つれづれなるままに弁護士(ネクスト法律事務所)

それは、普段なかなか聞けない、弁護士の本音の独り言

T学園での模擬裁判で頂いた質問

2018-02-14 16:00:00 | 弁護士のお仕事

に対する回答です。

1.なぜ弁護士になったのですか? きっかけは何ですか?

【回答】いつかこのブログでも詳しく書こうと思っていますが、慶應義塾大学法学部の通信教育課程の卒論の指導教授K先生(憲法)に、

「平岩、お前、司法試験受けろよ。うちの法学部の通信教育課程を4年で卒業する率は3%で司法試験の合格率と同じだからお前、受かるよ」

と言われたから。

「少数者の人権擁護」とか「社会的弱者の救済」とか、崇高な理由じゃなくてごめんね。


2.弁護士になるためにどのような勉強をしましたか?

【回答】司法試験のための勉強。皆さんが高校受験するときは高校受験のための勉強(模擬試験とか過去問演習とか)をするでしょ? それと同じ。「受験する試験のための勉強をしました」としか言えないです。

ごめん、内容のない回答で。


3.国家試験はどれくらい難しいのですか? 司法試験にはどのような問題が出るのですか?

【回答】国家試験と一口に言ってもいろんな種類の試験があるから、「どれくらい難しい?」と言われても答えられません。簡単な試験もあるだろうし、一生かかっても受からない人もいる試験だってあるだろうし。

司法試験に限って言えば、私が受験したときの最終合格率は3%くらいだったようです↓

https://reatips.info/bar-examination/

今はもっと合格率は高いけど、その分、合格者のレベルが(全員とは言わないけど)低下してる気がする。


4.法律を覚えるのは大変でしたか?

【回答】みんな勘違いしてるけど、司法試験の勉強は法律の「丸暗記」じゃないから。

そもそも論文試験の時は司法試験用の六法を参照可だし。

法律を丸暗記するより、「法律(という道具)を使って、現実に起こった『紛争』をどうやって論理的に解決するか」という方法論を覚えるのが大変だったです。


5.弁護士になる上で法律名や内容をすべて覚える必要はありますか?

【回答】上記4の回答参照。「こういう問題が起こったときは〇〇法の第〇条を使うんだよな。」程度は覚えますが、その条文を一言一句暗記してる人なんていないと思う(いたらごめん)。


6.今出ている弁護士や検察官を題材としたゲームや、ドラマを見て、どう思いますか?

【回答】ゲームは時間の無駄だからやらないし、ドラマは(たいてい)つまらないから見ないのでわかりません。

どう考えても現実の事件の方が面白いもん。


7.仕事をしていてつらいと思ったこと、一番大変だったときはありますか?

【回答】つらかったこと:一生懸命やっていた事件の依頼者に裏切られたこと。

一番大変だったこと:特になし。自分の好きな仕事をこんなに楽しくやらせてもらってお金まで貰っちゃってホントいいんだろうか、と思う。マヂで。


8.弁護士になってよかったと思ったときはどのような時ですか?

【回答】このブログの「刑事弁護~当番弁護編~」と「民事弁護~沖縄編~」を参照。

あと、平日にゴルフに行っても誰にも叱られないこと、休日とかが(ほかの仕事に比べて比較的)自由に取れること。


9.どのような人が弁護士に向いていますか?

【回答】コミュニケーション能力が高いのに、孤独に耐えられる人。

「人間てドジで、バカで、愚かだなぁ」と理解しつつ、人間が大好きな人。

困ったときにすぐに相談できる友人や知人がパッと10人以上思いつく人。

「敬天愛人」を実践できる人。

自分が正しいと思うことを躊躇(ためら)わずできる人。だけど、正しいと思う自分の心が正しいのかをいつも疑い続けられる人。


10.法廷で実際に「異議あり!」というようなシーンはあるのでしょうか

【回答】あります。私は証人尋問でも必要な異議はよく出す方だと思いますし、法廷や弁論準備という手続の中でも裁判官にも意見はバンバンします。

そうでなかったら、依頼者からお金を貰う私たちの存在意義なんてなくね?


11.1年間でどれほどの事件を取り扱うのですか?

【回答】「事件」というのが「裁判」ということなら現在進行中の「事件」は5~6件です。

多いときは20件くらいでした。

懲戒処分を受けたり、いろいろと問題があるといわれている弁護士事務所では弁護士が1人で100件以上の「事件」を扱っているとも聞いたりしますが、常識的に考えてあり得ない(と思う)。

ちゃんと事件に向き合って、全精力を注ぎこんでるなら同時進行で20件が限界(私は)。

ま、世の中には私の想像を超えたスーパーマンもいらっしゃるから、「100件でも200件でもどんとこい」という弁護士もいるかもしれませんね。

私が依頼する立場なら絶対、そういう弁護士には頼まないけど。


12.裁判員になったときに必要なことはありますか?

【回答】あなたの中にあるすべての偏見を捨ててください。

あなたの中にあるすべての差別意識を捨ててください。

あなたの中にあるすべての先入観を捨ててください。

証拠を丁寧に見ましょう。

検察官の論告求刑も、弁護人の弁論も、しょせんは彼らの「一意見」に過ぎないことをもう一度思い出しましょう。

あなたの大切な人、彼氏だったり、彼女だったり、両親だったり、子供だったり、親友だったり、そういう人に胸を張れるくらい、考えて、悩んで、苦しんで、結論を出しましょう。


13.弁護するにも限界があるときはありますか?

【回答】ないと思ってます。私は。

「限界」というのは、勉強でもスポーツでもそうだけど、「限界だ」と叫んだ瞬間に、そこが自分の限界になるので。


14.弁護士になる前の弁護士の印象と弁護士になってからの印象で違う点はありましたか?

