予約してたタナカワークス社のモデルガン「大下勇次モデル M10 2inch Early Heavy Weight/STD」と、立東舎の単行本「あぶない刑事インタビューズ『核心』」が同じ日に届きました。
パッケージをご覧の通り、もうすぐ公開される映画『帰ってきた あぶない刑事』の関連グッズとして発売されたものだけど、モデルガンの方は『あぶデカ』好きが高じて買ったワケじゃなく、スナブノーズ(短銃身リボルバー)好きとミリポリ(S&W-M10 MILITARY&POLICE)好きが高じて購入した次第です。
トイガンの取扱説明書なんて、通常は必要最小限の情報しか載ってないペラペラなもんだけど、このモデルには全32ページに及ぶブックレットが付属。
それはこの商品が『帰ってきた あぶない刑事』とオフィシャルに提携したものであり、劇中で大下勇次(柴田恭兵)が使用してる銃と寸分違わず同じであるのを強調すると同時に、『あぶデカ』マニアではあってもガンマニアではない(ゆえに扱い方をよく知らない)ユーザーへの配慮もあるのかも知れません。
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私のフェイバリット・モデルガンであるMGC「コルト・ローマンMk-III」から始まり、MGCパイソン→KSCキングコブラ→マルシンM586カスタム→コクサイM10カスタムと変遷してきた歴代“大下勇次モデル”の紹介コーナーなんて、まさに『あぶデカ』好きにもトイガン好きにも嬉しい企画と言えましょう。
映画公開に合わせた商品ゆえに当然、このモデルガンは初回限定仕様で高価格なんだけど、ショルダーホルスター(それもまた大下勇次モデル)とスピードローダーを付加したDX版も含めて、あっという間に予約完売したそうです。それだけ『あぶデカ』とM10には根強い人気がある。
M10の2インチはかつてコクサイ社が素晴らしいモデルガンを発売してくれたけど、それを凌駕するクオリティーのタナカワークス版は4インチと3インチ(正確にはM13)しか出ないまま数年が経っており、2インチは半ば諦めてました。ゆえに『あぶデカ』復活には感謝しかありません!
ウェイト入りの木製グリップとラバー製グリップアダプターの標準装備、そしてトリガー(引金)とハンマー(撃鉄)の“ケースハードン調”仕上げはSTD版もDX版も共通。
いずれノーマル仕様(グリップはABS、トリガー&ハンマーは黒)の廉価版も発売されるだろうけど、待てないし、どうせ木製グリップも買うからSTD版なら出費は大して変わんない。(むしろ安いかも?)
ちなみに私はショルダーホルスターもスピードローダーも使う機会が無いから、STD版の2倍近い値段のDX版は最初からアウトオブ眼中でした。
サバイバルゲームをやらない私にとって、ホルスターはあくまでモデルガン各々のケース替わりだから、コンパクトなヒップホルスターで充分。
M10の2インチ専用ホルスターは既に、ネットオークションで入手した本場ビアンキ製のしっかりしたヤツを持ってるし。
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確かに『あぶない刑事』も柴田恭兵さんも好きだけど、大下勇次になり切りたいほどのマニアじゃないんで、ホルスターまでお揃いにする理由はない。
書籍もまた、ほぼ写真集に近いビジュアルブックや、ノベライズ、歴代シリーズの関連グッズやロケ地を紹介したマニア本なども発売されてるけど、別に欲しくない。
ただ、これだけは買わずにいられませんでした。
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「あぶない刑事インタビューズ『核心』」。約500ページに及ぶ大作で、タイトル通りキャスト&スタッフ総勢50名へのインタビューを掲載した究極のメイキング本。
主要キャストのコメントなら他の媒体でも聞けるけど、プロデューサーや監督、脚本家から撮影、照明、美術などの現場スタッフ、さらに編集や整音の技師にまで及ぶコメントなんて、そうそう聞けるもんじゃない。
自分自身がかつてアクション物の映像作品を創ってたせいもあり、あらゆる立場から語られる製作秘話にはめちゃくちゃ興味があるし、しかもテレビの第1シリーズを中心にした内容なもんで、もう夢中になって読んでます。(過去に何度となく書いてますが、おフザケが過ぎた第2シリーズ以降は評価してません)
そうなると最新作『帰ってきた あぶない刑事』も観たくなるってもんです。
完結した筈なのにまた復活!って聞いても別に驚かなかったし、テレビ放映待ちで充分だと思ったけど、鷹山(舘ひろし)か大下どっちかの子供らしい娘(土屋太鳳)が登場すると聞いて、がぜん興味が湧きました。(主役のお二人もそれが出演の決め手になったそうです)
けれど今現在、映画館まで足を運ぶのは諸事情あって難しい。半年もすればCATVで観られるでしょうから、それまでM10をいじりながら待つとします。
IT企業の経営者である母=飛鳥(田中麗奈)に指示されて祖父=穂波(坂東彌十郎)の様子を見に来た葵(柊木陽太)は、謎のVRおじさん=直樹(野間口 徹)が何者なのか探るべくVRゲーム「トワイライト」にアオイ(井上音生)となってログインし、ホナミ(井桁弘恵)とナオキ(倉沢杏菜)のキスシーンを目撃しちゃう。
大人でも理解しがたいその関係性が、小学生のガキンチョにすんなり理解できるワケがない!
