『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  238

2014-03-27 07:39:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスの胸には、ミニマムな今のトロイへの思いがふつふつと沸いてきていた。この思いが、己を忘れて考えるくらいに四六時中、胸中にとぐろを巻いて居座っていた。
 彼は広大なクレタの海を見つめていた。忘我の境地へと誘われていく、抗することができなかった。
 『おい、アヱネアスよ、どうしたいのだ』耳奥で誰かが話しかけてきていた。声が大きくなってくる。『いわれなくても判ってることだ!』話かけの余韻が遠のいていった。
 この時代の人々は、事の成否を二者択一的に、イエスか、ノーか、で決していく傾向が強く中庸的な考え方が乏しい時代であったと思われる。心情として『お前がいるから事が成る』か『お前がいるから事が成らない』か。生か死か、勝ちか負けか、人間の存在、命の軽い時代であった。しかし、あのとき、トロイは敗れた、アヱネアスは恥辱をこらえて生を選んだ。敗者は多くを学習した、強者よりも敗者の理が世の中をよりよいものにつくりあげれるのではと考えている。他利を生かして利得する。トロイの民は事を決める場合には二者択一ではなく多者択一で最良を選ぶ事を学習して、臨機応変で事を運ぶことを身につけた。アヱネアスは、トロイ、このミニマム国家の建国を成し遂げたかった。
 彼は、その立場における者の戦略思考こそ、国家経営の要めであると確信した。戦略思考とその実行が人を育てると理解した。十余りの仕事のできる者に十五の仕事を与え二十の成果を求める、少々の苛酷を否めないが、戦略がそれを可能とした。未開の時代である、結果を求めやすいことも彼らに利した。戦略が存在し、人を育て、国家目標を実現していく、これこそ俺の国家統治の要諦であるとした。
 そうであらねば眼前の目標である、富国であり兵の強い国がつくれない、だが、国家を成り立たせる決定的な要因にかけている現状を強く認識していた。それは国の未来を担ってくれる子供らがいないことであった。これがクレタで解決できるか否かが大きな課題であった。これを思うとクレタにおいて建国という事業を為すことができるか否かが、途方に暮れる思念であった。この思念の原点に立つという自分の姿を思い描く、為し得ることができるか否か、自分の力量を疑った。それを為し得るイメージが描けなかった。それを『やる』『出来る』をいま語るとすれば、虚勢以外の何物でもなかった。
 彼は、キドニアに向けてはるかな沖へと進みいく姿が見えなくなる舟艇を見送った。


最新の画像もっと見る