雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

カニが怖い

2011年09月20日 | ポエム




 カニが怖い

 日本人は、カニが大好きで、北海道や北陸、山陰地方の観光の目玉の一つになっている。
 島育ちの私は、なぜか海のものが苦手で、物心がついて以来、魚もイカもタコも貝も一切口にしなかった。当然、カニも食べた記憶がない。私の母がやはりタコ以外は魚介類を口にしなかったから、母親の影響がなかったとは言えない。
 私は、あの磯の匂いが嫌いなのだ。海水浴のときに最初鼻につく磯の匂い。いけすのある日本料理店も入っただけで、ウッときてしまう。料理でも煮魚、焼き魚の匂いには、辟易だ。ただ成人して後に、少しずつ魚介類の「食わず嫌い」を克服していった。
 成人して後も、ご馳走していただける機会があり「好きなものは?」と聞かれると、「海のものは苦手です」と答えていた。しかし我がままが言えない人にご馳走になる席や、大人数の宴会のときは、自分の好みを言ってられない。それで、好きな人には申し訳ないが「やむを得ず、口に出来る魚介類を恐る恐る」開拓していった。最初はマグロの赤身の刺身。フグ刺し。うなぎの蒲焼き。バターやソースで磯の香りがごまかせる洋食系。白身魚のムニエルやフライ。海老フライ。エビの天ぷら。伊勢エビのグラタン。ニンニクとパセリを利かせたあさりバター。サザエのつぼ焼き。ここにあげたマグロ以降の料理は、だんだんと「食べることが出来る」魚介類の料理から、むしろ自分でお金を出しても食べたい積極的に好きな魚介類の料理となって行く。さらにあんなに嫌っていた魚介類の料理の中の一品、二品は、むしろ肉料理より美味しいとさえ思う様になってしまった。アジの天ぷらやシジミのみそ汁は自分でも作る。そして気がつくと、いくつかの例外を残して、ほとんどの魚介類の料理を食べることが出来る様になった。おとなになったなあ。と、いうよりもうすでに爺様に近い歳になってしまったが。
 磯臭さが苦手なのは今でも変わりがなく、サンマは食べても、食後の自分の口の中の匂いが嫌になるし、焼き魚や煮魚の料理する匂いを「美味しそう」と感じたことは未だに無い。毎年のように挑戦するおせちの「数の子」は、毎年吐きそうになるし、好きなウナギもちょっと店を間違うと、生臭い匂いがして途端に箸が止まってしまう。
 私の生まれ故郷の島では、車エビとワタリガニが名産である。エビは大好きだけど、カニの方は未だに苦手である。これは、磯臭いとかの問題ではなく、生き物としての「カニが恐い」のだ。世の多くの人には、苦手なものがあり、その多くは「蛇嫌い」「毛虫や芋虫嫌い」「蜘蛛嫌い」などに代表される。私自身は蛇も毛虫も蜘蛛もミミズも平気なのだが、カニだけは存在を想像しただけで鳥肌が立ってしまう。「カニが恐い」という人には、半世紀以上たっても会ったことがないし、生きたカニは一般的にひょうきんで可愛いキャラクターとなっているらしい。だから「カニが怖い」というと、笑われてしまう。嫌いな理由は不明。前世でカニのハサミに因縁があるのかもしれない。幼心に「あわて床屋」の童謡をリアルに疑似体験してしまったのかもしれない。
 地元の宴会によく供される茹でられて丸ごと出て来るワタリガニの料理は、もちろん手をつけたことがない。動かないから同席だけは許せる。その点、足だけが出てくることが多い、ズアイガニやタラバガニの類いは、むしろその味も大歓迎。しゃぶしゃぶや鍋のしめのおじや。カニグラタンやカニクリームコロッケもお好みどす。
 あのお姿がダメなんですねえ。ハサミが怖いンでしょうか?でもカニに負けない立派なハサミを持つオマール海老は平気で、「利き腕の方が美味しい」なんて言って食べているから、ハサミが恐いわけではない。おなじカニでも実は、私の生まれ育った島に生息する半陸生の10センチくらいのカニが特に苦手なのです。だからそれに近いお姿のカニは皆ダメですね。もしアカガニの大発生で有名なクリスマス島の大発生のシーズンに地面にガリバーみたいに括られたら、私は何でも白状するし、何でもしてしまうに違いない。
 私がカニ嫌いであることは、当然小さい頃から家族中が知っていた。ある日、庭の草むしりをしていた母が、あろうことか私の嫌いなカニをつかんで、近くにいた私に向けて放り投げたのだ。私は飛んで来るカニの姿を目の端にとらえ、即座にその場から50メートル走り去った。母にとっては、軽いおふざけだったかもしれないが、親の行いがすべて正しい訳ではないことを体感し、母親というものから私が精神的に独立した瞬間の出来事だったかもしれない。
(2011.9.26)
 
 
  





 

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