きっと好奇心もくすぐられたんでしょう。VRでホナミになりすました葵はナオキとコンタクトし、なりゆきでキスしそうになるんだけど、今度はそれを穂波に目撃されてしまう!
キスしかけたのは葵が変態だからじゃなく、相手がホナミだと信じ切った直樹のせいなんだけど、孫にホナミのことを知られた穂波はなぜか激怒し、「飛鳥には言うなよ!」と釘を刺して自室に籠もっちゃう。
そして、やはり人間関係がニガテらしい葵に共感した直樹が、「反省してるから許してあげて」と仲を取り持とうとしたら、今度はドア越しで「家族の問題に立ち入らないで下さい!!💢」とさらに激怒。
二人して穂波を怒らせ、拒絶されて途方に暮れた直樹と葵は、あらためてトワイライトの「生命の森」で話し合おうと約束するのでした。
「結局、現実でも、こっちでも、ずっと独りだ。そんなオレに、唯一興味を持ってくれた人が、ホナミだったんだ」
「祖父と、ナオキさんは……恋人なんですか?」
「…………」
「樹の下の二人と、現実の二人……二人の関係が、よく解りません」
「そりゃ仕方ないよ。オレだって解らない。ホナミは恋人って言う時あるけど、オレはあんまり……」
「好きじゃないんですか?」
「好きじゃないワケじゃない。……というか、オレ、今まで誰ともつき合ったこと無いから……もう、今後もそういうのとは関係なく生きていくんだろうなって思ってたんだよ。働けなくなったら、周りに迷惑かけないで死ぬ方法とか、考えたこともあってさ」
めちゃくちゃよく解る! 20代後半あたりの私がまさにそんな感じで、当時話題になった『完全自殺マニュアル』なんて本も買って熟読したもんです。
人付き合いを全くしなかったワケじゃないけど、とにかく自分自身が嫌いで嫌いで、こんなオレでも生きる価値があるんだ!って初めて思えたのは、女の子に「大好き」って初めて言われた瞬間でした。至福のときは長く続かないにせよ、その貯金だけでこれまで生きて来られたようなもんです。
「でもね……ホナミと出逢って、よく分からなくなった。そのうち、オレの方がホナミと別れたくなくなった」
「別れたくないのって、恋人どうしって言わないですか?」
「この関係に名前なんて無くたっていい。“初恋”ってだけでいいんだ」
「…………」
その言葉を聞いて葵は、直樹という人を何となく理解できたようで、母の飛鳥にこんなLINEメッセージを送るのでした。
<VRのおじさん、いいひと。心配いらない>
飛鳥は、父親である穂波と何年もの間コンタクトを取ってない。どうやら穂波は色々あって離婚し、溺愛した娘にもなぜかこうして拒絶されてる。
だから主治医に「余命3ヶ月」を宣告されても動じません。
「私は延命治療を希望しません。誰も悲しむ者もおりません。その時が来たら、それまでです」
果たして本当にそうなのか? 穂波にしろ直樹にしろ、そう思い込んでるだけのように見えます。いつも自分のことを「孤独の王様」みたいに書く私が言うのも何だけど。
すでに仕事を引退した穂波はともかく、決して居心地悪そうじゃない職場で働く直樹は違うのでは?と思ってたら、やっぱり彼もそれに気づいて来たみたいです。
いつも“呑み”の誘いは断る直樹なのに、VRのホナミばりにグイグイと誘ってくる同僚の佐々木さん(堀内敬子)に、今回は珍しく「ここ(社内)でなら」と根負けしちゃう。
そんな直樹に、佐々木さんは「心配なんでしょ?」といきなり核心を突いて来ます。
「え?」
「何を話したらいいとか、どう振る舞ったらいいとか。二人だと緊張するし、大勢だと気を遣うし」
「……そういうのはあるかも知れないですけど、職場の人と呑むって、意味ありますか?」
「ありますよ! ふだん語れないことを語り、その人の知らない面を知るのって大事じゃないですか?」
「仕事は仕事なので、その必要は感じないですけど」
「腹を割るって言葉あるでしょう?」
どうやら佐々木さんは、先週から“心ここにあらず”な感じの直樹を心配して、なんとか励ましたくて、呑みに誘ったみたいです。そこまで気にかけてくれる同僚のいる直樹が、本当に孤独な人なのか?
