★星空日記コリメート風goo★

星や旅などの話題を「ひらい」が札幌から発信。2010年開設。2022年7月にteacupからgooへ引越しました。

対数計算と星座早見盤

2022-03-03 06:00:00 | 星座早見盤
 1965年(昭和40年)、私が小学校6年生のとき、新天文学通論という1200円の書籍を買いました。

 iP220221
 巻頭言に著者が「高等学校卒業を目安とした」と書いてあり、小学生の私には難解でしたがどうしても天文のことを知りたかったのです。
 お小遣いとお年玉を貯め、ようやく買うことができました。

 その本の中に書いてある、SIN、COS、TANというのは三角関数のことだと他の本で独学したのですが、望遠鏡で見える恒星の極限等級を表す公式に「log」というものが書いてあり、その意味がどうしても分かリません。

 中学校に入学し、数学担当のN先生に「エルオージーって何でしょうか?」と聞いたら、ニヤニヤ笑いながら「高校生になったら習うから」と言って教えてくれませんでした。

 一念発起し自力で調べると、「log」というのはスコットランドの貴族で数学者、物理学者、天文学者のジョン・ネイピア(1550-1617)が提唱した「対数」という概念だということがわかりました。

 なお、ネイピアは小数点の発案者でもあり、「ネイピアの公式」という球面三角法の基本公式を発見しています。球面三角法というのは、当時の遠洋航海に必要な天文学(船の測位)を支える数学のことです。

 安全な航海には膨大な掛け算と割り算を短時間で行う必要があります。ネイピアは膨大な計算量の劇的な軽減を図って考案したのが「対数」です。
 先人の偉大な知恵に尊敬の念を覚えました。

 iP220302
 高校1年生のときに使った数学の教科書です。53年の時の経過で紙が変色しています。

 簡単に書くと、掛け算は足し算に、割り算は引き算で計算できるのが対数の大きな特徴です。計算尺はこの対数の原理を応用したものです。

 当時、私が使った対数表です。
 iP220221
 左は兄からもらった「中学数学公式集」。奥付けを見ると初版は1959年で、1966年28版、定価70円の記述があります。4桁の対数表が付録で付いていました。(昔は中学校で対数を学んだのでしょうか?)
 右は天文計算を行うために1970年に130円で購入した5桁対数表で、三角関数の5桁対数表も掲載されています。

 iP220221
 高校1年生のとき、星座早見盤を自作しようと、札幌市における水平線を星図上に描くため、水平線の位置を球面三角法を使い対数三角表を引きながら計算したノートです。

 厚紙で作り始めた星座早見盤は、300個ほどの恒星位置を厚紙上へ正確に描く根気が続かず、途中で挫折。



 1973年に札幌市天文台でアルバイトをしていた際、11月14日午前2時ごろに起きる土星食(月の裏側に土星が隠れる現象)が予報されていましたが、札幌での詳細な予報はありません。
 視差計算の練習になると考え、英国暦(The Nautical Almanac 1973)を購入し、月と土星の視位置を補間法で求め、月と土星の視差計算を新たに購入した6桁の対数三角関数表を引きながら札幌での予報計算をしました。
 天文台に来客があった場合の応対以外は、対数計算に没頭できたので1週間ほどで計算が完了しました。
 その予報計算通りになるか、土星食を口径20cmF8反射望遠鏡で見たのも懐かしい思い出です。



 ところで、自分用の星座早見盤を作ろうとした経験は、1981年に札幌市青少年科学館で市販用の星座早見盤を作る際に役立ちました。

 この頃はパソコンが一般的になり、恒星位置や水平線枠をプログラム計算しXYプロッターで出力できたので、短時間で原盤を作ることができました。

 この星座早見盤を作るときのことは、ブログ記事 【 星座早見盤の思い出 】として書いています。



 なお、2022年現在、札幌市青少年科学館で販売されている星座早見盤は、私が手がけたものと全く異なる別物です。

 2017年ごろに改訂された星座早見盤をお借りし調べてみると、恒星原盤の縮尺と水平枠線の縮尺率が不一致なほか、恒星位置のトレース誤差なども大きいことに驚きました。
 改訂した際の関係者にそれとなくお聞きしたところ、驚くような作り方をしていたことが判明。

 2017年以前は、札幌市青少年科学館の星座早見盤を私が定価で数百枚を買い取り、私が北海道各地で講師を務めた星空講習会で購入を希望する受講者さんに儲けなしの定価でお譲りしていましたが、改訂後の星座早見盤はとてもお勧めはできないと判断し、買い取りは止めました。
 星座早見盤を買い取りした事情は 【 2015年11月4日のブログ記事 】に詳しく書いています。

 とても残念な改訂でした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

20枚の星座早見盤

2015-11-04 07:00:00 | 星座早見盤
 私が天文普及の講演を行う場合、星座早見盤の使い方について説明することが多く、講演終了直後に受講者から星座早見盤を購入したいという声が多く寄せられます。

