その場考学のすすめ(02)
その場考学の始まり(1980年の頃)
設計技師の最大の敵は時間。時間との戦いに如何にして勝つかが最大の課題と言える。ほおっておくと何でも頼まれて、自分の時間(純粋に設計をする)が無くなる。例えば、開発プロジェクトの期間中は、おびただしい種類と数の会議が行われるのだが、最新の状況を知る設計が出なくてもよい会議は少ない。
計画的な時間の管理法は色々あるが、先ずはその場その場で小さく時間を稼ぐ方法を考える。これで、驚くほどの余裕が生まれたのだから、驚きだった。
私が、「その場考学」に目覚めたのは1980年。英国のR0lls Royce社とのジェットエンジンの共同開発が始まりかけた時だ。度重なる長期海外出張で、その前後の一週間(合計2週間)机上の書類の山にウンザリしていた頃だ。のんびり屋のRRのChief Designerの仕事振りをよく見ると、なるほどと思われるものがいくつか見えた。
要するに仕事を手っ取り早く片付ける技があるのだ(勿論、有能な秘書の存在もあるが)。
どんどん取り入れるうちに その数は20を超えた。その頃から海外出張前後での机上の書類の山の存在期間は1週間から、3時間に変わった。
その場考学は、言い換えると日常業務のフロントローディングと言える。日常繰り返し起こることに一寸したルール(パターン)を決めて、予め何かを用意しておく。それだけのことで、時間が大いに節約できる。
このことは「トヨタウエイの日々の改善」にも共通しているように思える。しかし、もう少し考えてゆくと、そこにはアリストテレスが居た。そして、それから33年後に「その場考学研究所」をつくることになった。
「GEやRolls Royceとの長期共同開発の経験を通して得られた教訓 (その2)」
【Lesson2】手段の目的化をしてはならない(エンジンか要素か[2000])
技術の世界でも「手段の目的化」が,大なり小なり頻繁に行われてしまう。特に,日本が得意とするTQM(Total Quality Management)の世界では,このことが起こりやすい。FJR710の目的は,機体に搭載するエンジンの開発能力を付けること,であった。しかし,時代とともにこの目的のための手段である,要素開発や高品質の部品製造などが目的化されて,当初の目的が忘れられてしまったように感じられる。多く事情によりそのような方向にそれたのだが,やはり当初の大目的に対して,達成までの確たる戦略が存在しなかったと言わざるを得ない。戦術の推進が得意な日本の技術者は,つい戦略の共有をおろそかにする傾向がある。
V2500の開発期間中には毎回の試験エンジンの運転後に何千という不具合が見つかった。そのたびに5か国のChief Designer会議で対策案が検討され決定される。回を重ねるごとに日本案が採用されることが多くなった。そのことは,日本の技術者が戦術にたけていることを示すものだと考えられる。しかし,その時にイタリアチームの友人がささやいた言葉が印象的だった。「我々は,目先の対策の立案では日本人にはかなわない。しかし,我々には戦略があるので,最終的には我々が勝利することになる。」
確かに,第2次世界大戦,近年の海外派兵問題,サミット対応などを見ると,歴史的にもその言葉に納得せざるを得ないものがあった。
【この教訓の背景】
「手段の目的化」が, TQM(Total Quality Management)の世界では起こりやすい。このことは、納得がゆかない人が大部分だと思う。TQMの元は、TQC(Total Quality Control)なのだが、本家のトヨタ自動車が米国との自動車摩擦の後で、にわかに変えてしまった。
多くの会社では、トップの経営方針をより具体的かつ綿密に全社員に浸透させることに役だったのだが、私は、ControlからManagementへの言葉の変化が嬉しくなかった。
その当時から、Quality Controlを品質管理としてしまった日本語に違和感を持っていたので、「またか」の印象だったのだ。英語では、ManagementとControlでは、やることはさして変わりがない。どちらも、色々と工夫を凝らしながら目的を達成するのだ。
しかし、日本のマネージメントはコントロールとは全く異なる。管理することが前面に出てしまう。すると、皆が自己の責任範囲での管理だけに集中するので、自動的に手段の目的化が起こってしまう。つまり、上司の手段の一部を受けた人が、そのことを目的化するというわけだ。だから結果としては、部分適合にしかならない。部分をそれぞれに良くすれば、全体が最適になるということは、実際の複雑な世界ではほとんど起こらない。
一時期、トヨタ方式の中の「問題が起こったら、真の原因把握のためには、ナゼを5回繰り返す」、という言葉がはやった。そのことは正しいのだが、そうなると多くの管理者は、最後の5番目にだけ注目をしてしまう。しかし、これも部分適合の際たるものだ、本来は5段階の全ての項目に対して、再発防止を考えるべきであり、そうでなくては、かえっておかしなことを招く結果になってしまう。
