伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む市議会議員。市政や市議会、日常の活動などを紹介していきます。

ミドルベリー大学日本校から和紙作りの体験を受け入れ

2024年02月17日 | 遠野町・地域
 紙作り体験は伝統工芸遠野和紙・楮保存会の取り組み。
 地域おこし協力隊を遠野和紙の継承に活用してから10年程になると思うが、近年は遠野地区の小中学校や遠野高校(現在のいわき湯本高校遠野校舎)などに紙漉き体験が提供されてきた。

 私自身は紙作りの初心者と同等の技量しか持ち得ていないが、保存会員として同会に参加して活動する中で、会の目的である遠野和紙の継承には、和紙や材料作りに関心と興味をより多くの人に拡大することが必要と思っていた。そのためには和紙の材料から紙作りまでの各工程を身につけることが必要と考え、保存会が福島県の委託事業として実施した紙漉き研修(埼玉県小川和紙の谷野工房で実施)にも参加してきた。その中で下手くそながら紙作りの工程に必要な技量を身につけた。

 以前から遠野町で活動する地域おこし協力隊は、遠野地区の小中学校、高校で紙漉きの体験を提供していたが、保存会としての実施はなかった。そんな時に、昨年3月、福島県いわき地方振興局からの情報提供で、環境水族館アクアマリンふくしまの「アクアマリンえっぐ」のリニューアルオープン事業の一環としての紙漉き体験を要望して、当時83才だったか・・の女性会員をはじめ多くの保存会員に参加していただき、主に子ども達に紙漉き体験をしてもらった。

 この取り組みを皮切りに、建築士関係のイベントでの紙漉き、小中高等学校での紙漉きで5回の体験イベントを重ね、昨年12月のミドルベリー大学日本校、今年2月の大東大学生など、保存会として紙作り体験を受け入れてきた。

 こうした中でミドルベリー大学日本校から2度目の体験の要望があり、今日の紙作り体験の実施となった。前回は総勢5名、今回は総勢12名だ。今日の体験会に許された時間は6時間30分で、この時間内で、楮伐採から紙漉きまでの作業を体験してもらった。

 開始は午前9時30分。遠野町根岸の川端地区の楮畑に同校の一行を案内し、楮伐採から始めた。



 作業には太めの枝を裁断できる剪定ばさみやノコギリを使った。この畑の楮の生育状況は極上で、根本の直径が5cm以上ある枝が普通にある。太い枝は剪定ばさみでは伐採できないため、ノコギリで伐採する。学生達は、太い枝に翻弄されながらも、着実に枝を伐採していった。作業中、ノコギリでの伐採に難渋していることに気付いた。そこで気づいた。日本のノコギリは、引いた際に木が切れる。ところがたぶん欧米のノコギリは、押した際に木が切れる。欧米と同じ方法でノコギリを使っていれば、枝の伐採に難渋することも当然だ。

 「外国では、ノコギリを押した時に木が切れるようですが、日本のノコギリは引いた時に木が切れるようになっています。ノコギリを引く時に力を入れてください」と説明すると、スムーズに枝の伐採がすすむようになった。

 30分程で裁断した枝を軽トラックに積み込み、遠野和紙工房「学舎」に移動した。ここでは枝を裁断して束ね、釜に入れることから作業を始めることにしていた。保存会のこの作業では、以前は押し切りという道具を利用していたが、最近は電動の卓上ノコギリを使っている。学生達に卓上ノコギリでケガをしてもらっては困るので、押し切りで作業をしてもらった。



 学生達は、分業して作業をこなし、出来上がった枝の束を釜に運んだ。



 釜に入れた後、枝が蒸し上がるまでだいたい2時間かかる。その間に、しょしとり、塵取り、打解の作業を進めてもらう。
 ここまでの作業で、だいたい11時になっていた。今日は、ミドルベリー校の外、東日本国際大学(いわき市)の学生1人がボランティアで作業に参加していたが、この時間で作業を離れ、ミドルベリー校の生徒たちが作業に従事した。