「いったい何があったんですか? 腹を割って話して下さい!」
あまりにグイグイ来られて、直樹は根負けを通り越して笑っちゃう。
「あっ、笑った。珍しい」
「なんか、楽しいです」
「でしょう? 喜びは、人と人との間にあります」
「……そうですね」
「物を買ったって、喜びは一瞬です。人間関係、つらいことも多いけど、乗り越えたところに、喜びはあります」
耳が痛い!……って言いたいところだけど、最近、自分もそういう心境になって来ました。コレクションは確かに楽しいけど、人と心が通い合えた時の嬉しさには遠く及びません。
「カノジョの反応なんか気にしちゃダメです。本心でぶつかって下さい!」
いくらお節介焼きでも、気にかけてなければこんなアドバイスはしない。きっと直樹の人柄が佐々木さんにそうさせてるんでしょう。彼は決して孤独なんかじゃない。
穂波もたぶん同じで、断絶状態とはいえ飛鳥は明らかに父の病状を気にしてる。
父娘がそうなったのは数年前、なかなか友達ができない葵にA.I.搭載のロボットを買い与え、「友達をプレゼントしたんだ」と悪気なく放った穂波の一言に、飛鳥がハイパー激怒したのがきっかけ。
「あなたは解ってない! あなたは死ぬまで解らない!!」
家族だからこそ“デリカシーがない”だけじゃ済まされない、なにか絶望的な隔たりを飛鳥は感じたみたいです。この辺りが私と兄の関係に似てたりするんだけど、それはまぁどーでもいい。
相手の気持ちを推し量り過ぎる直樹と、推し量ることが出来ない穂波。必要以上に引いちゃう人と押しちゃう人。同じ“孤独”でもその原因が実に対照的で、だから二人は磁石みたいに引かれ、惹かれ合ったのかも知れません。
「仲直りって難しいね」
「直樹さんは、祖父と仲直りしたくて僕にメールをくれたんですよね?」
現実世界でまたミーティングしてる直樹と葵も、すでに世代を越えた友達と言えそうです。
「祖父と母も、仲直りしたいんじゃないかって思います」
「穂波が? お母さんも?」
「はい。母が本当に嫌いなら、僕が祖父に会うことも許さない筈です」
のちに判ることですが、飛鳥は幼少期に、穂波に習ってチャレンジしたシュークリーム作りが失敗に終わり、それをこっそりゴミ箱に捨てられたらしく、そのトラウマが断絶へと繋がる伏線になっちゃった。
「僕は、祖父と母に仲直りして欲しい。このまま、おじいちゃんが亡くなったら可哀想です」
「……穂波が望んでればね」
そんなの『探偵!ナイトスクープ』に応募すれば竹山探偵あたりが解決してくれるんだけど、あれは民放の番組だからそうもいきません。(キダ・タロー最高顧問の御冥福をお祈りします)
「直樹さん、確かめてくれませんか?」
「オレが?」
「直樹さんは、唯一祖父が心を開ける人です。二人のために、よろしくお願いします!」
「……やれることを、やってみるよ」
とは言ったものの、人付き合いがほぼ皆無だった直樹にはハードルが高すぎるミッション。どうすればよいやら見当もつかず、途方に暮れる直樹の脳裏に、「本心でぶつかって下さい!」という佐々木さんの言葉がよぎります。
「逃げちゃダメ、逃げちゃダメ、逃げちゃダメ、か……」
なんだか『エヴァンゲリオン』みたいになって来たけど、これこそ人生における最大のテーマですよね。次のステージへ進むには、逃げずに壁をぶち破るしかない。
<またホナミと旅をしたい。仲直りできないかな>
既読スルーが続いても、直樹はめげません。
<嫌かもしれないけど、とにかく来てくれ> <オレはいつまでもホナミを待つ> <あと一日ここで待ってる。来なかったら、終わりにしよう>
決定的に嫌われちゃう恐怖を乗り越え、諦めずに誘い続ける直樹は、もう既に大きな進化を遂げてると思います。私なんぞは「去るもの追わず」なんて言ってカッコつけてるけど、しょせん自分が傷つくのが怖いだけ。やっぱ死ぬことにします。
