~ 恩師の「講演集」より ~
講演集、 一
「反省の一例」
道場のほうに「反省させてください」
といって次々に訪ねて来られます。
最初はどなたも皆「私は何も間違いをしていませんが、
なぜこんなに苦しい目にあうのでしょうか」と言われます。
「幼い時から一度ふり返ってみて下さい」と言って、
反省をしてもらいます。一日や二日ではなかなか出て来ません。
ずっと続けて反省されますと、あるお方の場合は小学校低学年の頃に
お母さんの財布から十円盗んで、
それでお菓子を買たことを思い出されたのですね。
こんなことは反省をしなかったら、
全く記憶の底に沈んでいるものです。
そして、その部分について深く掘り下げて行ったのです。
なぜそういう行為をしたか、なぜ十円盗んだか、
その時にお母さんがどんな思いをされたか、
十円盗んだことをお母さんは知らないでおられたか、
もし知っておられたらどんな思いをされたか、
それらをよく考えて下さいと言って、
その方は翌朝までそのこと一つに
絞って反省をされたのです。
そうしますと、
お母さんはわが子のことはどんなことでも知っていて下さいます。
子供は隠してしたことであってもお見通しです。
お母さんが、わが子の十円盗んだ行為について思うことは、
「今ここで注意をすべきか、或いはお父さんに話すべきか、
このまま放っておいたら又繰り返すのではないだろか、
家でお金をきちんと片付けたら、
今度は他所のお金に手をつけはしないだろうか」ということです。
ましてや終戦間もない頃で、
お母さんは買い出しをしておられたそうですが、
その買い出しの大事な十円だということに
この方は気付かれたのですね。
反省しておられる部屋に私が入ろうとしましたら、
その方は大きい声をあげて泣き叫んでおられたのです。
その泣き方はまるで幼い子の泣き叫び方をして泣いておられました。
それでもう少し泣いてもらおうと思ってそのままにして、
私は部屋の外に出まして、
その後、もうこれくらいで自分の過ちに気付かれたのだからと思って、
「どうかこの方の罪をお許し下さい。
この方は今自分の心に目覚められました。
この方の過去をお許し下さい」と祈りますと、
泣き声はピタッと止まりました。
私が部屋のなかに入って行きますと、
「お母ちゃん堪忍してや、堪忍してや」と全く幼い子のように
繰り返していました。自然にこういう文句が出てしまうのです。
この方は十五、六年来、腰から下が筋無力症で全く動けなくて、
松葉杖で歩いていても足を交互に振り出すようにして歩いておられました。
その足が動きだして、全く健常者とはいきませんが歩けるようになったのですね。
反省をさせていただくことによって、現代医学ではどうすることもできなかった
下半身不随の筋無力症の病気が治ってしまったのです。
自分の中にそんな心の原因があったとは、
まさかその方も思いもかけなかったでしょう。
しかし「反省」によってこんな不思議な例も見せていただけます。
私も幼い頃を反省して泣き懺悔をさせてもらいましたが、
本当に反省をさせてもらいますと、涙が滝のようになって出て来ます。
そして鼻水も出て来ますけど、鼻水も涙も拭う間もありませんね。
私達の心の中に知らずに曇ってしまったスモッグを、反省することによって
晴らすことができるのです。
反省は、お釈迦様が私達を心の苦しみから救う為にお説き下さった心を磨く
一つの方法です。
~ 感謝・合掌 ~