『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1016

2017-04-24 08:08:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスらの二艇は、海を渡ってくる北東からの風に押され、軽いオールワークで南に向けて航走している。
 漕ぎかたにとって、櫂さばきが少々軽くなったとはいえ、炎天下、汗にまみれての漕走である、生やさしくはなかった。
 オキテスが滴る汗を腕で拭う、吹き出す汗が止まるわけはない、彼は浜を出てからの時間経過を振り返った。
 『ゴッカス、暑いな!俺らが浜を出てからどれくらいの時間が経っている?』
 ゴッカスが熱射を浴びせる太陽を見あげる。
 『隊長、二刻半(5時間)ぐらいではないかと考えられます』
 『そうか。艇の進み具合はどうだ?』
 『漕ぎかたの総員数の現状から考えて、艇速が少々遅いようですが、ほぼ順調と考えられます』
 『解った。あと半刻くらいでスダヌス浜頭との合流点に到達すると考える。漕ぎかた一同に水だ』
 『解りました』
 艇上の一同が水にありつく、川袋の水は日照にさらされて生ぬるい、かまわず喉に通す、乾いているのどを潤す、漕ぎかた連中の表情が和らぐ、オキテスが一同に声をかけた。
 『おう、一同!暑熱の炎天下、懸命の漕ぎ、ご苦労!あと半刻くらいでスダヌス浜頭との合流点に着く、洋上ではあるが小休止する。航海のはかどりは順調である。暑さが厳しいが海の状態は穏やかといえる。ふんばってくれ』
 一同が『おうっ!』と返す、艇はひたすらに波を割る。後続しているギアス操船の試作艇上でも、この風景を遠目に眺め一同が水でのどを潤した。
 オキテスもギアスも記憶を呼び起こして、この航路を南下している。オキテスは三度目であり。ギアスにとっては二度目である。オキテスの三度はスダヌスとの交流の航海であり、ギアスはアエネアスのイデー山への山行の航海であった。漕ぎかた連中のなかにも二度目の者がいる。彼らにとっても懐かしい航海であった。
 水でのどを潤してからの半刻は瞬く間に過ぎる、艇上で進行方向に目を凝らすオキテスの目に、スオダの浜への入り江口の南の岬が視野に入ってくる。その近傍の洋上に浮かぶ一艘の小船に目をとめた。
 船上のスダヌスが両手をあげて振っている、その手ぶりに手を振ってこたえるオキテス、遠めの目線が合う、無事航海の安堵を伝えてくる、双方の船が指呼の距離となる。
 二人が手を差し伸べる、艇と小船が洋上において波にゆすられながら接舷した。
 二人は堅く手を握り合う、目を合わせる、声を出さずとも通じる心と心、二人は互いに肩を抱いた。


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