つれづれなるままに弁護士(ネクスト法律事務所)

それは、普段なかなか聞けない、弁護士の本音の独り言

民事弁護~沖縄編Part 3(O氏への尋問)~

2017-05-29 16:59:00 | 弁護士のお仕事

「当事者尋問」

平成21年2月某日。

O氏とKさんに対する当事者尋問。

法壇上の裁判官の横には、名古屋地裁で裁判修習中の司法修習生。

そして、傍聴席には息子の晴れ姿(?)を見に来た私の親父。

 

「宣誓 良心に従って、ほんとうのことを申します。

知っていることをかくしたり、無いことを申したりなど、決して致しません。

以上のとおり誓います。」

 

O氏とKさんが法廷の中央にある証言台の前に立ち、ふたり並んで宣誓書を読み上げる(※ちなみに宣誓書の文章は裁判所によって微妙に違う。興味のある方は裁判傍聴時に調べられたい)。

 

まず、O氏の代理人弁護士によるO氏の主尋問。

依頼者(O氏)と、その代理人弁護士のやりとりだから、言うまでもなく事前に代理人弁護士が作ったシナリオに沿ってみっちり練習してきている。

(プロの役者じゃない、という意味で)ド素人の尋問者(弁護士)と、同じくド素人の供述者(O氏)が、暗記してきたシナリオどおりに喋るだけだから、大根役者の三文芝居みたいなやり取りが延々と続く。まぁ、それはこちらも同じことですが。

あまりの大根ぶりに裁判官や修習生の中には「目を閉じて熟考」を始める輩も(たまに)いる。

事前にリハーサルしてきているから、主尋問で失敗をしでかす(=墓穴を掘るようなことを言ってしまう)なんてことは、よほど代理人弁護士の腕が悪いか、供述者(=当事者本人)がチキンハートじゃない限り、まずない(たまにある)。

 

O氏の主尋問はほぼ完璧だった。

事前リハーサルも何も、O氏と代理人弁護士は、前の裁判で既に「本番」を経験済みなのだから当たり前だろう。

内容的に目新しい話は何もなかったが、主尋問はそれで十分。

これまでにまったく出てこなかった新しい事実(主張)がいきなり飛び出して来たら、裁判官も相手方も面食らうし、手続きも混乱する。

主尋問では、これまで書面で主張してきた事実を、当事者自身の生(なま)の言葉で、淀みなく、詳細かつ説得的に裁判官に伝えられればそれで十分なのだ。

 

しかし、眠く・・・じゃなかった、目を閉じて熟考したくなっちゃったぞ。

O氏の代理人弁護士とO氏のやり取りってば、盛り上がりなさすぎ!

って、裁判官と修習生まで二人そろって居眠・・・じゃなかった、目を閉じてやがる!

 

「私からは以上です。」

そう言ってO氏の代理人弁護士が着席した。

さあ。

私のO氏に対する反対尋問だ。

 

待ってろ! 裁判官と修習生。

今、刮目(かつもく)させてやるぜ。

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「反対尋問その1【布石】」

私:あなたが東京のWTK社でKさんに会ったのは、「平成17年5月25日午後2時」で、間違いありませんか?

 

O氏:はい。間違いありません。

 

私:本当は「平成17年5月27日」だったのでは?

 

O氏:いや、25日です(きっぱり)。

 

私:しかし、前の裁判の記録を見ると、当事者尋問のとき裁判官はあなたに対して、

 

「平成17年5月27日にWTK社に行ったときの話ですが」

 

と質問しています。ところが、あなたは、今のように

 

「いえ、25日です」

 

と訂正もしないで、

 

「そのときKさんとT社長に会議室で会った。」

 

と答えていらっしゃる。何故、日付を訂正しなかったんですか?

 

O氏:いや、私は最初からずっと25日と言い続けてましたから(きっぱり)。

 

私:じゃ、これからも「平成17年5月25日」ということでお話を伺っていきますね。

 

O氏:はい。

 

 

私のO氏に対する反対尋問は続く。

 

私:あなたのこれまでのご主張によると、そのとき、あなたはT社長からKさんを「営業担当者」と紹介されたんですね?

 

O氏:そうです。

 

私:これは今回の裁判で、あなたが「そのときKさんから貰った名刺である」と証拠提出しているKさんの名刺です。この名刺に書かれているKさんの肩書、この部分を読み上げてください。

 

O氏:私、メガネがないと、ちょっとよく見えないんですが・・・・。

 

(あたふたとメガネをかけて)ああ、「代表取締役」と書いてありますね。

 

私:代表取締役が「営業担当者」って、おかしな話だとは思いませんでしたか?

 

O氏:25日のときは、そこまでは気づきませんでした。

 

私:「そこまでは気づかなかった」とはどういうことですか?

