つれづれなるままに弁護士(ネクスト法律事務所)

それは、普段なかなか聞けない、弁護士の本音の独り言

その先の闇と光

2023-06-09 17:04:54 | 日記

私が法律監修と名古屋弁指導をさせて頂いた、敬愛する高橋いさをさん作・演出の舞台もいよいよ今週日曜日(6月11日)で千秋楽である(※方言指導をさせてもらったのはAチーム「壁の向こうの友人」、法律監修はABC全チーム)。



稽古時から役者さんたちの演技を拝見し、(おそれ多くも)台詞のアクセントや言い回しにダメ出しをさせて頂き、ずっと本作を拝見し続けてきたのだが、

ちょっと、とんでもなく凄い作品になってきた

と思う。

私は、「映画も演劇も音楽も、10人いれば10通りの好みと感想がある」と思っているし、自分がスタッフとして携わった作品を人に薦めるのは、なんだか自分の息子の自慢を臆面もなく捲(まく)し立てるバカ親じみている気がしてどうにもこうにも苦手なのだが、本作は敢えて声を大にして皆様にお薦めしたい。

これ、もしかしたら高橋いさをの傑作ベスト10に入る作品になるかもしれない。

 

私は、本番の舞台は現在までに計4回拝見しているのだが、回を追うごとに作品の完成度は明らかに増してきている。

散々言い古された言葉だけれど、「演劇」というエンターテインメントは「映画」や「テレビ」と違って、「脚本家」「演出家」「役者」「演出助手や舞台監督や音響や照明スタッフ」「制作スタッフ」に加えて、「観客」が一緒になって初めて完成する芸術だ。

想像してみてほしい。

客席にたった一人しか観客のいない舞台と、満席の舞台。

半分以上の観客があくびをするか居眠りをしている舞台と、泣いて笑って拍手をしている舞台。

舞台上の役者が同じ演技をして、同じタイミングでBGMが入り、同じタイミングで照明が切り替わったとしても、前者の舞台と後者の舞台は全く違う舞台になるだろう。

そして、役者たちは、上演中の観客の反応に、上演後のアンケートの一言一言に触発されて、自らの演技を修正し続けていくものだ。

そこに完成形はないし終わりもない。

初日と中日と千秋楽で全く同じ演技をする役者がいたとしたら、その役者は少なくとも舞台には立つべきではない。

観客の反応。観客との目に見えないコミュニケーション。自分のこれまでの全人生。経験。演出家の演出。相手役のリアクションの変化。

そのすべてを自分の内に取り込んで、濾過して、昇華させた先の一滴を、一瞬の演技に凝縮させることのできる者だけが、おそらく役者を名乗っていいのだと思う。

本作は客席50席の小さな劇場での公演である。

これまでに10ステージが上演された。

つまり、役者や演出家その他の作り手+500人の観客が作り上げた舞台がそこにある、ということだ。

本番は残り5ステージ(9日の夜、10日の昼夜、11日の昼夜)。

チケットはもうないかもしれないが、もし、興味のある方は是非、お問合せを。そして当日券期待で劇場に足を運んでほしい。

問い合わせ先は↓

CoRichi舞台芸術 https://ticket.corich.jp/apply/236144/

私か高橋いさをさんか出演中の役者さんと面識がある方は、直接、私やいさをさんや役者さん宛にご連絡頂いてもOK。なんとかします。たぶん。

ちなみに私は10日の夜と千秋楽には劇場に行こうと思っていますが、もし、チケットが手に入らないようでしたら私の席をお譲りしますのでご遠慮なくお声をお掛けください(先着1名様限り。当たり前か)。

※作品の内容をここに書いてしまうのもなんなので、直近の舞台で私がAチームの役者さんたちに送った感想コメントを(別にAチームがいちばん面白いとか傑出しているというわけではありません。)↓

※もし、劇場に本作を観に行かれる人がいらっしゃれば、私が褒めちぎったポイントを役者さんたちがさらにどう昇華させていくか(あるいは退化させてしまうか)にご注目頂いて、見終わった後のご感想をお知らせ頂けると嬉しい限りです。

 

【to 長谷(幸将司)さん】

長谷の野獣性は見事でした。
原口から、「なんで弟だったの?」と問われ、それに答える場面ですね。
それまでの、善人(に生まれ変わった)らしい笑顔とのコントラスト、無表情と抑揚のない台詞回しだけで彼の中にある野獣性を表現し切ったのは見事の一言です。

【to  原口(虎玉大介)さん】

原口は先のアンケートにも書いたとおり「長谷に弟を殺され、国家権力に自分の心の一部を殺された二重被害者」だと私は捉えていますが、その二重被害がラストシーンの「長谷が吊るされる場面(音)」で全身で表現されていました。

ほぼ完璧だと思いました。

あと、名古屋弁。3人の中で最も固さが取れて、「自然な名古屋弁の親父」になり切ってました。

ラストシーンに力点を絞れた為に、そこに至るまでの感情変化に過大な演技を必要としなくなったからなのかなとも思います。

ちなみに、「ここも、ここも、もうすっかりオッサンだで」と髪に手をやる場面がありますが、原口の意図として「生え際も後退してまったし」と言いたいのか「白髪も増えてまってなぁ」と言いたいのかがよく分からなかったです。

後者ならもう少しメイクで白髪を目立たせた方がいいように思いました。

【to  岡本(江刺家伸雄)さん】

岡本のジレンマが全編通してヒシヒシと伝わってきました。

特に最後の長谷の死刑執行の場面で、岡本が直立不動になる演技をこれまでに比べて気持ち緩慢に抑えた上での、執行ボタンを押す刹那の心を引き裂かれる感情を指と背中で演じて、「刑務官岡本」と「壁の向こうにいる、原口と長谷の2人の友人となった岡本」の迷いと苦しみを表現し切ったのは、さすが役者!の一言に尽きます。