生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

様々なメタシリーズ(67)「メタ認知制御」

2022年01月14日 14時13分10秒 | 様々な「メタ」、メタとは何か(公開)
様々なメタシリーズ(67)
人文学系のメタ(18)                                                           

TITLE: 「メタ認知制御」
初回作成日;2022.1.14 最終改定日;

 北尾倫彦著「深い学びの科学」(図書文化社 [2020] )は、博識者と思慮深い人のどちらが深い学びをしてきた人かの考察から始まっている。著者は文学博士だが、日本教育心理学名誉会員で、教育関係の著書を10冊以上出している。この書も、第1章は、「深い学びとはどういうことなのか」との題で始まっている。



 そして、世間で役に立つのは、知識よりも思考力であると結論している。深い学びは、主体的・対話的の教育から得られるというわけである。(pp.8-9)
 そこから、知識と思考の関係の話が始まり、子供の教育のあり方を語っている。そして、主題の「メタ認知」は、第3章で纏められている。
 
 「メタ認知」という用語は、1980年頃から記憶や読解の研究において使われ始めた、とある。(p.36)
そして項目別に、「算数文章題解決におけるメタ認知」、「国語説明文読解におけるメタ認知」、「高校数学の学習相談におけるメタ認知」、「評価のフィードバック機能とメタ認知」などについての例を示している。成績の違いは、メタ認知力の差によって生じるのである。これらすべては、「認知」ということが、頭の中でどの程度論理的かつ具体的に行われているかどうかの議論になっている。(pp.37-44)
 「メタ認知プロセスモデル」の図が示されている。(p.37)  教育現場のことのようだが、一般に適用できるので、それを解読する。
 
 人の頭が、具体的な認知や思考のために使われているときに、その奥ではメタ認知が働いている。メタ認知の機能は、「メタ認知知識」と「メタ認知制御」の二つがある。
 その図の説明として、「メタ認知知識」とは、認知を深めるためには、どのような要因や方略が影響し、それらを何時、どのように適用するかを知るもの。
「メタ認知制御」とは、認知知識の活動のプランづくりと、その監視と制御とある。(p.37)
 随分と分かりにくい表現だが、メタ的に解釈をすると、認知は、通常の読み書きや問題解決のための思考の中で常に働いている。その場合に、頭の奥で、対象に対する理解がどこまで深く、広く行われているかが決定されるのが、メタ認知というわけであろう。

  つまり、目や耳から入ってくる現象の認知において、頭の中でメタ認知がどの程度働くかによって、理解度が全く異なるというわけである。このことは、通常ではあまり意識されないが、例えば、数学や国語の試験中に、問題を次々に解かねばならない際に、メタ認知能力が働かないと、応用問題が解けなかったり、もっとひどい時には、問題の意味が分からないということが起こってしまう。つまり、これらは全て、頭の中で瞬時に行われている「メタ認知制御」の度合いによることになる。
 例えば、数学の複雑な応用問題に対する態度は、成績の上位グループは、問題を一読した後で、『「もう一度問題を読んで確かめている」とか、「焦らずにゆっくりやった」など、自分の解決過程を意識的にコントロールしていたことが分かった。』(p.38)これは、「メタ認知知識」が正しく働いたことを意味する。
 
 この書は、その後これらのメタ認知力をつけるための教育方法について述べている。一般的に社会で起こっていることに対しても、メタ認知をどこまで瞬時に発揮できるかは、その後の行動や思考に大きく影響することになるのではないだろうか。このことは、長年私が進めている「その場考学」に通じるものがある。

 私のその場考学は、長期間にわたる新型のジェットエンジンの設計と開発時のChief Designerの経験から生まれた。1回のエンジン試験が終わると、エンジンは全分解されて部品ごとの状態を克明に検査する。すると、毎回百点以上の欠陥(Material Reviewと称する保留品の状態)が検査部門から報告される。担当者が初期判断をするのだが、最終的にはChief Designerが、そのまま使用、補修、追加工、新品と交換、設計変更などに区分した判断を下す。それらは、瞬時に行わなければならない。この時に必要なのが、まさに「メタ認知知識」と「メタ認知制御」だった。なお、この場合の「メタ認知知識」としては、過去の同様な経験と、様々な雑学(あらゆる工学は勿論、リスク管理や信頼性など)が含まれる。
 従って、その場考は、「メタ認知知識」の追求と云えないこともない。現実の生活において、その場、その場で認知される目と耳から入る情報を、その瞬間にメタ認知知識が働いて、その情報をメタ情報に代えて,メタ認知制御をスタートさせる、それがその場考学である。