 

O氏:いや、25日には私、メガネを持って行かなかったので。

 

私:メガネを持って行かれなかった? T社長から出資の話というか、お仕事の話があると言われて、あなたはわざわざ東京まで出かけられたんでしょ? 出資とかお仕事の話ならいろんな書類を見せられる可能性があると思うんですが、メガネは持っていかれなかったんですね?

 

O氏:はい。

  

これまで完璧に見えたO氏の話に小さな綻(ほころ)びが生まれた。

 

私のO氏に対する反対尋問は続く。

 

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「反対尋問その2【綻び】」

私:前の裁判の当事者尋問調書を見ると、あなたは、平成17年12月に沖縄でKさんに会った時の状況について、こう仰ってます。

「沖縄の本社の方へ行きまして、そこにいた留守番のKさんという人と話をした。」

と。

あなたの話では、平成17年12月に沖縄でKさんに会ったのは5月25日の東京に続いて2度目のはずです。

でも、あなたの言い方は、まるで「沖縄で初めてKさんという人に会った」ように聞こえる。

2度目に会った人についての説明としては、すごく違和感のある表現です。

どうしてちゃんと説明しなかったんですか?

「5月25日に東京で会ったKさんがそこにいたので、T社長とか出資金の行方について問い質(ただ)した」

とか、先ほどの主尋問で証言されたように、

「いきなり沖縄の本社に乗り込むのは正直怖かったけど、以前会ったことのあるKさんの顔を見てホッとした」

とか。

O氏:いや、Kさんという人を前から知っているならそうも言えるでしょうが、初対面で名前も知らないのに、そんな風に言えるわけがないと思いますけどね。

 

綻(ほころ)びが、大きくなった。


私:前の裁判を起こすとき、どうしてKさんも被告にしなかったんですか?

O氏:それは弁護士さんと相談してこういう形でやる、というふうに指示を受けましたんで。

私:弁護士さんが指示をした?

O氏:弁護士さんと相談してですね。

私:弁護士さんから言い始めた?

O氏:はい。

私:では、前の裁判のとき、どうしてKさんを証人として呼び出して尋問しなかったんでしょう?

O氏:それも弁護士さんの考えがそういうところにあったんだと思います。

私:なるほど。Kさんに対する証人尋問をしなかったのも弁護士の先生のご指示だったんですね?

O氏:はい、そうです。

私:前の裁判の法廷でKさんに5月25日の話をされると何かまずいことでもあったんじゃないですか?

O氏:それは違うと思います。

 

心なしかO氏の口調が早くなってきている。

やましいことがあるとき、聞かれたくないことを答えなければならないとき、人は早口になる。

 

たまりかねて、O氏の代理人弁護士が私の尋問に割り込んできた。

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「反対尋問その3【墓穴】」

O氏の代理人:前の裁判でKさんを被告にしなかったことが平岩先生は何かえらく不満みたいですが、(中略)東京のWTK社に対して仮差押えをするとなると、東京地裁へ行って、資料も疎明しなければならない。これじゃ駄目だから、大急ぎで判決取ろうと私が提案したことは覚えてますか?

O氏:はい。今、思い出しました。

O氏の代理人:それで名古屋の裁判所へ裁判を起こして、「T社長に対する刑事裁判の記録もそろっている、証拠も陳述書も全部そろっている。これではもうほぼ疑問の余地はないからとにかく早く判決出してくださいと言って、私が(前の裁判の)裁判官に法廷で頼んだことを覚えていますか?

O氏:はい。

O氏の代理人:前の裁判でT社長やO氏に対する当事者尋問をしようというのは、私から「調べてください」と言ったのか、前の裁判の裁判官が「一遍(いっぺん)調べてみましょう」と言ったのか、覚えていますか?

O氏:たぶん、裁判官だと思います。

O氏の代理人:そうですね。だから、前の裁判の記録を見ると、私でも、T社長の代理人からでもなく、いきなり裁判官の質問から始まっている。

O氏:はい。

O氏の代理人:これは「当事者尋問」が裁判官の職権で実施することになったからです。

O氏:はい。

O氏の代理人:ということは前回の裁判でKさんを証人として調べなかったというのも、裁判官が「調べる必要なし」ということだったんじゃないんですか?

O氏:そうだったと思います。

 

なんとも長い言い訳。

人は、苦し紛れの言い訳をするとき、饒舌になる。

O氏の代理人弁護士は自ら墓穴を、それも大きな墓穴を掘ってくれた。

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「人の呪わば穴2つ」

O氏の代理人弁護士は墓穴を3つ、掘った。

 