【回答】ないです。というより、上記1で答えた様な経緯で弁護士になったので、弁護士になる前、特に「弁護士」というものに過大な期待も、大きな理想も持ってなかったし。

強いて言うなら、「弁護士って、意外に儲からない仕事なんだな」ということかな。


15.裁判員制度を取り入れる前と取り入れた後で、裁判の実情は変化していますか?

http://www.saibanin.courts.go.jp/vcms_lf/hyousi_honbun.pdf

とか、

http://www.saibanin.courts.go.jp/topics/09_12_05-10jissi_jyoukyou.html

とか、

https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2010_08/p26-27.pdf

とかをご参照。

私の個人的な感覚でいうと、「変化はしてない」と思います。

特に変化してないんだから、裁判員制度なんていらないんじゃないかな、とも思います。

名前は伏せますが、ある仲のいい裁判官と飲んだ時、「裁判員裁判は、そうじゃない(裁判官だけの)裁判の3倍疲れる。死にそう。」と言ってたのが笑え・・・もとい、印象的でした。


16.裁判の前に心がけていることは何ですか?

【回答】「こういう流れになったら、こう対応する。」「そうじゃない流れになったら、こう対応する。」という自分なりのシナリオと演出プランを徹底的に考えていくこと。

うちの事務所の若手の弁護士には、事前に彼らなりのシナリオを提出させて、シナリオの出来の悪い方は裁判所に連れて行かないことにしてます。


17.何度も登壇していると、被告人や証人が嘘をついているのを見分けられるようになりますか?

【回答】裁判を経験した回数と相関関係があるのかどうかは分からないけど、何度も裁判に真摯に取り組んでると、「嘘を見破る能力」は少しずつ磨かれていくと思う。

一番、見破りやすいのは、他の証拠と明らかに矛盾したことを言い出した時。

あとは態度、言動、話す内容の順序、等々。

これ以上は企業秘密だから内緒ね。


民事弁護~沖縄編Part 5(乾杯)~

2017-08-21 14:22:04 | 弁護士のお仕事

【嘉門にて】

O氏の代理人弁護士のKさんに対する反対尋問の結果はもはや書くまでもないだろう。

嘘で塗り固めた主張を暴かれ、傍目にも哀れなほど動揺し、禁止されている誘導尋問をKさんに対して繰り返し、そのたびに私から異議を出され、遂に、

「私だって、先ほどの先生の尋問には異議を出そうと思っていたのに我慢したんだ! そんなに異議ばかり出さないでもらいたい!」

と意味不明の逆切れをするという醜態まで演じてくれた。

 

仰るとおり。

私のKさんに対する主尋問は原則として禁止されている誘導尋問の山だった。

で? それが何か?

卑しくも弁護士として依頼者の全利益を背負って法廷に立っているなら、必要な異議はその場で間髪入れずに出すべきだ。たとえ、相手の弁護士に嫌がられようと、裁判官に呆れられようと、だ。

顔面を蒼白にして、口をぽかんと開けて、次々に暴かれる自分たちの嘘に動揺しているうちに異議すら出し損ねたあなたが、

「自分も異議を出すのを我慢したんだから、お前も少しは遠慮しろ。」

とは。

どの口が言うんだ?

 

 

当事者尋問を終え、親父の行きつけの居酒屋「嘉文」で、親父とKさんと私の3人で祝杯をあげた。

Kさんの慰労会である。

 

この日の親父の日記には、

「利文の裁判を傍聴。終わった後、嘉文で飲む」

とだけある。

この日の親父は上機嫌でよく喋った。

「ワシは裁判のことはよお分らんが、Kさんのことはよお分かったわ。

失礼やが、あんたはどう見ても大それた悪さのできる人じゃないわ。

わっはっはっ。」

と名古屋弁でKさんを励ましていた。

親父。それ、あんまりフォローになってない。

 

この日から親父もKさんのことが大好きになった。

その後、私の知らないうちに、沖縄にKさんを訪ねて行ったりしていたらしい。しかも女性連れで。

後日、Kさんが「先生。お父様が女性の方とウチの実家を訪ねて来てくれました」と私に密告してきたことにより発覚した。

さすがに俺の血を引いてるだけあって、老いてなお盛んだな、親父。

 

こうして、Kさんの家族と私の家族は、親子孫3代の家族ぐるみの付き合いになった。

 

「嘉文」を出て親父と別れ、私とKさんは2次会に繰り出した。

今夜はKさんは私の名古屋の常宿であるリッチモンドホテル名古屋納谷橋に私と二人で泊まり、明日の朝、沖縄に帰る。

ホテル近くの繁華街で、「南風原」(はえばる)という名のスナックを見つけた。

「南風原」は沖縄の地名だ。しかも、Kさんのご両親が住んでおられるご実家がある土地だ。

おお!! これは幸先がいい。Kさん、この店にしよう!

私が店のドアを開けると、かなり年季の入ったママ(と呼ぶのも憚(はばか)られるようなご老婦)がカウンターの中に一人。他に女の子はおらず、客もいない。

立ち尽くすKさんと私。

おお!? これは幸先が・・・

 

大丈夫だ、Kさん。

たとえ、横に座って水割りを作ってくれる若い女の子がいなくても、今日の法廷でも、今も、いつだって私はKさんの横にいるじゃないか。

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【和解決裂】

当事者尋問が終わって1か月後。

裁判所から打診された和解案を受け入れるかどうか、あるいは別の和解条件について話し合う和解期日。

今回、私は電話会議ではなく裁判所に出頭した。

交通費が痛いけれど、電話では裁判官や相手方の微妙なニュアンスが伝わってこないし、こちらの気持ちも伝えにくいのでやむを得ない。Kさんにも了解してもらった。

裁判所が提示した和解案は、

「原告O氏は、被告Kさんに対するすべての請求とKさんの自宅に対する仮差押えを取り下げる」

という内容。

当然だ。

 

しかし、O氏側はこの裁判所の和解案を拒否。

 

私からは、

「裁判所からご提示頂いた和解案では足りない。

今回のKさんに対する訴訟は、訴権の濫用(※憲法で認められている『裁判を受ける権利』を濫用してKさんの財産を掠(かす)め取ろうとした、ということ)ともいえる悪質な事案だ。

Kさんに対する請求の全面放棄と自宅の仮差押え取り下げに加えて、

少なくともKさんが私に払った、あるいは今後払わなければならない弁護士費用も全額O氏が負担する

という内容なら和解に応じてもよい。」

と回答。

 

冗談ではなく本気だった。

どうせ和解交渉が決裂して判決に進んでも、もはやKさんが負ける確率は0だ。

そうであるなら、Kさんの代理人であり友達でもある私がやるべきことは、判決以上の和解を勝ち取ってあげることだけだ。

 

この私の提案にO氏の代理人弁護士がブチ切れる。

「ふざけとったらあかんて! Oさんは5000万円以上も騙し取られとるんだわ!

