過日、星を見るのが好きな知人から双眼鏡を選ぶ際のアドバイスを求められました。メールなどでお応えしましたが、うまく説明できません。そこで、双眼鏡のブログ記事を書きそれを見てもらうことにしました。
この記事では、角度という単位にも慣れていない初心者さんへの「双眼鏡を選ぶ際の基本的アドバイス」として双眼鏡ライフ55年間の実体験を元に書いています。
最初は初心者さん向けに簡潔に書こうと考えていましたが、あれもこれも伝えたいという思いから、かなりの長文になってしまいました。
操作や導入が難しい望遠鏡に比べ、双眼鏡は取り扱いが比較的簡単です。とは言うものの双眼鏡は千差万別。何を選んだらいいのか初心者は迷います。ご自身で双眼鏡を選ぶために、まず双眼鏡の基本から。
❶ 双眼鏡の基本を知りましょう
これは私が使っている双眼鏡のうちの1台です。中央に双眼鏡の倍率や対物レンズの口径などが表示されています。
❶-1 ポロ型とダハ型
双眼鏡は一部の例外を除き使用するプリズムの種類によってポロ型とダハ型の2種類に大別され、それぞれ微妙な特徴があります。
上段がポロ型、下段がダハ型です。(ヨドバシカメラ札幌店でスタッフの了解を得て2024年9月19日に撮影)
ポロ型は近い距離が立体的に見やすい(遠いか近いかの差の判別がしやすい=立体視といいます)という特徴がありますが、天体は極めて遠い距離にあるので立体視の見やすさは双眼鏡を選ぶ際の選択肢にはなりません。
ポロ型は安価で大きめ、ダハ型は高価で小さめです。その他にも微妙な特徴の差がありますが初心者のかたはあまり気にしなくていいと思います。(なお、逆ポロ型というタイプはコンパクトになります)
初心者のかたはいずれのタイプでも下記の留意事項を参考に、実際に手に取ってみて予算内の気に入ったタイプを選べばいいと思います。
❶-2 角度に慣れましょう
事前の知識として、天体を見るときには「角度」というものに親しんでおくと便利です。普段の生活であまり馴染みがない角度ですが、自身の腕をいっぱい伸ばしゲンコツを作り、上の親指と下の小指の挟む角度が大体10度。指1本分が2度と覚えておくと星を見るときに便利です。
私の場合、少し腕が長く指が細いため約9度になりますが、平均的日本人では10度ほどになるはずです。(なお、大人でも子供でも大体同じ)
❶-3 倍率と口径
1枚目の画像にある5×25 という表示は「ごばい にじゅうご」と読み、最初の数字5は倍率、最後の数字25は双眼鏡の先端に付いている対物レンズの直径をmm単位で示しています。
倍率が高い双眼鏡がいいと思いがちですが倍率が高いと、
①ぶれやすくなります ②見えるものが暗くなってしまいます ③視野が狭いので天体を導入するにも難儀します
という理由から初心者は高倍率の双眼鏡に手を出すと後悔することになると思います。詳しくは「❷双眼鏡の選び方」をご覧ください。
❶-4 実視界・1000m視界・見かけ視界
◆1枚目の画像にある15.8° という表示は実視界が15.8度ということを示しています。実視界(視野)というのは双眼鏡を覗いた際に見える丸い視野を角度で示したものです。現在市販されている双眼鏡の殆どが角度による表示です。
◆1000m視界というのは、1000m先の視野の左端から右端までの長さで視野を表示しています。(市販されている双眼鏡ではこの1000m視界表示は少数派です)
◆見かけ視界というのは、双眼鏡を覗いたときにひらけて見える視界の角度のことです。あくまでも近似式ですが、実視界×倍率≒見かけ視界 でおおよその見かけ視界が求められます。倍率7倍で実視界が7.3度であれば、見かけ視界は50度ほどです。なお、厳密式で算出した見かけ視界60°以上のものを広視界型双眼鏡と呼びます。メーカーによっては Wide Field などと表示する場合もあります。
❶-5 アイレリーフ