一つ:「前の裁判でKさんを被告にしなかった」ことについての説得的な理由を何一つ語れなかったこと。

二つ:前の裁判の目的は「大急ぎで判決を取ることだった」と自分から認めてしまったこと。

三つ:苦し紛れに「Kさんに対する証人尋問を行う必要なしと裁判所が判断した」と虚偽の説明を法廷でしてしまったこと。

三つ目について少しだけ説明しておこう。

前の裁判の裁判官が、「Kさんを(証人として)調べる必要なし」という判断をした、などという事実は、前の裁判の記録上、どこにも出てこない。

前の裁判では、被告のT社長側も、O氏の代理人弁護士も、つまり当事者双方とも「Kさんに対する証人尋問の実施」を裁判所に申請しなかった。

当事者双方がKさんに対する証人尋問の申請を出していないのに、裁判官が先回りして「Kさんを証人として調べる必要はない」などと判断することはあり得ない。

前の裁判では、被告のT社長側も、O氏の代理人弁護士も、「Kさんに対する証人尋問の実施」を裁判所に申請しなかった。

そこで裁判官は、せめて職権で(つまり、当事者からの申請がなくても)実施できる当事者尋問を実施することにしたのだ。

しかし「当事者尋問を実施することを裁判所が決定したこと」と「Kさんに対する証人尋問を行う必要なしと裁判所が判断したこと」とイコールではない。

判決を早く出せ早く出せとせっつく原告O氏の代理人弁護士、Kさんの利益とか事件の真相究明には何の興味もない被告T社長の代理人弁護士。

当事者主義とか証明責任の名のもとに繰り広げられる2人の弁護士の茶番劇への裁判官の精一杯の抵抗が「T社長に対する当事者尋問の実施」だったのだ。

 

「人の呪わば穴2つ」という。

墓穴を3つも掘ったO氏(の代理人弁護士)の恨みの深さが知れるな。

誰の、何についての恨みだか知らないが。

 

10月の弁論準備手続期日にO氏の代理人弁護士が私に投げつけた言葉を、今、そのままお返ししよう。

事実を証明するためにどのような証拠・証人を裁判に提出するかは当事者の自由。

「当事者主義」だ。

前の裁判でこの当事者主義を利用して意図的にKさんを被告からも証人からも除外して裁判に関与させなかった理由は、もうすぐこの法廷で明らかにされる。私によって。 

裁判官の横で眠そうに座っている司法修習生は、「いったい、双方の代理人弁護士は何でこんなに熱くなってるんだ?」とキョトンとしている。

嘴(くちばし)の黄色いヒヨコちゃんには分からなくてよろしい(←偉そう)。

 

火種が揃った。

さぁ、反撃の狼煙(のろし)をあげよう。

だいじょうぶ、Kさん。

Kさんの背広の内ポケットに入っている「ヒロの手作りお守り」と「日枝神社のお守り」がきっとKさん(と私)を守ってくれるよ。

 


民事弁護~沖縄編Part 2(尋問前日まで)~

2017-05-28 16:44:27 | 弁護士のお仕事

「徒手空拳」

平成20年8月3日夜。

懐かしい国際通り脇の琉球居酒屋「黒うさぎ」でKさんに事情を(厳しく)訊く。

事務所の仕事に穴を空けるわけにはいかないので、私は明日の朝一便で東京に戻らなければならない。

 

Kさんの自宅を仮差押してくる2年前の平成18年、O氏はT社長に対して全く同じ内容で名古屋地方裁判所に民事訴訟を起こし、全面勝訴の判決をもらっていた(※控訴審の名古屋高等裁判所で判決確定。紛らわしいので以下では「前の裁判」という)。

つまり、今回の裁判でO氏が訴状に書いてきた事実は、前の裁判で名古屋地裁と名古屋高裁の裁判官(※もちろん、今回の裁判を担当する裁判官とは別の裁判官)に「真実である」と判決で認定された事実ということだ。

前の裁判で勝訴はしたものの、O氏は破産同然のT社長からはほとんどお金を回収できなかった。

そこで、O氏は、前の裁判の判決書を疎明資料(※仮差押の申し立てを裁判官に認めてもらうための資料のことをこう呼ぶ。本裁判で提出する証拠と違い「まぁ、いちおう確からしい」と裁判官に思ってもらえる程度の資料でいい)にして、今回、Kさんの自宅を仮差押してきた。

 

実際のところどうなんだろう?

Kさんは、O氏に「FX取引で絶対儲けさせる」と言ってしまったんだろうか?

以下、Kさんの説明。

1)確かにO氏とは会ったことがある。その際、自分の名刺も渡した。ただ、それは東京のWTK社の会議室ではなく、平成17年12月にT社長が逮捕された後でO氏が那覇のWWT社に押し掛けてきた時のことだったと思う。O氏とはその時、初めて会った。

2)東京のWTK社はWWT社の東京支社と同じビルの同じフロアーに入居していた。T社長はWWT社の東京支社の社長室でFX取引への出資者と面談していた。その場に自分が呼ばれたこともある。ただ、その場で、いつ、誰に、何を話したかまでは正直覚えていない。

3)T社長が逮捕され、平岩先生に諭されるまでは、自分も「T社長のFX取引の才能は凄い」と信じ込んでいた。

4)T社長にヘッドハンティングされる前は生命保険会社にずっと勤めていた。だから、お客様を勧誘する際に「絶対に大丈夫」とか「必ず儲かります」などと言ってはいけないことは自分の中では常識だった。