 星座早見盤の手持ちがないので 「札幌市の科学館で売っています」 と答えざるを得ないのが残念です。科学館に相談すると、委託販売は難しく百枚単位の販売でも割引はないとの返答でした。

 51020237
 年末にも天文関連の講演を依頼されているので、取りあえず20枚を購入。
 1枚540円なので10,800円が自腹。現物と引き換えに540円を頂戴するだけなので儲けはありません。(笑)

 札幌市青少年科学館で販売している星座早見盤は、札幌の緯度経度で作られているので、精密な目的でもない限り、面倒な補正なしで北海道内での利用に便利です。
 また、日没時刻や日の入り時刻が求められることはもちろん、地方恒星時、市民薄明、航海薄明、天文薄明の各時刻も求められる優れものです。

 委託販売を認めてくれれば、毎年100枚以上を売る自信があります。販売促進になると思うのですがいかがでしょうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宿題の解答

2015-05-16 07:00:00 | 星座早見盤
 2015年4月23日の記事 【 星座早見盤の活用 】 で天文指導員さんに、時角と恒星時に関する宿題を4月25日に提出したことを書きました。

 今回の記事は、その解答編です。
 まず、宿題の内容を再掲します。

 さて、設問です。恒星時・赤道座標・時角の意味を正しく理解していると簡単に答えられる設問です。不確かな理解だと答えることが難しくなります。

 71080005T
 上の画像は科学館屋上に設置されている口径60cm反射望遠鏡の操作卓です。
 ある日の14時30分ちょうどに1等星 「A」 を導入したときの様子を示しています。左上の表示は地方恒星時、右上は日本標準時です。

【問1】 恒星 「A」 を導入したのは何月何日ですか。星座早見盤を使って答えなさい。
 (ヒント)星座早見盤で恒星時を求める方法の逆パターンです。

【問2】 恒星 「A」 の名前を答えなさい。
 (ヒント)画面に表示されている赤経・赤緯の値を星座早見盤と比べてみましょう。

【問3】 恒星 「A」 は南中前、それとも南中後か答えなさい。
 また、この日の恒星 「A」 のおおよその南中時刻を答えなさい。


 と、このような宿題でした。
 解答編をパワーポイントで作成し、5月9日(土)に開催された天文指導員研修で解答の説明を行いました。




 ということで、問1の答は8月8日ごろ。


 ということで、問2の答はアークトゥルス。


 ということで、問3の答は南中前、南中時刻は16時44分ごろです。


 このように、一見難しそうな恒星時と時角ですが、星座早見盤を使うと概略値を簡単に求められます。

 日の出入り時刻や薄明時刻も求められるので、星座早見盤を大いに活用していただきたいと願っています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

60cm反射を使う前に

2015-05-05 07:00:00 | 星座早見盤
 前回の記事 【 昼間の金星を導入 】 では、恒星時を利用すれば昼間に明るい天体が導入できることを示しました。

 今回の記事は、科学館の口径60cm反射望遠鏡を操作する際、天体導入を確実にするため、恒星時時角を覚えておいたほうがいいという理由を述べていきます。
 以下、この記事は現役天文指導員用に書いていますので、関係者以外は読み飛ばしてくださいね。(笑)

 71080002
 札幌市青少年科学館の屋上に設置されている口径60cm反射望遠鏡です。この60cm反射は科学館が開館した1981年(昭和56年)に設置されました。
 画像は2015年4月に清掃ボランティアしたときのものです。


 71080005T
 これは60cm反射の操作卓です。
 天体位置をデジタル表示できます。1981年製作の望遠鏡としては当時最新の機能を有していました。
 左上は 恒星時=12時01.6分、右上は日本標準時=14時30.0分
 左2段目は時角=21時45.3分
 左3段目は赤経=14時16.3分
 左最終段は赤緯=+19度06分

 実は、納入時の1981年当時から、時々誤った時角を表示したり、恒星時が微妙に狂ったりするので、メーカーの五藤光学に再三修理してもらっていました。現在でも状況は変わっていないそうです。
 このことをブログ上で明らかにすることをためらいましたが、現在の科学館職員さんから書いてもいいですよと承諾をいただいたので書くことにしました。


 望遠鏡が向いている天体座標のひとつ 赤経 は次の式で計算され、その結果が操作卓に表示されます。

 赤経 = 恒星時 - 時角

 つまり、恒星時時角の両方が正しくなければ赤経は正しく表示されません。
 科学館の60cm反射は極軸の回転角度を操作卓に表示する際、何らかの誤信号を拾ってしまうらしく、時々とんでもない時角の表示が出ます。


 そのような事情から、赤経の表示を頼りに天体導入すると、とんでもない方向に望遠鏡が向いてしまうことがたまにあります。


 操作卓に表示されている恒星時は通常正しい値を示していますが、時々狂うことがあり信頼性が低いため、念のため星座早見盤で概略値を確認したり、知人のまきさんのサイトで求めるなどで事前に確認しておきます。
 http://park12.wakwak.com/~maki/lst.htm