様々なメタ(63) メタ表現の絵画 

2022年01月03日 10時18分09秒 | 様々な「メタ」、メタとは何か(公開)
様々なメタ 63   社会学系(15)                                                  TITLE: メタ表現の絵画

 近代までの絵画の多くは、写真の代わりだった。大きな行事や、肖像画がパトロンの下で製作された。しかし、写真の開発と印象派の台頭でそのことは変化した。それ以前には、モナリザのように、画家の謎めいた表現が流行したようだが、近代になると、色々な表現が盛り込まれるようになった。
 その中で、「メタ表現の絵画」を考えてみる。この場合のメタは、「従来の習性にとらわれずに、 視点をできるだけ広げる」である。
 そこで、二つの絵を取り上げたい。スーラの「グランド・ジャネット島の日曜日の午後」とターナーの「雨、蒸気、スピード」の二つだ。この二枚の絵は、当時(現在でも)としては、全く初めての画期的なものだった。しかし、その絵画では、当時の世相や産業技術レベル、社会と自然との関係などが、明確に表現されている。



 中野京子著「名画の謎」(文藝春秋[2013] )には、次のように書かれている。この著者は、ドイツ文学者なのだが、西欧画についての多くの著書があり、この「名画の謎」もシリーズ化されている。副題は、「陰謀の歴史編」で、多くの有名な政争を取り上げた絵画が紹介されている。しかし、ここで注目したのは、第2章の「産業革命とパラソル」だ。対象の絵画は、パリ市の中央にある島の川べりで、多くの人が寛ぐなかで、パラソルをさした数人の女性がたたずんでいる、有名な明るい絵だ。スーラの点描の代表作とされている。
 
 前半は、スーラの半生が述べられている。印象派が台頭してきた時期なのだが、彼の画法は全く認められずに、極貧を極めた。点描画法に執着した彼は、『印象派画家の多くはタッチこそ個性と考えていたし、偶然性や直感を利用した躍動感と色彩、そこから生まれる心象描写を重視していたので、スーラの手法は科学偏重、構図も計算しすぎ、非人間的で没個性、と感じられていたのだろう。』(p.33)とある。
 この絵も、売れる見込みは無く、彼のアトリエで死蔵されていた。しかし、フランスの画商からシカゴのコレクターにわたると、米国で俄かに評判となり、シカゴ美術館の所有になった。フランスが、巨額での買戻しを試みたが断られたとある。そこから、絵画の説明が始まる。「謎」ではなく、画家が何を表現したかであり、そのことは明確に描かれている。つまり、市民革命が成功し、産業革命の恩恵を満喫する、それぞれの階層のパリ市民の姿だ。
 数匹の犬の動き、女性の周りを飛び交う蝶、スカートを翻して駆け出す少女、意味ありげな男女(金持ちと愛人)、ヒモで繋がれた猿(悪徳の象徴)。当時の西欧は、キリスト教のために、ダーウインの進化論(特に、ヒトが猿から進化した)は憤激されていた。そして、沢山のパラソルは、当時新開発された、軽い柄で女性が片手で支えられるものだった。それまでの傘は重く、奴隷が支えて付き従うものだったが、産業革命のよる大量生産で、比較的安価で入手できるようになった。
 つまり、この絵は、たった一枚で、いくつもの当時の社会情勢と産業革命の成果を表している。

 ターナーは、Joseph Mallord William Turner(1775 – 1851)イギリスのロマン主義の画家。写実的な風景画家として、同時代のコンスタンブルと並び称せられることが多い。コンスタンブル展は、Covit-19の合間の昨年(2021)春に、三菱一号館で行われたが、その時もターナーの絵が、比較対象物として展示されていた。
 この展覧会では、ターナーが並んでいるコンスタンブルの絵と比べて、物足りなさを感じて、その場で一筆(確か、赤だったと思う)加えたという逸話が述べられていたから、相当なライバルだったのだろう)

