1980年代、ハリソン・フォード氏と並んで飛ぶ鳥を落とす勢いだったハリウッドスターが、『ロッキー』(’76) でアメリカンドリームそのものを体現したシルヴェスター・スタローン氏。
そう言えばフォード氏がブレイクを果たした『スター・ウォーズ』 第1作 (新たなる希望) が公開されたのは『ロッキー』第1作の翌年だし、『ランボー』第1作が公開された’82年は『レイダース/失われたアーク』(インディアナ・ジョーンズ第1作) 公開の翌年。
ほぼ同時期に2大スターがそれぞれハン・ソロとインディ、ロッキーとランボーという2大ヒーロー役を射止め、必然的にシリーズ第2弾がほぼ同時期に公開されることにもなりました。
『ランボー/怒りの脱出』が公開されたのは『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』そして『ターミネーター』も公開された1984年の翌年であり、同じ年に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『グーニーズ』、更に翌年には『エイリアン2』『ハスラー2』『トップガン』等も公開され、新しいスターが続々と生まれてハリウッド映画界は絶好調!
中でもスタローン氏にとって最大のライバルとなったのは言うまでもなくアーノルド・シュワルツェネッガー氏だけど、私ならではのアンテナによると「本当はハリソン・フォードが演ってるような役が欲しいんだ」ってな発言もスタローン氏は残してます。
そのインタビュー記事が世に出たのは’90年代半ばだから、おそらく『逃亡者』(’93) の外科医=リチャード・キンブルや『今そこにある危機』(’94) のCIAアナリスト=ジャック・ライアンあたり(つまり知的なヒーロー像)を指してたと思うんだけど、さすがにそれは無理。逆にフォード氏がロッキーやランボーを演じたくても無理なのと同じことで。
ついでの余談ですが、このブログで私が「ハリソン君」を名乗ってるのは、『逃亡者』が大ヒットした人気絶頂期のフォード氏が携帯電話“ツーカーホン関西”のCМで日本のビジネスマンに扮し、上司から「ハリソン君」呼ばわりされて地下鉄“御堂筋線”の淀屋橋駅で「ハイ、ワカリマシタ。」とか言いながら何度もお辞儀する姿が話題になったから。
シュワルツェネッガー氏を「シュワちゃん」呼ばわりした栄養ドリンクのCМも確かその頃で、我らがニッポンも絶頂期でほんと調子に乗ってました。(本国じゃ例えジョークでも有り得ないそうです)
さて、『ターミネーター』で名を上げたのはシュワルツェネッガー氏だけじゃなく、のちに『タイタニック』や『アバター』で天下を取るジェームズ・キャメロン監督もそう。その氏が本作『ランボー/怒りの脱出』の脚本をスタローン氏と共同執筆された事実もアクション映画ファンの間じゃ有名な話。
いや、正確にはキャメロン氏が書いた脚本にスタローン氏が後から手を入れる形だったようで、キャメロン氏には「自分の作品」っていう意識は無いみたいだけど、今あらためて観ると随所に“キャメロン色”みたいなものが感じられます。
お陰で監督のジョージ・P・コスマトス氏はすっかり影が薄くなっちゃいましたw
前置きが長くなりましたが、ストーリーはサクッと行きます。なにせ派手さが売りの’80年代ドンパチ映画を代表する作品です。
ただし、オリジナルである第1作が「ベトナム戦争が終わって帰郷した途端、自国民たちから酷い差別と虐待を受ける“帰還兵の悲劇”」だったことを忘れちゃいけません。
つまり主人公=ジョン・ランボーを「殺人マシーン」たらしめたのはアメリカという国そのものであり、大量殺戮は因果応報とも言えるんだぞ?っていうテーマが根っこにある。
それを象徴する存在が、かつてグリーンベレー(特殊工作員)だったランボーの元上官である、サミュエル・トラウトマン大佐(リチャード・クレンナ)。