それはともかく、いつもの喫茶店に来てくれたホナミは、決してナオキが嫌いになったワケじゃなさそうだけど、表情は暗い。
「また怒るかも知れないけど……立ち入ったことだけど……どうしてあんなに怒ったの?」
「…………」
「オレはキミのことが心配で声を掛けただけなんだ」
「もうVRはやめます」
「え……本気なの?」
「本気です」
「本気でやめるつもりなら、オレのメッセージ、スルーすればいい。ここに来たのは、なにか話したいことがある筈だ」
「ずいぶん口が達者になりましたね。会ったときは、ワタワタして可愛かったのに」
「……ホナミにとってこの世界は、どういう存在なの?」
「……引退して、独りの時間を持て余してました。暇つぶしです」
「……オレたちの時間も暇つぶし?」
「ほかに何だって言うんですか? 美少女になって恋愛をする。その感情が本気だって言うんですか?」
「オレは……本気だ。お祭りやショッピング、ホナミが大活躍したシューティングゲーム、特別列車の旅……全てが、オレにはリアルな想い出だ」
「私が、現実でも会いたいって望んだときに、VRは現実と分けて楽しむものだって、あなたが言ったんですよ?」
「そうだよ! そうしようと努力したよ! だけど、もう自分の心の中がシッチャカメッチャカで、オレの初恋は、何に恋してるんだか分かんなくなって……VRのホナミに会えないなら失恋で終わりなんだけど、現実のホナミが心配で、何がどうなってんだか……でも、何かしないと、何か出来ることがあるって、抑えようとしても湧き上がって来るんだ! こんなこと、人生で初めてなんだ! 人と関わらないように生きて来たのに、お節介だって分かってるのに、どうしょうもないんだ!」
溜まりに溜まったマグマが一気に(もしかすると生まれて初めて)爆発したであろう、直樹の心情がリアルに伝わって来ます。暗闇で、しかも口元しか見えないのに! やっぱり野間口徹さんは凄いアクターです。
「私は、死にかけの男です。残された人生は、長くて3ヶ月です。ムダな労力は使わないで下さい」
「え……3ヶ月……」
「ですから、もう終わりにして下さい。静かに死なせて下さい……お願いします」
「……ごめん。自分のことばっかり言っちゃって」
「いいえ。では……」
「穂波の気持ちも聞かせてよ!」
「何もありませんよ」
「伝えたいことがある筈だ! ね、頼むよ! 話してよ!」
「……さっきは酷いことを言いました。申し訳ありません」
「謝って欲しいワケじゃないよっ!!」
「……私は、自分の信じた人生を、生きて来たつもりです。もう、いいですか?」
そう言ってログアウトしちゃう穂波。もしかして彼は……
心配で一睡も出来なかった直樹は翌日、初めて仕事を休んで穂波の屋敷を訪ねますが、留守で車も見当たらない。
「海の見える高台かも?」と葵から聞いた直樹は、自然と全力で走り出すのでした。
「オレ、これまで人と関わって来なかったから分からなかった。穂波は独りでも大丈夫だと思い込んでた。穂波もオレと一緒なんだ。だからオレも……もう一度会わなきゃならない」
「どうして?」
「初恋の相手は、独りで死なせるワケにはいかないから」
「私を?……こんな私を……ありがとう」
「想像もしてなくて……ごめんなさい」
「ううん、来てよかった」
屋敷に帰り、ようやく笑顔が戻って来た穂波に、直樹は最近「ここには居場所がある」と感じ始めた職場についての話をします。
穂波と会ってから、面倒くさいと思ってた佐々木さんとの会話が楽しいものに変わったと言う直樹。
「佐々木さんは穂波のこと“カノジョさん”って呼んでて、いっつもアドバイスくれるワケ。それがいちいち心に刺さるんだよね。もしかしたら、これまでも同じようなこと言ってたのかも知れないけど……それでオレも、だんだん彼女に本音を喋るようになったの。話すこと苦手なのに」
