生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

ジェットエンジンの設計技師(10)「リスクがあるから、やらない」が根本の問題 (2021.6.19)

2021年06月20日 08時08分26秒 | ジェットエンジンの設計技師
「リスクがあるから、やらない」が根本の問題 (2021.6.19)

 オリンピックの観客問題で、尾身感染症対策分科会長の発言が躍っている。「〇〇のリスクがあるから、何々が望ましい」ということで、無観客や開催地以外の観客を認めないなどと主張している。この主張は専門家としては当然のようだが、その通りに実行されることは、長年ジェットエンジンの新規開発をやってきた設計技術者としては、大いに不満だ。
 
 大型の旅客機に採用されるエンジンは、勿論飛行中に何らかの理由で作動不能になるリスクがある。だからといって、開発を止めることはない。リスクの中身を徹底的に詰めて、リスク軽減策を盛り込む。20世紀中の100年間に及ぶこの努力の積み重ねで、今日の旅客機は驚異的な安全性が保たれている。つまり、リスクに挑戦する態度を持ち続けた結果だ。
 
 福島原発事故は人災だと結論付けられている。つまり、技術レベルが低かったわけではないのだが、再稼働反対の世論は消えない。そのために人災の原因除去のことは何もやられずに、技術的な対策をどんどん積み重ねている。「リスクがあるから、やらない」から、「リスクがあるから、やらせない」になっている。だから、リスクは隠し通す、という悪循環がまだ続いている。
 日本の経済成長や、イノベーションが進まないことも、同じ原因だと思う。大企業ほど日本人の経営者はリスク回避を主張する。新たなイノベーションに賭けることは、かなりのリスクを伴う。これらはすべて、「リスクがあるから、やらない」に通じているのではないだろうか。

 なぜ、リスクの中身を徹底的に解析して、その対策を積み重ねてゆこうとしないのか。
 この問題を長い間考えてきた。いまのところの結論は、日本文化の根底にある「和を以って貴しとなす」だった。このことは、議論を徹底的に行わずに、中途半端に終わらせることを意味している。そうでなければ、和を保つことはできない。和を保つことが、総ての場面で最重要になっている。
 バイデン政権が、次々に目玉政策を打ち出している。危機管理条件下での正しい方向性と思えるのだが、日本の骨太政策は相変わらずの「良いと思えることの羅列」と評されている。いずれもが、中途半端に終わることになるだろう。

 これらいずれもが、やはり大陸の東の端にある島国という地政学的な歴史の中では、当然の文化なのだが、しかし、現代のグローバル化された世界では、その地政学は全くあてはまらなくなっているのだが、そのことが感覚として育たない。そして、「リスクがあるから、やらない」ところに、人類としての進歩はない。 
                                2021.6.19 その場考学半老人 妄言