その上、弁護士費用を何百万も払えって、ほんなたわけた和解案があるか!」(名古屋弁)

 

先生、法律家にあるまじき言葉遣いですな。

いや、名古屋弁が、というんじゃなくて。

 

というわけで、和解交渉は無事、決裂した。

判決の言い渡し期日は3週間後の3月31日である。

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【判決】

平成21年3月31日。

判決言い渡しの日。

私はもう、裁判所には出頭しなかった。

そもそも民事裁判では当事者双方が裁判所に出頭しなくても判決の言い渡しはできることになっている。

 

出頭はしなかったが、その日の夕方、裁判所の担当書記官に電話をして、判決主文(「原告の請求を棄却する」とか「被告は原告に5124万5960円を支払え」という部分)だけを教えてもらった。

 

私が自宅に帰ったのは夜7時過ぎだった。

缶ビールを持って少しまだ肌寒い南向きのベランダに出て、携帯でKさんに電話した。

ガラケーの向こう、遠く那覇でもKさんが私に指示されて缶ビール(※そりゃあ、やっぱりオリオンビール)を持って待っていた。

 

「おめでとう、Kさん。全面勝訴だったね。」

 

東京と那覇とで、乾杯した。

  

これで話はおしまいである。

いや、正確には、O氏との裁判はまだまだ終わらなかった。

O氏が判決を不服として控訴してきたからだ。

控訴審の判決は翌年、平成22年1月20日。

控訴審でも圧勝した。

控訴審で敗れたO氏は更に上告受理の申し立てをしてきた。

申立ては当然、却下。

 

更にその後、O氏は、

「Kさんが社長を務めていたWTK社は、T社長の詐欺行為に『WTK社の会議室を提供する』という方法で協力していた。

そのWTK社の社長を務めていたKさんには責任がある。

だからKさんはO氏に5124万5960円払え」

と言い出し、今度は那覇地方裁判所に訴訟を起こした。

この裁判でも(Kさんと私は)圧勝。

O氏は名古屋で起こした裁判と同じく、控訴し、上告受理の申し立てまでしたが、福岡高裁那覇支部も最高裁もO氏の主張を認めなかった。

 

私の「裁判無敗記録」と、Kさんとの友情は今もまだ継続中である。

 

Kさんの心をこじ開け、私とKさんの父上を動かしてくれたKNちゃんは、その後、琉球大学に進み、今は結婚してご主人と関東の某県に住んでいる。

彼女は今年11月には母になる。

 

もし、あの時、KNちゃんがメールを私に送ってくれなかったら。

もし、あの時、私がKNちゃんのメールを読んでも動かなかったら。

もし、あの時、KさんやKさんの父上がKNちゃんの心に寄り添わなかったら。

もし、あの時、JALがKさんの搭乗記録を社内ルールどおり廃棄してしまっていたら。

そして。

もし、あの時、Kさんの裁判を担当した裁判官たちのたった一人でも、いい加減な審理をしていたら。

 

たくさんの偶然と、いくつかの僥倖(ぎょうこう)と、そして、KNちゃんの勇気は、11月に生まれてくるKNちゃんの子どもにつながっていく。

 

「私たちは星を動かすようなもんだ

 星なんて宇宙の中で決められた場所で光ってんだろう

 人の一生だってそうさ・・・ちゃんと運命にしたがって

 生まれて死んでいくんだ

 もし人の命を救ってその人の人生をかえたなら

 もしかしたら歴史だって変わるかもしれないだろう?」

とブラック・ジャックは言った。

 

医者ほどではないけれど、われわれ弁護士もそうだ。

誰かと関わることで、誰かと一生懸命関わることで、その人の人生を少しだけいい方向に変えてあげられるかもしれない。

 

法教育授業の一環で中学校や高校に伺うと、しばしば、生徒から、

「弁護士になって良かったと思う事件はありましたか?」

と質問を受ける。

 

もちろん、あるよ。


民事弁護~沖縄編Part 4(Kさんの証言)~

2017-08-21 10:25:00 | 弁護士のお仕事

【職歴】

私:あなたはWTK社の取締役だった時期がありますね。

Kさん:はい。

私:その後、あなたはWTK社の社長、代表取締役にもなってますね。

Kさん:はい。

私:では、あなたはWTK社の従業員、つまり、いわゆる一般の社員だったこともありますか?

Kさん:いいえ、ないです。

私:WWT社の社員だったことは?

Kさん:ないです。

私:あなたの陳述書によると、某生命保険会社に勤続20年と書いてありますが、T社長に誘われて、某生命保険会社を辞められてすぐにWTK社の取締役に入られたということですか?

Kさん:はい、そうです。

 

みなさん、お分かりだろうか?

KさんはWWT社においても、WTK社においても、「営業担当者」であったことなど一度もなかったのだ。

 

私:では、あなたはWTK社で具体的に何をやっていたんですか?

Kさん:会社が(設立後間もない時期で)まだまだでしたので、総務とか経理とか、それぞれの仕事の内容ですね。そういったことを決めたりしておりました。

私:ほかには?