ランボーが信頼を置く唯一の人物として善人扱いされてるけど、ランボーの殺人マシーンぶりを「私の最高傑作だ」なんてドヤ顔で自慢する姿には(いま観ると)強烈な嫌悪感を覚えます。
この『怒りの脱出』が創り手の目論見どおり大ヒットしながら「ゴールデン・ラズベリー(最低映画賞)」にも輝いた事実に、アメリカ国民の良心と分断ぶりが伺えますよね。
単純に「燃える要素満載のアクション映画」として楽しんだ’85年当時の日本人(少なくとも私)は完全に平和ボケしてました。その反省も踏まえてのレビューです。
トラウトマン大佐により刑務所から連れ出され、タイのアメリカ軍キャンプにやってきたランボーは、ベトナムにある捕虜収容所への潜入と、未だ囚われたままらしいアメリカ兵捕虜たちの「証拠写真を撮る」という奇妙なミッションを依頼されます。
それを指揮するのがCIA所属のマードック司令官(チャールズ・ネイビア)で、今回一番の悪役。
露骨に不信感を示し、ろくに返事もしないランボーを見て「大丈夫なのか、彼は?」と訝しむマードックに、今回もトラウトマン大佐がドヤ顔で言います。
「ジャングルで彼と戦って勝てる男はいません。敵に勝つことしか頭に無い、純粋な戦闘マシーンです」
いや、あんたに比べりゃよっぽどマトモな“人間”だよ!って言いたくなるし、そんなガイキチに飼い慣らされたランボーもアホに思えて来ちゃう。1作目はそれを悲劇として描いたから評価もされたけど、今回みたいに無敵のヒーロー化しちゃうと最低映画賞まっしぐら。今となってはよく解ります。
そして単身ベトナムのジャングルに降り立ったランボーは、案内役として派遣された現地諜報員のコー・パオ(ジュリア・ニクソン)と合流。
女性スパイが映画に登場し、主人公の相手役を務めるのは『007』シリーズでもよく見られたけど、それを自らマシンガンを撃ちまくるスーパーウーマンに設定しちゃうあたりがキャメロン色!
たぶんスタローン氏が「オレより強くしてどうする!?」とか言って控えめなキャラ(なにせ理想はエイドリアン)に書き直したせいで、サラ・コナーほど目立った活躍はしないけど、それでも本作における彼女の存在は大きい。演じたジュリア・ニクソンさんも良かった!
お互い天涯孤独の身どうし、徐々に心を通わせていきます。
「いつかはアメリカに渡って、静かに暮らしたい。あなたは?」
「オレは……ただの消耗品(エクスペンダブル)さ」
エクスペンダブル! 筋肉アクションの長い低迷期を経たあと、2000年代に『ロッキー』『ランボー』両シリーズの復活を成功させたスタローン氏が、かつては犬猿の仲だったシュワちゃんはじめ’80年代アクションスターたちを呼び集め、『エクスペンダブルズ』シリーズまで成功させる未来を知ってる今聴くと、実に味わい深いセリフです。
さて、問題の収容所まで辿り着いた2人は、想像を超えた捕虜たちの惨状ぶりを見て絶句します。
「証拠写真を撮る」という意味不明なミッションを無視し、とりあえず外で磔にされた1人の捕虜を救い出すランボー。
ジュリア・ニクソンさんのおしり。
「ランボー、あなたは消耗品なんかじゃない」
ここでお役御免となるコーと別れたランボーは、ベトナム軍の容赦ない追撃から必死に逃れ……
味方と合流する筈だったのに、彼が捕虜を連れてると聞いたマードック司令官が急に顔色を変え、こう言います。
「直ちに作戦を中止して基地に戻れ!」
実はまだベトナムに捕虜兵がいるのを隠したかったアメリカ軍(その理由を書きだすと長くなるんで省きます)は、生き証人を連れて来られると非常にマズかった。
救出ヘリに同乗したトラウトマン大佐の抵抗も虚しく(ホンマ講釈垂れるばっかで何の役にも立たんな!💨)、ランボーはまたもや母国に裏切られるのでした。
炎天下でヒルだらけの沼に漬けられ、地獄の拷問を受けるランボーだけど、内心はやっと筋肉を見せびらかせて喜んでます。
さらにソ連軍も駆けつけ、拷問は夜通し続きます。
もっと拷問を続けてオレの筋肉を見てくれっ!!