双眼鏡を覗いたときケラレなく全視野を見ることができる眼の位置から接眼レンズ最終面までの距離のことをアイレリーフといいます。この距離が長ければ、メガネをかけて覗く場合でも快適な視界が得られます。この時の眼の位置をアイポイントといいます。
一般的にアイレリーフが16mm以上あればメガネをかけたままでケラレ(視界内の一部が暗くなること)が無いまま全視野を見られ、「ハイアイポイント双眼鏡」や「ハイアイ双眼鏡」などと呼ばれます。
これは、1982年に私が購入した10×40ダハ式のハイアイポイント双眼鏡です。メガネを常用している私が使う際は見口のゴムを折り返して使います。重さは780g。
40年以上活用していますが、ゴム見口は少し広くなったぐらいで弾力性を今でも保持しています。過去の国産双眼鏡にあったゴム見口がすぐボロボロになるのとは大違いです。(最近の双眼鏡は見口が簡単にポップアップできるよう工夫された製品が多くなっています。)
なお、この10×40双眼鏡は珍しく1000m視界表示で1000m/110mとなっています。角度換算すると実視界は6.3度と計算でき、見かけ視界は近似式で63度の広視界型です。
❷ 双眼鏡の選び方
双眼鏡の基本が理解できたところで、いよいよ選び方のアドバイスをします。
❷-1 軽い双眼鏡がお勧め
家電量販店のスタッフなどから「天体観察には7×50双眼鏡がお勧めです」と言われる場合がありますが、次の理由で私はあまりお勧めしません。
1番目の理由は重いからです。7×50双眼鏡の重さは1000gを超えるので手持ちだと星を見続けるのは辛いですし、ストラップを使い首からかけていても時間と共に重さが首に食い込んできます。また、結構かさばります。
2番目の理由は口径50mmという口径の大きさが無駄になる人が圧倒的に多いからです。(詳細は下記「❷-2 ひとみ径に注意」をご覧ください)
3番目の理由は7×50双眼鏡の大多数の実視野は7.3度と初心者には狭いからです。(詳細は下記「❷-3 視野の広い双眼鏡を選びましょう」をご覧ください)
私が使用する双眼鏡のうち、使用頻度が最も高い双眼鏡は8×20双眼鏡です。天体用としては口径が小さく倍率が高めですが、何といっても重さは240g。手にスッポリ入る小型双眼鏡です。(初心者の方にはもう少し倍率が低く、もう少し口径の大きな双眼鏡をお勧めします)
❷-2 ひとみ径に注意
人間の眼は周囲の明るさ暗さに応じてヒトミ(瞳)の大きさが変化します。暗い空だとヒトミの直径(ヒトミ径、瞳孔の大きさ)が最大7mmまで広がるとされています。色々な文献を読むとヒトミ径が最大の7mmになるのは20歳前後。その後は加齢に伴い少しずつ小さくなり70歳ごろにはヒトミ径は5mmほどになってしまうようです。
これは個人差が大きく、私の場合、20歳ごろのヒトミ径は8mmほど、69歳時のヒトミ径は6.4mmと平均的日本人よりも大きいようです。
一方で、双眼鏡の機能表示でも「ヒトミ径」という表示があります。正式には「射出瞳径」といい、明るい室内で双眼鏡の接眼部から30cm以上眼を離し、接眼レンズを後方から見ると、小さな円形の明るいものが見えるはずです。この円形の直径が射出瞳径です。
今度は、接眼部の後ろに白い紙をかざすとボケ気味の丸い円が写り込み、紙を接眼部から少しずつ距離を変えると丸い円がくっきりと見える場所があります。このときの「ヒトミ径=射出瞳径」は「対物レンズの有効径÷倍率」に等しくなります。
たとえば7×50双眼鏡の場合、射出瞳径=50mm÷7=7.1mmです。
もうお気づきかと思いますが、双眼鏡使用者の最大ヒトミ径が5mmだった場合、射出瞳径が7.1mmの双眼鏡では集めた光が人間のヒトミからはみ出てしまい無駄になります。
違う言い方をすれば、最大ヒトミ径が5mmの人は倍率が7倍の双眼鏡を使う場合、5mm×7=35mm、つまり口径35mm以上の大きな双眼鏡を選ぶのは意味がないことになります。
なお、上記の白い丸がハッキリと投影された紙と接眼部の最終レンズ面までの距離がアイレリーフで、紙の位置がアイポイントです。