Kさん:やっぱり金融関係ですので、コンプライアンスですね。そこが一番重要だということで、社員の教育をやったりとか。

私:社員向けのコンプライアンスの啓もう活動みたいなことをやっていたということですか?

Kさん:はい。

私:前職の某生命保険会社時代にも、あなたはコンプライアンスの啓もうというか、教育活動的な仕事をやっていたんですか?

Kさん:はい。やってました。

私:そうすると、T社長は、そういうあなたの職歴というか実績を見込んであなたを某生命保険会社から引き抜いたという理解でいいですか?

Kさん:それもあると思います。

 

そんな人間、金融関係のコンプライアンスを熟知している人間が、「営業担当者」と名乗って、見込み客に「絶対に儲かります」なんてバカなことを言うだろうか?

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【ONLY JAL】

私:ちょっと話を変えます。あなたは、WTK社に取締役として入社して以来、T社長が逮捕されるまで、だいたい1週間おきに東京と那覇を往復していましたね?

Kさん:はい。

私:そのことはあなたの陳述書にも出てくるんですが、そのときあなたが使っていた交通機関は何ですか?

Kさん:飛行機で行ってました。

私:航空会社は?

Kさん:日本航空を使ってました。

私:日本航空に限らず、航空会社はマイレージポイントが貯まるマイレージカードというのを発行してますよね?

Kさん:はい。

私:日本航空のマイレージカード、当時持ってましたか?

Kさん:はい、持ってました。

私:日本航空を利用するときに、マイレージカードは使ってましたか?

Kさん:はい、使ってました。

私:マイレージカードを使わずに、つまり、マイレージポイントの積算をせずに日本航空に乗ったことはありますか?

Kさん:ないです。

私:日本航空では、貯まったマイレージポイントに応じてマイレージカードのランクが変わるんですが、平成17年に貯めたマイレージポイントに応じてあなたが平成18年に日本航空から交付されたマイレージカードのランクは何でしたか?

Kさん:ダイヤモンドクラスです。

私:ダイヤモンドクラスというのは、どんなクラスですか? 一番上とか一番下とか。

Kさん:一番上です。

私:マイレージポイントをたくさん貯めないともらえないクラスですか?

Kさん:はい。

私:日本航空以外の航空会社を使ったことはないですか?全日空とか。あとはどこの航空会社が羽田-那覇便を飛ばしてるのか分からないけど。

Kさん:いいえ。ないです。日本航空しか使ってませんでした。

私:例えば、フェリーで東京と那覇を往復したとかは?

Kさん:いいえ、とんでもないです。ないです。

私:日本航空は必ず羽田―那覇の直行便ですか?

Kさん:はい。

私:例えば、那覇から大阪まで行って、そこから新幹線で東京まで行ったことは?

Kさん:ないです。

 

Kさんの証言は続く。

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【現場不在証明】

私:先ほど、O氏がご証言されてましたが、「平成17年5月25日に東京のWTK社の会議室でO氏に会った」という記憶はありますか?

Kさん:ないです。

私:平成17年5月と6月のあなたの東京と那覇の往復のスケジュール、具体的なスケジュールを今ここで何も見ないで全部言えますか?

Kさん:それは、ちょっと無理です。何も見ないで記憶だけで正確には・・・。

私:(裁判官に対して)Kさんの記憶を喚起するため、そして、先ほどのO氏の証言に対する弾劾証拠として日本航空から入手したKさんの平成17年5月1日から6月30日までの搭乗記録を証拠として提出します。

 

弁護士照会は間に合ったのだ。

平成17年5月のKさんの搭乗記録は破棄されなかった。

弁護士照会に先立ってJALとANAに電話をした際、搭乗記録の破棄を待ってくれるよう頼み込んでおいたからだ。

もし、あのときJALとANAに電話しなかったら。あるいは、弁護士照会があと1週間遅かったら・・・。

 

私:Kさん、これは日本航空が開示してくれた、「K」というマイレージクラブ会員、しかも日本航空に登録されている住所と生年月日があなたと同一の「K」という人物の平成17年5月と6月の搭乗記録です。この搭乗記録に心当たりはありますか ?

Kさん:あります。これは私の搭乗記録です。

私:では、この搭乗記録を見て、明らかにあなたが搭乗したことのない便名はありますか? あるいは、ここに記載されていない便で東京と那覇を往復したことは?

Kさん:いいえ。どちらもないです。

私:この搭乗記録の上から2つ目。平成17年5月20日。JAL1935便。あなたは羽田から那覇に帰っていますね?

Kさん:はい。

私:次の那覇から羽田への搭乗記録はそのすぐ下。上から3つ目。平成17年5月31日。JAL1900便だ。間違いないですか?

Kさん:間違いありません。

私:つまり、原告のO氏が「東京でKさんに騙された」と主張している平成17年5月25日には、あなたは沖縄にいたんですね?

Kさん:はい。

 

裁判官と修習生が刮目した。

O氏とO氏の代理人弁護士は凍りついたように私が弾劾証拠として提出した日本航空の搭乗記録を見ている。

顔が紙のように真っ白である。

弾劾証拠というのは、証人の証言内容と矛盾する証拠のことをいう。

「証言と矛盾する証拠がこの世に存在する」ということは、つまり、「証人は虚偽の証言をしている。少なくとも証人の証言の信用性には疑問がある」ということになる。

O氏は、私から再三確認されたにもかかわらず、「K氏と東京のWTK社の会議室で会ったのは平成17年5月25日」と断言した。

O氏の代理人弁護士は、当事者尋問に先立って確認した「この裁判の争点」について、「平成17年5月25日の東京における原告・被告間のやり取り」だと、これまた断言した。

どちらも既に記録に残されている。

しかも、O氏の証言は既に終わっているのだ。裁判所が特別に認めない限り、O氏はこの法廷で、Kさんの搭乗記録と自分の証言(と主張)の矛盾について釈明する機会さえ与えられない。

釈明する言葉を持っていれば、の話だが。

 

慌てふためいたO氏の代理人弁護士が口を挟もうとするのを私は無視した。

先生。

反撃の狼煙(のろし)は一つだけとは限らないんだよ。

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【もう一つの証拠】

私:先ほど見てもらった日本航空の搭乗記録に加えて、全日空からも搭乗記録が開示されています。Kさん、あなたの搭乗記録は全日空には存在しませんでしたね。

Kさん:はい。

私:ただ、これだけじゃ弱い。平成17年5月25日にあなたが沖縄にいたということを証明してくれる人をなんとか探し出せ、と私に言われたことを覚えてますか?