「…………」
「なんで苦手だったかって言うと、上手いこと、面白いこと、相手がどう感じるかってことを、今までは考え過ぎてたと思う」
「…………」
さっき「二人は同じ孤独でも原因は対照的」って書きましたが、それは間違いかも知れないって、後のエピソードを観て今考え直してます。(1週間がかりでこれを書いてるもんで、その間に放映が進んじゃうワケです)
実は「言葉足らず」が原因で人間関係をこじらせてる点じゃ穂波も同じで、たぶんシュークリームやロボットの件もそのせいで飛鳥に誤解されてる。
対照的なのは原因というより性格そのものなんですよね。そんなの最初から判ってることなのに、私も回りくどく考え過ぎたようです。
「なんでこんな話してるかっていうと、VRのホナミは、オレにズカズカ入り込んで来たでしょ?」
「鬱陶しかっでしょう」
「かなりね。でも、あれがキッカケなんだ。ホナミのお陰でオレは、ずっと無視してた恋心を引き出されて、現実でも佐々木さんとの会話を楽しめて、今でもこうやって、自分でも驚くほど話して……嫌がる穂波の家を、会社休んで訪ねるなんて大胆な行動も出来るようになった。全ては、穂波が、オレの心の殻を破ってくれたから始まったんだ」
「初恋の衝動って凄まじいね!」
「ですね!」
ホナミや佐々木さんに心の殻を破られた直樹が、今度は穂波の心の殻を破ってみせました。以前はオドオドしてた振舞いも、今は堂々としたもんです。
以降、まだ2週分のエピソードが残ってますが、もう詳細なレビューを書くつもりはありません。その2週でなにが描かれるかは明白だし、私が本作にハマったのは直樹に“自分自身”を感じればこそで、彼がこんなに逞しく成長したらもう書くことが無い。
テーマが全て佐々木さんのセリフに込められてるのも明白でした。直樹だけじゃなく、穂波、葵、そして飛鳥にもきっと当てはまる筈。
「仲直り大作戦」に活かされるらしい“ブルース・リーの名言”は私も検索しようかと思ったけど、このドラマについて語る人はみんな同じことするだろうから、やめときます。(ハズレ書いたら恥かくし)
何にせよ、2024年上半期の連ドラ・ベスト1はもう確定でしょう。いつも「昔は良かった」的なことを書いてしまいがちだけど、昭和の時代じゃ決して生まれ得なかった、これは令和ならではの傑作エンタメ。
だけど、根本的なテーマ(要するに成長ドラマ)は古今東西ホント変わらない。斬新と言われる作品を観たときほど、つくづく実感させられます。
ポートレートは再びホナミ役の井桁弘恵さんと、少女だった頃の田中麗奈さん。
最終週に登場しそうなアバターの「アスカ」がどんなキャラクターになるか、それが一番楽しみです。(ブルース・リーだったら面白いけどw、普通にイケメンだとつまんない)
「僕が愛したホナミは…」
「穂波だった。」
ネットオタクの直樹(野間口 徹)なら充分に予想できた筈のオチなのに、恋は盲目。そりゃもう仕方がない。
大きな屋敷に独りで暮らす穂波(坂東彌十郎)は、驚きつつも嬉しそうに直樹を迎え入れます。
けど、直樹は自分のことを棚に上げて、VR世界のホナミ(井桁弘恵)と現実世界の穂波とのギャップに戸惑いまくり、あんなに昂ってた気持ちがみるみる萎んじゃう。
それより何より、心のオアシスだった筈のVRゲーム「トワイライト」の世界を、自らの愚行により現実とゴッチャにしてしまったことを激しく後悔し、穂波はおろかホナミと会うことすら気が重くなっちゃう。
そのくせ、穂波のアクセスが途絶えると気になって仕方がない。VR世界でホナミがナオキ(倉沢杏菜)に別れを告げたのは、穂波が間もなく手術を受ける(それほどの病気を抱えてる)からなのでした。