 私が、ターナーに初めて出会ったのは、多分開館間もない上野の西洋美術館の展覧会で、学生時代のことだった(半世紀も前のことなので、記憶が曖昧で間違えかもしれない)。宗教や貴族社会とまったく関係ないイギリスの風絵画が、ヨーロッパの自然主義への回帰を思わせた。
 Rolls Royceとの新型エンジンの共同開発中には、毎年数回ロンドンで過ごす日があったが、必ず訪れるのは、大英博物館とテート美術館だった。テート美術館は、おそらく半分はターナーの絵で、当時はターナー専門の建物を建設中で、訪問の度に新たな部屋に、数枚が移動されていた。
 また、美術館の目の前にはテムズ川の船着き場があり、そこからボートに乗ると、ロンドンの中心部の好きなところで降ろしてもらえるのも、魅力だった。
 ターナーの「雨、蒸気、スピード」という絵は、スーラとは対照的で、色は混ざり合い、何色か判別できないほど混濁している。しかし、タッチは強烈で、まさに「スピード」を表している。蒸気は英国の産業革命の象徴であり、霧雨はイギリス南部を表している。
 
 メタ表現の絵画は、これだけではないのだが、絵画の世界にも「メタ指向」が存在し、それに成功した絵画は、時代の流れと共に名画の部類に属するようになると思う。

様々なメタ(54)「メタ」語集

2021年08月01日 15時21分42秒 | 様々な「メタ」、メタとは何か(公開)
様々なメタ(54)
          
TITLE: 「メタ」語集

 前回では広辞苑の第1版から最新版までの推移を説明しました。その中で、「第3版(1983)で、第2版までの「めた」が消えて、初めて「メタ」(ギリシア語の間に、後に、超えるに由来する接頭語)が登場した。岩波書店から「アリストテレス全集」が発行されたのが、1968年-1973年なので、その影響と思われる。」と書きました。そこでここでは、日本語での最新版と英和辞典での過去からの記述の違いを明確にします。日本語では、英語に比べて格段に遅れていることが分かるでしょう。

1 広辞苑(岩波書店[2018])に登場する言葉
メタ
 『①「間に」「後に」「超える」の意。
  ②[化]ベンゼン環の1位と3位に置換基を持つことを示し、記号mで表す。』

メタアナリシス
メタゲノム
メタ言語
メタセンター
メタデータ
メタ認知
メタファー
メタフィクション
メタフィジーク
メタフィジカル
メタボ
メタボリズム
メタボリック・シンドローム
メタボローム
メタモルフォーゼ
メタ倫理学

2 引用した書籍に登場する言葉

・「様々なメタの研究、人文・社会学編」(非公開)で引用
メタ日本文化論(p36)
メタ分析(メタアナリシス)(P38)
メタ推理(P57)
メタレベル(P47)
メタ・メタレベル(P47)
メタ情報(P47)
メタ存在論(Meta-ontology)(P50)
メタスターシス(p57)
メタ・メタ(p57)
メタ数学(p58)
メタ論理(p58)
メタフィクション(p58)
メタ知識(p58)
メタ記憶(p58)
メタデザイン(p58)
メタモデル(p58)
メタメッセージ(p58)
メタ法価値論(p58)
メタタグ(p58)
メタヒューリスチック(p58)
メタ構文交換(p58)
メタ検索エンジン(p58)
メタファイル(p58)
メタ思考(p69)
メタ・メタ倫理学(p86)
メタ教義(meta doctrine)(p100)
メタ宗教(meta religion)(p100)
メタ宗教性(p100)

・「様々なメタの研究、理工学・経済学編」(非公開)で引用

メタキャピタリズム(p99)
メタサイコロジー(p11)
メタフォント(p22)
メタ人物(p.25)
メタマーケット(p101)
メタマジック(p22)
メタマジカル(p22)
メタマテリアル(p16)
メタ・マネジメント(p87)
メタ物語(p.97)

3 造語として使用

・「様々なメタの研究、人文・社会学編」(非公開)で使用
メタ思想(p45)
メタワーキング(p22)
メタ指向(p30)
メタ文明論(p41)
メタインフォーメーション(p45)
メタ教育論(p52)
メタ的に(p54)
メタ宗教論(p59)
メタ思考法(p69)
メタ文学(p71)
メタ人間論(p81)
メタ哲学(p93)
メタリズム(p101)

・「様々なメタの研究、理工学・経済学編」(非公開)で使用
メタ機械工学(p35)
メタ経済学(p82)
メタ原価企画(p72)
メタ視点(p68)
メタ設計論(p55)
メタ時空論(p30)
メタ全集(p91)
メタ文明論(p49)
メタWhy(p52)