 教員も含めて12人の参加者を3つのグループに分かれてもらい、ローテションで3つの作業を体験してもらった。それぞれの作業の方法を保存会のメンバーが説明・実践し、学生たちが作業に取り組んだ。


しょしとり


ちりとり


打解


 午前は3つの作業全てを体験してもらうことはできずに、昼食休憩に入った。
 お弁当を食べた後、学生に同行した教員の提案で、保存会メンバーと学生たちが交流することに。保存会と学生たちがそれぞれ自己紹介した後に、随行の教職員に教えて頂いた簡単なゲームを一時楽しんだ。



 午後は、午前にふかした楮の皮はぎから再開した。
 皮はぎは、魚の開きのように端から端までしっかりと開く必要がある。そのためには、枝の皮をむき始めた側からむき終わりに向って引っ張るのではなく、むき始めたところから終わりまで、むき始めに向けて引っ張る必要がある。遠野の方法は、まずむき始め側の枝をねじって皮に裂け目を入れ、、裂け目をつまんでぐるっと皮をむき、その皮を利き手で握る。次に、左手の人差し指と薬指をVの字にして枝先の芯と剥がれた皮の継ぎ目部分にあて、左手の指を枝の芯に沿って滑らせるとともに、皮はむき始めた先の方向にひっぱってむいていく。

 ところがこの方法が難しい。一連のやり方を1度、2度で身につける学生がいる。一方では、この方法が実際の動作に活かされず、苦労する学生もいた。それでも10本、20本と皮をむくうちに方法を理解して、上手に皮をむきとることができるようになっていた。

 楮はぎの後、午前の作業の続きと抄紙(紙漉き)に入った。紙漉きには、流し漉き(簀桁にくみ取った水を揺すって上澄みを流し落として紙を作る方法)と溜め漉き(くみ取った水を流し落とさずに簀の隙間から滴り落として紙を作る方法)があるが、今回は溜め漉きで紙作りをした。



 簀桁に漉き舟の紙料(楮繊維とネリを加えた水)を汲み上げ、水のある間に揺すった後水を切る。水をくむポイントで紙面にシワができるなどのミスもあったが、みなさんが紙を漉き上げ、終了時刻近く、全員の紙漉きを終えた。

 紙漉きは2人ずつが実施したが、待機時間は、2度目の皮はぎをはじめしょしとり等の作業を継続してもらった。この日の作業では、楮の皮はぎが1釜と半分、枝の本数で100本程度だろうか、しょしとりで乾燥黒皮で3キロ程度、塵取りで1.5kg程度、打解で1kg程度を作ってもらった。

 作業を通じて何よりの救いは、学生のみなさんが作業を楽しんでくださったことだ。この日の気温は上昇して、冬の装いで過ごす戸外では暑いくらいだったので苦にならないとしても、気温が水温よりも高い室内は水が冷たく感じる。その水に手を入れた作業も、ひたすら皮を叩き続ける打解の作業も、抄紙にミスが続いても、挫けずに自分の紙を漉こうと、最後まで楽しく取り組んでくれたことは幸いだった。

 同校のみなさんは、18日は、双葉郡をめぐり震災と原発事故後の地域の状況を視察することにしているという。そして、学生のみなさんの日本での生活は残りわずか、1年の日本での学業を終えてそれぞれの場所に帰っていくという。こうしたこともあって、今日の体験の締めくくりに「和紙作りで得た体験や原発事故があった福島の実際の姿をつかみ、今後のみなさんの人生に活かしてほしい」とあいさつした。

 今回の体験で反省点もある。和紙を作るまでの材料作りの体験もいいのだが、和紙作りをもっと楽しんで、一定の自信(は言い過ぎか)を持つことを通して和紙作りに関心を高めてもらうためにも、和紙を漉く機会をもっと増やすと言うことを考えた方が良いかもしれないということだ。

 そのために、材料作りと平行して紙漉き体験の時間を設け、1人2枚(今回の紙漉き体験枚数)にとどめず、希望する人には3枚、4枚と漉いてもらえるように改善した方が良いかもしれない。こうした気付いた点を次の実施の機会に活かしたいと思う。




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