伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む元市議会議員。1960年生まれ。最近は遠野和紙に関わる話題が多し。気ままに更新中。

面白かった「地方創生」の講演 / 県市議会議員研修会

2018年08月10日 | 市議会
 今日、いわき市のパレスいわやで、福島県市議会議長会等が主催する「福島県市議会議員研修会」が開かれ、「『地方創生』と自治体議会の役割」と出した講演を聴いた。会場には、県内から参集した各市議会の議員がいっぱいだった。

 講師は、東京大学法学部の金井利之教授。この講師のお話を聞くのは、2015年に福島県文化センターで開かれた全国市議会議長会研究フォーラムin福島以来2回目となる。

 前回は、国の音頭で各自治体が総合創生計画の策定をすすめている最中だったこともあって、この策定にあたっての考え方がテーマで、パネリストの一人として出席されたが、各パネリストの意見を集約すれば、「地方創生」という言葉に踊らされずに、これまでの取り組みを総合計画にも位置付けることが大切で、国の施策で活かせる部分があれば、その部分だけつまみ食い的に利用すればよい、という趣旨でディスカッションを展開させていた。

 それだけに、今回の「地方創生」をテーマに含んだ講演は、どんなお話が展開されるのか、講師が金井教授に決まったと知った時から興味津々だった。期待は裏切られることはなかった。

 配布されたレジメはA4版で9ページもの対策。講演時間は90分程だから、終わらないんじゃないの思っていたが、案の定6枚目辺りからは概要に触れるだけで前に進みんだ。レジメは論じる内容を詳しく書いているので、後で読めば十分詳しい内容は知ることができると思う。

 さて、講演は、その前段にあった、議長会長や市長のあいさつ等に盛り込まれたエピソードにふれてスタートした。西日本豪雨災害にへの見舞いが入ったことをとらえて、地方の政治は、自分の自治体だけ良かれではなく、他自治体と共感をしながら進むということが地方自治を支える基本にあると述べながら、近年、この国民的な共感が失われつつあるという。



 また、各議員の持ち帰りのお土産に用意されたいわきの水のペットボトルを紹介したアナウンスにふれて、水道事業の民営化問題について持論を展開した。水道事業の民営化の議論は、維持・更新の費用を民間の技術を活用して安くあげること等が目的とされている。しかし、民間になれば、「値上げ」か「事業廃止」かの二者択一を迫られかねず、一方、公的に運営される場合には、選挙を通じて「値上げ」にも「廃止」にも民意でブレーキをかけることができる利点があるこという。今後、どのように水道インフラを維持するかは大きな課題だと述べて、本題に話題をすすめた。

 「地方創生」が本題だ。金井教授は、地方創生に「」をつけて使用する。その理由は、第二次安倍内閣の政策の固有名詞として使用するためだとした。一般的な地域振興などの場面で使われていた地域開発などの言葉とは明確に違う意味合いを持っていると指摘する。

 この「地方創生」を、「忘却」しようとする人々と思い起こそうとする(「喚起」)人々がいるという。「忘却」は地方振興の関心がないことを示す事になり、「喚起」すると地方自治体自身が掲げた目標を達成していないことが浮き彫りになるという意味で、どちらに転んでも困った事態になるとにらめっこの状態にある。その一方、安倍政権の「地方創生」とは異なる、地方税の格差是正を図るなど「真の地方創生」の萌芽があるとして、戸別の自治体が政策形成に積極的に取り組み、全国制度の改善に議長会が役割を発揮することが大切だとしました。

 また、現在の政治状況を、グローバルな市場経済とポピュリズト(衆愚)強権政治体制で格差が拡大していると特徴づけ、このもとでの「地方創生」の失敗は必然としながら、強権政治に抵抗する力は「議会制と民主制」で、自治体議会は首長暴走の歯止めとなる役割と指摘。「地方創生」の言葉を使わない総務省の「自治体戦略2040構想研究会」の報告は、「地方創生」の死滅を意味するものとして、報告の内容を語った。

 どうもその基本は、人口減少は避けられないので、人口減少に備えて少人数で行政サービスを提供する仕組みを2040年までに作り上げるために、それぞれの自治体を画一的な組織と方法で運営する仕組みに作り変えて、自治体の独自性をなくしていくことを提案しているようだ。そして、作り上げた仕組みの自治体は、将来、国が何か良いプランを打ち出すことができた時に、これを実行する体制になるのだという。

 さらに、圏域単位の行政のスタンダード化がうたわれており、これまでは圏域の自治体は対等の立場だったものを、利害関係を押し切って決められる圏域にする、すなわち、圏域のNo.1の自治体が独裁的に物事を進められる体制にしようということなのだろう。

 この報告を、「危機意識は21世紀だが、処方箋は20世紀」となっていると金井教授は指摘し、その中で「議長会の役割が大切だ」として。

 講演を聴いて思う。

 「地方創生」は、国が処方箋示さず、危機打開策を地方自治体に打ち出すことを求めた。つまり、地方分権を逆手にとって、「危機」打開の責任を地方自治体に押し付けた。しかし、今度は、地方分権を捨て、国の下部組織としてのコントロール下に地方を置く。そんな方向に国が舵を切ってきた。この抵抗勢力に、地方行政は組織として難しい側面があると思う。しかし、地方議会は何事にも束縛されることがない(市民の民意は縛りになるが)一つの独立した機関であり、問題ある政策を止める力になる。

 その意味でも、自治体戦略2040は良く学んでおかなければならない。自分の課題も増えた。そんな研修会になった。


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