5)当時、那覇と東京を概ね1週間おきに行き来していた。家内は病弱だったし、娘もまだ中学生で、一家で東京に引っ越すということも、家内と娘を那覇に残して自分だけが東京に単身赴任するということもできなかったから。

 

しかし、Kさんの説明を真実であることを証明する証拠は何一つない。

Kさんの父上に大見得切ったものの、今の私は「仲間やアイテムを探し出す前にいきなりラスボスに遭遇したゲームの主人公」の気分だ。

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「証拠はないか?」

第1回口頭弁論期日は答弁書だけ提出して欠席することにした。

第1回口頭弁論期日なら被告側は答弁書を事前に提出しておけば、期日に出頭しなくても答弁書に書いた内容を法廷で主張した扱いにしてもらえる(※「擬制陳述」(ぎせいちんじゅつ)という)。

ただでさえ経済的に余裕がないKさんにとっては、私の東京・名古屋間の新幹線代すら大変なはずなのだ。


とはいえ、次の期日はすぐにやってくる。

 

O氏の主張を「そんなこと知らない!」と否認したり、「そうじゃなくて本当はこうだ!」と反論するだけでは足りない。

Kさんの記憶が正しく、O氏が重要な部分について嘘を言っていることを証明できる証拠が欲しい。

 

裁判官は神様ではない。だから、「裁判」を通じて裁判官に判決で認定される事実も「この世の真実」ではない。

判決で認定されるのは、「証拠から判断すると『真実らしい』と思われる事実」だけだ。

たとえ本当のことを説明しても、証拠がなければ「嘘だ」と切り捨てられるし、たとえ嘘八百を並べ立てても、それらしき「証拠」があれば「そのとおり」と認定されてしまう。

世間の信頼を踏みにじるようで申し訳ないが、「裁判」なんて所詮、その程度の手続・制度なのだ。

 

もちろん、原告(あるいは被告)の矛盾した主張や法廷での妙な行動から、「たしかにそれらしい証拠はあるが、この当事者の言っている主張は信じられない」と判断してくれる理性的な裁判官もいる。

「認定するのは『この世の真実』ではないけれど、少しでも『この世の真実』に近い事実を踏まえて判決を書きたい」という矜持をもって裁判に取り組んでいる裁判官もきっといるはずだ。

けれど、Kさんの裁判を担当する裁判官が「矜持をもった裁判官かどうか」は、それこそ証拠がない。

証拠に基づかない希望は博打と同じだ。

 

結局、私には、O氏の主張の矛盾点やその行動の異常性を言葉で指摘することしかできないのか?

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「悪魔の証明」

「ないことの証明」は「悪魔の証明」である。

安部首相が国会答弁で言い放ったとおり、「存在したこと」「言ったこと」「行動したこと」は証明できるが、「存在しなかったこと」「言わなかったこと」「行動しなかったこと」は証明できない。

 

O氏の主張はこうだ。

「平成17年5月25日午後2時に、東京のWTK社の会議室で、Kさんから『FX取引で絶対儲けさせる』等と言われた」


つまりO氏が証明すべきは、

「平成17年5月25日午後2時に、KさんとO氏が東京のWTK社の会議室にいたこと

と、

「KさんがO氏に『FX取引で絶対儲けさせる』等と言ったこと

である。

 

この2つの事実を証明する証拠は、

「(O氏がKさんからもらった)Kさんの名刺」

に加えて、

「『平成17年5月25日午後2時に、東京のWTK社の会議室でO氏と会った際、Kさんが同席していた』と認めたT社長の前の裁判における証言」

そして

「『平成17年5月25日午後2時に、東京のWTK社の会議室で、KさんはO氏に対し、FX取引で絶対儲けさせる等と言った』と認定した前の裁判の判決書」

 

3つ合わせれば決定打。

こっちは雑魚キャラ・スライムなのに、同時にベギラマとイオラとバギクロスの呪文を唱えられたようなもんだ(※ドラクエを知らない方、わかりにくい比喩ですいません。適当に読み飛ばしてください)。

 

スライム(※Kさん)としては、

「平成17年5月25日午後2時に、Kさんは東京のWTK社の会議室にはいなかったこと

か、

「KさんはO氏に『FX取引で絶対儲けさせる』等とは言っていないこと

を証明(※O氏の証明に対する「反証」)しなければならない。

 

どちらも「悪魔の証明」である。

 

しかし。

「平成17年5月25日午後2時に、Kさんは東京のWTK社の会議室ではない別の場所にいたこと

なら証明可能だ。それさえ証明できれば、

「平成17年5月25日午後2時に、東京のWTK社の会議室でO氏に『FX取引で絶対儲けさせる』等と言うことはKさんには不可能だった

ということになる(Kさんがルーラの呪文を唱えない限り)。

 