そんなランボーの願いを無視し、1人の慰安婦が収容所にやって来ます。その正体は……
すでに任務を終えた筈のコー・パオ!
ジュリア・ニクソンさんのおっぱい!
コーの活躍により脱出成功! そうなったらもう、やることは1つです。
「ランボー、私も連れてって」
こないだ刑務所から出て来たばかりで、乱棒がズボンを突き破らんとしてるランボーだけど、ソ連軍&ベトナム軍が血眼で探し回ってる状況下じゃ我慢するしかない。
けど、彼もやっぱり人間だった。一瞬のスキを生んでしまい、潜んでたベトナム兵にコーが撃たれてしまう!
まだチョメチョメしてないのに!
チョメチョメしてないのに!!
チョメチョメしてないのに!!!
大軍VSひとりの戦争開始! ランボーがナイフや弓矢を武器に使うのは、音で自分の居場所を敵に察知させないため。言わば忍術です。
泥まで塗っちゃう忍者っぷりには笑いそうになるけど、ステルス戦法として実在しそうだし、何よりビジュアルがキャッチーで凄く印象に残ります。
さあ、もう後は解説不要でしょう。殺戮につぐ殺戮!
大量の火薬を仕込んだオレの乱棒を喰らえっ!!
ドッカーンッ!!
バリバリバリバリバリバリバリッ!!
「ふんぬあぁぁぁーっ!!」
バゴーンッ!!
ドッカーンッ!!
「シュラファイヤーッ!!」
ドッ
カーンッ!!
捕虜だけノー・ダメージ!
ソ連軍の新型ヘリに猛追撃されるも……
ソ連製バズーカ砲でズガーン!
そしてドッカーンッ!!
すぐさまタイの作戦本部に戻ったランボーは、マードック司令官ご自慢のハイテク機材をマシンガンで一挙掃射!
ズガガガガガガのズガガガガガッ!!
「エイドリアァァーンッ!!」
「捕虜はまだ大勢いる。救いだせ。さもないと貴様を殺す!」
まだ無邪気だった当時の私は燃えたけど、軍の操り人形に過ぎないマードックを脅したところでどうにもならんし、私憤でいったい何百人殺したねん?とも思う。最低映画賞も無理からぬことです。
「ランボー、よくやった。軍に戻らないか?」
トラウトマン、お前が真っ先にしねっ!
「確かにあれは間違った戦争だったが、国を憎むのはいかん」
「憎む? 命を捧げます」
「では、何が望みだ」
「彼らと同じことです! はるばる遠くからこの土地へやって来て、戦いに身を投じ、地獄の苦しみに耐えながら望んだこと! 彼らが国を愛するように、国も彼らを愛して欲しい……俺の想いも同じです!」
彼らとは無論、10年も放置されて来た捕虜たちのこと。結局、悪いのはアメリカでもソ連でもなく戦争そのものなんだけど、敵国の兵士だけあんなに殺しちゃメッセージがブレてしまう。受け入れましょう、最低映画賞。
「おい、ランボー! いい加減、シャツを着たらどうなんだっ!?」
だけどこの映画、決して嫌いにはなれません。いつも書くようにエンターテインメント(ストレス発散)としての暴力は犯罪抑止に繋がると私は思ってます。
アメリカ軍が一番の悪役として描かれてるし、これを観て軍人になりたがるヤツはおらんでしょう。 ザッツ’80年代! あくまでスタローン氏の筋肉と“マシンガン片手撃ち”を楽しむ為の映画です。