10×40双眼鏡を明るい方に向け接眼部の見口を折返し、アイポイント位置に白紙を置き射出瞳径を確かめています。
なお、双眼鏡カタログの仕様一覧に「明るさ」という数値が出ていることがあります。これは単に射出瞳径を2乗したもの(明るさ=射出瞳径×射出瞳径)で、この数値が大きければ夜でも明るく見えるという説明がされていますが、前述のように使用者のヒトミ径で妨げられる場合が多いのであまり参考にしない方が無難です。
❷-3 視野の広い双眼鏡を選びましょう
この記事の最初の画像にある5×25双眼鏡の実視界は15.8度。市販されている双眼鏡としては比較的に広い視野です。とはいえ、オリオン座の1等星ベテルギュースとリゲルの角距離は19度ほどなので、同時に見ることができません。
カシオペヤ座の明るい星々が形作るWは端から端まで13度ほど。実視界15度もあると双眼鏡を動かさずにWを確認できます。
言い方を変えると、見かけ視界60度以上の広視界型双眼鏡でもなるべく倍率が低い双眼鏡でないと、初心者は目的の星に向けるのが難しくなります。
私の経験上、初心者は5倍から6倍ぐらい、高くても7倍ぐらいまでがいいと思います。5倍の広視界型双眼鏡であれば実視界12度以上になるので、目的の星を導入しやすいばかりでなく手ブレもあまり気にならなくなります。
なお、倍率が高い双眼鏡のうち「手ブレ補正装置=防振機能」が付いたものがありますが、高価ですし目的の星を導入しずらいことには変わりありません。
❷-4 オペラグラス
これは、人生初のアルバイト賃金で1971年に買った3×28のオペラグラスです。メガネをかけて覗くと視野が狭く、メガネを外してみえる実視界は8度ほどと倍率の割には広くありません。
オペラグラスとはプリズムを使わず接眼部に凹レンズ系を使用したガリレオ式の2倍から3倍ほどの簡易的な双眼鏡のことです。
最近では倍率が2倍ほどの実視界が広いやや高価な星空観察用として推奨されているオペラグラスが市販されています。裸眼では見づらいような暗い星々を見るにはとても便利です。
しかし、対物レンズの大きさは集光力に比例せず口径が大きくても意外と暗い星は見えないですし、接眼レンズに眼を極端に近づけてみないと視界が狭くなるのが弱点です。接眼部に凸レンズ系を使用した普通の双眼鏡(つまりケプラー式)の方がオペラグラスよりも集光力があるので、暗い星をより明るく見たい場合はケプラー式双眼鏡の方が有利です。
❷-5 双眼鏡を選ぶ際の「まとめ」
使う目的、双眼鏡を支える肉体的要因、加齢によるヒトミ径の縮小などを総合的に判断すれば初心者には、
倍率が5倍から6倍、口径が30mmから35mm程度の広視界型の双眼鏡をお勧めします。
低倍率の双眼鏡を十分体験し、それでも満足できなければ倍率が10倍ぐらいの双眼鏡の購入を検討するのがいいと思います。ズーム形式の双眼鏡を選ぶと後悔します。(倍率が高いとボケて暗くなるうえに手ブレで見づらくなります)
双眼鏡としては比較的小型の6×30双眼鏡を使った場合でも裸眼より3等級ほど暗い星が見えます。裸眼で6等級の星が見える暗い場所であれば9等級までの暗い星が見えますし、明るい星雲や星団も楽しめます。
❸ 双眼鏡の使い方
実際に双眼鏡をうまく使うためのアドバイスです。
❸-1 目幅調整
意外と難しいのが双眼鏡の眼幅と自分の目幅を合わせることです。うまく合わせないと左右の像にケラレが発生します。双眼鏡によっては目幅の数値が中心軸に刻印されている場合もありますが、ご自身で色々と試してみてその数値を覚えておくと再現性が確保できます。
❸-2 視度調整
視度調整というのは、左右の眼のピント合わせのことです。その合わせ方は双眼鏡によってかなり異なるため、取り扱い説明書をよく読んでおき、暗い夜空でも視度調整できるように練習しておきましょう。
目幅調整と視度調整は双眼鏡の見え味に強く影響するのでベテランほどしっかり調整しています。なお、斜視のかたは双眼鏡を使いにくい傾向があるため、眼科医か信頼のおける眼鏡店にメガネなどの補整方法について相談してみてください。