Kさんは8月3日に那覇空港で私と別れて以来ずっと、「3年前の平成17年5月25日午後2時に、自分が東京のWTK社の会議室以外の別の場所にいたこと」の証拠を探し続けている。

キアリーの呪文を唱えようとしているスライムみたいだ。

 

証拠(※復活の呪文)探しをKさん一人に任せておくわけにはいかない。

私は藁にもすがる思いでシャナクと唱え・・・じゃなかった、JALとANAに連絡してみることにした。

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「間に合うのか?」

「弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。」(弁護士法第23条の2)

「23条照会」とか「弁護士照会」という。

 

Kさんは那覇と東京を概ね1週間おきに往復していた。

JALにしか乗らなかったという。

ちなみにこの裁判の後、ある出来事をきっかけに私はANA派になった。

JALには絶対乗らない。

JAL路線しかない地方への出張は電車か車か歩いていくことにしている。

 

閑話休題。

 

平成20年8月19日JALに、翌20日ANAに、それぞれ「平成17年5月1日から6月30日の間のKさんの搭乗記録」の開示を23条照会した。

KさんはJALマイレージクラブの会員だった。東京に出張するたびにマイレージを貯めていたという。

Kさんの言っていることが真実なら、JALマイレージクラブの会員番号からKさんの搭乗記録をトレースできるはずだった。

ANAにも搭乗記録の開示を請求したのは、「JALにしか乗らなかった」というKさんの説明の真偽を確かめるため。

開示を求めた搭乗期間に幅を持たせたのは、O氏が「5月25日というのは勘違いで、実は別の日だった」などと言い出す場合に備えるためだ。

 

裏目に出るかもしれない、とふと思った。

もしかしたらKさんは私にも嘘を言っているのかもしれない。

JALやANAから開示されたKさんの搭乗記録は、「平成17年5月25日にKさんが東京にいた」ことの動かぬ証拠となるかも。

 

そうなったら?

 

Kさんを張り飛ばして、和解金を1円でも安くしてもらえるように、私が裁判所でO氏に土下座すれば済むだけのことだ。 

事前にJALとANAには電話で「近日中に23条照会をする予定である」と伝え、ついでに搭乗記録の保存期間を確認すると、両社とも「だいたい3年くらいで破棄してしまいます」と教えてくれた。

平成17年5月25日から既に3年以上が過ぎている。

間に合うのか?

 

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「木で鼻くくられる」

平成20年10月。名古屋地裁での第2回期日。 

今回は口頭弁論ではなく弁論準備手続である。

弁論準備手続というのは、TVや映画に出てくるような法廷ではなく、裁判所内にある「弁論準備室」とか「弁論準備兼和解室」という名前の部屋で、担当の裁判官と原告・被告(※実際には彼らの代理人弁護士)だけが集まって、主張や証拠の整理をする手続きのこと。

非公開の手続きなので傍聴人はいない。狭い部屋で一つのテーブルを囲んで、フランクで忌憚のない意見がやりとりされる。

Kさん(とその代理人の私)は、初手から「詐欺師」(の代理人)扱いである。

「既に前の裁判でO氏の主張を全面的に認める判決が出ている。

 T社長に対する刑事事件の有罪判決も確定している。

 (詐欺師のくせに)今更、どんな言い訳がしたいのか?

  (詐欺師なんだから)時間稼ぎ、苦し紛れの言い訳はやめて、さっさと裁判を進めよう。」

 

今回の弁論準備手続で私は3つの主張をした。

1)KさんとO氏に対する当事者尋問を早期に実施してほしい(Kさんは被告、O氏は原告、いずれもこの裁判の「当事者」なので、「証人」尋問とは言わない)。

2)現在、Kさんは経済的に困窮している。沖縄から名古屋地裁に来るための航空券もこれまで貯めていたJALのマイレージポイントを使うしかない。JALのマイレージポイントの期限が切れてしまう今年12月末までに当事者尋問期日を入れてもらえないか。

3)原告(O氏)の代理人に一つだけ聞きたい。前の裁判で、どうしてKさんを被告にしなかったのか? 貴方は前の裁判を起こす以前の平成18年8月、Kさんの那覇の自宅宛に被害弁償を要求する内容証明を送っていたではないか?