普段にも増してボーっとしてる直樹に、お節介焼きの同僚=佐々木さん(堀内敬子)が「あまり思い詰めない方がいいですよ」と声をかけてくれます。
「分かってるんです。考えないようにしてるんです。でも、考えちゃう。考えないようにすればするほど考えちゃう。これ、どうすればいいんですか?」
すると佐々木さんは即答します。
「行動することです。案ずるより、産むが易しです」
佐々木さんは「直樹さんにカノジョが出来た」と勝手に思い込んでアドバイスしたんだけど、そのお陰で吹っ切れた直樹は穂波に<体調はどう?>とLINEメッセージを送るのでした。
<明日、手術になりました。怖いです>というレスに、直樹は<大丈夫、俺がついてる>と返す。
この辺りで我々視聴者は、本作が単にVR世界を舞台にしたメロドラマなんかじゃなく、そんな幻想が無惨に打ち砕かれた後のストーリーこそが、むしろ本題であることに気づかされる。
初恋相手=ホナミの正体が色んな問題を抱えた老人であることは、これまでの人生で直樹がずっと避け続けてきた「厳しい現実」の象徴であり、問題は彼がそれをどう受け止め、どう乗り越えて、どんな変化を遂げるのか。
先のLINEにおける力強いメッセージに、その兆しがすでに表れてますよね。
で、どうやら手術は無事に終わったようで、二人は「トワイライト」で再会する。
「私、感激です。誘ってくれて嬉しいです!」
けど、以前とは気分が明らかに違う。お互い相手がオジサンであることを知っちゃったし、特に直樹にとって「トワイライト」は煩わしい現実からの逃げ場だったんだから。
「現実でも会いたがる穂波の気持ちが解らない。正直、面倒だ……」
さもありなん。私だってそんな心境になるだろうと思います。けれど直樹は、穂波の病が想像以上に重いことを、まだ知りません。
穂波は、自分の人生が終焉を迎えつつある事実を、誰にも明かしてない。どうやら独りで静かに死のうと考えてる。
私はその気持ちも解るし、なのに残された時間を気の合う友と一緒に過ごしたいっていう、人間ならではの矛盾も何となく理解できます。
「また、家にも遊びに来てもらえますか?」
「……オレは、正直、こっち(VR世界)で会えればいいと思ってる」
「…………」
「オレは、こっちの世界が好きで、ずっと過ごして来た。こっちの世界があるから生きて来れた。それは、この世界を信じて来たからだ。現実と混ぜるのは……この世界を裏切ることになると思う」
「……もし、直接会わないなら、もうこの世界には来ないと言ったら、どうしますか?」
「……解って欲しいんだけど、オレは、穂波が男性で、自分より歳上で、だから会いたくないって言ってるワケじゃない。この世界は、現実と切り離してこそ成り立つんだ」
「…………解りました。直樹の気持ち、受け止めました。そうしましょう」
「ごめん」
「謝らないで下さい。ごめんって言うなら、有難うでお願いします」
「そうだね。有難う」
二人は決別したワケじゃありません。現実世界では会わないと決めただけで、VR世界でのデートはこれまで通り。だけどやっぱり気持ちが伴わない。
「前までは待ち遠しくて仕方がなかったのに、今は……よく分からない」
分からないんだけど、ホナミのことも穂波のことも頭から離れない。さんざん葛藤した末に、直樹が出した結論は……
「……オレ、勝手すぎるな」
現実世界でも穂波とつき合って行く覚悟を決めた直樹は、再び彼の屋敷を訪れるんだけど、ここで物語も再び大きく動き始めます。
まず、穂波の一人娘でIT企業の経営者=飛鳥(田中麗奈)が登場し、彼女の指令により穂波の様子を伺いに来た息子(すなわち穂波の孫)の葵(柊木陽太)が、祖父と謎のVRオジサンとの仲睦まじい姿を目撃してしまう!