4 新簡約英和辞典(研究社[1961])

meta- (次の5項に記載)
metabolism(物質交代、物質代謝)
metacarpal(掌部、掌骨)
metacarpus(中手骨)
metacenter(傾心)
metagalaxy(認識しうる全宇宙)
metagenesis(真正世代交代)
metamer(異性体の一種)
metameric(異性の)
metamerism(体節性)
metamorphic(変化の、変態の)
metamorphism(岩石の変成作用)
metamorphosis(魔力や超自然力による変形、変態)
metaphor(隠喩)
metaphorical(比喩的な)
metaphrase(翻訳、言い換えをする)
metaphysical(難解な、超自然の、形而上学の)
metaphysician(形而上学的理論家)
metaphysicist(形而上学者)
metaphysicize(形而上学的に考える)
metaphysics(形而上学、思弁哲学)
metaplasm(語形変異)
metapolitics(理論的政治学)
metatasis(変形、変態)
metatarsus(中足)
metathesis(患部移動、音位変換)
metayage(分益小作制度)
matayer(分益農夫)
metazoan(後生動物、原生動物の上位にあるすべての動物)


5 新英和大辞典(研究社[1992])第5版で、初版は1980

meta-
 『1.主に科学用語で次の意味を表す:
   a「・・の後;・・を超えた」:metanephros, metagalaxy, metaphysics. 
   b(位置・状態)の変化:metabolism, metamorphosis.
c「二次的・・」:metalanguage.
2. 「・・より包括的な;超・・」の意で、既存の学問を批判的に扱う新しい関連学科名を表わす:metalinguistics, metamathematics, metapsychology.  
3,【化学】以下省略。』

以下は、[1961]版から追加された項目のみを示す。
metabasis(病状変化、主題転移)
metabiosis(変態共生)
metabola(変態類)
metabolic(変態する、変形する)
metabolical(変態する、変形する)
metabolic water(同化作用によって生物体内に生じた水)
metabolite(代謝物質)
metabolous(動物の変態)
metaboly(変態)
metacentric(染色体の中央部にある動原体)
metacentric height(メタセンターの高さ)
metacentric stability(初期復元力)
metacercaria(吸虫類の幼虫の変形)
metacercarial(後生花被類)
metachlamydeae(後生花被類)
metachromasia(異染性)
metachromatism(細胞科学上の染色現象)
metachronal(多足類の歩脚で一定の位相差で運動する性質)
metanathous(二様式口器類の昆虫)
metahistory(対象を一時代に限定せず、多様な時代を比較しながら共通の歴史法則を追求しようとする歴史的認識の立場)
metahistorian(上記の立場の人)
metainfective(感染後におこる)
metakinesis(細胞分裂の中期)
metalanguage(メタ言語)
metalepsis(比喩的な言葉をさらに換喩する)
metalimnion(地質の変水層)
metalinguistic(メタ言語学の)
metalinguistics(メタ言語学)
metamathematical(超数学的な)
metamathematician(超数学者)
metamathematics(超数学)
metamaeral(動物の体節)
metamorphose(一変させる)
metamorphoses(変態の複数形)
metamorphous(変化の)
metanalysis(異分析)
metanauplius(ある種の幼虫)
metanephros(後腎)
metaphase(細胞分裂の中期)
metaphloem(植物の後生)
metaphoric(比喩的な)
metaphorically(比喩的に)
metaphrast(翻訳者)
metaphrastic(直訳的な)
metaphysic(学問・研究の原理体系)
metaplasia(病理の異形成)
metaplast(後形態)
metapleuron(昆虫の後側板)
metapneustic(昆虫の後気門の閉塞)
metapodium(動物の後ろ足)
metapolitician(政治哲学者)
metaphychic(心霊研究の)
metaphychics(心霊研究)
metapsychology(超心理学)
metastability(準安定状態)
metastable(準安定の)
metastable state(準安定状態)
metastasize(転移する)
metastrongylid(肺虫科の)
metatarsal(中足の)
metatheory(超理論、ある理論を一段と高い立場から解明するのに用いられる別の理論)
metatherian(後獣亜綱の)
metathesize(置換えが起こる)
metathetical(人工的患部移動の)
metathoph(複合有機栄養生物)
metatrophic(複合有機栄養形式をもつ)
metaxylem(後生木質部)
metazoa(後生動物門)
metazoan(後生動物門に属する)
metazoea(節足動物の幼生の一種)

 なお、この辞典の最新版(2002)にも、まだMeta-engineeringの項目はない。紀伊国屋書店の話では、「辞書離れの時代なので、次版はもうないでしょう」とのことでした。

6 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%BF「メタ」より引用

「ある学問や視点の外側にたって見る」の用例
 「ある学問や視点の外側にたって見る」という意味はアリストテレスの著書『メタピュシカ』(形而上学)に由来しており、哲学では他にも「メタ倫理学」、「メタ哲学」等の用例がある。
 数学基礎論や数理論理学では、数学や論理学を(人工)言語とみなした上で数学的手段を用いて研究としているので、研究対象たる「数学」や「論理学」のような「言語」と、それらの研究対象を研究するために用いる「数学」、「論理学」、「言語」を分けて考える必要があり、後者をそれぞれ「メタ数学」(英: metamathematics、超数学とも訳される)「メタ論理」、「メタ言語」と呼ぶ。またメタ数学やメタ言語等に関する概念には「メタ」という接頭辞を用い、例えばメタ数学の定理を研究対象の数学の定理と区別し、「メタ定理」(英: metatheorem)と呼ぶ。より一般に、これらの例のように何らかの理論(上では「数学」や「論理学」)を研究するための理論を一般に「メタ理論」と呼ぶ。
 数理論理学をその始祖の一つとして持ち、人工言語たるプログラミング言語を研究対象の一つとして持つ計算機科学でも、「メタデータ」「メタプログラミング」「メタタグ」「メタヒューリスティクス」「メタ構文変数」「メタ検索エンジン」「メタファイル」「メタクラス」等の用例がある。
 他にも「メタフィクション」「メタ認知」「メタ知識」「メタ記憶」「メタアナリシス」「メタデザイン」「メタモデル」「メタメッセージ」「メタ法価値論」等の用例がある。

語源
 「メタ」は元来は古代ギリシャ語で「あとに」という意味で、線文字Bで書かれたミケーネ・ギリシャ語での用例が最古のものである。この元来の意味も学術用語で使われる事があり、例えばMetatheria(後獣下綱)は、生物の分類を木で表したときTheria(獣亜綱)のあとに来る事による命名である。
 「超越した」、「高次の」という意味で「メタ」が用いられるようになったのはアリストテレスの『タ・メタ・タ・ピュシカ』(古希: τὰ μετὰ τὰ φυσικά、直訳は『自然に関するものの後に』だが、通常は『形而上学』と訳される)という書物に起源を持つ。
 本書が編集された際、自然学的な著作の後に置かれた事からこの名称で呼ばれたと思われるが、後世になって本書がその短縮形『メタピュシカ』(古希: Μεταφυσικά)で呼ばれるようになるとこの本来の意味は忘れられ、「自然学を越えたもの」という意味に解されるようになった。
 オックスフォード英語辞典によれば、「~を超えて」、「~について」といった意味で「メタ」を英語で用いたのは1917年に遡り、数理論理学に関連する単語で用いられるようになったのは1929年以前である。1920年にはヒルベルトが「メタ数学」という単語を用いている。また1937年にはクワインが「メタ定理」という単語を用いている。

これだけあっても、まだmeta-engineeringは登場していない。

7 Ohio University, Russ College of Engineering and Technology

https://www.ohio.edu/engineering/about/meta-engineeringより引用
What is meta-engineering? It's about going beyond the practical application of engineering and technology. And at the Russ College, that's what our students and faculty do every day. They embrace critical thinking. They thrive on hard work and close collaboration. They're creative, able to lead, and interested in the life cycle of designs. Like all engineers and technologists, they're doers. But as meta-engineers, they're even more: They're dreamers who want to use their knowledge, passion, and skills to make a positive impact on the world.

メタエンジニアリングとは何ですか? それは、エンジニアリングとテクノロジーの実用化を超えることです。 そして、ラスカレッジでは、それが私たちの学生と教職員が毎日行っていることです。 彼らは批判的思考を受け入れます。 彼らはハードワークと緊密なコラボレーションで繁栄します。 彼らは創造的で、リードすることができ、デザインのライフサイクルに興味を持っています。 すべてのエンジニアや技術者のように、彼らは実行者です。 しかし、メタエンジニアとして、彼らはさらに多くのことをしています。彼らは、知識、情熱、スキルを使用して世界にプラスの影響を与えたいと考えている夢想家です。(Googleの自動翻訳)