 

2)に対する裁判所の回答:

「当事者尋問期日は来年2月頃を予定する。Kの経済状態は考慮しない」

3)に対する原告(O氏)の代理人の回答:

「どの裁判で誰を被告にしようと、そんなことは原告の自由だ。それが当事者主義というものだ」

 

まったく、木で鼻をくくったようなフランクで忌憚のない対応だ。

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「下準備」

平成20年11月。名古屋地裁での第3回期日。

今回も弁論準備手続だが、私は「電話会議システム」で東京の事務所から手続きに参加。

裁判所の遠方に住んでいる当事者は、弁論準備手続なら実際に裁判所に出頭しなくても電話会議システムで参加できることになっている。

前回はこの裁判における裁判官の被告(Kさん)に対する心証を確認しておきたかったので仕方なく名古屋地裁まで出頭したが、これ以上、余計な交通費の負担をKさんに強いることはできない。

「次回の当事者尋問を円滑に進めるためにも、今一度、この裁判の争点を明確にしておきたい。」

と申し入れた。

私の申し入れを受けて、原告(O氏)の代理人弁護士が電話口の向こうで自信満々に答えた。

「今回の裁判の争点は、

『平成17年5月25日の東京における原告・被告間のやり取り』

これに尽きる。

原告はこの点に関する証拠として、

(1)前の裁判におけるT社長と原告(O氏)の当事者尋問調書(前の裁判で行われた当事者尋問の内容を文書化したもの)、

(2)それに加えて今回、新たに作成した原告(O氏)の陳述書

を既に提出している。

次回の当事者尋問でこれらの証拠を更に補強する。」

 

裁判所の書記官に申し立てて、この発言を調書に記録してもらう。

この日、KさんとO氏に対する当事者尋問が正式に平成21年2月と指定された。

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「尋問前夜」

平成21年2月。当事者尋問の本番前日。

なんとか費用を工面してKさんに東京まで来てもらい、(当時私が勤めていた)永田町の法律事務所で半日かけて明日のリハーサルをする。

リハーサル前、Kさんは赤坂見附にある日枝神社に参拝に行き、お守りまで買ってきた。

でもKさん。私がKさんと知り合って以降、Kさんの人生って神も仏もない感じだよ・・・

 

夜は私の自宅に泊まってもらう。ビジネスホテル代すらもったいない。

なにより、私も私の家族も、沖縄に遊びに行ったときはさんざんKさんご家族にお世話になっている。

 

当時まだ6歳になったばかりのヒロ(長男)が、「さいばんがんばって」と書いた手作りのお守りをKさんに渡した。

お前の優しさはパパの誇りだ、ヒロ。

当時まだ元気だった愛猫のサンタは何故か初対面のKさんに寄り添って離れようとしない。

猫にあるまじき人懐っこさはパパの誇りだ、サンタ。

 

明日の当事者尋問は午後からなので、午前中に東京を発って新幹線で名古屋に向かう。

明日はやり直しのきかない一発勝負である。

 

Kさんは緊張して少し顔が青白い。

万全とは言えないけれど、本番前に緊張でKさん本人が潰れてしまっては元も子もない。

緊張をほぐすために妻と長男とKさんと私の4人で(少し高めの)焼肉を食べに行くことにした。

明日の本番に向けて気持ちを戦闘モードに高めていくにはやっぱり肉だ。

当時、ガストがお気に入りだった長男は「ガストに行きたい~、ガストがいい~」と大泣き。

ごめんな、ヒロ。

でも、お前も沖縄に遊びに行ったとき、Kさんに美味しいお店に連れてってもらったろ?

ルフィ(※ONE PIECE)だって、ここ一番の勝負の前には「肉~!」って叫んでるじゃんか。

それに、沖縄からわざわざ東京までリハーサルに来てもらって、ガストで食事させたとあっては、平岩家の家名に傷がつこうというもんだ。

「懸情流水、受恩刻石」

(かけた情けは水に流せ。受けた恩は石に刻め。)

が我が家の家訓だ(今、決めた)。

 

明日の当事者尋問はO氏、Kさんの順に行われる。事前に裁判所とO氏の代理人弁護士とも合意済みだ。

だいじょうぶ。

この順番が、ぼくらの武器になるはずだ。たぶん。 


民事弁護~沖縄編Part 1(受任まで)~

2017-05-27 15:42:42 | 弁護士のお仕事

「青天の霹靂」

平成20年。たぶん6月の中旬頃。

那覇のKさんからメールが届いた。

「先生、裁判所から自宅を差し押さえたという通知が届きました。

家内は半狂乱になっています。

助けてください。」

メールには裁判所から届いたという書類の画像データも添付されていた。

なんだ。差押じゃなくて仮差押(かりさしおさえ)じゃないか。

 

仮差押っていうのは、

「これから裁判を起こすけど、判決が出る前に相手が財産を隠したり、誰かに売っちゃったりすると困るから、勝訴判決をもらう前に『仮に』相手の財産を差し押さえておきますよ」

っていう制度のこと。

仮差押されても、それで今すぐ何かがどうなるわけでもない。

Kさんに説明して、とにかく落ち着いてもらう。

 

メールに添付されていた仮差押決定書を見ると、被保全権利が5124万5960円になってる。

つまり、この先、Kさんは民事裁判を起こされて5124万5960円を請求されるということ。

Kさんの自宅は那覇市内の新築一戸建て。

住宅ローンもたっぷり残ってるはずだ。

Kさんは現在、失業中だ。

裁判で負けたらKさん一家は破滅するかもしれぬ。

 