 操作卓に表示されている時角というのは馴染みがなく分かりにくいので、簡単に説明しますね。

 時角は天体と子午線との赤経差を時間の単位 (1時間 = 15度) で表したものです。なお、西方向をプラス、東方向をマイナスとします。
 別の言い方をすれば、その天体が南中 (子午線通過) してから経過した時間とほぼ等しい値になります。

(C)AstroArts.
 たとえば、オリオン座のベテルギュースの時角が2時である場合、ベテルギュースは約2時間前に南中しています。南中から2時間後の現在は子午線から西方向30度の位置にあります。

(C)AstroArts.
 時角がマイナスの場合は南中するまでの時間にほぼ等しくなります。
 なお、 時角が0時の場合はその天体がちょうど南中していることになります。


 ところで、上から2枚目の画像に写っている操作卓の時角は21時45.3分なので24時を引いて-2時14.7分ということになります。つまり、導入されている天体は南中するのが2時間14分ほど後になります。
 ※ 正確に書くと南中は2時間14.7分後ではなく、2時間14.3分後になります。興味があるかたは理由を考えてみてください。


 操作卓に表示されている天体の時角が正しいかどうかは、星座早見盤で確認しておくと万全です。

 このように、信頼性が低いデジタル表示を補うのが古典的アナログ表示の星座早見盤なのです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

昼間の金星を導入

2015-05-03 07:00:00 | 星座早見盤
 2015年5月1日の記事 【 早見盤で知る恒星時 】 からの続きです。

 4月25日に開催された天文指導員研修の場で、ある指導員さんから 「赤経・赤緯だけを知っていれば天体の導入ができるので、あえて恒星時を知る必要がないのでは」 という疑問が寄せられました。

 恒星時がわかると、昼間や薄明中の空で金星などの明るい天体を望遠鏡で見ることができます。
 実例として5月2日の昼間に金星を導入した手順を書いておきます。

 71080397
① 赤道儀の極軸をなるべく正確に真北(正確には天の北極)に向け、望遠鏡を子午線上の天の赤道方向に向けます。

 71080396
 鏡筒を真横から見て、極軸と鏡筒が直角に交わっていたら天の赤道を向いていることになります。

 71080398
② 赤緯の目盛環の指針が0度になっているのを確認。

③ 金星の赤緯になるように目盛環を見ながら赤緯軸を動かします。

 71080399
④ 当日(5月2日)の金星の赤緯+25.7度になるまで赤緯軸を動かしました。

 71080412
⑤ 金星を導入する日時=5月2日13時40分の恒星時を星座早見盤で求めたところ、4時40分でした。

 71080401
⑥ 赤経の目盛環の指標を恒星時の4時40分に合わせます。

⑦ 当日の金星の赤経になるよう目盛環を見ながら赤経軸を動かします。

 71080403
⑧ 当日の金星の赤経、5時32分になるまで赤経軸を動かしました。

 71080408
⑨ 目盛環を目安に赤緯軸と赤経軸を動かした後の望遠鏡です。さて、金星は見えるでしょうか。

 71080404
⑩ 金星、見えます! 
 導入手順を見学していた指導員仲間のG.Y.さんが昼間の金星を観望中。
 もし導入できなかったら恥ずかしいなあと思っていましたが、視野5度のファインダーの視野内に金星を導入できたことにホッと一安心。


 このように、恒星時を知ることで昼間の天体導入ができるようになります。望遠鏡本体に恒星時の時計を内蔵でもしていない限り、赤経・赤緯の座標だけでは昼間の天体導入ができないのです。

 薄明終了時刻が遅い春の移動天文台では、このような手法をマスターしておくと、暗くなるまで待つことなく望遠鏡で明るい天体の観望が始められます。


 ところで、昼間の星を望遠鏡で見るには、留意しておかなければならない大事なことが二つあります。
 まず、望遠鏡本体とファインダーは遠方の景色でピントをよく合わせておくこと。
 これをしておかないと、導入に成功したかどうか金星自体を確認することが難しくなります。

 次に、極軸はできるだけ正確に天の北極に合わせる工夫をすること。
 ⑨の画像には科学館北側の商業施設が写っていますが、事前に北方向を知っていたため、かなり正確に極軸を合わせることができました。
 私の場合、10回中2回ほど導入に失敗します。失敗の主因は極軸合わせが不十分だからです。
(昼間に極軸合わせする方法については、近日中にブログに書く予定です)
 ※2015年5月12日の記事 【 昼間の極軸合わせ 】 参照。


 以上、恒星時を天文指導員研修に取り上げた理由の一つを書きました。
 もう一つの理由は、科学館屋上に設置してある口径60cm反射望遠鏡をうまく使うためです。
 詳しいことは次回のブログ記事に掲載します。


 ところで、知人のまきさんが作成された恒星時を求めるソフトのリンクを張らせていただきます。
 http://park12.wakwak.com/~maki/lst.htm
 任意の経度・任意の年月の1か月分の恒星時が求められる便利サイトです。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする