猫じじいのブログ

子どもたちや若者や弱者のために役立てばと、人権、思想、宗教、政治、教育、科学、精神医学について、自分の考えを述べます。

イスラエル・ガザ戦争の宇野重規の論壇時評

2023-12-24 23:07:42 | ガザ戦争・パレスチナ問題

10月7日にハマスによる攻撃でイスラエル側の1400人が殺された。その報復とハマス壊滅に、12月23日までに、イスラエル軍はガザ侵攻でパレスチナ人を一方的に2万人殺した。

イスラエルは、病院だけでなく、ガザのほとんどの建物を爆撃した。ガザは瓦礫と化した。また、イスラエルはガザを封鎖しており、食料攻め、燃料攻めを行っている。エジプトは、ガザと接しているが、ガザからの難民を拒否している。ガザ住民には逃げ場がない。

ガザのパレスチナ人は、爆撃による直接的な死だけだけでなく、飢えや医療が受けられないなどで、大人も子供も老人も女も男も死んでいくだろう。10万人は間接的に殺されるだろう。

イスラエル政府は、ハマスの幹部がまだガザで生きていることを理由に、この一方的攻撃を継続している。アメリカ政府は、イスラエル政府に、武器や弾薬を提供し、攻撃を支持している。

イスラエル・ガザ戦争は、明らかに非対称な戦争である。

「政治学者」の宇野重規は、この戦争について11月30日の論壇時評で『暴力絶つため歴史に向き合う』を書いている。彼は、非常に控え目に書いているので、彼の真意が日本の人々に伝わらないのでは、と私は危惧する。

彼の言葉、「わたしたちは、地域の複雑な歴史を理解し、人々が暴力から解放されるために、自らがなすべきことを考え続けなければならない」が、私にむなしく響く。

時評を読むと、報道人と異なったイスラエル・ガザ戦争が、論壇で展開されているようだ。

「(公研11号で池田ら3氏は)『組織であると同時にイデオロギーである』ハマスが、イスラエルという国家の存在を認めない以上、和平が困難であることを強調する。」

しかし、ハマスを壊滅しないと、イスラエルが生き残れないとするネタニヤフ政権もイデオロギーではないのか。2004年以降、ハマスの幹部をイスラエルは暗殺している。

宇野は「反ユダヤ主義」と非難されることを恐れ、何か大事なことを読者に伝えていないように思える。

イスラエル首相のネタニヤフは、今回の戦争で、「西欧の民主主義の国イスラエルか、イスラム法のハマスか」と語ったが、ここに問題がある。現在のイスラエルを建国したシオニストは、自分たちを西欧の一部と考え、アラブ人やスラブ人を劣等民族と見なし、彼らの人権を無視する。

(補遺)「西洋」ではなく「西欧」とは言っていないことに注意して欲しい。「西欧」とはイギリスとフランスのことで、イスラエルは中欧のドイツをいまだに許していない。

「反ユダヤ主義」は英語でanti-semitismという。それは、セム語系を話す民族に対する偏見と差別のイデオロギーのことを指す言葉である。セム語系民族とは、ユダヤ人だけでなく、アラブ人やイラク人などを含む。西欧の偏見と差別に闘うという観点からは、パレスチナ人はユダヤ人の同胞である。なのに、シオニストはパレスチナ人を野蛮人かのようにいう。

また、宇野は「イラン現代政治の中西久枝は、問題はより複雑だという」「経済制裁に苦しむイランにとって、米国との対立を浮き彫りにしたハマスによる攻撃は『タイミングの悪いもの』であった」と簡単に述べるが、パレスチナとイスラエルを囲む中東諸国の政治状況について、もっと言及すべきだと思う。

現在、「イラン革命」や「アラブの春」はもはや幻想である。周囲の中東の国々は、イラクを含め、国内に政治不安を抱えている。政府は国民に信頼されているわけではない。アラブ諸国の多くは国民を抑え込むためにイスラエルの技術的支援を受けていると高橋和夫はいう。これが「アラブ諸国の一部とイスラエルが国交を正常化したが、パレスチナ問題の解決が置き去り」の実態である。


人間は冷酷な殺害マシンになれない、イスラエル軍は内部から崩壊しだした

2023-12-17 15:47:41 | ガザ戦争・パレスチナ問題

12月15日夜、イスラエル軍はハマスに人質となっていたイスラエル人の3人を誤って殺したと発表した。射殺された遺体はイスラエル領に運び込んで確認した結果、10月7日のハマス襲撃でガザに連れ去らわれたイスラエル人と分かった。

イスラエル軍は、すでに、ガザの地下トンネルに海水を注ぎ込んでいるから、今回の件は、人質のイスラエル人を見える所で殺すか、見えない所で殺すかの違いにすぎない。

ロイター通信やCNNによると、この3人は、イスラエル軍が銃撃したとき、白旗を掲げていたという。いま、ガザ市街戦では、白旗を掲げていても射殺するのが、あたりまえになっているようだ。

銃撃で2人が即座に射殺されたが、1人が建物に逃げ込みヘブライ語で助けを求めた。それで、上官ははじめて銃撃停止を命じたが、すでに遅く、ふたたび銃撃があり、その1人も射殺されたという。

イスラエル軍は、市街戦では敵が民間人の服装をしているから仕方がないと釈明している。戦闘員と民間人が識別できないのは、市街戦でいつも起きることである。市街戦に持ち込むこと自体、無差別空爆と同じく、間違っている。

また、今回の件で、遺体をイスラエル領に運び込んで、民間人か、ハマスの戦闘員か、ハマスの幹部か、ほかのイスラム聖戦の兵士か、確認していることがわかる。ハマスのメンバーをどれだけ殺せたかを確認するためだ。ハマスを壊滅するためには、民間人を何人殺してもかまわないというイスラエルの立場がにじみ出ている。

遺体だけでなく、降伏したパレスチナ人もイスラエル領に連れ去り、尋問している。人権が守られているか、私は疑う。

イスラエル政府は、イスラエル軍を感情のもたない冷酷な殺害マシンとして考えているのだろう。しかし、人間は感情をもっている。戦場に駆り出された兵士は、恐怖から誰かれを考えず、発砲してしまう。また、人を殺していくうちに、自分の中にあったモラルがはじけていく。

12月15日の読売新聞オンラインにつぎの記事がのった。

「イスラエル兵が(ガザの)商店の棚にある商品を周囲に投げつけ、棚を倒した。同僚の兵士からは笑い声が上がった。軍には予備役が多く、若い兵士らがふざけ半分で撮影した映像や画像をX(旧ツイッター)に投稿している。」

また、ヨルダン川西岸でも、イスラエル兵が、占領したモスク(イスラム教礼拝所)でユダヤの祭りの歌「ハヌカ」を歌ってXに投稿している。

イスラエルは軍事的に勝っているが、内側から腐り始めている。イスラエルは国際的支持を失いつつある。

日本人も、イスラエルのあやまちを「他山の石」として、増税してまでの軍備増強路線をただちに放棄すべきである。軍事路線に良いことはない。負ければ負けで惨めだが、勝てば勝てばで傲慢になってみんなの嫌われ者になる。


イスラエルがガザ攻撃を続けパレスチナ人を殺すのを許してよいのか

2023-12-15 22:20:52 | ガザ戦争・パレスチナ問題

きょうの朝日新聞は、12月13日にイスラエルの首相ベンヤミン・ネタニヤフが、「国際的な圧力に直面しても、我々を止めるものはない」と、ガザ軍事侵攻継続の決意を述べた、と報じた。これは、アメリカのバイデン大統領がその前日に、イスラエルが「無差別の爆撃によって世界からの支持を失い始めている」と異例の警告を発したことへの回答である。

ハマスを壊滅するためには、ガザ攻撃を継続し、住民を殺しまくることが、イスラエルにとって軍事的に正しい。しかも、イスラエルの潜在的な敵であるパレスチナ人の人口を減らす絶好の機会でもある。

しかし、人道上それは正しいのか。ホロコーストでユダヤ人が一方的に殺されたことを理由に、自分たちが生き残るために、歴史上ホロコーストに関与したことのないパレスチナ人を、ガザに閉じこめ、一方的にイスラエル軍が殺しまくるのは、人道的に正しいのか。ナチスと同じでないか。

私は子どものとき、『アンネの日記』を読んでユダヤ人少女のアンネに涙し、ハリウッド映画『栄光の脱出』を見て1948年のイスラエル建国に感動したのは、なんという愚かな誤りだったと、いま、思わずにいられない。

12月13日、アメリカのCNNは、「イスラエルがガザでの攻撃に使った2万9千発の空対地弾のうち、40~50%が無誘導弾だ」と報じた。「空対地弾」とは、戦闘機から地上の標的に発射するロケット弾である。無誘導弾ということは、標的を正確に狙うことができず、民間人を巻き添えにせざるをえないということだ。

しかし、それだけではない。イスラエル軍は、どこにハマスの拠点があるのか、どこにハマスの戦闘員がいるのか、わかっていないのではないか、と私は思う。どこが標的かわからないから、価格の安い無誘導弾を使えば良いということになったのだろう。

1週間前のTBSテレビ『報道1930』は、いま、イスラエル軍が毎日空爆の標的を200カ所 AIで生成していると、イスラエルの新聞が報じた、と言っていた。以前は、ハマス1人を殺すのに非戦闘員平均2人を殺してもかまわないとイスラエル政府は言っていたが、今回の戦闘では、ハマス1人につき、平均20~30人の非戦闘員を殺してかまわないと言っているという。

標的がわからないで攻撃するのだから、1対無限かもしれない。AIを使って標的を決めているのは、軍の誰もが、良心の呵責を感じたくないから、自分で毎日の標的を決めずに、機械まかせにしているのだろう。

さらに、地下トンネルにいるハマスの戦闘員を殺すため、人質になっているイスラエル人やアメリカ人がいるにもかかわらず、海水を地下トンネルに注入しはじめたと、12月12日、アメリカのメディアが一斉に報じた。

鶴見太郎の『イスラエルの起源』(講談社選書メチエ)を読んだ私には、「世界には敵か味方しかいない、生き残るために敵を殺すことこそが正しい」とするシオニストのネタニヤフが「国際的な圧力に直面しても、我々を止めるものはない」と言うことを予測できた。

イスラエルがこれまで軍事路線を続けてこれたのは、アメリカが、中東の石油資源確保のために、その先兵であるイスラエルを軍事的にも財政的にも支援していたからである。しかし、アメリカは中東の石油資源へのこだわりをいま捨て始めている。いずれ、アメリカは、人道に反してのイスラエル支援をしなくなるだろう。バイデンの発言は、その予兆かもしれない。

アメリカの支援がなくなるとすれば、イスラエルの軍事路線は自殺行為である。周囲の敵意を煽るだけである。

だとすれば、イスラエル国民が、自分たちの祖父祖母がパレスチナ人から土地を奪ってイスラエル国を建設したことを謝罪し、ネタニヤフ政権のパレスチナ人虐殺を止め、平和共存の道をさぐるしかない、と私は考える。


イスラエル・ガザ戦争は、どれだけガザ住民を殺せば終わるのか

2023-12-06 00:28:21 | ガザ戦争・パレスチナ問題

イギリスの放送局BBCは、今回の戦争を、イスラエル・ガザ戦争と呼んでいる。

10月7日にイスラエルがハマスから奇襲攻撃を受け、すぐさま、イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフがつぎのように表明した。

「治安当局の幹部を招集し、入植地から侵入したテロリストを一掃するよう指示した。この作戦は今まさに、実施されている」「同時に私は、予備役の大規模な動員と、敵がかつて経験したこともないような威力と規模の報復戦争を命令した」。

このあと、「報復」でなく、「ハマス壊滅」を戦争の目標に置いた。ハマスの本拠はガザにあるとイスラエル側は主張する。

「報復」ならば、日本では、「倍返し」という話しになる。ただし、ヘブライ語聖書(旧約聖書)の創世記4章24節に「カインのための復讐が七倍なら/レメクのためには七十七倍」とあるから、レメクの子孫の国イスラエルは77倍の報復となる。奇襲攻撃で約1,400人のイスラエル人が死んだとされるから、ガザの住民を107,800人殺すことになる。

「ハマス壊滅」となると、ハマスとガザ住民との区別がつかないから、ガザの住民約238万人を殺すことになる。

イスラエル・ガザ戦争は、ハマス側は戦闘機や戦車や戦艦などの近代兵器を持ち合わせていないから、イスラエル側の一方的攻撃が、ハマスの奇襲攻撃に後に続いている。そして、11月24日の戦闘一時休止までに、イスラエルはガザの住民を約1万5千人殺している。「カインのための復讐が七倍」をとっくに越えている。1週間で戦闘が再開されたから、ガザ住民はまた殺されていく。このままでは、すぐに2万人を超えるだろう。