8 Oxford英英辞典(オックスフォード大学出版局[2020])

 書店に並んでいる印刷された辞書の最新版は、Oxford英英辞典だった。しかし、そこにもMeta-engineeringの項目はない。僅かに7項目の「meta-」が掲載されているだけで、多くのメタは、まだネット上のことのように思われる。

                       
                                                          
                                                      


様々なメタ(53)メタエンジニアリングを始める前に

2021年07月31日 06時49分26秒 | 様々な「メタ」、メタとは何か(公開)
TITLE: メタエンジニアリングを始める前に

 最近「メタ何々」という言葉を、新聞の紙面で時々見かける。その傾向は月刊誌では顕著で、地球温暖化や異常気象などが身近な問題として捉えられるようになり、個別ではなく全体を考えなければならなくなったことが、一つの原因と思うのだが、AIによる超ビッグデータの解析により、社会全体の状態の探求、つまりメタ視点での認識が可能になったことが主原因のようにも思える。

 そこで、MEシリーズの第24巻として、「人文・社会学編」を書いたのだが、その間にも「メタ何々」の話はとめどもなく出てきた。そこで新たに、「理工学・経済編」を表すことにしたのだが、一体、「メタ」という言葉は、国内ではどのように広がってきたのであろうか。

 私の書架に「広辞苑(第1版)」がある。昭和30年(1955)の発行なのだが、そこには「メタ」という言葉はない。「めた、滅多、めったの略」とあるだけである。そこで、図書館で最新の第7版までの記述項目を調べてみた。14年後の第2版(1969)では、「めた」はそのままだが、「メタ言語」が登場。対象言語(何かの対象について述べる)の表現内容について述べる高次言語としているが、メタ言語も、それを対象として更に高次元のメタ言語に発展するとしている。他には、「メタセンター」(浮かんだ物体の傾きの中心) 「メタフィジーク」「メタフィジカル」「メタ倫理学」がある。

 大きく変わったのは第3版(1983)で、第2版までの「めた」が消えて、初めて「メタ」(ギリシア語の間に、後に、超えるに由来する接頭語)が登場した。岩波書店から「アリストテレス全集」が発行されたのが、1968年-1973年なので、その影響と思われる。
 
 第4版(1991)では更に「メタボリズム」「メタモルファーゼ」(変身,変態)が登場した。第5版(1998)では、「メタファー」(隠喩)が追加。第6版(2008)では、「メタデータ」「メタボリック」が追加。
第7版(2018)では、更に「メタアナリシス」「メタゲノム」「メタ認知」「メタフィクション」が追加されている。やはり、21世紀になってから急激に増加したことが分かる。

 このように、「メタ」という言葉は、ここ数十年の間に大きく広がって一般社会の中に普及していった。しかし、古代ギリシャのアリストテレス直後に始まった「メタ」という概念が、西欧(つまり英語)ではMetaphysicsとして、古代から普及したにもかかわらず、日本では20世紀中半まで待たねばならなかったのは、何故であろうか。私には、ユーラシア大陸の東の端の島国という地政学的な文化が、深く影響しているように思われる。
 一方で、現代のほぼ全ての学問分野では、「メタ」とは反対に細分化が進んでいる。私は、逆にこのような状態が国内におけるイノベーションの停滞の一つの原因ではないかと考えて、今後も「メタ視点」からの研究を続けてゆく所存です。
 そこで、先ずは「メタエンジニアリングを始める前に」ということで、「メタ」をメタ的に考えてみることにした。

メタエンジニアリングを始める前に知るべき4っつのこと

その1.「メタ」の意味を知る

 先ずは、「メタ」とは何かを知らなければならない。しかし、日本語の「メタ」は最新版の広辞苑でも甚だ簡単な表現になっている。そこで、新英和大辞典(研究社[1992])第5版を参考にする。そこには、「meta-」という前置詞には次の3つの意味が書かれている。
 『1.主に科学用語で次の意味を表す:
   a「・・の後、・・を超えた」:metanephros, metagalaxy, metaphysics. 
    b (位置・状態)の変化:metabolism, metamorphosis.
c「二次的・・」:metalanguage.
2. 「・・より包括的な;超・・」の意で、既存の学問を批判的に扱う新しい関連学科名を表わす:metalinguistics, metamathematics,
metapsychology.  
3,【化学】メタ
   a 「・・の重合体[誘導体]」
b ベンゼン環を有する化合物で、1,3-の位置置換を示す』
 とある。
 つまり、細かくは6つの意味がある。そして、この英和辞典には「3」の科学を除いても150余りの「meta何々」が示されている。
 しかし、この150余りの英語のmeta-を見ていると、あることに気づかされる。それは、もともとmeta-に決められた定義があるわけではなく、多くの人(特に専門家)が、自分の専門分野の常識からはみ出ることや、一段上がったり、下がったりした立場で考え直すときに使った前置詞のように思えてきた。考えてみれば、辞書とはそういうもので、多くの人が使いだした新たな言葉が掲載されるわけである。
 つまり、「meta-」は、専門家が自由に使ってよいのではないだろうか。