Kさん:はい。

私:私にそう指示されて、あなたはどうしましたか?

Kさん:死に物狂いで探しました。

私:そういう人、あなたが平成17年5月25日に沖縄にいたことを証明してくれる人は見つかりましたか?

Kさん:はい。

私:その人のお名前は?

Kさん:Mさんです。

私:あなたとはどういうご関係の方ですか?

Kさん:私が某生命保険会社に勤めていた時代の同僚です。

私:あなたがWTK社の役員になった後、例えば、Mさんとの間でお金の貸し借りをしたとか、何らかの援助を受けたとか、MさんもWWT社への出資者の一人だったとか、Mさんとあなたの間、あるいはMさんとWWT社やWTK社の間に何らかの利害関係はありますか?

Kさん:いいえ、ないです。

私:どういう経緯でMさんを見つけ出したのですか?

Kさん:平岩先生に言われて、とにかく友人知人みんなに電話したり、直接会いに行って片っ端から聞いて回りました。何人かの友人からは半ば気違い扱いされました。

私:(裁判官に対して)先ほどのO氏の証言に対するもう一つの弾劾証拠としてMさんの陳述書を提出します。

 

裁判官とO氏、それにO氏の代理人弁護士がMさんの陳述書を食い入るように読み始める。

ああ、修習生がほったらかしだ。

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【いたー!】

私:このMさんの陳述書は、あなたから

  「証言してくれる人が見つかった」

  という連絡を受けた私が沖縄まで行って、Mさんご本人からお話を伺って作ったものです。

  これを前提に少し伺います。

Kさん:はい。

私:Mさんの陳述書によると、平成17年5月25日、Mさんはあなたから

  「沖縄県内で共済の営業をやってくれる人を探しているんだけど、Mさんやらない?」

  と連絡を受けて、

  「じゃあ、お昼ご飯でも一緒に食べよう」

  ということになって、当時のMさんの勤務先があった浦添市内の「 I 」というラーメン屋に行って話をした、とあります。

  間違いありませんか?

Kさん:はい。間違いないです。

私:Mさんは私がお話を伺っているうちに色々と思い出してくださいました。

  ラーメン屋「 I 」に入るとき、あなたに

  「車を駐車場に入れた方がいいよ」

  と言ったのに、あなたは

  「いやいや、もう、ラーメン食べる間だけなんだから。路駐でいいよ」

  と答えて路上駐車したとか。そのこともMさんの陳述書には書いてあります。

  そもそも路駐なんかしてもらっちゃ困るんだけど、まぁ、今はそれはおいといて。そういうやり取りがあったことは覚えてますか?

Kさん:覚えてます。

 

KさんがMさんの存在を見つけ出したのは平成20年10月25日だった。

同日15:41にKさんから私の携帯に届いたメールのタイトルは

「いたー!」

 

2日後に私は沖縄に飛び、浦添市内のモスバーガーでMさんからお話を伺った。

Mさんの記憶は完璧だった。

Mさんは平成17年5月25日の昼、Kさんと浦添市にあるラーメン屋「 I 」で会っていた。

Mさんは「食べ歩き」がご趣味で、ご自身の手帳に毎日、その日行ったお店の名前を書き留めて記録しておられた。

Mさんが見せて下さった手帳の平成17年5月25日の欄には確かに「 I 」と書かれていた(この手帳のコピーもMさんの陳述書とともに裁判所に証拠として提出した)。

Mさんの手帳には、平成17年5月25日以外、「 I 」の名前は登場しない。

Mさん曰く、

「お店には申し訳ないが、とても美味しいとは言えない味だったので。私が『 I 』に行ったのは後にも先にも平成17年5月25日だけなんです」

 

Mさんは、「 I 」に入る前の「路駐のやり取り」以外にも、その日、自分とKさんが食べたメニューまで覚えておられた。

もう、疑う余地はない。 

Kさんは平成17年5月25日午後2時には東京のWTK社の会議室にはいなかったのだ。

 

この裁判でKさんの代理人をを受任したとき、私は少しだけKさんを疑った。

もしかしたら、この人は本当にT社長と一緒にO氏を騙したんじゃないか、と。

友だちになったはずのKさんを、私は疑ったのだ。

モスバーガーでMさんと別れた後、私はKさんを人目もはばからずハグし、そして、謝った。

 

ごめんな。

私はもう二度とあなたを疑わない。死ぬまで。

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【伝えるべきこと】

私:前の裁判でT社長は、

  「Kさんにも聞いたんだけど、平成17年5月25日にO氏と東京で会ったかどうかは覚えがない。」

と証言してますが、あなたはT社長から「平成17年5月25日の件」について尋ねられたり確認されたりしましたか?

Kさん:いいえ。

私:O氏がT社長に対して起こした前の裁判のことをあなたが知ったのはいつですか?

Kさん:この裁判の訴状を見てはじめて・・・(知りました。)

私:今回の裁判の訴状やO氏が提出した証拠を見てあなたはどう思いましたか?

Kさん:落胆というか、ショックでした。

私:どうして?

