猛威

2011-10-01 12:02:41 | Autobiography
幼稚園バスという船の送迎ルートは、おいらが行く送迎ポイントからスタートした。
だから、送迎ポイントに一番に行けば幼稚園バスの一番前の座席に座れ、道を眺めながら幼稚園に向かうことができた。

チャイルドシートは勿論、シートベルトの着用すら義務化されていなかったころの話。
親父のクルマは青いブルーバード…スーパーソニックラインと言われた名車『510』…親父は決して子どもらを助手席に乗せることはなかった。
クルマの安全なんて度外視されていた時代だったが、助手席に子どもを乗せたらどうなるかを親父は知っていた。
一般乗合の路線バスも、一番見晴らしの良い助手席位置の座席への子どもの乗車は禁止されていてた。

大手を振って最高の見晴らし位置を確保できる幼稚園バスの特等席は、おいらが幼稚園に行くモチベーションだった。
だって、それ以外に幼稚園に行ってもイイコトなんてなかったもの。

不良品の左手は…隠しておきたかった。

1976 年 9 月、その台風はやってきた。
記録に残る台風17号…それは、おいらの記憶にも残る。

その日は朝から大雨になった。
朝ごはんを食べて、テレビの角に出ているデジタル時計を見て『このタイミングで出れば一番の席はおいらのもの!』…そう思った。
大雨の中、お袋が止めるのを聞かずに傘をさして飛び出す。
案の定『いちばん』だ!…誰も来ていない!

土砂降り…傘はさしているものの、何の意味もない。
他の幼稚園児が来ない…。
幼稚園バスも来ない…。
次第に不安になってくる。

すると…お袋が走ってくる。
『台風で幼稚園お休みだって。』

雨が幼稚園を休みにするなんて思わなかった。
自然は、時に牙をむいて人に襲いかかる。
猛威…という言葉は知らなかったが、そういうことがあるんだって、思った。

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