けれどかしこい葵は、飛鳥に報告する前に2人の関係を確かめるべく、こっそり穂波のVRマシン(もとは葵が使っていた)で「トワイライト」にログインし、2人の待ち合わせ場所である「生命の森」を探します。
葵のアバターである「アオイ」もやはり美少女(井上音生)。アバターを異性に設定するのはVRプレイヤー“あるある”なんだそうで、もし私がVRをやるとしてもやっぱり女の子を選ぶと思います。理由は、変態だからです。
それはともかく、アオイは目撃してしまう。自分の祖父が謎のVRおじさんに甘えまくった挙げ句……
チュバチュッチュしちゃう姿を!
「とんでもないものを見てしまった……!」
(つづく)
子役の柊木陽太くんがとてもイイ! キュートさが売りだったり泣く演技が得意だったりする「あざとさ」が無くて、芝居がすごくナチュラル。主演映画『怪物』で日本アカデミー賞 新人賞を獲られたのも納得の素晴らしさです。
そしてアオイ役の井上音生さんも第8回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞と集英社賞(りぼん賞)を受賞して芸能界入りし、舞台ミュージカル『魔女の宅急便』の主演などで知られる実力派。
倉沢杏菜さん、井桁弘恵さんと共に本作でブレイクされること間違いなし! 野間口徹さんはいわゆる“アゲチン”なのかも?
3人の中で一番ファッションモデル顔の井上音生さんが、一番背が低いのが意外。157cmなんだそうです。
2024年の春シーズン……つまり今、密かにというか、思いがけず私がハマってる連続ドラマが、NHK総合テレビの深夜15分枠「夜ドラ」(月曜〜木曜) で絶賛放映中の『VRおじさんの初恋』。まさか、野間口徹さんの主演作にハマってしまうとは!(いや、好きな俳優さんのお一人ではあるけれど)
「夜ドラ」は『作りたい女と食べたい女』や『ミワさんなりすます』あたりも面白かったけど、予約録画までして欠かさず観てるのは、以前レビューした『事件は、その周りで起きている』と『超人間要塞 ヒロシ戦記』以来のこと。
原作は“暴力とも子”という素晴らしいペンネームの作家さんによるウェブコミックで、2018年から’19年にかけて漫画アプリ「マンガコネクト」で連載された作品。
主人公は小さなタイヤメーカー会社に勤める冴えない営業マン=遠藤直樹(野間口 徹)だけど、ストーリーの半分以上は彼が夜な夜な没頭するVR (仮想現実) ゲーム「トワイライト」で展開されますから、むさ苦しくありません。
なにせVR世界における直樹のアバター「ナオキ」は、セーラー服姿の美少女(倉沢杏菜)なんです。
「どこにいても居心地が悪い。誰といても落ち着かない」
↑
第1話冒頭における彼女(彼)のモノローグ、その一言だけで私は心を鷲掴みされちゃいました。簡単なもんですw
いや、簡単なようで実は簡単じゃない。私がその一瞬で感情移入できたのは、現実世界の直樹を演じるのが野間口徹さんであればこそ。これが民放のドラマだと松下洸平とか神尾楓珠になっちゃう。嘘つけ!って話です。
そりゃあ美男美女にだって美男美女なりの悩みがあるのは解るけど、そうじゃない人間とは生きていく難易度がスタートの時点から違ってる。野間口さんでないと「あっ、そこにオレがいる!」とは思えないワケです。
直樹のアバター、つまり実質的な主演者となる「ナオキ」役に、まだ多部未華子さんや今田美桜さんほど顔も名前も知られてない(現時点ではウィキペディアに単独の記載もない)倉沢杏菜さんみたいにフレッシュな女優さんを抜擢するのも、たぶん現在の民放局じゃムリでしょう。
ナオキだけじゃありません。彼女(彼)をVR世界で見つけ、一目惚れし、猛アプローチをかけてくる天真爛漫な美少女「ホナミ」を演じる井桁弘恵さんもまた、すでに『仮面ライダーゼロワン』の女性ライダー役など多くの作品で活躍されてはいるけど、私は今まで認識できてませんでした。
『CRISIS』や『警視庁・捜査一課長』など刑事物にもゲスト出演されてるから何となく見覚えはあったけど、その愛らしさを余すことなく発揮した本作で間違いなくブレイクされる事でしょう。
で、当然、VRおじさんにも恋心が芽生えちゃう。
「なんだ、これ?」
そんな直樹の姿を見た時点で私は号泣です。タイトル通り、彼はこれまで恋をしたことがない。他者との深い関わりをずっと避けて来たから当然です。