❸-3 双眼鏡メーカーのカタログで勉強
双眼鏡メーカーのカタログには、双眼鏡の選び方や用語の説明が詳しく書いてあることがあります。購入前にカタログを集めて参考にするのもいい方法です。
❸-4 三脚に固定して使ってみましょう
双眼鏡を使う際は、両脇をしっかりと締めてなるべくブレないようにして見ましょう。建物や車両に寄り添い体を固定するのもいい方法です。
さらに、写真三脚に双眼鏡を固定できる市販の取付け金具を使うとブレが皆無になり見え味がグンとアップします。なお、双眼鏡によっては三脚に固定できないタイプもあります。
双眼鏡を三脚で固定し二重星が分離できたかの体験例を2011年8月のブログ記事 【 双眼鏡の分解能 】に書いておきました。ただし、この例は収差が少なく良く調整された双眼鏡による体験例です。
❹ 双眼鏡ライフを楽しみましょう
家電量販店に行くと、倍率と口径が同じであっても1万円以下の安価な双眼鏡から70万円台の最高級双眼鏡までラインアップされています。目的に合ったコストパフォーマンスの高い双眼鏡を選べるといいのですが、なかなか難しいですね。
激安の製品は左右の光軸がすでに狂っていたり、ピント調整ダイヤル部が不安定だったり、プリズム径が不足していたりするので初心者は購入しない方が無難です。
双眼鏡の良し悪しがわかる場合は、見比べてコストパフォーマンスのいい双眼鏡を選ぶことも可能ですが初心者にはハードルが高いです。
双眼鏡に知見があるベテランさんと同行すると、光軸の僅かな違いやプリズムのカゲリなどを教えてくれる場合がありますが、同行してくれる人がいない場合は、店員さんに頼んで高級双眼鏡との見え味の違いを確かめてみましょう。
中心像の鋭さ・周辺像の乱れの少なさ・コントラスト(いわゆる像のヌケの良さ)・像の平坦性(中心部と周辺部のピント位置の差)・周辺像の減光具合・左右像の光軸ズレ具合・操作のしやすさなどを体験し、後はご自身の予算額などを考慮し双眼鏡を選ぶと良いでしょう。
以上、長文になりましたが双眼鏡ライフを楽しんでくださいね。
この記事では、角度という単位にも慣れていない初心者さんへの「双眼鏡を選ぶ際の基本的アドバイス」として双眼鏡ライフ55年間の実体験を元に書いています。
最初は初心者さん向けに簡潔に書こうと考えていましたが、あれもこれも伝えたいという思いから、かなりの長文になってしまいました。
操作や導入が難しい望遠鏡に比べ、双眼鏡は取り扱いが比較的簡単です。とは言うものの双眼鏡は千差万別。何を選んだらいいのか初心者は迷います。ご自身で双眼鏡を選ぶために、まず双眼鏡の基本から。
❶ 双眼鏡の基本を知りましょう
これは私が使っている双眼鏡のうちの1台です。中央に双眼鏡の倍率や対物レンズの口径などが表示されています。
❶-1 ポロ型とダハ型
双眼鏡は一部の例外を除き使用するプリズムの種類によってポロ型とダハ型の2種類に大別され、それぞれ微妙な特徴があります。
上段がポロ型、下段がダハ型です。(ヨドバシカメラ札幌店でスタッフの了解を得て2024年9月19日に撮影)
ポロ型は近い距離が立体的に見やすい(遠いか近いかの差の判別がしやすい=立体視といいます)という特徴がありますが、天体は極めて遠い距離にあるので立体視の見やすさは双眼鏡を選ぶ際の選択肢にはなりません。
ポロ型は安価で大きめ、ダハ型は高価で小さめです。その他にも微妙な特徴の差がありますが初心者のかたはあまり気にしなくていいと思います。(なお、逆ポロ型というタイプはコンパクトになります)
初心者のかたはいずれのタイプでも下記の留意事項を参考に、実際に手に取ってみて予算内の気に入ったタイプを選べばいいと思います。
❶-2 角度に慣れましょう
事前の知識として、天体を見るときには「角度」というものに親しんでおくと便利です。普段の生活であまり馴染みがない角度ですが、自身の腕をいっぱい伸ばしゲンコツを作り、上の親指と下の小指の挟む角度が大体10度。指1本分が2度と覚えておくと星を見るときに便利です。
