してくるんじゃないかって気がしてるんですよね。たとえばミルクボーイ。彼らは優勝した2019年の大会の時点で、全国的な知名度はほぼゼロに等しかった。ミルクボーイの漫才は「◯◯だ・◯◯じゃない」をひたすら繰り返す形式ですが、もし彼らが2019年のM-1前にいくらか売れていて、漫才の形式をみんなが知っていたらどうだったでしょうか。そうなっていたら、当日あれほどのインパクトを残すことなく、点数も低めとなり、優勝を逃していたかもしれません。今現在、僕らがミルクボーイの漫才を観るとき、「いつものアレね」という、ややマンネリ化した眼差しを向けます。ミルクボーイの漫才は、形式が決まりきっているため、どれも同じに見えてしまうきらいがあるからです。それと同じ視線で採点されたら、当然点数は伸びるはずもない。つまり、未知であったこと、無名であったことが、ミルクボーイにとってプラスに働いた、ということです。
対して、錦鯉はすでにみんなの顔なじみになっていた、というのがプラスに働いたと思います。雅紀さんは、愛すべきおバカキャラ。そのキャラクターを、去年のM-1以降、1年かけてみんなが知ることになりました。「知った顔」だということ。馴染んだキャラクターということ。錦鯉の漫才は、「親しみ」によってより面白く感じられる漫才なのです。顔なじみであったことが優勝に大きく影響したのではないか、つまり、錦鯉にとってのこの1年は、今大会の優勝のための下地作りをひたすら行っていた1年だった、と言えるのではないかと思うのですね。
それと、ゆにばーすとは対照的な自然体。雅紀さんのキャラクターゆえなのかもしれませんけど、完全に脱力しているように見えます。この脱力感もプラスに働いている。
僕は去年のM-1の記事で、「錦鯉は年を取るほどおバカが際立って面白くなっていくのではないか」って書いたんですけど、今回その確信を深めました。雅紀さんのとぼけた顔とギョロ目は、ただそれだけで面白い。そのルックスは年々味が増していくことでしょう。
隆、雅紀さん、本当におめでとう。ライフ・イズ・ビューティフル。
オズワルド・・・1本目と比べて、2人の会話、というか歯車が嚙み合っていないように感じました。畠中が割り込んだおじさんに怒ってるのか怒ってないのかよくわからず、どう見ていいのかわからないまま話が進んでいきます。すると畠中が分裂。2つの相反する感情に引き裂かれてたことがわかりますが、理想の伊藤まで入ってきて、どの人格が話してるのか、わかりにくくなっていました。1本目がすごくよかっただけに残念。トマト投げられる縦軸はよかったです。
優勝後は仕事が殺到してしばらくは休みがなくなり、睡眠時間も大幅に削られる、という話をよく聞きます。雅紀さんの体力がもつのか、今から不安です。
それから川瀬名人。以前名人は、もし優勝できないままコンビ結成15年が過ぎたらどうするか、という質問に、「その時は解散してほかのコンビで優勝目指すだけ」って答えてたんですよね。なんかそういう展開も面白いというか、名人が15年単位でコンビ結成と解散を繰り返し、その時々ならではの漫才を見せる、というのもいいんじゃないかって思うんです。そして80歳くらいで優勝して、雅紀さんの最高齢記録を大幅に更新するとかね。そうなったらドラマチックですよね。