Kさん:T社長がやっていたことに自分も加担していたといつの間にか裁判で認定されていて。全然何も分からないうちに。

 

さて。

ここから先は「何かを証明するための尋問」ではない。

今回の裁判で勝つことだけを考えるなら、しなくても全然かまわない。

証明責任とも当事者主義とも全く関係ない。

けれど。

私は、ここから先のKさんの言葉こそ、裁判官に聞いてもらいたかった。

 

私:T社長の刑事裁判が終わって以降、あなたはずっと沖縄で一人で事件の後始末をしてて、その後も僕との交流が続いていましたね。

Kさん:はい。

私:あなたの娘さんとも僕は交流があります。「お父さん元気でやってます」とか「お父さん新しい仕事見つかりそうです」というメールを娘さんが僕にくれたりしていたことはご存じですか?

Kさん:はい。

私:今回の裁判の訴状が届いたとき、最初、あなたはどうしようと思っていましたか?

Kさん:そうですね・・・。WTK社も辞めて、次の仕事もなかなか見つからなくて、裁判費用を捻出するのも難しいし、何かやけくそな気持ちで。「もう(家を競売にかけられれば)住宅ローンも払わなくて済むからそれでいいや」みたいな。投げやりって言いますか。

私:しかし、その後、あなたは私に今回の裁判の代理人を依頼されました。心変わりした理由は?

Kさん:家内も寝込んでしまいましたし、親父からも見放されて、本当にもう、どうでもいいやって気持ちになって、平岩先生にも「裁判で闘うのは諦めます」ってメールまでしたんですけど、それを知った娘から、

「何もしないで、お父さんが悪い人だと一方的に言われるのは嫌だ」「お父さん、裁判頑張ってよ」

と言われて・・・。

私:娘さんからは僕もメールをもらいました。

「裁判欠席して、お父さんが悪いことをしたって一方的に認定されるのが一番つらいです」

と。

「何がいいのか自分は子供だからよく分からない。だけど、これが・・・、つまり欠席裁判で敗訴判決をもらうことが、一番いい方法なんでしょうか?」

って。

僕は彼女がくれたメールを読んで、那覇まで行って、投げやりになってたあなたとあなたのご家族を説得しましたね。

Kさん:はい。

 

Kさんは泣き出してしまった。

嗚咽(おえつ)で言葉が出てこない。

 

KNちゃんのメールは今回の裁判で証明すべき事実とは何の関係もない。

だから、証拠として提出はしない。

しかし、証明責任とか当事者主義とか、そういうものとは別のところで、KNちゃんが私に必死に届けようとした思いを裁判官に、O氏に、O氏の代理人弁護士に、どうしても伝えておきたかった。

それは、裁判という制度にかかわる私たち法曹にとってとても大切なことのように私には思えたからだ。今もあの時の判断は間違っていなかったと思う。

 

私とKさんのやりとりはまだ続く。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【諦めるな、闘え、と彼女は言った】

私:あのとき私は言いましたね。

「Kさん、もし、本当にやったんだったら諦めてお金払おう。悪いことやったんだから仕方ない。一緒に謝ろうよ」

って。

Kさん:はい。

私:だけど、やってないんだったらちゃんと本当のことを裁判所で言おう、真相を裁判所に伝えて闘おうって。

Kさん:はい。

私:でも、最初にその勇気を言葉にしたのは私じゃない。あなたの娘さんのKNちゃんです。

Kさん:・・・・・。

私:現在、あなたは無職で収入もない。でも、残念ながら私もボランティアで裁判受任できるような身分じゃない。あなたは苦労して私に着手金を払ってくれましたね。

Kさん:はい。

私:私に払ってくれた着手金はどうやって工面したんですか?

Kさん:恥ずかしい話ですが、自分の両親、家内の両親、兄弟、親類縁者に頭下げて回ってお金を集めました。

私:最後に、原告本人と裁判所に言っておきたいことがあったら言ってください。

Kさん:本当にO氏には大変お気の毒なことだと思ってます。だけど、私から説明受けたからとか・・・。

私その場にいなかったです。

なのに、いつの間にか、そういうことになっていて。

「T社長と一緒にやったんだ」と言って私の方に請求をして来たり、私の自宅を差し押さえたり・・・。

お願いですから、もう、やめてください!

私:裁判所に対して何か言いたいことはありますか?

Kさん:「もう今回の裁判は欠席して終わらせてしまえ」と思った理由の一つに、前の裁判で私は何一つ証言もしていないのに、知らないうちにT社長に加担したと認定されていて、

「裁判なんてやったって、どっちみち駄目なんだろうな。

 どうせ、自分の言うことなんか誰も聞いてくれないし、信じてくれないだろう」

という気持になったことがあります。裁判なんてこんなものなのか、と。

私:前の裁判でそういう認定をされてますからね。前の裁判では誰一人あなたから直接事情を聴こうとはしなかった。それなのに、そういう認定をされてる。それで裁判不信がものすごく強くなってしまった。

最初、あなたは「裁判やったってどうせ無駄ですよ」って僕に言ってましたよね。

Kさん:はい。

私:せめて今回は、客観的な証拠、真実に即した認定を裁判所にはして欲しい?

Kさん:はい。

私:私からは以上です。

 

当事者主義などという、法律家だけに通用する制度が悪用された杜撰(ずさん)な事実認定。

事件関係者の中で唯一、「那覇市内の一戸建て」という財産を持っていたKさんを嵌(は)めるために強引に進められたとしか思えない前の裁判とその判決。

すべての大人たちが諦め、投げやりになり、真実から目を背け、疑いの目でKさんを見ていたとき、高校生だったKNちゃんだけが、たったひとり、Kさんを信じていた。

「何もせずに諦めるな。闘え。」

と意気地なしの大人たちの背中を、KNちゃんの小さな手のひらは押し続けていた。

 

正義とは程遠い前の裁判に対するKさんの慟哭(どうこく)を、裁判官と司法修習生はどんな思いで聞いたのだろう。


民事弁護~沖縄編Part 3(O氏への尋問)~

2017-05-29 16:59:00 | 弁護士のお仕事

「当事者尋問」

平成21年2月某日。

O氏とKさんに対する当事者尋問。

法壇上の裁判官の横には、名古屋地裁で裁判修習中の司法修習生。

そして、傍聴席には息子の晴れ姿(?)を見に来た私の親父。

 