私の場合、少し腕が長く指が細いため約9度になりますが、平均的日本人では10度ほどになるはずです。(なお、大人でも子供でも大体同じ)
❶-3 倍率と口径
1枚目の画像にある5×25 という表示は「ごばい にじゅうご」と読み、最初の数字5は倍率、最後の数字25は双眼鏡の先端に付いている対物レンズの直径をmm単位で示しています。
倍率が高い双眼鏡がいいと思いがちですが倍率が高いと、
①ぶれやすくなります ②見えるものが暗くなってしまいます ③視野が狭いので天体を導入するにも難儀します
という理由から初心者は高倍率の双眼鏡に手を出すと後悔することになると思います。詳しくは「❷双眼鏡の選び方」をご覧ください。
❶-4 実視界・1000m視界・見かけ視界
◆1枚目の画像にある15.8° という表示は実視界が15.8度ということを示しています。実視界(視野)というのは双眼鏡を覗いた際に見える丸い視野を角度で示したものです。現在市販されている双眼鏡の殆どが角度による表示です。
◆1000m視界というのは、1000m先の視野の左端から右端までの長さで視野を表示しています。(市販されている双眼鏡ではこの1000m視界表示は少数派です)
◆見かけ視界というのは、双眼鏡を覗いたときにひらけて見える視界の角度のことです。あくまでも近似式ですが、実視界×倍率≒見かけ視界 でおおよその見かけ視界が求められます。倍率7倍で実視界が7.3度であれば、見かけ視界は50度ほどです。なお、厳密式で算出した見かけ視界60°以上のものを広視界型双眼鏡と呼びます。メーカーによっては Wide Field などと表示する場合もあります。
❶-5 アイレリーフ
双眼鏡を覗いたときケラレなく全視野を見ることができる眼の位置から接眼レンズ最終面までの距離のことをアイレリーフといいます。この距離が長ければ、メガネをかけて覗く場合でも快適な視界が得られます。この時の眼の位置をアイポイントといいます。
一般的にアイレリーフが16mm以上あればメガネをかけたままでケラレ(視界内の一部が暗くなること)が無いまま全視野を見られ、「ハイアイポイント双眼鏡」や「ハイアイ双眼鏡」などと呼ばれます。
これは、1982年に私が購入した10×40ダハ式のハイアイポイント双眼鏡です。メガネを常用している私が使う際は見口のゴムを折り返して使います。重さは780g。
40年以上活用していますが、ゴム見口は少し広くなったぐらいで弾力性を今でも保持しています。過去の国産双眼鏡にあったゴム見口がすぐボロボロになるのとは大違いです。(最近の双眼鏡は見口が簡単にポップアップできるよう工夫された製品が多くなっています。)
なお、この10×40双眼鏡は珍しく1000m視界表示で1000m/110mとなっています。角度換算すると実視界は6.3度と計算でき、見かけ視界は近似式で63度の広視界型です。
❷ 双眼鏡の選び方
双眼鏡の基本が理解できたところで、いよいよ選び方のアドバイスをします。
❷-1 軽い双眼鏡がお勧め
家電量販店のスタッフなどから「天体観察には7×50双眼鏡がお勧めです」と言われる場合がありますが、次の理由で私はあまりお勧めしません。
1番目の理由は重いからです。7×50双眼鏡の重さは1000gを超えるので手持ちだと星を見続けるのは辛いですし、ストラップを使い首からかけていても時間と共に重さが首に食い込んできます。また、結構かさばります。
2番目の理由は口径50mmという口径の大きさが無駄になる人が圧倒的に多いからです。(詳細は下記「❷-2 ひとみ径に注意」をご覧ください)
3番目の理由は7×50双眼鏡の大多数の実視野は7.3度と初心者には狭いからです。(詳細は下記「❷-3 視野の広い双眼鏡を選びましょう」をご覧ください)
私が使用する双眼鏡のうち、使用頻度が最も高い双眼鏡は8×20双眼鏡です。天体用としては口径が小さく倍率が高めですが、何といっても重さは240g。手にスッポリ入る小型双眼鏡です。(初心者の方にはもう少し倍率が低く、もう少し口径の大きな双眼鏡をお勧めします)