電気も水も食料も供給されていないから、空爆や戦車攻撃だけでなく、このために死ぬ者も現れるだろう。実際、病人や新生児はすでに病院で死んでいる。

ヘブライ語聖書の『列王記下』の18章27節に、アッシリア軍がユダ王国の城を兵糧攻めを行い、王の使いと城壁の兵士に降伏しないと「自分の糞尿を飲み食いするようになるのだ」と告げたとある。兵糧攻めは昔からある残酷な手である。しかも、今回はガザ住民に降伏の道が用意されていない。あくまで、イスラエル側の一方的な攻撃で、ガザ住民の意思は問われていない。

戦争で非戦闘員を殺すことや食料攻めの行うことは、国際条約では禁じられているが、イスラエルは条約に参加していない。

現在、ネタニヤフ政権は「77倍返し」を口にしないが、「ハマス壊滅」を相変わらず宣言している。戦争を止める意思は全くない。

アメリカ政府がイスラエルへの軍事援助を止めるか、イスラエル国民がネタニヤフ政権を倒すしか、戦争を止める手立てはない。

アメリカ政府の立場を変えさせるのは、アメリカ国内や世界の世論である。

そもそも、イスラエルはシオニストのユダヤ人が1948年に武力で土地を奪って建国した国である。イスラエル国民自身が自分たちの祖父母の非に気づいて戦争を中止し、パレスチナ人の人権を認め、共存に持ち込むのが、本当は最善のシナリオだと私は思う。さもないと、反ユダヤ主義に火をつけることになる。

[追記]

12月11日、ガザの保健省は、10月7日の戦闘開始からの(ガザ住民の)死者が1万8205人、負傷者は4万9645人に上るとしている。〔朝日新聞12月14日〕

[追記]

12月19日、ガザの保健省は、10月7日の戦闘開始からの(ガザ住民の)死者が1万9667人、負傷者は5万人以上としている。同じ日、国連パレスチナ難民救済事業機関は、220万人のガザの人口の90%以上が自宅から非難し、「前例のない驚くべき水準の強制移住と破壊が目の前で起きている」と訴えた。〔朝日新聞12月21日〕

[追記]

12月27日、ガザの保健省は、10月7日の戦闘勃発からの(ガザ住民の)死者数が2万1110人、負傷者数が5万5243人にのぼったと発表した。〔朝日新聞12月28日〕

[追記]

12月29日、ガザの保健省は、10月7日の戦闘勃発からの(ガザ住民の)死者数が2万1672人に達したと発表した。約7割を女性と子供が占める。負傷者数が5万6165人にのぼる。〔朝日新聞12月31日〕

[追記]

1月4日、ガザの保健省は、昨年10月7日の戦闘勃発からの(ガザ住民の)死者数が2万2400人以上に達したと発表した。(BBC)

[追記]

1月21日、ガザの保健省は、昨年10月7日の戦闘勃発からの(ガザ住民の)死者数が2万5105人、負傷者数が6万2681人にのぼったと発表した。〔朝日新聞24年1月22日〕

[追記]

2月29日、ガザの保健省は、昨年10月7日の戦闘勃発からの(ガザ住民の)死者数が3万35人、負傷者数が7万2681人にのぼったと発表した。〔朝日新聞24年3月1日〕

[追記]

4月5日、ガザの保健省は、昨年10月7日の戦闘勃発からの(ガザ住民の)死者数が3万3091人、負傷者数が7万5750人にのぼったと発表した。〔朝日新聞24年4月7日〕


イスラエル国は土地を奪ったことをパレスチナ人に謝罪し賠償すべきだ

2023-11-28 00:10:28 | ガザ戦争・パレスチナ問題

Googleマップでパレスチナのガザ地区の航空写真を見ると、難民キャンプとモスクだけでなく、住宅も大学も学校も病院も教会もサッカー場もショッピングモールもスーパーもレストランもある。北部には耕作地や果樹園がある。

ガザ地区の面積は365 km平方で、福岡市の343 km平方より大きく、横浜市の437 km平方より小さい。ガザ地区の人口は238万人で、福岡市の161万人より多く、横浜市の378万人より少ない。人口密度で比べると、ガザ地区は6,508人/ km平方、福岡市は4,695人/ km平方、横浜市は8,630人/ km平方である。

数字をあげたのは、イスラエルがガザ地区を封鎖していなければ、十分に文化的な生活をおくれる広さであることを強調したいからだ。

現実のガザ地区は、陸側が高さ6メートルの分離壁で囲まれ、海側がイスラエル海軍によって封鎖されている。したがって、自由に食料や燃料や水を他の場所から得ることができないし、工業製品の輸出もできない。