「宣誓 良心に従って、ほんとうのことを申します。

知っていることをかくしたり、無いことを申したりなど、決して致しません。

以上のとおり誓います。」

 

O氏とKさんが法廷の中央にある証言台の前に立ち、ふたり並んで宣誓書を読み上げる(※ちなみに宣誓書の文章は裁判所によって微妙に違う。興味のある方は裁判傍聴時に調べられたい)。

 

まず、O氏の代理人弁護士によるO氏の主尋問。

依頼者(O氏)と、その代理人弁護士のやりとりだから、言うまでもなく事前に代理人弁護士が作ったシナリオに沿ってみっちり練習してきている。

(プロの役者じゃない、という意味で)ド素人の尋問者(弁護士)と、同じくド素人の供述者(O氏)が、暗記してきたシナリオどおりに喋るだけだから、大根役者の三文芝居みたいなやり取りが延々と続く。まぁ、それはこちらも同じことですが。

あまりの大根ぶりに裁判官や修習生の中には「目を閉じて熟考」を始める輩も(たまに)いる。

事前にリハーサルしてきているから、主尋問で失敗をしでかす(=墓穴を掘るようなことを言ってしまう)なんてことは、よほど代理人弁護士の腕が悪いか、供述者(=当事者本人)がチキンハートじゃない限り、まずない(たまにある)。

 

O氏の主尋問はほぼ完璧だった。

事前リハーサルも何も、O氏と代理人弁護士は、前の裁判で既に「本番」を経験済みなのだから当たり前だろう。

内容的に目新しい話は何もなかったが、主尋問はそれで十分。

これまでにまったく出てこなかった新しい事実(主張)がいきなり飛び出して来たら、裁判官も相手方も面食らうし、手続きも混乱する。

主尋問では、これまで書面で主張してきた事実を、当事者自身の生(なま)の言葉で、淀みなく、詳細かつ説得的に裁判官に伝えられればそれで十分なのだ。

 

しかし、眠く・・・じゃなかった、目を閉じて熟考したくなっちゃったぞ。

O氏の代理人弁護士とO氏のやり取りってば、盛り上がりなさすぎ!

って、裁判官と修習生まで二人そろって居眠・・・じゃなかった、目を閉じてやがる!

 

「私からは以上です。」

そう言ってO氏の代理人弁護士が着席した。

さあ。

私のO氏に対する反対尋問だ。

 

待ってろ! 裁判官と修習生。

今、刮目(かつもく)させてやるぜ。

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「反対尋問その1【布石】」

私:あなたが東京のWTK社でKさんに会ったのは、「平成17年5月25日午後2時」で、間違いありませんか?

 

O氏:はい。間違いありません。

 

私:本当は「平成17年5月27日」だったのでは?

 

O氏:いや、25日です(きっぱり)。

 

私:しかし、前の裁判の記録を見ると、当事者尋問のとき裁判官はあなたに対して、

 

「平成17年5月27日にWTK社に行ったときの話ですが」

 

と質問しています。ところが、あなたは、今のように

 

「いえ、25日です」

 

と訂正もしないで、

 

「そのときKさんとT社長に会議室で会った。」

 

と答えていらっしゃる。何故、日付を訂正しなかったんですか?

 

O氏:いや、私は最初からずっと25日と言い続けてましたから(きっぱり)。

 

私:じゃ、これからも「平成17年5月25日」ということでお話を伺っていきますね。

 

O氏:はい。

 

 

私のO氏に対する反対尋問は続く。

 

私:あなたのこれまでのご主張によると、そのとき、あなたはT社長からKさんを「営業担当者」と紹介されたんですね?

 

O氏:そうです。

 

私:これは今回の裁判で、あなたが「そのときKさんから貰った名刺である」と証拠提出しているKさんの名刺です。この名刺に書かれているKさんの肩書、この部分を読み上げてください。

 

O氏:私、メガネがないと、ちょっとよく見えないんですが・・・・。

 

(あたふたとメガネをかけて)ああ、「代表取締役」と書いてありますね。

 

私:代表取締役が「営業担当者」って、おかしな話だとは思いませんでしたか?

 

O氏:25日のときは、そこまでは気づきませんでした。

 

私:「そこまでは気づかなかった」とはどういうことですか?

 

O氏:いや、25日には私、メガネを持って行かなかったので。

 

私:メガネを持って行かれなかった? T社長から出資の話というか、お仕事の話があると言われて、あなたはわざわざ東京まで出かけられたんでしょ? 出資とかお仕事の話ならいろんな書類を見せられる可能性があると思うんですが、メガネは持っていかれなかったんですね?

 

O氏:はい。

  

これまで完璧に見えたO氏の話に小さな綻(ほころ)びが生まれた。

 

私のO氏に対する反対尋問は続く。

 

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「反対尋問その2【綻び】」

私:前の裁判の当事者尋問調書を見ると、あなたは、平成17年12月に沖縄でKさんに会った時の状況について、こう仰ってます。

「沖縄の本社の方へ行きまして、そこにいた留守番のKさんという人と話をした。」

と。

あなたの話では、平成17年12月に沖縄でKさんに会ったのは5月25日の東京に続いて2度目のはずです。

でも、あなたの言い方は、まるで「沖縄で初めてKさんという人に会った」ように聞こえる。

2度目に会った人についての説明としては、すごく違和感のある表現です。

どうしてちゃんと説明しなかったんですか?

「5月25日に東京で会ったKさんがそこにいたので、T社長とか出資金の行方について問い質(ただ)した」

とか、先ほどの主尋問で証言されたように、

「いきなり沖縄の本社に乗り込むのは正直怖かったけど、以前会ったことのあるKさんの顔を見てホッとした」

とか。

O氏:いや、Kさんという人を前から知っているならそうも言えるでしょうが、初対面で名前も知らないのに、そんな風に言えるわけがないと思いますけどね。

 

綻(ほころ)びが、大きくなった。


私:前の裁判を起こすとき、どうしてKさんも被告にしなかったんですか?