その2.メタエンジニアリングにおける「メタ」の意味を知る

 それでは、「メタエンジニアリング」の「メタ」は、6つのうちのどれに相当するのであろうか。そもそもは、「metaphysics」から考えだしたので、(1a)の「・・の後、・・を超えた」と考える。すると、
 「通常のエンジニアリングがなされた後で、その思考範囲を超えて、改めてエンジニアリングセンスで
考え直してみる」 ということが、まず浮かんでくる。
 しかし、従来のエンジニアリングが、公害や地球温暖化の原因を創り出してしまったことを考えると、(2)の「metamathematics」と同様に、「既存の学問を批判的に扱う新しい関連学科名として、より包括的な工学」とすることも考えなければならない。

その3.既存のエンジニアリングの中身を知る

 この二つのいずれにせよ、メタエンジニアリングを考えるには、それに先立って、既存のエンジニアリング(すなわち、日本語の工学と技術)について、一定の知識が必要になる。さらに、長い経験と、その間に知ることができた「善と悪」についての知見が必要となる。いかなるエンジニアリングでも、悪であってはならない。ましてや、メタエンジニアリングに於いては。
 元祖「メタ」のアリストテレスを始め、「様々なメタ」の多くは、この「善と悪」に行きついている。
 『プラトン曰く、「悪しき魂は争いを呼ぶが、善き魂は友愛を呼ぶ。またアリストテレス曰く、「人間の魂を善くすることが、教育や政治の本来の目的である。』(中村聡一「教養としてのギリシャ・ローマ;東洋経済新報社[2021]」(p.333)というわけである。

その4.メタ思考に必要なリベラルアーツを知る

 上記の書籍は、副題を「名門コロンビア大学で学んだリベラルアーツの真髄」とあり、その序章は、次の言葉で始まっている。
 『なぜ米国の一流大学はリベラルアーツを重視するのか、リベラルアーツを習得しなければ、“メジャー”に進めない。』(p.12)

 リベラルアーツとは、一般的には古代ローマ帝国で盛んに行われた「自由七科」とされているが、現代のリベラルアーツはそれとは異なる内容になっている。発端は、1917年に米国が、それまでの孤立主義から脱して、第1次世界大戦のヨーロッパ戦線に参加したことによる。『参戦に際し、アメリカ陸軍がコロンビア大学に対して陸軍士官への教育プログラムの開発を要請した』(同上p.326)
 
 現代の日本でもそうだが、軍隊の司令官となり、さらに将官となるには、一般人とは各段に異なる広範囲な教育を受けなければならない。すべての歴史、総てのイデオロギー、総ての文化、総ての政党の主張などである。
 このシラバスは「war issue」として戦後に引き継がれたが、さらに1919年は、『戦争終結を受けて、peace issue(平和問題)、というプログラムも登場。これは後にContemporary Civilization(現代文明論)という授業に統合されました。』(同上)とある。
 これに加えて、ギリシャ・ローマ時代から近代までの名著を英訳原文で読むことで、「アメリカ式リベラルアーツ教育」が構築された。そして、現在のその教育内容は、次のように纏められている。
 
 『いずれも単に知識を習得することが目的ではありません。まずその成り立ちや仕組み、生まれた背景、社会との関りや人類に与えた影響まで含めて考察すること。またそれによって、私たちが生きる上で何が「善」なのか、という価値基準の土台を作ることが大事なのです。』(同上p.329)
 ここでも、最終目的(つまり、価値基準の土台)は「善」になっている。
 日本の大学でも、一般教養課程は存在するが、この事例と比べるとお寒い限りなのだが、この、「私たちが生きる上で何が「善」なのか、という価値基準の土台」が無ければ、メタエンジニアリングを正しく進めることはできない。