私自身、もし多くの他者と関わらざるを得ない“自主映画”という趣味を持たなかったら、恋愛でしか味わえないあの至福感も喪失感も知らないまま、たぶん直樹よりずっと若い年齢でこの世を去ってたはず。
だから、恋をしないまま歳を重ねちゃった直樹の絶望も、そしてオジサンになってから(バーチャルとはいえ)自分を「大好き」と言ってくれる人に出逢って“救われた”気持ちも痛いほどよく解る。
ところで、現実世界の直樹が勤める職場ですが、人数が少ないお陰もあるだろうけど、VR世界に逃げ込みたくなるほど居心地悪い場所には見えないんですよね。
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隣の席にいる佐々木さん(堀内敬子)はお喋りでお節介焼きだけど、他者のパーソナルエリアに土足で踏み込むようなアホじゃない。
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向かいの席にいる若手の加藤さん(瀬戸芭月)は逆に無口で他者を寄せつけないオーラを放ってるけど、それはむしろ直樹にとっては有難いはず。
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上からの命令で仕方なく、直樹に希望退職を勧めてくる歳下上司の澤田さん(細田善彦)も根は優しい人っぽいし。
で、なぜかみんな直樹のことを名字じゃなく「直樹さん」って呼ぶ。VR世界でもホナミが彼を「ナオキさん」って呼ぶから、もしかしてこの中にホナミの実体が?って我々に思わせる為のミスリードかも知れないし、あるいは視聴者の「家にいてまで不愉快な人間関係を見たくない」っていう昨今のニーズに応えてるだけかも知れないけど。
ともあれ、人間関係がニガテな人は周りの環境がどうあれやっぱニガテだし、それはVR世界でも同じだったりする。
そんなナオキにホナミが惹かれたのも、決して外見が可愛いからじゃない。お互い誰かのアバターだと分かってるんだから当然です。
古臭い表現かも知れないけど“フィーリングが合った”、あるいは“ビビッと来た”んでしょう。ホナミの実体も孤独な人であることが後に判ります。
会う約束をしてない日も、気がつけばいつもの喫茶店に来てしまうナオキ。
「来ないことを思いだすと、急に独りになったような気がしてくる。もとから独りだってことを忘れそうになる……こんな自分、初めてだ」
VR世界の描写が素晴らしくキラキラしてて、現実世界とのギャップがまた凄まじいw 当然CGも多用してるでしょうが、それよりロケやセット撮影の方が多そうに見えます。
で、ナオキがホナミと過ごす時間が輝けば輝くほど、私は泣けてくる。それは必ずいつか終わるし、そもそも現実じゃないんだから。
案の定、ナオキが生まれて初めて愛を告白しようとした時、ホナミが「もう会えない」と言いだすのでした。
「来週、手術します」
どうやらホナミの実体は病気を患ってるらしい。でも、だからって……
「オレは……オレは……ホナミのことが……好きなんだ……生きて来て、初めて好きになった人なんだ……初恋なんだ! バカバカしいことは分かってる……この世界が架空なことも分かってる……それでも……オレは……ホナミのことが……好きで好きでどうしょうもないんだ!」
「……嬉しいです。せめて、私とナオキが過ごした日々が、ナオキのこれからの人生の糧になればと……願っています」
失恋…… 胸にぽっかり穴が空いたようなあの喪失感は、きっと子孫繁栄のために組み込まれたDNAなんでしょうけど、すぐには立ち直れない点が他の生物とは違う“人間らしさ”なのかも知れません。
ましてや40代半ばまで恋をしたことがない、つまり免疫を持たない人があのツラさに耐えられよう筈がない!
そこで直樹は、VRプレイヤーが絶対やっちゃいけないタブーを犯しちゃう。不正アクセスによりホナミの住所を探り出し、直接会いに行ってしまう。
さて、そこで見たホナミの実体は……!?
70歳前後の男性だった!
(つづく)
現時点(5月5日)で第20話まで放映されており、明日には第21話が放映されるから一気に20話分レビューしたかったけど、タイムオーバーです。
ここ(第11話)までのストーリーさえ知っておけば途中参加でも充分に楽しめると思うので、皆さんにもオススメしておきます。
ポートレートは野間口徹さんではなく、ナオキ役の倉沢杏菜さんとホナミ役の井桁弘恵さんです。