「仮差押を受けたってことは必ず近いうちに裁判所から訴状が届くから、そしたらすぐに連絡して。」

とメールを返しておく。

人のよさそうなKさんの顔と、優しくて気弱そうな奥さんの顔と、すこしヤンチャな息子の顔と、可愛い娘の顔が脳裏をよぎった。

 

梅雨入りしたのが噓のような空が青く晴れ渡った日だった。

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「Kさんのこと」

Kさんと知り合ったのは遡ること3年前。平成17年の師走だった。

当時Kさんが社長をしていたWTK社(@東京)の親会社WWT社(@那覇)のT社長が被告人になった刑事事件で私がT社長の主任弁護人を担当したのがきっかけだった。

T社長の事件はFX取引に絡んだ巨額の出資法違反事件で、当時、新聞にも大きく取り上げられたりした。

出資法違反ではなく詐欺罪での立件を目指していた検察官との丁々発止の攻防とか、それはそれで面白い話満載なのだけれど、今回は「民事弁護編」なので、ここでは詳しくは触れない。

 

KさんはT社長が逮捕されて以来、たった一人でWWT社に詰めかける取引先や被害者の対応をし、T社長やその家族を支え、接見や刑事裁判の準備で那覇に行く私のためにホテルを手配し、運転手代わりになり、食事の世話をしてくれていた。

T社長がどのような意図で全国の出資者(というか被害者)から巨額の資金を集めていたのかはさておき、私にはKさんはおよそ犯罪とは無縁な、純朴なウチナンチュ(沖縄人)にしか見えなかった。

 

那覇に足を運び始めて何度目かの夜。

国際通り脇の琉球居酒屋「黒うさぎ」のカウンターでKさんに尋ねてみた。

「酷なようだけど、T社長が逮捕されて、社員もみんな逃げ出して、WWT社の先は見えてると思う。

 このままじゃKさんもとばっちりを食うよ。奥さんも子供もいるのに、どうしてT社長やWWT社と縁を切らないの?

 俺のことは気にしないでいいからKさんも逃げた方がいい。」

 

ところがKさんは言った。

「先生。実はT社長は私の母の従兄弟なんです。

 WWT社の社員で今も残っているのはT社長の娘のTMちゃんだけです。

 今、私が逃げ出したら、まだ20代のTMちゃんが一人で怒り狂った被害者の対応をしなければなりません。

 ・・・・私にはそんなことはできません。

 今はTMちゃんやT社長を一人にはできないんです。

 内地の方にはわからないかもしれないけど、

 沖縄の人間というのはそういうもんなんです。

 

その後、私が予言したとおり、WWT社とWTK社は廃業し、Kさんは失業した。そして今回、自宅を仮差押された。

もうすぐ、5124万5960円を請求される裁判も始まる。

 

ああ、そういえば明日(3月7日)はKさんの誕生日だった。

Kさん、誕生日おめでとう。

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「訴状、届く」

平成20年7月16日。

Kさんの自宅に名古屋地方裁判所から訴状が届いた。

Kさんに5124万5960円を請求してきたO氏は愛知県在住である。

 

数日後。

私のもとにKさんから訴状と証拠のコピーが郵送されてきた。

全16頁の訴状の中身は、要するに、

「平成17年5月25日午後2時に、当時、Kさんが社長を務めていた東京のWTK社の会議室で、O氏は、KさんとT社長から、『FX取引で絶対儲けさせる』等と違法な勧誘を受けて、虎の子の5200万円を出資した。その金を返せ。」

というもの。

 

T社長は詐欺罪での起訴こそ免れたものの、既に出資法違反の有罪判決(但し、執行猶予)が確定している。

平成17年当時、確かにKさんはT社長から命じられてWTK社の社長に就任し、ほぼ1週間おきに那覇と東京を往復していた。

T社長の刑事裁判が進むにつれて、ようやくKさんも自分がT社長に利用されていたことに気づいたけれど、それ以前のKさんは「T社長のFX取引の才能は凄い」とT社長に心酔していた。

Kさんに有利な事情も、それを証明する証拠も何一つない。

 

平成20年7月29日。

Kさんに訴訟委任状を郵送する前に、私がKさんの代理人を受任した場合の着手金と、万に一つ、裁判に勝てた場合の成功報酬額を電話で伝える。

電話口の向こうでKさんが絶句した。

失業中のKさんに払える額ではない。

私が名古屋地裁に出頭するための東京・名古屋間の交通費だって払ってもらえるかどうか怪しいところだ。

勝訴の見込みがまったく立たない事件だから、法テラスで弁護士費用を立て替えてもらうことも難しい。

 