❷-2 ひとみ径に注意
人間の眼は周囲の明るさ暗さに応じてヒトミ(瞳)の大きさが変化します。暗い空だとヒトミの直径(ヒトミ径、瞳孔の大きさ)が最大7mmまで広がるとされています。色々な文献を読むとヒトミ径が最大の7mmになるのは20歳前後。その後は加齢に伴い少しずつ小さくなり70歳ごろにはヒトミ径は5mmほどになってしまうようです。
これは個人差が大きく、私の場合、20歳ごろのヒトミ径は8mmほど、69歳時のヒトミ径は6.4mmと平均的日本人よりも大きいようです。
一方で、双眼鏡の機能表示でも「ヒトミ径」という表示があります。正式には「射出瞳径」といい、明るい室内で双眼鏡の接眼部から30cm以上眼を離し、接眼レンズを後方から見ると、小さな円形の明るいものが見えるはずです。この円形の直径が射出瞳径です。
今度は、接眼部の後ろに白い紙をかざすとボケ気味の丸い円が写り込み、紙を接眼部から少しずつ距離を変えると丸い円がくっきりと見える場所があります。このときの「ヒトミ径=射出瞳径」は「対物レンズの有効径÷倍率」に等しくなります。
たとえば7×50双眼鏡の場合、射出瞳径=50mm÷7=7.1mmです。
もうお気づきかと思いますが、双眼鏡使用者の最大ヒトミ径が5mmだった場合、射出瞳径が7.1mmの双眼鏡では集めた光が人間のヒトミからはみ出てしまい無駄になります。
違う言い方をすれば、最大ヒトミ径が5mmの人は倍率が7倍の双眼鏡を使う場合、5mm×7=35mm、つまり口径35mm以上の大きな双眼鏡を選ぶのは意味がないことになります。
なお、上記の白い丸がハッキリと投影された紙と接眼部の最終レンズ面までの距離がアイレリーフで、紙の位置がアイポイントです。
10×40双眼鏡を明るい方に向け接眼部の見口を折返し、アイポイント位置に白紙を置き射出瞳径を確かめています。
なお、双眼鏡カタログの仕様一覧に「明るさ」という数値が出ていることがあります。これは単に射出瞳径を2乗したもの(明るさ=射出瞳径×射出瞳径)で、この数値が大きければ夜でも明るく見えるという説明がされていますが、前述のように使用者のヒトミ径で妨げられる場合が多いのであまり参考にしない方が無難です。
❷-3 視野の広い双眼鏡を選びましょう
この記事の最初の画像にある5×25双眼鏡の実視界は15.8度。市販されている双眼鏡としては比較的に広い視野です。とはいえ、オリオン座の1等星ベテルギュースとリゲルの角距離は19度ほどなので、同時に見ることができません。
カシオペヤ座の明るい星々が形作るWは端から端まで13度ほど。実視界15度もあると双眼鏡を動かさずにWを確認できます。
言い方を変えると、見かけ視界60度以上の広視界型双眼鏡でもなるべく倍率が低い双眼鏡でないと、初心者は目的の星に向けるのが難しくなります。
私の経験上、初心者は5倍から6倍ぐらい、高くても7倍ぐらいまでがいいと思います。5倍の広視界型双眼鏡であれば実視界12度以上になるので、目的の星を導入しやすいばかりでなく手ブレもあまり気にならなくなります。
なお、倍率が高い双眼鏡のうち「手ブレ補正装置=防振機能」が付いたものがありますが、高価ですし目的の星を導入しずらいことには変わりありません。
❷-4 オペラグラス
これは、人生初のアルバイト賃金で1971年に買った3×28のオペラグラスです。メガネをかけて覗くと視野が狭く、メガネを外してみえる実視界は8度ほどと倍率の割には広くありません。
オペラグラスとはプリズムを使わず接眼部に凹レンズ系を使用したガリレオ式の2倍から3倍ほどの簡易的な双眼鏡のことです。
最近では倍率が2倍ほどの実視界が広いやや高価な星空観察用として推奨されているオペラグラスが市販されています。裸眼では見づらいような暗い星々を見るにはとても便利です。