O氏:それは弁護士さんと相談してこういう形でやる、というふうに指示を受けましたんで。

私:弁護士さんが指示をした?

O氏:弁護士さんと相談してですね。

私:弁護士さんから言い始めた?

O氏:はい。

私:では、前の裁判のとき、どうしてKさんを証人として呼び出して尋問しなかったんでしょう?

O氏:それも弁護士さんの考えがそういうところにあったんだと思います。

私:なるほど。Kさんに対する証人尋問をしなかったのも弁護士の先生のご指示だったんですね?

O氏:はい、そうです。

私:前の裁判の法廷でKさんに5月25日の話をされると何かまずいことでもあったんじゃないですか?

O氏:それは違うと思います。

 

心なしかO氏の口調が早くなってきている。

やましいことがあるとき、聞かれたくないことを答えなければならないとき、人は早口になる。

 

たまりかねて、O氏の代理人弁護士が私の尋問に割り込んできた。

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「反対尋問その3【墓穴】」

O氏の代理人:前の裁判でKさんを被告にしなかったことが平岩先生は何かえらく不満みたいですが、(中略)東京のWTK社に対して仮差押えをするとなると、東京地裁へ行って、資料も疎明しなければならない。これじゃ駄目だから、大急ぎで判決取ろうと私が提案したことは覚えてますか?

O氏:はい。今、思い出しました。

O氏の代理人:それで名古屋の裁判所へ裁判を起こして、「T社長に対する刑事裁判の記録もそろっている、証拠も陳述書も全部そろっている。これではもうほぼ疑問の余地はないからとにかく早く判決出してくださいと言って、私が(前の裁判の)裁判官に法廷で頼んだことを覚えていますか?

O氏:はい。

O氏の代理人:前の裁判でT社長やO氏に対する当事者尋問をしようというのは、私から「調べてください」と言ったのか、前の裁判の裁判官が「一遍(いっぺん)調べてみましょう」と言ったのか、覚えていますか?

O氏:たぶん、裁判官だと思います。

O氏の代理人:そうですね。だから、前の裁判の記録を見ると、私でも、T社長の代理人からでもなく、いきなり裁判官の質問から始まっている。

O氏:はい。

O氏の代理人:これは「当事者尋問」が裁判官の職権で実施することになったからです。

O氏:はい。

O氏の代理人:ということは前回の裁判でKさんを証人として調べなかったというのも、裁判官が「調べる必要なし」ということだったんじゃないんですか?

O氏:そうだったと思います。

 

なんとも長い言い訳。

人は、苦し紛れの言い訳をするとき、饒舌になる。

O氏の代理人弁護士は自ら墓穴を、それも大きな墓穴を掘ってくれた。

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「人の呪わば穴2つ」

O氏の代理人弁護士は墓穴を3つ、掘った。

 

一つ:「前の裁判でKさんを被告にしなかった」ことについての説得的な理由を何一つ語れなかったこと。

二つ:前の裁判の目的は「大急ぎで判決を取ることだった」と自分から認めてしまったこと。

三つ:苦し紛れに「Kさんに対する証人尋問を行う必要なしと裁判所が判断した」と虚偽の説明を法廷でしてしまったこと。

三つ目について少しだけ説明しておこう。

前の裁判の裁判官が、「Kさんを(証人として)調べる必要なし」という判断をした、などという事実は、前の裁判の記録上、どこにも出てこない。

前の裁判では、被告のT社長側も、O氏の代理人弁護士も、つまり当事者双方とも「Kさんに対する証人尋問の実施」を裁判所に申請しなかった。

当事者双方がKさんに対する証人尋問の申請を出していないのに、裁判官が先回りして「Kさんを証人として調べる必要はない」などと判断することはあり得ない。

前の裁判では、被告のT社長側も、O氏の代理人弁護士も、「Kさんに対する証人尋問の実施」を裁判所に申請しなかった。

そこで裁判官は、せめて職権で(つまり、当事者からの申請がなくても)実施できる当事者尋問を実施することにしたのだ。

しかし「当事者尋問を実施することを裁判所が決定したこと」と「Kさんに対する証人尋問を行う必要なしと裁判所が判断したこと」とイコールではない。

判決を早く出せ早く出せとせっつく原告O氏の代理人弁護士、Kさんの利益とか事件の真相究明には何の興味もない被告T社長の代理人弁護士。

当事者主義とか証明責任の名のもとに繰り広げられる2人の弁護士の茶番劇への裁判官の精一杯の抵抗が「T社長に対する当事者尋問の実施」だったのだ。

 

「人の呪わば穴2つ」という。

墓穴を3つも掘ったO氏(の代理人弁護士)の恨みの深さが知れるな。

誰の、何についての恨みだか知らないが。

 

10月の弁論準備手続期日にO氏の代理人弁護士が私に投げつけた言葉を、今、そのままお返ししよう。

事実を証明するためにどのような証拠・証人を裁判に提出するかは当事者の自由。

「当事者主義」だ。

前の裁判でこの当事者主義を利用して意図的にKさんを被告からも証人からも除外して裁判に関与させなかった理由は、もうすぐこの法廷で明らかにされる。私によって。 

裁判官の横で眠そうに座っている司法修習生は、「いったい、双方の代理人弁護士は何でこんなに熱くなってるんだ?」とキョトンとしている。

嘴(くちばし)の黄色いヒヨコちゃんには分からなくてよろしい(←偉そう)。

 

火種が揃った。

さぁ、反撃の狼煙(のろし)をあげよう。

だいじょうぶ、Kさん。

Kさんの背広の内ポケットに入っている「ヒロの手作りお守り」と「日枝神社のお守り」がきっとKさん(と私)を守ってくれるよ。