その場考学の始まり(1980年の頃)
設計技師の最大の敵は時間。時間との戦いに如何にして勝つかが最大の課題と言える。ほおっておくと何でも頼まれて、自分の時間(純粋に設計をする)が無くなる。例えば、開発プロジェクトの期間中は、おびただしい種類と数の会議が行われるのだが、最新の状況を知る設計が出なくてもよい会議は少ない。
計画的な時間の管理法は色々あるが、先ずはその場その場で小さく時間を稼ぐ方法を考える。これで、驚くほどの余裕が生まれたのだから、驚きだった。
私が、「その場考学」に目覚めたのは1980年。英国のR0lls Royce社とのジェットエンジンの共同開発が始まりかけた時だ。度重なる長期海外出張で、その前後の一週間(合計2週間)机上の書類の山にウンザリしていた頃だ。のんびり屋のRRのChief Designerの仕事振りをよく見ると、なるほどと思われるものがいくつか見えた。
要するに仕事を手っ取り早く片付ける技があるのだ(勿論、有能な秘書の存在もあるが)。
どんどん取り入れるうちに その数は20を超えた。その頃から海外出張前後での机上の書類の山の存在期間は1週間から、3時間に変わった。
その場考学は、言い換えると日常業務のフロントローディングと言える。日常繰り返し起こることに一寸したルール(パターン)を決めて、予め何かを用意しておく。それだけのことで、時間が大いに節約できる。
このことは「トヨタウエイの日々の改善」にも共通しているように思える。しかし、もう少し考えてゆくと、そこにはアリストテレスが居た。そして、それから33年後に「その場考学研究所」をつくることになった。
「GEやRolls Royceとの長期共同開発の経験を通して得られた教訓 (その2)」
【Lesson2】手段の目的化をしてはならない(エンジンか要素か[2000])
技術の世界でも「手段の目的化」が,大なり小なり頻繁に行われてしまう。特に,日本が得意とするTQM(Total Quality Management)の世界では,このことが起こりやすい。FJR710の目的は,機体に搭載するエンジンの開発能力を付けること,であった。しかし,時代とともにこの目的のための手段である,要素開発や高品質の部品製造などが目的化されて,当初の目的が忘れられてしまったように感じられる。多く事情によりそのような方向にそれたのだが,やはり当初の大目的に対して,達成までの確たる戦略が存在しなかったと言わざるを得ない。戦術の推進が得意な日本の技術者は,つい戦略の共有をおろそかにする傾向がある。
V2500の開発期間中には毎回の試験エンジンの運転後に何千という不具合が見つかった。そのたびに5か国のChief Designer会議で対策案が検討され決定される。回を重ねるごとに日本案が採用されることが多くなった。そのことは,日本の技術者が戦術にたけていることを示すものだと考えられる。しかし,その時にイタリアチームの友人がささやいた言葉が印象的だった。「我々は,目先の対策の立案では日本人にはかなわない。しかし,我々には戦略があるので,最終的には我々が勝利することになる。」
確かに,第2次世界大戦,近年の海外派兵問題,サミット対応などを見ると,歴史的にもその言葉に納得せざるを得ないものがあった。
【この教訓の背景】
「手段の目的化」が, TQM(Total Quality Management)の世界では起こりやすい。このことは、納得がゆかない人が大部分だと思う。TQMの元は、TQC(Total Quality Control)なのだが、本家のトヨタ自動車が米国との自動車摩擦の後で、にわかに変えてしまった。
多くの会社では、トップの経営方針をより具体的かつ綿密に全社員に浸透させることに役だったのだが、私は、ControlからManagementへの言葉の変化が嬉しくなかった。
その当時から、Quality Controlを品質管理としてしまった日本語に違和感を持っていたので、「またか」の印象だったのだ。英語では、ManagementとControlでは、やることはさして変わりがない。どちらも、色々と工夫を凝らしながら目的を達成するのだ。
しかし、日本のマネージメントはコントロールとは全く異なる。管理することが前面に出てしまう。すると、皆が自己の責任範囲での管理だけに集中するので、自動的に手段の目的化が起こってしまう。つまり、上司の手段の一部を受けた人が、そのことを目的化するというわけだ。だから結果としては、部分適合にしかならない。部分をそれぞれに良くすれば、全体が最適になるということは、実際の複雑な世界ではほとんど起こらない。
一時期、トヨタ方式の中の「問題が起こったら、真の原因把握のためには、ナゼを5回繰り返す」、という言葉がはやった。そのことは正しいのだが、そうなると多くの管理者は、最後の5番目にだけ注目をしてしまう。しかし、これも部分適合の際たるものだ、本来は5段階の全ての項目に対して、再発防止を考えるべきであり、そうでなくては、かえっておかしなことを招く結果になってしまう。