しかし、対物レンズの大きさは集光力に比例せず口径が大きくても意外と暗い星は見えないですし、接眼レンズに眼を極端に近づけてみないと視界が狭くなるのが弱点です。接眼部に凸レンズ系を使用した普通の双眼鏡(つまりケプラー式)の方がオペラグラスよりも集光力があるので、暗い星をより明るく見たい場合はケプラー式双眼鏡の方が有利です。
❷-5 双眼鏡を選ぶ際の「まとめ」
使う目的、双眼鏡を支える肉体的要因、加齢によるヒトミ径の縮小などを総合的に判断すれば初心者には、
倍率が5倍から6倍、口径が30mmから35mm程度の広視界型の双眼鏡をお勧めします。
低倍率の双眼鏡を十分体験し、それでも満足できなければ倍率が10倍ぐらいの双眼鏡の購入を検討するのがいいと思います。ズーム形式の双眼鏡を選ぶと後悔します。(倍率が高いとボケて暗くなるうえに手ブレで見づらくなります)
双眼鏡としては比較的小型の6×30双眼鏡を使った場合でも裸眼より3等級ほど暗い星が見えます。裸眼で6等級の星が見える暗い場所であれば9等級までの暗い星が見えますし、明るい星雲や星団も楽しめます。
❸ 双眼鏡の使い方
実際に双眼鏡をうまく使うためのアドバイスです。
❸-1 目幅調整
意外と難しいのが双眼鏡の眼幅と自分の目幅を合わせることです。うまく合わせないと左右の像にケラレが発生します。双眼鏡によっては目幅の数値が中心軸に刻印されている場合もありますが、ご自身で色々と試してみてその数値を覚えておくと再現性が確保できます。
❸-2 視度調整
視度調整というのは、左右の眼のピント合わせのことです。その合わせ方は双眼鏡によってかなり異なるため、取り扱い説明書をよく読んでおき、暗い夜空でも視度調整できるように練習しておきましょう。
目幅調整と視度調整は双眼鏡の見え味に強く影響するのでベテランほどしっかり調整しています。なお、斜視のかたは双眼鏡を使いにくい傾向があるため、眼科医か信頼のおける眼鏡店にメガネなどの補整方法について相談してみてください。
❸-3 双眼鏡メーカーのカタログで勉強
双眼鏡メーカーのカタログには、双眼鏡の選び方や用語の説明が詳しく書いてあることがあります。購入前にカタログを集めて参考にするのもいい方法です。
❸-4 三脚に固定して使ってみましょう
双眼鏡を使う際は、両脇をしっかりと締めてなるべくブレないようにして見ましょう。建物や車両に寄り添い体を固定するのもいい方法です。
さらに、写真三脚に双眼鏡を固定できる市販の取付け金具を使うとブレが皆無になり見え味がグンとアップします。なお、双眼鏡によっては三脚に固定できないタイプもあります。
双眼鏡を三脚で固定し二重星が分離できたかの体験例を2011年8月のブログ記事 【 双眼鏡の分解能 】に書いておきました。ただし、この例は収差が少なく良く調整された双眼鏡による体験例です。
❹ 双眼鏡ライフを楽しみましょう
家電量販店に行くと、倍率と口径が同じであっても1万円以下の安価な双眼鏡から70万円台の最高級双眼鏡までラインアップされています。目的に合ったコストパフォーマンスの高い双眼鏡を選べるといいのですが、なかなか難しいですね。
激安の製品は左右の光軸がすでに狂っていたり、ピント調整ダイヤル部が不安定だったり、プリズム径が不足していたりするので初心者は購入しない方が無難です。
双眼鏡の良し悪しがわかる場合は、見比べてコストパフォーマンスのいい双眼鏡を選ぶことも可能ですが初心者にはハードルが高いです。
双眼鏡に知見があるベテランさんと同行すると、光軸の僅かな違いやプリズムのカゲリなどを教えてくれる場合がありますが、同行してくれる人がいない場合は、店員さんに頼んで高級双眼鏡との見え味の違いを確かめてみましょう。
中心像の鋭さ・周辺像の乱れの少なさ・コントラスト(いわゆる像のヌケの良さ)・像の平坦性(中心部と周辺部のピント位置の差)・周辺像の減光具合・左右像の光軸ズレ具合・操作のしやすさなどを体験し、後はご自身の予算額などを考慮し双眼鏡を選ぶと良いでしょう。
以上、長文になりましたが双眼鏡ライフを楽しんでくださいね。