ガザ地区もヨルダン川西岸のパレスチナ自治区も、名前だけが自治区で、イスラエル政府と軍は、パレスチナ人を「天井のない檻」に閉じこめて、イスラエル側の判断で空爆をしたり、地上軍を送ったり、艦砲射撃を行ったりして、パレスチナ人の生命と財産を奪っている。

イスラエル政府は封鎖を解いて、パレスチナ自治区のガザ地区が自由に海外と貿易できるようにしないといけない。自治区を武力攻撃してはならない。

パレスチナとイスラエルとはなぜ争うのか。あるいは、イスラエルは、なぜ、そんなにパレスチナ人をいじめるのか。

放送大学名誉教授の高橋和夫は宗教的対立でなく「土地争い」だと言う。1週間前の朝日新聞の『オピニオン&フォーラム』で慶応大学教授の錦田愛子は「土地とアイデンティティ―を巡る争い」と言う。

この「アイデンティティー」とは、パレスチナ人にとって「ナクバ(大災厄)による離散という体験」と錦田は言う。ナクバとは武力によるイスラエル建国のことである。

それでは、イスラエル人のアイデンティティーとは何か。新バビロニアやローマ帝国によってパレスチナの地を追われ、世界に離散したということと、ヨーロッパで少数派の異教徒として迫害を受けたことで受けたことであると、新聞のインタビュー記事から錦田は言っているように読み取れる。

パレスチナのナクバは、75年前のことである。ユダヤ人の離散は2500年以上も前に始まったことだ。それに、立教大学教授長谷川修一の言うように、ヘブライ語聖書は歴史書ではなく、離散したユダヤ民族を束ねるための偽書である。

問題はそれだけでない。ユダヤ人政治哲学者のハンナ・アーレントが『全体主義の起源』の第1部「反ユダヤ主義」で指摘しているように、ヨーロッパで少数派の異教徒として迫害をうけたのではない。宗教的問題ではない。

アーレントは19世紀に始まった反ユダヤ人主義と、それまでのユダヤ人に対する社会的憎悪を区別すべきとする。

ユダヤ人は異質な閉鎖的なコミュニティを作っており、それぞれの地で、権力者に、その地の下層民(大衆)より、優遇されていた。そのことから、社会的憎悪は生じるが、暴動でのユダヤ人商店の略奪程度のことで、反ユダヤ主義のホロコーストのような国家によるユダヤ人抹殺にいたらなかった。

アーレントは反ユダヤ主義はイデオロギーであると言う。私の言葉で言えば、思い込み(信念)である。ユダヤ人を追放あるいは抹殺しなければ、自分たちが生きていけないという思い込みである。ユダヤ人は国際的つながりがあり、お金もあったので、国家権力からみると利用価値があったが、19世紀からしだいに、国家権力がユダヤ人の国際性や貸付を必要としなくなるにつれて、反ユダヤ主義のイデオロギーが政治の場で力を増したとする。

ナチは、第3帝国を建設する(世界を征服する)ための障害となると思い、ドイツに同化したユダヤ人、キリスト教に改宗したユダヤ人まで殺害したのだ。アーレントによれば、ナチが権力を握る以前に、ドイツのユダヤ系銀行は没落していたのにもかかわらずに、ユダヤ人せん滅を主張した。

この「反ユダヤ主義」がイデオロギーであるというアーレントの考察は、現在のイスラエルの「パレスチナ人はテロリスト」「ハマスせん滅」にも言えるのではないか。

武力によるイスラエル建国で、シオニストはパレスチナ人の土地と命を奪った。大日本帝国も、戦前、朝鮮人や中国人を殺して土地を奪った。しかし、日本政府は謝罪して土地を返している。

すでに多数のユダヤ人が東欧からやってきてパレスチナの地に住んでいる。今さら、イスラエル政府が土地を返すといっても、これらのユダヤ人の行くところがない。ならば、少なくとも、イスラエル政府と軍がやってきたことを謝罪し、パレスチナ難民に賠償すべきではないか。そして、イスラエル国は、自治区をパレスチナ国家として承認して、パレスチナ人の恣意的な拘束、殺害をやめ、自由な貿易を認めるべきではないか。

そして、ゆくゆくはイスラエル国とパレスチナ国は一体となり、アイデンティティ―なるつまらぬものは、ともに捨てるべきである。