T社長の刑事裁判が終わった後も、Kさんとは家族ぐるみの付き合いだった。

Kさんは私の最も大切な友だちの一人になっていた。

だから、友だちとして、Kさんとその家族を助けてあげたい。

けれど、当時、まだ独立前で所属事務所から給料を頂いているイソ弁(※居候弁護士の略。事務所に勤めて給料をもらっている弁護士のこと。最近では「アソシエイト」と言ったりもする)の私が、正義感とKさんへの友情だけで、無報酬で事務所の執務時間に穴を空けてKさんの裁判に取り組むのは無理だった。

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「諦める」

平成20年7月31日。Kさんから連絡。

裁判で闘うのは諦める、という。

裁判所には出頭せず、欠席して敗訴判決をもらうしかありません、という(※民事裁判では、指定された期日に裁判所に出頭せず、反論の書面も出さないと、相手の主張をすべて認めたものとみなされて敗訴判決が出されてしまう。「擬制(ぎせい)自白」という)。

 

Kさんは弁護士費用を貸してくれないか、年老いた両親(私も何度かお会いしたことがある)に頼んでみたが、父親からは、

「裁判に勝つとか負けるとかじゃない。

こういう裁判を起こされたというだけでK家の恥さらしだ!

金は貸さない!

自宅でも何でも取られてしまえばいい!」

と突き放されたという。

 

「親父に怒鳴られて、もう諦めました。

家内や娘にまで親切にしてくださった御恩は忘れません。

先生、今まで本当にありがとうございました」

 

黒うさぎで

「今はTMちゃんやT社長を一人にはできないんです。

沖縄の人間というのはそういうもんなんです」

と話していたKさんの顔が浮かんだ。

 

これで終わりなのか?

俺にできることは、もうないのか?

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「KNちゃんからのメール」

Kさんから裁判断念の連絡が届いた翌日。 

Kさんの娘のKNちゃんからメールが届いた。 

タイムスタンプは「2008/8/1/10:30:50」 になっている。

以下、当時、高校3年生だったKNちゃんからのメール(全文)である。

 

「お忙しいのにメールしてしまってすみません。

でもどうしたらいいのかわからなくてご連絡しました。

これは本当に自分のわがままですが、この家がなくなってしまうのは嫌です。

でも一番は父が裁判を欠席することが嫌です。

そうしたら父まで悪いことをしたと認めてしまうようで納得がいきません。

これが一番良い方法なのでしょうか?

自分はまだ子供だし、裁判のことも全然わからないので、とても不安です。

生意気なこといってすみません。

でもどうしたら良いのかわからなくて、いてもたってもいられませんでした。

こんなに父や私達のことを考えて下さってる平岩先生にご迷惑ばかりかけて、本当に申し訳ないです。

平岩先生にはいつもいつも感謝の気持ちでいっぱいです。

本当にありがとうございます。

こんなに長々と意味の分からないメールを読んで下さってありがとうございました。」

 

このメールを読んで動かない人間を、私は弁護士とは認めない。

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「那覇に飛ぶ」

平成20年8月3日。KNちゃんからメールをもらった翌々日。

那覇に飛んだ。

自腹である。しかもトップシーズンの週末。

航空券代が痛いことこの上ない。

 

私も何度か泊めて頂いたKさんのご実家2階の和室。

私と、Kさんご夫婦と、Kさんのご両親。

テーブルの上にはKさんの奥さんとKさんのお母様が作ってくれた山盛りの琉球料理と泡盛。

島らっきょうと泡盛の古酒が旨い。


酒の勢いも借りて私は必死に話し続けた。

「お父さんのお気持ちもよく分かります。

もしかしたら、本当にKさんはO氏を騙すようなことを言ってしまったのかもしれません。

でも私は、KNちゃんのKさんに対する気持ちを大切にしてあげたいです。

たとえ負け戦でも、裁判所に出頭もせず、言うべきことも言わずに事件に幕を下ろすのは卑怯だと思います。

K家の人間の中で、たった一人、まだ子どものKNちゃんだけが正しいことを言っているんじゃないでしょうか。

何一つ反論しないで、一方的にKさんが悪かったのだと裁判所に認定されてしまったら、お金や家以上に大切なものを失います。

それは、KNちゃんのお父さんに対する信頼やKNちゃんのわれわれ大人に対する信頼、それにKNちゃんの世の中に対する信頼です。

Kさんが本当のところは何をしたのか、O氏に何を喋ったのか、今の段階では私にも分かりません。

でも、

今回のことでKNちゃんが傷つかなければならない理由はどこにもない。

KNちゃんのために、裁判で闘わせてもらえませんか?

それにKNちゃんが言うように、私もKさんが人を騙すような人間とはどうしても思えないのです」

 

Kさんが泣き、奥さんが泣き、Kさんのお母様が泣いた。

Kさんの父上はしばらく黙って考え込んでいた後で、こう言ってくれた。

「わかりました。先生、私が間違っていました。

KNのためにも、裁判で闘ってやってください。

先生にお支払する着手金は私がなんとかします」

 

第1回口頭弁論期日が迫っていた。